表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
5歳 騎士を目指す少女
51/245

17 母の想い。

1日1話投稿中です。

明日は午前6時台の投稿予定となっています。

「うううう……良かっだねえ。リっちゃん」


 ズズズ


 村長とリッチェンの親子の抱擁を見て、滂沱の涙を流す姉に応える。


「ああ。そうだな」


 親には親の理屈があり、子には子の理屈がある。

 時にはそれがぶつかって、すれ違うこともあるかもしれないが、そのたびにこの親子はこうして乗り越えていくのだろう。


「よいしょ」と少し痺れる足に鞭を打ち、俺は立ち上がって、姉に声をかける。


「さて、姉さん。一段落した所で、俺たちもいつも通りの生活を始めるか」


「そうね! ルンちゃん!」


 俺の言葉に、姉も笑顔で立ち上がる。


 ……よし。いける(・・・)


 今が好機(チャンス)

 これで全てを有耶無耶に――



「それで、ルング(・・・)?」


 俺たち――俺の機先を制するかのような言葉が響くが、汗をかきながら無視する。


「では、俺はこれにて――」


 発動しようとしたのは風の魔術。

 移動に特化した、最速の魔術だ。


 しかしその魔術は、魔力が風へと変換される前に――


 ガバ


 姉に飛びつかれることで、阻止される。


「姉さん……裏切るのか。弟を逃がすのが姉の役目のはず……」


 腕を引きはがそうとする俺の言葉に、姉は首を横に振る。


「ルンちゃん、元気でね……」


 その目には、再びの涙が。


 ……おい。

 

 これじゃあまるで、俺がこれからどうにかなるみたいじゃないか。

 生きている。俺は生きているんだ。

 だから、涙を流さないで欲しい。


「元気にしていて欲しいなら、放してくれ。頼むから」


 ……想像の何倍も力が強い。


 5歳と8歳では、やはり体格差がどうしても出てしまうのか。

 あるいは姉も、何かしらの(・・・・・)恐怖に追われているのか。


ルング(・・・)?」


 ……分かってはいたのだ。


 だが、少しの可能性があるのなら、諦めるべきではないと思っただけで。


 ……もう、間に合わないなんてことは、勿論理解している。


 腹をくくり、姉に抱き付かれたまま、正座(元の姿勢)に戻る。


「はい、なんでございましょうか。母上」


 俺の言葉に対するのは、能面の笑顔だ。

 背後に死神の鎌を隠す仮面の笑顔と言っても良い。


 死神が口を開く。


「もちろんだけど、お母さんは怒っています。何故でしょう?」


「俺が危険なことをしたからです。

 それでリッチェンも危険に晒し、皆にご心配をおかけしました。

 すみませんでした」


 間髪入れない俺の言葉に、母は「うんうん」と頷くと、いつもの優しい笑顔に戻る。


 ……ほっ。


 どうやら俺の答えは間違えていなかったようだ。


「分かっているならいいです。許しましょう。

 次からは、もっと上手くやってください。それで――」


 母はここで何故か声を落とす。


「ちゃんと守りたいものは守れた?」


 その視線は赤毛の少女に注がれている。

 ニヤリと笑っている姿は、父に瓜二つ。

 似たもの夫婦だ。


「息子をからかってやろう」という魂胆は見え見えだが、素直に答える。


「いや、守れてなどいない。俺は守られてばかりだ」


 ……彼女にも。


 俺の瞳が、リッチェンを捉える。


 あの小さな騎士が魔物と向かい合っているのを発見した時、肝を冷やした。

 心臓が止まるかと思った。


 傷だらけの姿。

 いつ倒れるか――死んでしまうか分からないその姿に激情を覚えて。


 けれど、彼女の強さに救われた。

 弱々しく、それでも俺たち(村民)を守ろうと立ち上がる気高い騎士の姿。


 彼女は俺よりもずっと弱い。

 けれど、そんなこと(・・・・・)は関係ないのだと。

 ただ、大切なものを守りたいのだという、想いの強さを俺は確かに彼女に見た。

 

「それなら、良かったわね(・・・・・・)


 不甲斐ない息子の言葉を、しかし母は褒める。


「うん? どういう意味だ、母さん」


 母の顔にもういやらしい笑みはなく、いつもの穏やかな笑顔が浮かんでいる。


 優しく姉と俺を撫でると、母は語り始めた。


「クーちゃんも、ルンちゃんも、とってもすごいのはお母さんにもわかるわ。

 勿論、お父さんにもね。

 その年で魔術も使えて、私たちの手伝いもして、2人は私たちの自慢よ。


 それでも、知っていて欲しいの。

 人は、1人じゃ何もできないってことを。

 私たち一家を、今回リっちゃんが必死に守ってくれたみたいに。

 色々な人たちが、2人を守ってくれているの」


 母は祈る様に、俺と姉の手を片手ずつ取り、その両手に握り込む。


「2人がそれを理解して、成長して。

 そして、色々な人たちを守れる人になってくれたら、お母さんは嬉しいかな」


「今回の、リっちゃんみたいにね」と母はウインクを俺たちに飛ばす。


 ……俺の驕り。


 前世と比べて、魔術が扱えるから。

 色々なことができるからと、1人で何でもできる気になっていた。


 母はきっとそんな俺の傲慢さを見抜いて、心配していたのだろう。


「ありがとう……母さん」


「うん、ルンちゃん。頑張りなさい」


「……はい」


 母の叱咤は結局それだけで。


 それはきっと、俺ならできると、信じてくれているからに違いない。


 ――母のゾーレは、息子を信じています。本気で怒ったら怖いですが。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