09
「クリスマスからそう時間も経過していないのにより寒く感じますね」
「だね、らいすが出たがらないぐらいだから相当酷いんだろうね」
正確には一緒にいこうとしてあっという間に戻ったと言う方が正しいけど。
ちなみにゆう君は星さんと過ごす――ためではなくて同じような理由でここにはいなかった。
実はこっそり過ごすためにこちらからの誘いを断ってくれたなら嬉しいけど……それはないだろうな。
「白土さんは四人でいきたかった?」
「特にそういうのはないです」
「はっきり言うね?」
「だって集まれば集まるほど神戸先輩が勘違いする回数が増えますからね」
開き直るわけではないけどそれも仕方がないと思う。
あと、何度も言っているように好意を抱いているとかそういう風に考えているわけではないのだ、ただ仲良くしたい相手がゆう君だ~星さんだ~と考えているだけで。
寧ろ一緒のところにいるからといって自分に興味を持ってくれていると考える方がやばいだろう。
「そうだ、これを受け取ってよ」
「可愛い手袋ですね?」
「これで少しは温かくなるかなって」
「ありがとうございます」
よし、これで後は新しい年を迎えたうえに彼女を送って帰るだけでいい。
まだもう少し時間があるから近くの自動販売機で飲み物を買って飲むことにした。
先に買ってこいよという話ではあるものの、まあ年内最後の日ぐらい非効率的でもいいと思う。
「これもありがとうございます、温かいですね」
「うん」
温かい飲み物を飲んだら温かい食べ物を食べたくなってきたから帰ったら食べることにする。
こういうときに自分で作れるというのはよかった、もやもやしたまま朝まで頑張って寝ようとしなくていいのだ。
「いつも両親といっていたので新鮮です」
「今年はよかったの?」
「無理やり連れ出していたようなものなので両親からしてもほっとしていると思います」
一緒に暮らしているから会話がないわけではないけど無理やり連れ出そうとしても届かないからその点は羨ましかった。
「娘が積極的に誘ってくれたら嬉しいと思うけど」
「どうでしょうかね」
「絶対にそうだよ」
流石にこの時間に連れ出すということで話させてもらったものの、優しそうな人達だったから尚更そういう考えになる。
「神戸先輩はどうでした?」
「僕の方は誘おうとも思わないかな」
「そうではなく、その……」
「ああ、誰も付き合ってくれなさそうだったから白土さんに誘ってもらえて嬉しかったよ?」
一人だったらこうして出てきてはいない。
お祭りとかならともかくとして、別にわざわざ出なくても寝ているだけで迎えることができるからだ。
「神戸先輩ってなんでも言えてしまいますよね、そこがすごいところです」
「なんでもは言えないよ、らいすに隠していることだってあるしね」
「それは……?」
「実は寝ているときに寝顔が可愛くて抱き上げていることとかかな、まだ起きたことがないからついついやっちゃうんだ」
あとは頭を撫でたりしているのもね。
ただ、らいすのことだから気づいていながら触れてきていないだけとも見えてくる。
だから今度ちゃんと謝ろうと決めた、起きているときなら多少ぐらいは勝手感もなくなるはずだ。
「ふふ、それだけ安心できているということですね」
「だけど今度ちゃんと言うよ」
「それなら私も一つだけ、実はこの前一緒に寝ました」
「うん、知っているよ?」
すぐに教えてくれたし、多分、これから先も変わらない……はずだ、単独行動が増えていてもそこは変わらないと信じたい。
「実は手も握りました」
「それは寝る前でしょ? らいすが嫌がったりしなかったんでしょ? なら大丈夫だよ」
っと、そろそろ切り替えようか。
これは別だけど冷める前に飲んでしまおうと意識をしていたらあっという間に終わってしまった。
彼女と関わってからもそうだし、ちゃんとしておかないと今度は学生生活が終わってしまいそうだ。
「ありがとうございました」
「こっちこそありがとう」
なにも変わった感じがしないけどわかりやすく変わった日となる。
でも、なにかに浸るのは帰ってからでも余裕でできるから神社から移動を始めた。
「それじゃあ温かくして寝てね」
「もう少しだけ……駄目ですか?」
「でも、変わったら帰るって言っちゃったからね」
仮に約束をしていなくても今日は言い負かされていないですぐに解散にしていた。
