異世界帰りの現代で落ちこぼれと言われて追放されたけど本気を出すからさようなら〜無能と知ると次々捨てていく家に生まれたからこっちから即効捨てることにした。戻ってこい?ないない!〜
執務室には額に皺を寄せて厳つい顔をする男。
リンデンの父だ。リンデンはハーフなので日本に住んでいながらもこのようなプリティな名前を付けられていた。
そして、日本にここで再度転生したことは驚きに満ちたもの。リンデンの前世も地球だったが事故で異世界に行ってしまい前世の家族と今世の別れとなった。
しかし、異世界で大生して亡くなった後、なんと地球に生まれたのは泣くほど嬉しかった。異世界ではないのに地球にダンジョンという異物があった。
いつからあるか。若干の世界線のズレだろうか。深いことを考えるのは苦手なのに。科学者のようにあれこれ考えても無意味だと考えて、やめた。
が、問題は生まれた家。名家と呼ばれる家はダンジョンに行くためのランクを高ランクとして人々から待望の眼差しで見られることを是としている。
名家と言うが、今のところ名家っぽいことをしたのは父の妹。その後は鳴かず飛ばず。なかなか強い人が出てこない。
うちはそれを子供に丸投げしている。父には何人も妻がいて、第五婦人がいる。子供の活躍により、父に褒められるというよくわからない特典を胸に家の中はあまりよい空気がない。
末っ子の立ち位置にいるリンデンは、己のスキルがわかる用紙を前にする男になんの気持ちもなく突っ立っていた。
「この結果、恥ずかしくはないのか?」
男のステータスの分際で言われたくない。内心、反論。
リンデンのステータスを表記できるアイテムには欠点があり、それは隠蔽を使った結果が出てしまう。
こちらにはその類ができるので低く見積もってやった。
この家に生まれてウンザリしているのに、本当の力を見せるわけがないだろう。バカめと悪態を心の中で数百回は日々唱えている。
恥ずかしくないのかと言われたが、鍛えてもないステータスを前に色々言われても元々の逸材でもないかぎり平均的なもの。
それに、この男とて非凡ではなく平凡な才の癖に長男だから当主になったやつなので別段強いわけがない。そんなやつにステータスを見て恥ずかしく思う気持ちを問われることは憤慨してもいいと思う。
「わかりません」
バカな子のふりをして首を傾げた。まだ九才のリンデンにそんなことはわからない。幼い娘を、見る目がない男は舌を打つ。
隣では産みの母が存在感を消す。特に友好的でもなく、かといってぞんざいでもなく普通の態度で接していた母親に母性を感じさせることはない。
リンデンの家族は前世の家族。この男も女も兄弟も家族じゃないもん。
「リンデン。お父様に謝りなさい」
なにを謝るんだろう。なにを謝っているのか不明なまま頭を下す。もしや、ステータスが低いから?
そんなアホな。ステータスは生まれた時から固定されている。
「はぁ。契約通り養子に出す。うちの家名は二度と名乗るな」
謝るってんなら生みの親になる。部屋を出されると専属の弁護士が待機していた。
「今日を持ってリンデン様はこの家の者ではなくなります」
事務的に行われるそれ。カバンと施設の人間が車にあった。淡々と乗る。母は見送りに来ない。
名前だけのあの人には親という自覚がないから気にしないや。施設の人は慣れた様子で手続きされた紙をリンデンに持たせた。
それから、施設に入れられた。そこから、十日。近くにある公衆電話を使う子供の姿。
最近の公衆電話って高い位置にあるんだ。携帯を持っていた世代なので初めて使う。
プルルル、と機械音が耳に浸透。プチ、と音がして「はい」と電話の相手が対応。
「もしもし」
『子供?』
「はい。アツコさんですか?ヨーコちゃんいますか?」
『ヨーコ?いるけれど』
困惑の声にヨーコが誰?と尋ねたのかアツコが子供よという。そして、あなたを指名しているわと話し込む。
『……もしもしっ?えっと、なにかな?』
「ヨーコちゃんですか?」
たずねるとヨーコはそうですと怪訝そうな声をかけてきた。
「魔法少女マジョルンの二次創作の続きを描いたので見に来てください。私はあなたの姉だった〇〇です。ほんの少しでも興味があるのなら」
『えっ?』
声を最後に電話を切った。家に帰れないもどかしさ。
「九歳に県を跨いだ移動は無理」
姉です。あなたの家族だったものですと電話をして信じる人がいたのなら、それは相手が無理矢理信じてくれているだけ。無理強いするつもりはない。
「誰が里親になるか知らないけど、一人で生きていける」
異世界でかなり強い部類だったのだ。ダンジョンのある世界ならばやっていける。
「テイマーとして誰をテイムするか迷ったけど……ダンジョン本体が表示されるとは」
過去の職業はテイマーだったが、この世界のダンジョンは下位世界のダンジョンだからなのかも。だから、この世界のダンジョンをテイムできるかも。
『テイムしますか』
「はい」
表示されるイエスに答える。ここの近くにあるダンジョンだ。なんとなくの勢いで。
ダンジョンをテイムなんて人生初のことなので自分でもどうなるのかわからない。とりあえず貰えるというのならば、貰う。
「〇〇!〇〇!」
