4 輝く白光を魂だとすると。
投稿予定の6話中の6話目です。
次は明日0時過ぎに投稿予定です。
『ルンちゃん、これすきなの?』
娘は自身の火の玉を、ゆらゆらと俺の上で浮遊させる。
……何だこれ?
わからないのにわかる。
不思議な感覚――前世では味わったことのない感覚だ。
少女の中に存在する白の輝き。
それが彼女の意志によって、別の力――火の玉――へと変換され、顕現している。
『ほら、ルンちゃん、みて!』
火の玉を少女は一瞬で消すと、彼女の光が新たに分かたれる。
先程よりも小さな白光。
ただし今度は、その数が多い。
……次は何を?
少女の中の白光が、彼女の指先へと移動したかと思うと、
ぽっ
少女の各指から、小型の火球が生成される。
『すごいでしょ! あたたかいでしょ!』
指先から顕現した十の火球は、宙を舞い、俺の頭上で円を描く。
可憐な少女を彩る様に、炎はぼんやりと彼女を照らしている。
温かく、柔らかい火。
少女の心を表すような、優しい色合いの火だ。
……これは一体――
前世にはなかった力。
初めて見る技術。
しかし最も気になったのは、少女の白光が胸元に存在するということだ。
胸元にあるものといえば、心臓あるいは心。
心臓は生物として生きるために必要で、心は人として生きるために重要なものだ。
どちらも欠けてはならないもの。
そして心に関しては、こう定義することも可能なのではないか。
心は魂であると。
少女の中にある白光。
それがもし魂のような存在だとするならば、彼女は魂を制御していることになるのではないか。
魂の移動に制御、変換。
彼女の操る火が、そうやって魂を操ることで生まれたというのなら。
……存在するのかもしれない。
自身だけでなく、他者の魂を操作できる存在が。
……まあ、流石に。
火球を自慢げに見せつけてくるこの少女が……ということはないだろうが。
他者の魂を制御できるような存在がいるとすれば、俺の転生手段について説明がつく。
前世で死んだ俺の魂を制御して、この世界へと移動させる。
そしてその魂を新たな命として変換できたのなら、転生を人為的に起こすことも可能なのかもしれない。
あくまで仮説で、それ以上の事は残念ながら見当がつかないが。
でも、少女の起こしているこの現象は、転生についての手がかりになる気がする。
彼女の胸元にある白光は、火に変換されたことで少し減ったかと思うと、すぐさま元の輝きを取り戻す。
心――魂の光。
命の輝きとも言えるのかもしれない。
でも仮に、そうでなかったとしても。
……いつまでも、彼女の温かい光を見ていたい。
そう思ってしまう、不思議な輝きである。
そんな事を思って、ふとある考えに至る。
……この輝きが、魂そのものなのだとすれば――
少なくとも生物は皆、持っているのかもしれない。
生きとし生ける全てのものが、この美しい輝きを。
……であれば――
少女の命の輝きから、視線を下げる。
眩いばかりの白光。
それは確かに――俺の中にも存在している。
……ひょっとして、できるのか?
俺にも、彼女と同じことが……できるのだろうか。
自身の白光を意識する。
しかし、それから何をすればいいのか分からない。
少女よりも小さい、けれど確かに同質の輝きがここにもあるのに。
……動け! 動け!
願っても、白光は胸の中心から動かない。
……彼女は何をしていた?
思い出せ。
少女は最初に小さく白光を切り離し、それを移動させていた。
……だが、どうやって?
分からない。
必死に考え続ける俺を、
『ルンちゃんもやってみたいの?』
少女は見て――視ていた。
何を言っているのかは、相変わらず分からない。
けれど少女は、俺の考えを理解しているかのように、俺の胸元に手を当てる。
『ここ、どっくんするでしょ? それでうごくんだよ!』
……心臓と血。
言葉は伝わらずとも、少女の言いたいことがなんとなくわかる。
全身を流れる血液。
心臓にある血液を輝きの中心と捉えて、体中に張り巡らされた血管へと循環するイメージ。
……本当にできるのか?
いや、できる。
俺は知っている。
流れゆく血の温かさを、俺は知っている。
逸る自身の鼓動。
その音に合わせて、白光が流れていくイメージ。
……できた!
僅かだが胸の白光が分かれて、小さい輝きが体内を動き始める。
『そうだよ! ルンちゃんがんばれ!』
少女の声を背に、移動する白光。
胸から肩へ。
肩から腕へ。
最後に掌へと至る。
想像するのは火。
酸素を取り込み、ものを燃やす火。
少女が俺に見せてくれたものだ。
イメージが魂の輝きと結びつく。
掌へと移動した白光が、少女のものとよく似た火へと変換されていく。
ぽっ
……やった!
現れたのは、小さい火だ。
弱々しく揺れる球体。
風が吹けば、今にも消えてしまいそうな程、か細い火だ。
けれどそれは確かに――俺の成した火の玉。
自身の小さい胸に満ちる、達成感と喜び。
……久しぶりだな。こんな気持ちは。
自身の力で何かを成し遂げる感覚。
その喜びに、身体が震える。
『わあぁぁぁぁぁ! きれい!』
少女のあげた歓声によって、俺の火の玉がゆらりと消える。
『おかあさん! ルンちゃんすごいよ!』
少女の輝くような笑顔が、俺へと向けられていた。
『すごいすごい!』
細く小さな手に、頭を撫でられる。
少女の黒色の瞳にあるのは、純粋な驚きと愛しさ。
切なくなる程の無償の愛だ。
『えっ⁉ クーちゃん、何がすごいの?』
近寄る母親の足音に対して、
『これとおんなじことできるの!』
少女が再び炎を生み出す。
パチパチと燃える彼女の炎。
そして、
『ええぇぇぇっ⁉ クーちゃん! それって……魔術じゃないの⁉
何で⁉ いつからできたの⁉』
そんな少女に向けられる母親の驚愕の声が、なぜだか耳に残ったのであった。
――ちなみに両親は、これまで娘の力を知らなかった模様です。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!