欲張ると一緒にいることも難しくなる、会おうと思えば明日――今回の場合は今日か、すぐに会えるのだからそれでいい。
「それなら改めて許可を貰ってきます」
「待った待った、流石にそれはま――いっちゃった」
怪しいけどここにいるしかない。
すぐに出てきてくれて助かったものの、まだ大丈夫だと言われたうえに上がることになった点には尻もちをつきそうになった――なんてね。
「こんなことを知られたらまた星さんにからかわれちゃうよ?」
「別にいいです、変なことをしているわけではないので」
「だけどほら、こんなに遅い時間に一緒にいるのはさ」
「お泊まりだってさせてもらったのですから変わりませんよ」
あのときはゆう君がいたから全く違う。
あの特殊な能力に頼ってらいすを召喚しようとしたけどばれてできなくなってしまった。
こういうときだけではなくこういうときも鋭いのが彼女だ、いまのこの状態では本当に手強い相手だ。
だけど戦いわけではないし、どうすれば衝突しなくていいのかはわかっている、そのまま受け入れておけばいいのだ。
「眠たくなってきました」
「寝たらいいよ」
「でも、その場合は帰る、とか言い始めますよね?」
「いるよ、満足できるまでずっとね」
満足とかの前に怖くなるだろうから早めの解散が期待できる。
人は急激な変化にすぐには付いていけないものだ、だからこれはいまの彼女にとって物凄く効果的だと思う。
「え、あれ、ど、どうしたのですか……?」
「求められたらこうやって行動する人間なんだよ、違うということならちゃんとはっきり言っておいた方がいいよ。変わらないならそのまま積極的に動くだけだからね」
「わかりました、それならよろしくお願いします」
「うん」
あ、あれ……僕にとって効果的(笑)だったのかもしれない。
元々客間的な場所で過ごしていたから彼女が寝るまでに時間はそう必要なかった、そのため、ある意味地獄の時間が始まったのだった。
「ごめんねらいす」
「……ねむたい」
「あ、元の姿で来たんだね、その方が助かるよ」
五時を過ぎたところで我慢しきれなくなってらいすを召喚した。
久しぶりにこのなんの動物かもわからない姿を見た。
「ふぅ、まさかかえってこないとはおもわなかったけど」
「白土さんに勝負を仕掛けたら負けちゃったんだよ」
「それでともこだけがねているの?」
「まあ、無理に起きられていても朝とかお昼に駄目になるだけだからね」
「ふとんにはいる」
いや待った、入られてしまったら寝られてしまうから駄目だ。
少なくともこの子が起きるまでは頑張っていてもらいたい。
「ぐあー……」
「ごめんらいす、だけど耐えてくれないと困るんだよ」
「いいけど――むぁ!?」
ああ、目の前でぐしゃりと――はともかくとして、思い切り抱きしめられて見えなくなってしまった。
すぐに寝ぼけているわけではなくて起きて自分の意思でそうしたことがわかった。
「結局、らいすさんを呼び出してしまったのですね」
「五時までは頑張ったんだけど無理になったんだ」
「ふふ、それでこそ神戸先輩です、逆に朝まで一人でいられたら驚いてお布団から出られませんでした」
五時まででは……駄目か。
とりあえず苦しそうだからやめてもらおうとしたら幸せそうな顔で寝息を立てているらいすがいたからやめた。
何度も聞いた際に素直になっておけばよかったのにと言いたくなるぐらいにはいい顔だ。
「歯を磨いてきます」
「それなら僕はこれで帰るよ、らいすのことをよろしくね」
「それなら神戸先輩のお家に移動しましょう」
「あー確かに呼び出しておきながら勝手すぎるか、よし、移動しよう」
なんでもいい、二人きりの状態から解放されればそれでね。
おんぶしても、運んでいても気が付かないから起こしてしまって可哀想なことにはならなかった――けど、結局僕の方はなにも変わっていないことになる。
「あやめ先輩を呼んでいいですか?」
「いいけど、まだ時間が早いよ?」
「そういう約束をしていたのです」
そうか、なら僕がちゃんと耐えてらいすを呼び出していなかったら起きた段階で解散になっていたのか。
つまりなにもかもを失敗していることになる、流石にこの短時間でそればかりなのも悲しかった。
「呼ばれて来ました」
「おはよう」
「うん」
お? なんかいつもとまとっている雰囲気が違う。
今日は静かというかなんというか、お正月ということで意識して変えているのだろうか?