与えられている部屋で計算の宿題を頭を捻りながらやっていると、女性の声が。自分の前の名前を叫ぶ。もしや、と外へ出る。
ヨーコだった、記憶より大人びた。
「ヨーコちゃん」
「〇〇!?こ、子供?いや、声は確かに幼かったし、当たり前かも?」
ヨーコは染めた茶髪色の両端をバサバサさせて、首を振る。この姿によほど驚いたらしい。まぁ、身内かと思いきや子供が現れたら驚くよね。
大人らに知り合いなので平気といい、出てきた彼らを引っ込める。
「今の名前はリンデンっていうの。リンデンって読んで」
「う、うんっ。て、違う!」
興奮している妹を落ち着かせて公園へ誘う。その際、封筒を手にして一緒に公園へ行く。
「本当に私の姉なの?」
「それは、これを見れば話は明快だよ?ほら、読んで読んで。マジョルンの二次創作を描いたから」
ヨーコに無理矢理渡す。それを唖然と受け取り、ベンチに座る妹。
「よ、読むね?」
ぺらり、ぺらりと捲る音が聞こえる。緊張はほんの少しだけした。読み進めるごとに彼女の顔がキツくなる。
「うぐっ、うぐぐー!ぐすん!!」
急に号泣し始めてびっくりした。
「どうしたの?」
「画力がねえちゃんのだから、懐かしくてっ。涙が止まんない」
ダババ、と滝のように泣く。一応、背中を撫でた。
「ヨーコちゃん。私ね、一度死んだあと異世界に転生したんだよねぇ。そこからまた死んでここに生まれてきたの」
告白すると「えっ?」と考えもしない反応が返ってくる。
「ていうことは、地球で亡くなってそのまま転生したんじゃないの?」
「うん。私は転生体質なのかも」
「リンデンは生まれたところでつけられたの?」
質問されて、今までの経緯を説明する。そうしたら、ソイツクズじゃんと憤慨した。うむ、クズだ。クズだけどお金持ちなのだ。
「たくっ!厳選はゲームの中だけにしろって感じぃ!」
生身の実子で、ガチャのやり直しみたいに養子に出すなど、いずれリンデンが天から罰を下す。それは決定事項。
ダンジョンを手に入れたのなら、やりようはいくらでもある。ヨーコはなにもしなくてもいいと、素晴らしい笑顔で対応するリンデン。それに、全てを理解した顔をするこの子はやはり姉妹なのだとわかる。
「でも、ねえちゃん。これからどうしようか?」
「そんなの、養子にしてもらおうかなと」
「あ!その手が!なーる。姉ちゃんは賢いや」
漫画を読んですぐにリンデンを受け入れてくれたけれど、残るは母のみなのだが、どうしたものか。
「ヨーコちゃんの養子でもいいよ」
「えーっ。姉ちゃんを養子?」
「母さんでもいいけど?」
「母さんの養子ならまた私と姉妹になれるから、母さんで登録させよう!」
登録させようという方向で、イモウトのヨーコはこちらを抱きしめた。
「ねぇちゃん、死んだの怒るよ」
「不可抗力なの知ってるよね?」
「うう!でも、怒る。怒るもん」
「わかったわかった。ごめんね?」
家族への謝罪は本来、こういう感じだ。やはり、今世の家族は異質でしかない。
「謝るの足りないよぅ」
「これから一緒に入れるのは詫びに入らないのかな?」
「そんな、当たり前のことは詫びにならない!」
「うーん。マジョルン描いてほしいとか」
「マジョルンの件はして欲しいけど。姉ちゃんは大人になるまで私と同室ね!約束」
「えー?母さんも同じことを言いそう」
「私が先に約束するんだから私が優先される!それに、母さんは電話を不審がって行かない方がいいって引き留めてきたから、見つけた私がリンデンの優先券を持ってる」
そうなのか、と言うとそうなんだ、と肯定した。
「それと、子役で覇権取ろう」
「漫画の読みすぎじゃん」
その後、母もリンデンを認めて無事養子へとなる。
ダンジョンを得られたリンデンは資源を売ったりして生活を安定させつつも、元父がダンジョンへ赴いた折に再起不能の大怪我をさせた。
不幸な子供をこれからも作らない世のため。嘘である。完全で純粋な怨念百パーセント。断末魔ではないけど叫び声が「ぎゃああああ」というのはなかなかにストレスを発散させてくれた。
ヨーコの野望の子役については本気だったらしく有名な事務所に入れられたことにより、本気だったのかと驚いた。
事務所にすんなり入れたのは、リンデンが謎のダンジョン配信者としてバズり、有名になれたから。
子役などという二足わらじで暮らす日々は楽しい。今世の産みの母親から手紙があったとか、ヨーコから聞いたものの読み終わって直ぐに焼き芋の燃料にした。
配信で本気を出したリンデンを見たのだろう。追い出される日に見送りに来なかったくせに、よくも出せたものだ。
当主が再起不能状態だからと冷たさしかない名家に戻る理由もない。
「姉ちゃん。ドラマのオファーあったよ」
「ヨーコちゃん。私のこと過労させすぎじゃない?」
「ごめんって。つい、ね?見た目も可愛いから私は推しになったし、みんなに見えるようにしてほしい」
「仕方ないなぁ。特別だよ?」
姉を姉とわかったのは漫画もあるが、ヨーコに対する甘すぎる甘やかしと知らないリンデンは、妹の抱擁を頭で受け止めながら緩く笑った。
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