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第二章 第十話 仲間

進化の力を持つ者は、決して一人ではなかった。

新藤弥生、山本康太、河合梨音──それぞれが異なる過去と能力を抱え、同じ「進化者」として集う。

仲間とは、支えか、それとも新たな試練か。

ここから物語は、個人の葛藤を越え、進化者たちの「群像」へと広がっていく。

読んで頂けると幸いです。

「さ〜て、そろそろ会いに行っても大丈夫かな」

夜風が頬を撫でる中、新藤弥生(しんどうやよい)は独り言を漏らしながら、街灯の下を歩いていた。

一ヶ月。あれからもうそんなに経った。敦子(あつこ)——あの女も、さすがに落ち着いた頃だろう。

あの時はちょっとした誤解だった。いや、誤解というより、感情のすれ違い。

でも、そろそろ二人には私たちの考えを理解してもらわないといけない。

進化者として、同じ立場にいる者同士、避けて通れない話がある。



「びっくりしたなぁ……なんであんなに怒ってるのか、ちょっと理解できないわ」

弥生は、夜の静かな街を歩きながら、ぶつぶつと呟いていた。

カップルか夫婦かは知らないけど、他の男に声をかけて、しかも手まで掴んだところを見られたら、そりゃ怒るかもしれない。

でも、あんなに怒る? あれはちょっと過剰反応じゃない?

……いや、怒るかな。

私なら怒らない。

だって、彼氏いないし、そんな感情わかんないし。

弥生(やよい)は、自分なりの言い訳を頭の中で組み立てていた。

感情の整理というより、自己防衛。

あの場面の記憶が、何度も脳裏に浮かんでは消えていく。


カラン——。

一軒の居酒屋の扉を開けると、店内から温かい照明と賑やかな声が漏れてきた。

「いらっしゃいませ〜」

店員の声が軽やかに響く。

「お連れなら奥の個室ですよ」

弥生(やよい)は軽く会釈をしながら、奥へと歩き出す。

個室までの距離は、ほんの数メートル。

それなのに、足取りは重く、まるで鉛を引きずっているようだった。

今から会う仲間に、なんと説明すればいいのか。

「失敗しました」と素直に言えれば、どれだけ楽だろう。

でも、それを口にするには、あまりにもプライドが邪魔をする。


「はぁ〜……」

個室の前で、大きなため息が漏れた。

扉の向こうには、いつものメンバーが待っている。

その顔を思い浮かべるだけで、胃が重くなる。

ガラガラ——。

扉を開けると、そこには五十歳前後のがっしりとした男が、生ビールを片手に座っていた。

日焼けした肌に、無骨な腕。

彼の名は山本 康太(やまもとこうた)。元自衛官で、今は進化者の中でも実力者として知られている。

テーブルの向かいには、二十代前半のギャル風の女性が、酎ハイを片手に笑っていた。

河合 梨音(かわいりおん)。見た目は軽そうだが、進化能力はかなり特殊で、情報収集に長けている。


「お疲れ様です」

弥生(やよい)が声をかけると、山本が顔を上げた。

「お〜、お疲れ様〜」

「おつかれっち〜!」

梨音(りおん)が軽い調子で手を振る。

弥生は無言で梨音(りおん)の隣に腰を下ろした。


「新藤さんの顔を見る限り……失敗かな?」

山本が、じっと弥生(やよい)の顔を見つめる。

その目は、見透かすように鋭い。

「え〜、やよいっち、ダメだったの〜?」

梨音(りおん)がいたずらっぽく笑いながら、弥生の肩を軽く叩く。

「べ、別に失敗なんてしてません」

「なんか、勝手に女が怒ってて……」

言い訳のような言葉が、口から滑り出る。

自分でも、苦しいと思う。

でも、失敗を認めるのは、やっぱり悔しい。

「まぁまぁ、報告は呑みながら聞かせてもらうよ」

「新藤さんも、何か頼んだらどうだい?」

山本の声は穏やかだが、どこか圧がある。

弥生(やよい)は、店員を呼び、生ビールを注文した。

ジョッキが届くまでの間、沈黙が流れる。

居酒屋の喧騒が、個室の外から微かに聞こえてくる。

笑い声、注文の声、グラスの音——それらが、妙に遠く感じられた。


はぁ〜……なんか、こういうのって疲れるんだよね。

弥生(やよい)は、ジョッキを手に取り、ひと口飲んだ。

冷たい液体が喉を通る感覚が、少しだけ心を落ち着かせる。

早く帰りたい。

そう思いながらも、ここでの報告は避けられない。

進化者としての責任。

そして、仲間としての義務。

弥生(やよい)の報告は、まだ始まったばかりだった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。次回も楽しんでもらえるよう頑張ります!

感想や評価をいただけると、とても励みになります!

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