07
「白土さん、着いたよ?」
ゆう君が変なことを言い出してまた二人きりになってしまったのは正直、失敗だと言えた。
まあ、僕からすれば送る前提でいたからこうなったのは別によかった、全ては彼女からすればという話だ。
「もしかして体調が悪いとか?」
「……いえ、そんなことはありません」
反応してもらえるとほっとする。
寒さが酷くて早く帰りたいとかそういうのはないけど前に進めたい気持ちが強かった。
「ならよかった。さあほら、家の中で休みなよ……の前に、今日はありがとう」
「あの、お金って……」
「それなら気にしなくていいよ」
別に格好つけたい気持ちなんかは微塵もなくて面倒くさいからそれで終わらせたいのだ、頭の上にきっちり食べた分の金額が出る世界だったのなら……求めていたかもしれないけどね。
「今日は大人しく帰りたくない日なのかな?」
「……これで解散は寂しいです」
「ゆう君は星さんに取られちゃったもんね、らいすはお腹いっぱいになるまで食べて付いてきてくれなかったから寂しいか」
悪く言ってしまえば彼女は料理を作るだけ作って終わったようなものだ。
作った人間だから食べられるのは当たり前だし、なにか得なことがあったわけでもない、そもそも本当なら参加しなかったはずのところでこれなのだからなにかがなければ不味いと、そういうことか。
「もう二十時だからお店なんかにはいけないのが残念だね」
「公園にいきませんか?」
「僕でいいなら付き合うけど、白土さんが暗かったのは僕のせいなんじゃないの?」
「全くそんなことはありませんけど」
「そっか、じゃあいこう。ただ、あまり遅くまで連れ出しておくのは不味いから二十時半までにしようね」
夜の公園には当たり前だけど人はいなかった。
ベンチに座って少しゆったりとしていると「今更手を切るとは思いませんでした」と言われてすぐに答えられなかった。
どう答えても偉そうになるし、また僕のせい云々と言うのも自意識過剰になる、だから黙っておくのが実際は正解なのかもしれない。
「やっぱり急に参加することになって違和感がすごかったとか?」
「急ではありませんよ。そもそも私が決めたことですし、三週間近く時間はありましたから」
「だけどどこか暗いというか、楽しめていなさそうだったからさ」
「それははっきりと言いますけど神戸先輩のせいです、おまけなんて考え方をしていたなんて思いませんでした」
「きっかけはゆう君で動いたのはきみと星さんだからね」
いてもいなくても変わらない人間が一番楽しそうにしていたら自分であっても引くよ。
ただ、卑屈になっているわけではないからそこは誤解しないでもらいたかった。
「心から楽しめなかったのは神戸先輩のせいです、責任を取ってください」
「どうすればいいの?」
「えっと……」
こう聞き返してしまえば大体はなんとかなる。
相手からしても僕からしても言い返してきた方がやりやすいのだ、でも、こうして対応をしてしまえば強気には出られない。
ゆう君が相手でも効くこの技を使い続ければきっと彼女が相手のときだって、
「あ、明日、一緒にお出かけしてくれませんか?」
効く……はずだったけどなんとも中途半端な結果になった。
「暇だから僕的には全く問題ないけど、なんかヤケになっていない? 勢いだけで行動すると後悔するからやめた方がいいよ?」
「ヤケになってなんかいません、私は前に仲良くなれたら話は別だと言いましたよね?」
「仲良くなれたかな?」
「ちゃんと毎日一緒に過ごしてきましたけど」
何度も言っているようにそれはらいすという可愛い存在がいたからだろう。
助けた助けられたなどという関係なら僕単体のときでも近づいてきていたかもしれないものの、そうではないのだからそれ以外には考えられないのだ。
「えっと、聞いておくけどゆう君が取られちゃったから……とかじゃないの?」
「違います、そもそもなにをどうしたら水野先輩のことが出てくるのですか? 水野先輩の話が出たときに参加することを決めたからですか?」
「うん、だって喜んでもらいたかったんだよね?」
自分が参加すればきっかけを作った子の好みの相手が参加してくれるなら僕だって同じ選択をする……かもしれない。
でも、何度も頼まれた状態ならともかくとして、少しだけ話に出てきた程度だったら動かない可能性もある。
最近出会ったばかりならそうだ、今回はゆう君と前々から関わっていたからでしかない。
「それはそうです」
「別に好意を抱いているとか言うつもりはないよ? ただ、仲良くしたいのはあくまでゆう君かな~と考えていただけで」
「神戸先輩のただの妄想です」
「そうなんだ?」
「はぁ……」
うわ、思い切りこちらの顔を見ながらため息をついてくるなんて怖い子だ。
「とにかく明日、お家にいきますのでよろしくお願いします」
「うん、あ、らいすはどうする?」
これまでのらいすなら普通に参加して興味を持って色々な対象に近づくけどどうなるのだろうか?
