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226  作者: Nora_
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02

「家が嫌いなの?」


 ソファの上に移動させても気がつけばらいすはそこにいる。

 今日も今日とて鞄を開ければすぐに入ってくれるからいいものの、いつまでも見つからないままでやれるのか? という不安がある。

 ちなみに「むぁ」とらいすは鳴いて首を振ったように見えた、願望かもしれないけどね。


「鞄の中が好き?」

「むぁ」


 わからない、これならまだわかりやすく行動してくれる猫の方がいいのかもしれなかった。


「らいす牛乳飲んで」

「きゅ、急に現れるね?」

「らくは油断しすぎ、また昨日みたいに女の子に話しかけられるから気をつけた方がいいよ」


 他の人にも見えるから安心などと考えた自分だけど、やっぱりよくわからないところが多い存在だと考えると痛くもあるか。

 ただ、鞄の中に入ってお昼休みなんかまでは大人しくしてもらうという作戦も冬だからできることであって夏には多分無理だと思う。

 つまり、ちゃんと家で大人しくしてもらえるようにしておかないと僕的にもらいす的にも悪い結果になってしまうわけだ。


「美味しそう……」

「学校にいったら牛乳を買ってあげるよ」

「ほんと? らくもたまにはいいことをするね」


 ちくりと言葉で刺されないためにはこういう行為も必要なのだ。

 あとは黙ってくれているということが大きい、らいすの存在を知っているのは僕と彼とあの子だけ――あ、のあ君も含めた存在だけだ。

 約束通り牛乳をと動いたらいちご牛乳にしてほしいということだったので買って渡してちゃっかり自分の分も買っておいた。


「あ、昨日の」

「またらくが油断した、僕は対応できないから一人で頑張って」


 女の子が近づいてくるとすぐに離れていくのはやはりまだ苦手みたいだ。

 とりあえず挨拶をして少し待つ、すると「今日は大人しくしてくれていますか?」と聞かれたから首を振っておいた。


「あら……」

「こうして付いてきてしまうんだ、鞄の中が好きみたいでさ」

「冬とはいえ、苦しくはないのでしょうか?」

「お昼休みと放課後には必ず出てもらっているけど特には、ちゃんとわかっていないだけなのかもしれないけどね」


 人にも興味があるみたいだから彼女に渡してみると「むぁ」と少し満足そうに……は妄想だけど鳴いていた。

 彼女からすればどういう風に見えているのだろうか? 少し違うものの、猫という認識なのだろうか。


「お名前はなんでしたっけ?」

「らいすって名前なんだ、白米が好きなんだよ」

「ふふ、可愛いお名前ですね」


 いや、わかりやすく嬉しそうだ、らいすは男の子なのかもしれない。

 あと、自動販売機の場所があまり人の来ない場所でよかった、らいすだって窮屈な鞄の中にずっといたくはないだろう。


「らいすさん」

「むぁ」

「ぐっ」

「だ、大丈夫っ?」


 大人しそうな女の子で大声を出さなさそうだったから声量に驚いた。

 でも、それよりもなにかがあったのではないかと心配になったので吐けることなら吐いておいてほしいと思う。

 保健室に連れていくことぐらいは僕にもできる、あのゆう君を何回も家まで運んだりしているから女の子の一人ぐらいは余裕だ。


「……可愛すぎてやばいです」

「ああ……」

「けれど私の鞄の中には入ってくれませんよね?」

「どうだろう、あれ、関係ないみたいだね」


 はは、したいことに素直な子だ。


「あ、あの、先輩が問題ないのならこの子をお借りしても……」

「ちゃんと放課後に返してくれるならいいよ」


 らいすにもメリットがなければならない、この子のことはもう気に入っているみたいだから大丈夫だろう。

 事実、こちらがなにもしなくても彼女の鞄の中に移動したし、少しだけ開かれたそこから顔を出して「むぁ」と今度こそ満足そうな声で鳴いていた。

 冬だから暖かくていいのかもしれない、あとは男の子でやっとちゃんとしたご主人様を発見できて喜んでいる可能性がある。

 最悪、今日でさよならになるかもしれないという覚悟を持って過ごしていくことにした。


「無事に終わった?」

「らいすとはもうお別れかもしれない」

「ふーん、ま、別にのあがいればいいでしょ、らくは気に入っていたでしょ」

