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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
5歳 騎士を目指す少女
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15 その風は全てを断つ。

1日1話投稿中です。

明日は少し時間が変わり、午前0時台の投稿予定となっていますのでご注意ください。

 さて――


「この魔物(・・)、どうしてくれようか」


 リッチェンを治し、そのケガの原因となったモノ(・・)へと向き直る。


 一見すると、巨大な猪。

 しかし、魔力を捉えた時に、確かにこの生き物の中に燃え盛る魔力を見た。


 ……それに加えて。


 魔力の密度も異常だ。

 

 普段見ている人間や家畜と比べて、その身体を占める魔力の濃さが一線を画している。



 思い当たるのは、2年程前の形相。

 凶暴な爪と牙に、強固な毛皮。

 そして太陽の様に発光する魔石。


 姉の仕留めた巨大な生物――すなわち魔物だ。


 おそらくこの猪もまた、身体に魔石を保有する魔物なのだろう。

 鋭い牙も、尋常ではない体躯も。

 魔物――あるいは魔石――所以のものであるのなら、説明がつく。


 そう考えると――


 ……よくリッチェン(・・・・・)は、ここまで食い下がったな。


 相手は魔物。

 普通の猪とは、全ての面で強度が異なるというのに。


 堅固なはずの魔物の体中至る所に、剣による傷が幾筋も入っている。

 

 何度魔術で跳ね飛ばされようと、未だに少女をつけ狙う魔物と同じように、この魔物もまた少女(・・・・・・・・・)から狙われ続けたの(・・・・・・・・・)だろう(・・・)


 むしろ少女に狙われた恨みとして、今これほどまでに固執しているのかもしれない。


 ……恐ろしいな。


 隣で胸を張って立っている赤毛の少女――リッチェンの執念が、ほんの少し怖い。


「うん? ルング、なにかしら?」


 俺のそんな戦慄の視線に、少女は笑顔で首を傾げる。


 ……怖い。


「いや、何でもない……です」


「そう? それならいいわ!」


 女子という苦手分野が、多少克服できそうな気がしたのだが、どうやら気のせいだったらしい。

 なんなら、それ以上に苦手なものが出来た気もする。


 

 ……それにしても魔物か。


 視線の先では、鋭い牙を持つ魔物が狂ったように突進を続けては、俺の魔術に突き飛ばされている。


 体躯やその魔力の巨大さには、目を見張るものがあるが、もう恐怖はない(・・・・・・・)


 俺にとっての最たる恐怖(・・・・・)は、もう切り抜けた(・・・・・・・)のだ。


 だが、厄介なことには変わりない。

 迫る魔物を幾度目か分からない土の槍で迎え撃つが、やはり結果は弾き飛ばすにとどまっている。


 ……固いな。


 普通の魔術による攻撃では、魔物の強固な皮は抜けないらしい。


 ……足りないのは、速度か強度か角度か。


 思いつく原因を潰すために、魔術(土の槍)を放ち続ける。


 しかし正面から魔物を貫くはずのそれは、動く巨躯の側面を掠め、空をつく。

 

 ……それに速い。


 移動速度の速さ。

 それもまた、魔物の防御を貫けない一因となっている。


 強固な肉体に、俊敏な回避速度。

 そんな魔物に魔術の照準を完璧に合わせて倒すというのは、至難の業だ。


 その上、魔物の動きの質が少しずつ良くなっているのも気になる。


 ……猪って、直進しかできないわけじゃないのか。


 魔術の動き――土の動きに合わせて、時に魔物はその足を使って魔術を躱し始めていた。

 左右へのちょっとした方向転換から、後退まで。

 恐るべき機動力を駆使しながら、こちらへの接近を試みている。


 接近して魔術が当たっては距離を取り、再び接近する。

 これの繰り返しだ。


 仕留めきれるわけでもない、膠着状態。

 魔物がこちらの魔術に慣れきってしまえば、それすらも崩れるだろう。


 ……世界の魔力(全力)を使うか?


 あの力なら、上から叩き潰すことは可能なはずだが――


 ちらりと、背後にある畑に目を遣る。


 リッチェンに施した治癒魔術と違って、攻撃魔術は制御を誤れば、畑にも損害が出るかもしれない。


 それは嫌だ。

 折角リッチェンが守ってくれたのだから、俺がそれを破壊してどうするという話だ。


 故に世界の魔力を用いるのなら、その攻撃は確実に魔物のみに当てたい。


 であれば少なくとも先程の様に、土の魔術(魔物への迎撃)と並行して発動するのは避けたい。


 ……一瞬で良いから、時間が欲しい。


 それで狙いをつけ、世界の魔力を以って魔物のみを仕留める。


 恐らくそれが、今俺にできる最良のはずだが――


 その時間(タメ)をあの魔物に与えてしまえば、その牙はこちらに届き得る。


 本当に厄介な状況――と考えたところで、妙案を思いつく。


 ……リッチェンに、姉さんを呼んでもらうのはどうだ?


 あの姉なら俺が足止めをしている間に、魔物を仕留めることが可能だろう。


 あるいは姉に足止めを任せ、俺が仕留めても良い。


 ……よし。


「リッチェ――」


「ルング!」


 そんな俺の心の動きを何か察したのだろうか、騎士として目覚めた少女が俺の名を呼ぶ。


「わたしがいくわ! わたしがあいつを、とめてみせる!」


「なっ⁉」


 少女は返事を待たずに、矢のように飛び出していく。


 ……何を考えている? 怖くないのか?


 回復したとはいえ、あんなにボロボロにされて。

 それでどうして立ち向かえる。


 しかし、少女の背中は語る。


「わたしならできる。やれる」と。

 赤毛を尻尾の様に揺らしながら、剣を携え少女は駆ける。


 少女の決意は、白光の絶大な輝きによって、可視化されてい(見え)る。


 俺が止めようとしたところで、彼女はそれを振り切るに違いない。


 それなら――


「2秒で良い! 魔物を止めろ! 騎士リッチェン! 君ならできる!」


「……りょうかいだわ!」


 俺の言葉を後押しに、駆けていく少女の背中が加速する。


「やあああああ!」


 剣を振りかぶる少女と、その正面から突進してくる魔物。


 少女の輝きが、最高潮に達したかと思うと、その2つは見事に正面から切り結ぶ。


 これまでで1番の轟音が、夜の村に響いた。


 大気はその衝撃に身を揺らし、作物たちは少女の成長を言祝ぐ。


「やったわ!」


 少女の達成感が、言葉に溢れる。


 ……よし!


 魔物は少女と共に、その動きを止めていた。

 

 剣は魔物の牙によって受けられているが、敵はそれ以上進めず。

 対するリッチェンもまた、後退せずその場で留まっている。


 衝突と鍔迫り合いで火花が上がる。

 リッチェンの決意が、確かに魔物と拮抗していた。


「よくやった! リッチェン!」


 魔物の動きが止められたことにより、戦局が決まる。


 ……狙いはもう、定まった。

 

 俺の中で世界の魔力が変換されていき――


「風よ!」


 放つのは、大地を削り進む縦向き(・・・)の巨大な風の刃。

 それは大地に軌跡を描きながら、魔物を押さえたリッチェンを迂回し――


「やったわあああ!」


 魔物の首を落としたのであった。

 ――畑を荒らす魔物の討伐完了です。

 2人の大勝利! 


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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