それでも家で一人でいさせるというのも微妙だし、できるだけお休みの日は一緒にいてあげたいから連れていけるのが一番だ。
「お家に一人……なのは寂しいと思いますし、今回みたいに断られなかったら一緒にいきたいですね」
「はは、わかった」
「あ、またいま余計なことを考えましたよね?」
「考えていないよ? らいすにも優しくしてくれて嬉しいんだ」
「少し嘘っぽいですがそういうことにしておきます」
結局らいすが~という風に考えていないのだから許してもらいたかった。
だけど前も言ったように抑え込まれているよりはよっぽどいいからこのまま続けてもらいたかった。
「待って待って、別に置いていったりしないから」
「なんでにげるの?」
「らいすが追いかけてくるからだよ、ほら、ご近所さんに変な目で見られてしまうから戻ろう」
とする前に足音が聞こえてきて意識を向けると冷たい顔をした白土さんが側までやってきた。
らいすには明るく挨拶をしたけどこちらには勘違いでもなんでもなく冷たかった、何故だろうか。
「らいすさんも付いてきてくれますよね?」
「どこかにいくよていだったの?」
「はい、この人はなにも言ってこなかったのですか?」
えぇ、指さしちゃったよこの子……。
「うん、ただのんびりしているからちかづいただけなのににげるからきになった」
「はぁ……年上なのに困った人ですね、とりあえず準備をしてもらうためにも中に入りましょうか」
財布を持ちさえすればもうそれで終わりだから全く時間はいらなかった。
ただ、らいすは家にいることを選んだために今日も二人きりに、あれから避けられていて少し寂しいかな……。
「それで今日はどこにいきたいの?」
「神戸先輩はどこかいきたいところとかありますか?」
「んー百円ストアかな、ちょっと買い足したい物があるんだ」
「それならいきましょう」
どこであってもラインナップは大して変わらないし、特殊な物を求めているわけではないから欲しい物はすぐに買える。
とはいえ、荷物を持ちつつ歩くのはあれだから最後に寄っていくことにした、そもそも彼女から誘われて今日は出てきているのだから僕のそれなんてどうでもいい。
「あやめ先輩から連絡とかきました?」
「交換していないよ?」
「え、嘘ですよね?」
そんな嘘をついたところで悲しくなるだけだ。
というか、あれだけゆう君に興味を持っている子がこちらに求めてくるわけがない、違う種類とはいえ、興味を持たれている彼女が相手ならなにもおかしな話ではないけど。
「嘘じゃないよ、ほら」
「……どうやら本当みたいですね。昨日から一切反応してもらえないので気になっていたのですが……」
「それってゆう君とほら――」
「おいおい、あまり自由に言わないでもらいたい」
「やっぱりこっそり見ている子だね」
振り返ってみると笑みを浮かべている星さんが、ちらりと確認をしてみると少しだけ安心したような彼女の顔が見れた。
「おいおーい、二人きりでお出かけなんていつの間にそんなに進んでいたんだい?」
「私がお願いしました」
今度は嫌そうな顔、やはり勢いで行動してしまったからだろう。
「お、ともこちゃんの方が興味を持っているんだね?」
「マイナス思考をしていて気に入らなかったのです」
「マイナス思考? ちょいとお姉さんに教えてくれないかな?」
二人が話している間、適当なところを見ていると腕を突かれて戻すと「なんでそんな風に考えちゃうの」と、ここでもゆう君のことを出したけど効かなかった。
寧ろ場所を提供しているのだから堂々としていろと、お金だってちゃんと求めろと怒られてしまったぐらい。
「はい、私が半分ぐらい払っておくね」
「いいんだよ」
「言うことを聞かないと五千円にするよ?」
「いやいい、ゆう君と遊ぶときのために取っておいて。ほら白土さん、いこう」