「もうね、水野君が可愛くないの、私が必死に誘っているのに『寒いからいちいち外に出たくない』の一点張りなんだよ?」
あ、戻った。
「だから拗ねて漫画ばっかり読んでいたらともこちゃんに呼び出されてね」
「約束をしていました」
「そうだけど呼び出されたことには変わらないからねーあとすっごく眠たいの」
「布団を敷くよ」
それならと帰ってくれるかもしれないから今回もやるだけだ。
「え、水野君以外の男の子のお家で寝るとか駄目だよ」
「そっか」
「だからあの子を呼び出してくれない? 神戸君が頼めば一発だと思うんだよね」
いやいや、僕に対しては素直になんでも吐くあの子が来るわけがないだろう。
お年玉を貰えるとかそういうわかりやすいメリットがあれば話は別、けど、あげるつもりなんかは微塵もないから動いたところで意味はない――とわかっていても期待したような目で見られて動くしかなかった。
「……なんか来てくれるって」
「むぅ、神戸君の方が好きなのかもね」
「それはないから安心していいよ……」
くそう、なに一つとして上手くいかない、そう時間も経過しない内にまた四人が揃う。
「結局、負けて移動しましたね」
「ゆう君も朝に強いわけではないからね」
「私達はどうしましょうか……って、神戸先輩は眠たいですよね」
「んーいまは大丈夫だけど反動でやばいのがくるだろうね」
「それなら私の足を貸してあげます」
それよりもお腹が空いたからいつも通りの朝ご飯を作って食べることにした。
二人の世界を構築して浸っている存在達にも一応作っておく、食べないで帰ってしまったら無理やり詰め込んでしまえばいい。
「あの、スルーされてこの体勢のままでいる私はどうしたらいいのでしょうか?」
「白土さんも食べてよ、温かいよ」
「……眠ることより、女の子の足よりご飯、なのですね……」
「食べよう、食べれば眠気だってどこかにいくよ、そうすれば白土さんの足が疲れることもないんだからね」
先に食べずに待っていると渋々という形ではあったものの、ちゃんとこっちに来てくれたから挨拶をして食べ始めた。
夜中に買った温かい飲み物とはまた違った意味でお味噌汁のそれは落ち着く。
「ふー! ……ごはんっ」
「ら、らいす?」
「えっとね、さいきんはごはんのにおいがするとしぜんとこうなる」
こ、こわあ、いつか建物なんかよりも大きくなって食べられてしまいそうだ。
「おいしい」
「よかった」
「だけどともこがまったく食べていない」
「んーまだ起きたばかりと言ってもいいから早すぎたのかもね」
無理そうなら残してもいいよと言ったら首を振られてしまった。
そういうわけでもないらしい、なら、卵焼き派ではなく目玉焼き派とか?
うん、最後までわかることはなかったし、残すことをしなかったからわざわざ聞くのも違うというやつだ。
「ちょっとあるいてくる」
「うん、気を付けてね」
くっついて取れなくなってしまう前に洗い物を済ませて一つしかないから少し距離を開けてソファに座った。
こうして近くにいるとちゃんと生きているとわかるのにどうして触れるとあんなに冷たいのかが気になる。
「ねえ白土さん、指を見てもいい?」
「きゅ、急に変なことを言いますね」
「この前の怪我がちゃんと治ったのか見たいんだ」
「ど、どうぞ、もう治りましたけどね」
変態でもあるまいし、べたべた触れたりなんかはしない、だけど今日は変だった。
「触らなくてもわかるよ、今日は温かいみたいだね」
「そうですか……? 自分で触ってみてもよくわかりませんが」
「やっとこの家に慣れてくれたということか」
まあ、僕だって慣れない他者の家に何度も上がってもうあまり気にならなくなっているわけだからなにもおかしくはない。
マイナス寄りのことだって時間が経過すればプラスの方に変わっていく、例外なく僕もそうだからその点はありがたかった。