3 転生手段の有無。
本日投稿予定の6話中の5話目です。
次回は約2時間後に、投稿予定です。
……さて。
俺が転生した意味は今後も考えていくとして、どうやって転生したのか。
すなわち、転生手段も気にかかる。
魂の生まれ変わり。
それを制御する技術なんてものは、前世の日本に存在しなかったはずだ。
赤ん坊が前世の事を憶えているなんて事例は、聞いたことがない。
そもそも魂という存在自体、科学的には証明されていないのだ。
故に「魂はそのままに新たな生を得る」転生という現象は、創作や概念上のものでしかなかった。
……そんな前世の状況から、俺を転生させるなんてことが可能なのか?
死すらも明らかになっていないのに?
『じゃあ、俺はそろそろ仕事の準備でもするか……ゾーレはルングの面倒を見ててくれ』
俺が考えているうちに、男性は動きを見せる。
『ありがたいけど……貴方は1人で大丈夫? 大変じゃない?』
女性の気遣うような声色。
彼女の言葉に、再び男性の表情が緩む。
『勿論大丈夫だ!
なんせ俺はクーグルンとルングの父親にして……お前の旦那だぜ!』
茶化す様に笑う男性に、
『もう……貴方ったら』
満更でもない表情の女性。
仲の良い夫婦。
そして、
『はいはーい! わたしもルンちゃんみてる!
おかあさんのおてつだいする!』
可愛い娘。
『流石だな、俺たちのクーグルン!』
『わあぁぁぁい』
勢いのままに高い高いをする父娘。
父親は娘をゆっくりと降ろすと、
『じゃあクーグルン。お母さんとルングをよろしくな!』
何かしらを伝え、
『おまかせしてだいじょうぶ!
なんせわたしは、ルンちゃんのあねにして……ふたりのむすめだぜ!』
娘はポーズをもって答える。
『おう、任せたぜ! じゃあ行ってくるな!』
『いってらっしゃい』
『いってらしゃい!』
こうして妻と娘を慈しみながら、父親は家から出かけて行ったのであった。
『さて、じゃあ私はルンちゃんを見ながら――』
『おかあさん!』
父親が出て行くと、すぐに娘が母親へと呼びかける。
『わたしがルンちゃんをみてるから、おかあさんはやすんでていいよ!』
言葉は分からずとも、その表情を見れば何を伝えたのかすぐにわかる。
あれは気遣いの顔。
母親を心配する、子どもの顔だ。
それに対して、
『大丈夫よ。クーちゃんこそ遊びに行っていいのよ?』
母は娘の想いを嬉しく思い、微笑んでいるのだろう。
娘は首を左右に振ると、
『ううん。わたし、ルンちゃんとあそぶのすき!』
何かを言って、俺の元へとやって来る。
俺の顔を覗き込む表情は、やはり明るい笑み。
視界に入るすべてを愛しているかのような、輝く笑みだ。
『じゃあ、お母さん料理するけど、ルンちゃんに何かあったらすぐ声をかけてね』
『はーい』
母親は娘に声をかけ、それをきっかけに彼女の足音が少しずつ遠ざかっていく。
その後聞こえる、カチャカチャという物音。
どうやら母親は、そこまで遠くには行っていないようだ。
『ルンちゃーん。
ねえねだよー。おねえさんだよー』
覗き込む娘の笑顔はとても愛らしいのだが、残念なことに何を言っているのかはわからない。
『うーん、わかるのかなあ?』
話しかける彼女も俺の反応が鈍いとみて、手を振ったり面白い顔をしてみたり、撫でてみたりとあの手この手で気を引こうとしている。
『あとは――』
むーっと、娘は腕組みをして唸ると、
『じゃあ、これはどう?』
その言葉と共に、俺の世界の見え方が変わる。
「っ⁉」
少女の身体が輝き始め、いつの間にか少女を覆う何かが見える。
……何だこれは⁉
見たことのない現象。
少女から立ち上る、白い輝き。
強いて言うなら、湯気の様にも見えるが。
しかし、それは明らかに――
『よいしょ、よいしょっと』
娘の意志によって、制御されている。
よく見ると、身体全体から放出されていたように見えたそれは、彼女の胸元を中心として輝いていた。
……何が起きる? 危なくないか? この子や母親は大丈夫なのか?
俺の心配をよそに、娘は続ける。
『むむむむー』
胸元の白光は分かたれ、流れるように肩へ。
そして腕を通って、彼女の両の掌へと収束していく。
娘は腕組みを解いて、両の手を軽く開く。
開いた掌同士を向かい合わせて、歪な円を空に作る。
『よっと!』
ぽっ
そんな可愛らしい音と共に顕現したのは――
……火の玉⁉
少女の作った円。
そこに収まるサイズの火の玉が、彼女の両の手のちょうど中心で浮いている。
……何だ、これ⁉
奇術だろうか?
だとしても、未だ少女の胸元で輝いている白光や、それが掌に収束した現象の説明がつかない。
……未知の力。
前世では見たことのない力だ。
しかしそれは未知故に――
「ふあああぁぁぁぁ!」
『わあああ! ルンちゃんおおよろこび!』
俺のこの状態に関わりがあるかもしれない。
――未知の力の正体は?
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!