「そうだけど……」

「ばか」


 な、なんだ、今日も不機嫌タイムか、女の子か!? ……というのは失礼か。

 それでもそわそわしたりはしなかった、全然知らない子だけど悪いことをしたりはしないだろうから安心して任せられる。

 ゆう君に関してはもう言っているようにほとんどは突っ伏して過ごしているから気にしすぎても疲れてしまうだけなのもあった。


「ゆう君、お昼ご飯を食べようよ」

「……今日はお腹が空いていないからいー」

「駄目だよ、お母さんが作ってくれているんだから食べないと」

「らくはお母さんと協力してきて面倒くさい、もしかしてお母さんを狙っているの?」

「既婚者だよ……それにちゃんと好きな人が側にいるじゃないか……」


 元気がよくて彼よりもかなり大きいお父さんがいる。

 残念な点は最近は忙しいのか全く話せていないという点だった、あ、それと彼のお母さんとも全然話せていないから変な勘違いはしないでもらいたい。

 そもそも家に上がる際に緊張している人間がこっそりやることをやっているわけがないだろうという話だ。


「さてお弁当を持って……うん、なんかいつも通りだね」


 やっぱりらいすは不思議な能力を持っている、そうでもなければ僕の鞄の中ですやすや寝ていたりはできない。


「なにか言った?」

「最近は独り言が多くてね、ごめん」


 危ない危ない、こんなことを繰り返しているからゆう君から言葉で刺されるのだ。


「謝らなくていいけど、あ、いつもどこで食べているの?」

「大体は空き教室とかかな、たまに外で食べることもあるよ?」


 春夏秋冬、外で食べる場合彼は付いてきてくれないけども。


「えーもうこんなに寒いのに?」

「うん、上手く説明できないけどなんか落ち着くんだ」

「付いていってもいい? 実は私、水野君に興味があるんだ」

「ちょっと待ってて」


 まだ席に張り付いている彼に聞いてみると意外にも大丈夫だと答えたので三人で移動を始めた。

 まあ、興味があるという話をしたわけではないから彼がそのために動いているわけではないことから意識を逸らせば悪くない時間となる。


「か、神戸先輩っ」

「あーえっとら……あの子なら僕の鞄の中にいるよ」


 それより僕の名字を知っているのが意外だった。

 というか、自己紹介ぐらいしろよという話ではあるか。


「そ、そうでしたかっ、いなくなってしまって困っていましたがそれならよかったです……」

「その子はだあれ?」

「僕の妹だよ」

「「「えっ?」」」


 なんかまた急に変なことを言い始めたぞ……。

 ただ、彼からすればなにも気になることではないのか「本当にそうだから」とそのまま貫き通そうとしている。

 正直、ここで広げられても困るから早く移動したかった。


「あーそ、そうなんだ、よろしくねー」

「は、はい、よろしくお願いします」


 結局、今日は空き教室で食べることになった。

 鞄ごと持ってきていてもなにも振れられはしなかったから少しだけ開けて置いておく、しかし今日はどうにも眠たいみたいだ。


「神戸先輩」

「ほら」

「ふふ、可愛いですね」

「今日は眠たいみたいなんだ、きみのときはどうだったの?」

「ずっと私を見てきていました」


 これは僕が気に入られているわけではなくて僕の鞄を気に入っているだけだろう。

 クラスメイトの子がゆう君に意識を向けている間に触れてみると眠そうな感じではあったものの、起きてくれた。

 それからぺろぺろとこちらの手を舐め始めるらいす、ただ、僕の手が奇麗かどうかはわからないからやめさせておいた。


「神戸先輩のことがお好きなのですね」

「それが実は最近出会ったばかりなんだ」

「そうなのですか? なら尚更神戸先輩がいいということですね」


 いやそれは違う、のあ君が連れてきたときに彼女がそこにいれば間違いなく彼女の方を気に入っていた。

 その場合は僕が飼うなんてことはできなかったわけだし、短い時間とはいえ、連れていくこともできなかったかららいすは僕の存在を知る前に終わっていたというわけだ。


「神戸先輩、私――」

「ねね、さっきからなに二人でこそこそしているの?」


 危ない危ない、らいすの方もいきなり閉められても驚いて大声を出したりしなくて助かった、あまりよくないとはわかっていても白米にしか興味を持たないから今日も食べてもらおうと決める、あとは牛乳ね。


