12 少女の独白
1日1話投稿中です。
明日は午前6時台の投稿予定となっています。
その子のことが気になり始めたのは、いつからだったろうか。
最初は、嫌いだったのだ。
理由は単純。
だって村長のお父さんが、いつもその子の所に行っちゃう。
「ごめんな、リッチェン。仕事だから行ってくるな」
父はいつも楽しそうにそう言って、私の元を去って行く。
そんな父が、ある農家の子たちの所に通っているのを、私は知っている。
仕事……仕事?
本当にただ、仕事のためなのだろうか?
……気に食わないわね。
クー姉はまだ分かる。
クー姉はすごい人だ。
大人にもできない「魔術」というのが扱えるらしいし。
教導園でもすごく勉強が出来て、噂では常に満点とか。
私と3才しか違わない。
なのに(よくは分からないが)大人よりすごいことをしている。
そんなクー姉は私の目標であり、憧れの人だ。
そのクー姉の弟。
その子が私の気に食わない相手だ。
……だって、ズルい!
ただの弟ってだけで、憧れのクー姉といつも楽しそうに話していて。
何もすごくないくせに、お父さんもまたクー姉と同じくらいその子のことを、気にかけている。
……そんなのおかしい!
そう思っていた。
憤っていたといっても良い。
髪が黒くて、目が茶色の細身の男の子。
肌の色は太陽の下にいても、白くて。
指なんて、その辺に咲いている花の花弁みたいに、触れれば取れてしまいそうなくらい細い。
女の子みたいな顔で、身長なんて私の方が多分大きいし。
足も絶対私の方が速いし。
弱々しい男の子。
その男の子は、いつもどこか遠くを見ているみたいだった。
それも嫌いな理由の1つだ。
……だってそうじゃない?
まるで私には見えない何かを、自分には見えてるって言われているみたいで。
「私よりも自分の方が凄い」
そう言われているみたいで、嫌だった。
……なに⁉ 自分はすごいって言いたいの⁉
そんなの全然すごくない。
すごくないって、思っていた。
ある日、私が中央広場にいた時のこと。
遠目で、何か綺麗なものが輝いたのだ。
……何だったんだろう。クー姉かな?
そう思って、広場にいた人たちに聞いて回って、そこで初めてちゃんと知ったのだ。
その子――ルングのことを。
ルングが「魔術」を使えると知ったのだ。
先程輝いていたのは、クー姉を教導園に連れて来ていたルングの魔術であると。
なんならその魔術で、クー姉を助けたことがあると。
父親であるツーリンダーさんを、魔術で助けたのだと。
村の大人たちは、口々に教えてくれた。
雷が落ちたかのような衝撃と、火で焼かれるような羞恥。
それから私は、色々な人にルングのことについて聞き回った。
ルングがお父さんと、大人な話をしているのも聞いた。
村の人たちのために頑張っているのを、聞いた。
「このヴァイ、すごくおいしいね!」
私がそう言って、満面の笑みで食べていたヴァイは、クー姉と一緒にルングが育てた、すごくおいしいヴァイだった。
それを聞いて、もう1口食べた。
おいしかった。
すごくおいしくて。
これまでで食べた食べ物の中で、1番おいしくて――涙が出た。
自分が恥ずかしくて涙が出た。
ルングはクー姉やお父さんの――村の役に立っていて、村を助けていたんだと。
支えていたんだと。
そこで初めて気付いた。
……ルングは「すごいクー姉の弟」だから皆に人気なんじゃなくて。
ルングがすごいから人気なんだって。
それからは、もっとルングのことを注目して見るようになった。
同い年なのに、色々なことをしているのを見て。
細身の割に、一生懸命畑仕事をしている姿は、まあ可愛らしいし。
魔術を扱っている姿は……格好良くて。
……いいなあ。
私もルングと話したくなった。
ルングの仲間の輪に入りたくなった。
……仲良くなりたい。
そう思ったのだ。
だから、今日は嬉しかった。
ルングとちゃんと初めて、話すことが出来て。
ルングのお仕事(バイト?)に、一緒に居させてもらえて。
本当に嬉しかった。
お腹の空いていた私に、果物をくれた優しさが嬉しかった。
ムキムキになって村を守れと言ってくれて、嬉しかった。
でも、ルングはまだ冷たいと思う。
話しかけても、嫌そうな顔をするし。
抱き付こうとしたら、逃げようとするし。
仕方なく追いかけるけど、逃げられるのは悲しい。
クー姉も、ルングがどんな子と仲良くなりたいかは、知らないみたいだった。
……どうしたらいいんだろう?
私がルングと仲良くなるには。
ルングに、私を見てもらうには。
そう考えて、思いつく。
……そうだ! 私がすごい人になればいいんだ。
ルングが見惚れるくらいに。
ルングが私と仲良くなりたいと思うくらいに。
答えが出れば、後は簡単だ。
行動すればいいのだ。
だから、お昼に聞けていて良かった。
「畑を荒らす動物」がいるみたい。
もし私が、その動物から村の畑を――ルングたちの畑を守れば、きっとルングは私を見てくれる。
きっともっと、仲良くなれるはずだ。
だから私はその日の夜、静かに家を出発したのだ。
――ルング以外の初視点です! 少しの違いを楽しんでいただけると幸いです!
姉のクーグルンがタイプを聞いてきた理由が、ようやく完全に判明しました。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!