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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
5歳 騎士を目指す少女
48/245

14 嫌いじゃない。

1日1話投稿中です。

明日も午前6時台の投稿予定となっています。

「あの馬鹿! 何してる!」


 夜中、妙な魔力の動きがあると気付いて、こっそり外に出てみれば、遠くで向かい合う2つの白光(魔力)

 1つは知らない魔力だが、もう1つはよく知っている。

 つい昼間に、仲良くなった少女のものだ。


 ……ふざけるなよ。


 少女の魔力が、随分と小さい気がする。

 昼間の太陽のような力強さは薄れ、弱々しい蝋燭の灯程度にしか見えない。


 自身の心臓が、早鐘の如く脈を打つ。


 ……急げ! 急げ!


 魔力が全身を覆い、疾風の魔術となって俺を少女の元へと届ける。


 ……よし、間に合った。


「相打ちなど、やらせるわけないだろう」


 怒りのままに1つの魔力を弾き飛ばし、空を駆け降りて、もう1つの魔力(少女)に寄り添う。


 血だらけの少女だ。

 見事だった赤毛は血と泥で黒く固まり、フリルのついた可愛らしいスカートは所々破れ、無残な姿になっている。


 そんな少女の立ち姿の中で、目立つのは両手で握られた剣だ。

 身体は震え、立つのが精一杯のはずなのに、その腰元に構えられた剣の握りは強い。


 その少女自身が、まるで剣そのものであるかのような。

 そう思わせる妙な説得力が、彼女の立ち姿にはあった。


「……何をしている?」


 少女に尋ねながら、2種類の魔力を練り始める。

 そんな俺の問いに、息も絶え絶えに少女は答えた。


「なにって……いのししいたからに、きまってるじゃない」


 にぱっ


 浮かべる笑顔は、弱々しく痛々しい。


 俺の土の槍(魔術)で弾き飛ばされた猪は、何度もこちらに――少女に向かって突進してくる。


 俺たちの体躯を優に超える大きさの猪。

 その猪もまた手負いだ。


 全身に斬りつけられた跡があり、幾度交差したのか皆目見当がつかない。


「逃げればいいだろう! 危ないんだから!」


 ……ふざけるなよ!


 感じる胸の痛みのままに、再び猪を弾き飛ばして、少女の魔力を見る。

 いつも活発なまでに輝いている白光は、先程よりも色褪せ、少しの風でも吹き消えてしまいそうな程に小さい。


 俺の言葉に、少女は左右に首を振る。


「わたし、ルングのヴァイ、まもりたかったから。

 ルングとなかよくなりたかったから」


 少女は、気丈に笑う。

 笑い続ける。


「っ⁉」


 そんな少女の笑顔に、目頭が熱くなる。


 ……俺と仲良くなりたいだと?


 そんな理由で少女は戦ったというのか。

 大好きな服もボロボロにして。

 何度も何度も轢かれて。

 叩きつけられて。

 身体を傷付けて。


 そこまでして、俺の友だちになりたかったのか。


 ……馬鹿が!

 

「この馬鹿! もう俺たちは……友だちだろう」


 ……昼に一緒にバイトして、果物を食べただろう。


 友だちのいなかった俺でもわかる。


 それが友だちじゃなくて何だというのか。

 

 この場に存在する魔力を見る。


 猪を吹き飛ばすための魔力とは別に、練り続けたもう1つの魔力。

 だが、それだけでは、今から発動する魔術に足りるか分からない。


 故に世界からも魔力を供給する。


 それらを以って発動する魔術は勿論――治癒魔術だ。


「そっかあ。わたしたち、もうともだちなのねえ」


 支える少女の声が湿り気を帯び、その少女を大きな白光で包んでいく。


「あれ? いたくなくなってきたわ……わたし、しんじゃうのかしら」


「縁起でもないこと言うな。このバカ」


 徐々に痛みが引いてきたらしい。

 苦しそうだった少女の顔色が、少しずつ良くなっていく。


「俺が治しているだけだ」


 ……怖かった。


 気付かなかったら。

 間に合わなかったら。


 ……俺はこの小さな友人を失っていたのか。


 その仮定に、肝が冷える。


 父がケガをした時のことが、頭に過ぎるくらいには怖かった。


「わたしがルングにたすけてもらった、3にんめね!」


 そんな俺の心境を露知らず、「3!」と指を3本立てる彼女の呑気な言葉に、心から怒鳴りつける。


「言ってる場合か! 村長の娘!

 もう2度とこんなことはするなよ!」


 俺の怒りの言葉に、少女は応える。


「ううん、ぜったいおなじことをするわ」


「あのなあ――」


「だって、ルングでもおなじことするでしょ?

 きっとヴァイをまもるし、わたしもたすけてくれるでしょ?

 それなら、なんかいだって、わたしもまもるわ!」


 今度こそ、力強くにかっと笑う少女。


「自分は間違っていない」と。

 少女の笑顔には確信が伴っている。


 ……こいつ。子どものくせに。


 痛い所を突かれたと、子どもにそう思わされた段階できっと――

 

「俺は、勝てない勝負はしない。危険だと思えば逃げる」


 自身の思考を振り切り、少女を言いくるめにかかる。


「そうかなあ? あやしいわね」


 そんな俺を、怪しむ少女。


 そんな会話をしている間に、無事少女の怪我が全て治った。


「……ほら、治ったぞ。後は、黙って見てろ」


 そんな俺の言葉に、少女は再度首を振る。


「わたしもたたかうわ! つぎは、わたしがかつ!」


 寄り添っていた俺から少女は少し離れると、剣の柄を両手で持ち上げ、剣身を空へと向け、祈る様に抱え上げる。


 少女の白光は、怪我をする以前よりも、遥かに強く燃え上がり、まるで剣身を燃やすかのように輝きを増していく。


 ……本当にバカだ。


 治したとはいえ、一応怪我人。

 もう休んでも文句など言わないというのに。


 ……だがそんなバカは、嫌いじゃない。


「はあ……わかった。絶対に俺の足を引っ張るなよ?

 騎士リッチェン(・・・・・・・)


 少女は俺の言葉に目を見開く。

 

 少女の白光は更に燃え上がり、月夜の中を美しく踊る。


 ……やめろ。

 

 こっちを、そんなキラキラした目で見るな。


「うん!」


 リッチェンは俺の言葉を噛みしめるかのように、大きく頷いたのであった。


 ――騎士リッチェンは健気です。

 そして、ルングは……ツンデレ?


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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