「自分で作っているからお弁当の作り方を聞いていたんだ」


 事実、似たような内容ばかりで飽きがきているのも確かだった、だから美味しそうなお弁当を広げている彼女でも誰でもいいから教えてもらいたいところだ。

 飽きがきているなら少しは調べて頑張れよと言われるだろうからこういうことをきっかけになんとかしたいのだ。


「へえ、自分で作っているんだ、神戸君は偉いね」

「やらないとお昼ご飯がなくなるからだよ」


 が、彼女は黙ってしまったし、クラスメイトの子もすぐにゆう君に喋りかけていたからなにも変わらなかった。

 食べ終えた後は友達と過ごすということで去り、ゆう君も読書がしたいということでここから消えた、僕らだけがなにも喋らずにここにいる。


「らいすさーん……?」

「あ、いま開けるからね……って、また寝ちゃっているよ」


 暗い場所が好きなのかな? ベッドに寝転んでいるときはすぐに布団の中に入ってくるから単に寒いからだと考えていたけど違うのかもしれない。


「急に私が近づいたからでしょうか?」

「まだよくわかっていないことが多いからね、僕のせいかもしれないからきみは気にしないでいいよ」

「あ、私は白土しらとともこと言います」

「僕は――」

「神戸らく先輩ですよね、水野先輩が教えてくれました」


 ゆう君も変なことばかりするなあ。


「そうだったんだ、はは、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 可愛らしい笑みを浮かべる子だ。

 でも、らいすに興味があるだけだから変な勘違いをすることはなさそうだ。

 だから今年も平和な一年だったという感想で終われそうだった。




「にゃ~」

「むぁ」

「にゃ」

「むぁ~」


 んー癒やされる、だというのにご主人様は読書ばかりでまるで意識を向けない。

 のあ君にくっついていることを考えると兄弟的なそれが強いのかもしれなかった、のあ君的にも救ってあげたというのが大きいのかもしれない。


「ちょっとゆう君、目の前にこんなにいい子達がいるのにあなたは読書なの?」


 わちゃわちゃしていて可愛いのにこれでもスルーなんて逆にすごい。


「んーのあとらいすなんていつもそんな感じでしょ」

「それより今日、あの子相手に楽しそうにしていたね、君らしくなかったよ」

「前々から話していたからね、知らない子が相手でもなければ逃げたりしないよ」

「なんで苦手なんだっけ?」

「からかってくるから」


 だけどその彼がどんな理由からかはわからないものの、白土さんに話しかけたということはこれから変わっていくのだろうか。

 らいすからのあ君へ、のあ君に触れるなら彼の協力が絶対に必要だからこれは面白いことになるかもしれない。

 とはいえ、これもあくまで勝手な妄想でしかなく、ぶつけようものなら怒られてしまうから内に留めておくしかないけども。


「っと、のあ君とはもういいの?」

「むぁ~」

「はは、物真似が上手だね」


 っと、何回も鳴いてくるということはお腹が減ったのかもしれないということで彼の家をあとにした。

 実際、早めに炊けるように設定してある白米をあげてみるともしゃもしゃ食べ始めたから間違いではなかった。

 しかし、食事や入浴なんかを終えて寝ようとしたところで問題が起こる。


「ら、らいす?」


 そんなに眩しくはないけど光始めて約十分、できたのはこうして声をかけることだけだった。

 心配ではあるものの、なんか怖くなってきたから布団の中にこもる、そうしたら布団パワーで朝まで寝ることができたのはよかったけどこれは……。


「女の子……男の子? とにかくらいす……だよね?」


 いつもゆう君がしているようにうつ伏せで寝転んでいる。

 揺らしてみるとちゃんと反応してこちらを向いた、うん、やっぱり髪の毛は長いけど女の子でも男の子でもない感じ、曖昧だ。


「むぁ」

「あ、やっぱりらいすだ」


 風邪を引かないように服なんかを着させる、するとわかりやすく表情が変わって安心できた。


「むぁ……」

「戻れるんだね、よかった――って、鞄が本当に好きだね?」


 今日もご飯なんかを食べさせてから連れていこうか。

 らいすが現れてから明日は初めての土曜日だ、だから色々なことを調べようと決めて行動を始めたのだった。

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