なんとか逃げることができた自分、だけど少ししたところで手をつねられて涙目になった。
別に悪いことをしたわけでもないのに何故だというそれと、丁度薄い場所だったからよく効いたのだ。
「あの飲食店に入りませんか?」
「それを言いたいだけならいちいちつねらなくても……」
「今回も悪いのは神戸先輩ですよ」
対面でもなんでも少し距離ができてしまえばいまみたいなことはできなくなる、だからこれは僕にとってもいい提案だった。
あとは全くいきたいところを言ってくれないのも影響していた、今日はなんのために連れ出したのか、言葉や行動で叩きたいだけなら出かけるのは今日で最後になるぞ……。
「――よろしくお願いします。ふぅ、これで待つだけですね」
「うん、近いね?」
「自信を持ってもらいたいのです、神戸先輩はおまけなんかではありません」
まあ、今日は誘われてもいないのに同じ場所にいるわけではないからおまけではないと思う。
「あ、今更だけどご両親に怒られなかった?」
「全く問題はありませんでしたよ、楽しめたのかどうかだけ聞いてきたので楽しめたと返しておきました」
「嘘だよねそれ」
「……そのまま伝えたら流石に心配されます」
クリスマスの夜に家を出て他の場所で過ごした、それなのに娘から「楽しくありませんでした」などと言われたら気になるか。
これは僕が馬鹿だったし、場所を提供した側としてはそのまま言われなかったことを感謝するしかない。
過激派のご両親だったら今日、娘と一緒に突撃なんてこともありえたわけで、そうしたら平和に冬休みを過ごすどころではなかったのだ。
「あーそうか、ごめん」
「またそれですか、昨日から私に謝ってばかりですよね」
「指は大丈夫?」
「はい、今日もこうして絆創膏を貼っていますからすぐに治ると思います――ではなく……」
可愛い絆創膏だ、シンプルな物を好みそうだったからこれは意外だった。
「よかった」
「だから……もう……」
協力をしてくれたわけではないけど彼女が広げようとする前に料理が運ばれてきてそれにも助けられた。
お互いにがっつり食べようとしたわけではないからそこまでお腹にこなかったうえに財布的にもダメージは少なかった。
でも、お店から出ると口数が減ってしまうという謎の決まり的なものもあってまた気まずくなり――そうなところでいきなり手を握られてどこかにいった。
「今日は温かいですね、昨日は神戸先輩の手、凄く冷たかったですから」
「え、それを言うなら白土さんの手も冷たかったよ?」
「緊張していたとかそういうのではありませんよ?」
「もう暗くて寒い夜だったからね」
「でも、気になったのです」
いまも大して変わらないけどね。
だから彼女にとってはこれが標準か、本当にその通り緊張しているとかではないのならいいのかもしれない。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
手を握りつつ見つめあっておくのもアホらしいからここで終わりにしてくれてよかった。
また歩く時間が始まったものの、それも先程とは違って気にならない。
またどこかのお店に寄って近かったりお金を使うことになった方が気になるというもの、続けば続くほどほっとする。
「お家の近くまで戻ってきてしまいましたね」
「解散にする?」
「いえ、私のお家に来てほしいです」
「僕の家なららいすもいるけど」
「らいすさんが参加しないことを選んだのですよ? お家に上がらせてもらったら邪魔になってしまいます」
今回も彼女が問題ないなら上がらせてもらうだけだ。
夜までに帰ることができればそれでいいから最後まで雰囲気が悪くなることもなく終わればいいなと考えつつ中に入らせてもらった。




