11 姉弟以外の魔術師。
1日1話投稿中です。
明日も午前6時台の投稿予定となっています。
「レーリン様、こんな田舎までお越しいただき、ありがとうございます。
リッチェンも案内、ありがとな」
「どういたしまして! おとうさん!」
こちらへとやって来る2つの人影に、村長は礼を伝える。
1人は見慣れた赤毛の少女――リッチェン。
立派に案内係の役割を果たしてくれたようで、満面の笑顔だ。
そしてもう1人。
村長が、レーリン様と呼びかけた人物だ。
フード付きの長めの黒ローブ。
顔はフードに覆われていてよく見えないが、今はそんなことどうでもいい。
「ルンちゃん、先生凄いね!」
姉はこそこそと俺に話しかける。
「ああ。なんて魔力制御だ」
姉以外に、魔術を扱える人間を(自身を除けば)初めて見た。
そういう意味で俺は、この世界の一般的な魔術師を知らないと言えよう。
しかし、そんな俺でもわかる。
理解できる。
この人は、俺たちとは桁違いの魔術師だ。
姉の様に、飛び抜けた魔力量を誇るわけでも、練度があるようにも見えない。
自然体。
挙動も何もかも、普通の人なのだ。
しかしその行動の端々には、魔力が籠められている。
繊細な魔力制御は端麗で、俺たちの知るそれと全くの別物だ。
歩く。
話す。
微笑む。
生きること全てに、魔力が通っている。
……これが魔術師。
ひょっとすると呼吸すらも、この人にとっては、魔術の修練なのかもしれない。
「ああ……そういうことですか!
リッチェンさんは、騎士ブーガの娘だったのですね……道理で」
魔術師は思いの外、可愛らしい声でそう言って、フードを外す。
中から零れ落ちたのは、桜色の髪と瞳。
整った顔立ちの女性だ。
……若い。
熟達した魔力制御に抱いた印象とは対照的に、とても若い。
……20代前半。ひょっとすると、10代かもしれない。
無論、俺たち姉弟やリッチェンよりは年上だろう。
しかし、村長と並ぶと大人と子ども。
娘と言われても、違和感はない。
「……レーリン様。私はあくまで元騎士ですので。
今は、アンファング村の村長でございます」
ずっと年下の女性に、村長は随分と丁寧な口調で接している。
いつものお人好しは鳴りを潜め、メリハリのあるやり取りは、お姫様に仕える騎士の様だ。
「そうでしたね、すみません。それで――」
桜色の瞳が、俺たちを捉えた。
村長はその意図を察し、すぐさま口を開く。
「ああ、すみません!
こちらが、特別家庭教師枠でお願いしたい2人でございます」
そう言うと村長は、目で俺たちに「挨拶しろ」と合図する。
「私は、クーグルンです! よろしくです! 先生!」
口火を切ったのは姉だ。
いつも以上に元気な様子で、勢いよく右腕を挙げている。
凄い魔術師に出会えたことと、先生がかなりの美形なこと。
おそらくそのどちらかの理由で、興奮しているのだろう。
……いや、両方か。
「はい、クーグルンさんですね」
女性は姉に柔らかく微笑みかけ、俺へと桜色の瞳を向ける。
「……ルングです。よろしくお願いします」
「はい。ルング君ですね。
私は王宮魔術師のレーリンといいます。
お2人とも、今後もよろしくお願いしますね」
俺の挨拶を聞くと、女性――レーリン様は、丁寧に頭を下げる。
……待て待て待て待て。
王宮魔術師?
彼女は今、そう言ったか?
「おーきゅーまじゅつし? 村長知ってる?」
「ああ……まあ、王様のために働く魔術師って感じだな」
「偉いの?」
「ああ、俺の100倍偉い」
「ええっ⁉ 先生、凄い人⁉」
「ふふふ」
姉と村長のそんなやり取りが可笑しかったのか、レーリン様の黒のマントがプルプル震える。
「村長? 家庭教師が王宮魔術師様だなんて、初耳なんだが……」
そして、俺もまた怒りで震える。
「あれ……言ってなかったか?」
一切聞いていない。
仮に聞いていたとしたら、もっと愛想よく徹底的に媚びている。
王宮魔術師。
どんな職かは、前世のニワカ知識を元にした推測になるが、先程の村長の対応も考慮すれば、国内での立場は高いはずだ。
ある程度の権力者だと言っていいだろう。
加えて王宮魔術師は、王に仕える魔術師というだけあって、魔術師の中でも上位の実力を持つに違いない。
戦慄するほど自然な魔力制御能力からも、それは読み取れるし、確実に俺たちよりも魔術の造詣は深い。
そして王に直接仕えているということは、その給金も安いことはないはずだ。
それはつまり――
魔術、権力、金。
俺が村を守るために必要だと考えている3つの内、少なくとも2つ、ひょっとすると3つ全てを兼ね備えている人。
そんな人とお近づきになれると事前に分かっていれば、それこそ今の100倍は愛想良くしたというのに。
俺の怒気に、村長は申し訳なさそうに目を逸らす。
「そーんーちょーう」
「……まあまあ、落ち着けルング。人間ならこういうこともある」
ダラダラと脂汗を流す村長から、矛先を変える。
「リッチェン、俺は村長のせいで失敗した。大失敗だ。
故に、損害賠償を請求する。
俺の被った被害の分、君は今後俺の手足となり働け」
「わ、わかったわ! おとうさんのぶんも、わたしがんばる!」
「おい! リッチェンを巻き込むのはひきょ――」
いつものやり取りが始まろうとした刹那――
「あの……3人ともすみませんが、よろしいですか?」
ピタリ
王宮魔術師レーリン様が、それを遮る。
ニコリと微笑んで、手を軽く上げている様は、一見お淑やかな御令嬢にしか見えない。
しかし、その空気感は先程までと異なる。
威圧感。
お説教前の母のようでもあり、無茶振りを始める時の姉のようでもある。
笑顔でこちらに爆弾を投げ込んできそうな、嫌な雰囲気だ。
微笑みで細められた目がゆっくりと開き、同時にその口から言葉が紡がれる。
「是非クーグルンさんとルング君の実力が見たいのですが、良いですよね?」
それは要望ではなく確認。
言葉には有無を言わせない魔力が籠められており、その桜色の瞳には抑えきれない好奇心が灯っていた。
――久しぶりの主人公視点を楽しんでいただければ幸いです。
媚びることのできなかったルングの今後は如何に。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!




