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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
5歳 騎士を目指す少女
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3 村長は少し引いている。

1日1話投稿中です。

明日は午前6時台の少し早い投稿予定となっています。

「お前たちは、家族で何をしてるんだ……?」


 会話と魔術で温かいやり取りをしていた俺たち一家相手に、心底呆れたような声がかけられる。


「村長、見てて分からないのか? 甘いな」


「ブーガのじいさん、まだまだだな! もっと色々と観察した方が良いぜ」


「いや、わからんが……誰が甘いだと? ルング!

 そして、ツーリンダー! 俺をじいさんって呼ぶんじゃねえって何度言わせやがる!」


 お人好しの雰囲気に、熊の様な体躯。

 村長――ブーガだ。


 どうやら今日も今日とて、ウチにやって来たらしい。

 畑の外から、俺たちのやり取りを窺っていたようだ。


 ……そんな暇があるなら、働いた方が良いと思うが。


「あら、村長、こんにちは」


 母は丁寧に村長へと挨拶をして、


実験(・・)だよ?」


 姉だけが唯一、村長の質問に答える。


「実験?」


「うん! 空気中で魔術をぶつけながらヴァイを育てたら、魔力を宿すのかなって!」


 今回のヴァイ育てのテーマは、「大気の魔力量を増やすと、作物は魔力を宿すのか」である。


 ただ、空気中の魔力を単純に増やす方法は、姉弟(俺たち)の眼を以ってしても分からなかった。


 だから試しに、畑の上空で俺と姉の魔術をぶつけ合っていたのだが――


 ……良かった。成功みたいだ。


 大気中の魔力は、無事濃くなっていた。


「ああ、だからさっきからお前たち、戦ってたのか(・・・・・・)!」


 どうやら村長は、俺と姉が魔術で戦っていると、思っていたらしい。


「当然だ。意味もなく姉さんと魔術で戦ったりしない」


「そうだよ! お姉ちゃんとして、私もそんなことしないよ?」


「いや、お前ら姉弟喧嘩で、まあまあやってるだろ」


 俺たちの言葉に、村長はにべもない反応だ。


 ……やれやれ。


 村長が暇人なせいで、ウチの家庭事情をすべて把握されていて困る。


「村長、子どもの揚げ足を取るなんて、大人として問題あるぞ」


「揚げ足じゃねえだろ⁉」


 そんな俺と村長のやり取りを尻目に、


「よし、とりあえず魔力の濃度は、目標を達成したから、空間を覆おうかな!」


 姉は手際よく、畑に対して風の魔術を起動する。

 すると姉の畑全体を、半球形の風が覆っていく。


「ルング、これは何のためにしてるんだ?」


「魔力が拡散しないようにするためだよ。

 風で折角の魔力が、流されちゃうかもしれないからね」


 村長の疑問に端的に答えながら、姉の魔力を見る。


「姉さん、もっと使用する魔力量と、風の強さを抑えて。

 そのままだと、ヴァイが傷む」


「了解! こんな感じ?」


「ナイス」


 俺の指示に、姉は元気な返事で応える。


「いや……まあいいや。その魔術をぶつけ合ってた件はわかった。

 俺が聞きたかったのは、家族で何の話をしてんだってことだ」


 村長の次の質問に、畑で作業している父が応じる。


「ああ? 村長、聞いてなかったのか?

 ウチのクーグルンとルングの、好きなタイプの話だろうが」


「……わかった。まあ、そういう話が楽しいのは分かるしな。

 俺だって、娘のそういう話は多少気になる。

 だが、聞きたいのはその後だ」


 村長はそう言って、ゴホンと咳払いをする。


「ルング、お前の好みのタイプは?」


()金持ちで、()貴族で、()魔術が使える人」


「短い間に進化してやがる……。クーグルンは?」


()イケメン?」


「そんな単語ないよなあ⁉」


「村長、それくらいで、ごちゃごちゃいうなよ。

 クーグルンとルングにだって、希望があってしかるべきだろ?」


「俺とゾーレの子どもたちなんだからな」と、自慢げな父の言葉に、


「うん! 正確には、お父さん以上の大イケメン!」


 姉が笑顔で発言を重ねる。


「そんな奴はいませええん!」 


 泣き叫ぶ父。

 作業の手が止まっていることについて諦めたのか、母は最早何も言わない。


「それで、村長はどうしたの? お仕事大変なはずよね?」


 母はちゃんと手を動かしながら、村長に来訪理由を尋ねる。

 

 ……しかし、母のこの発言内容は怪しいものだ。


 元々村長は10日に1回は来ていたし、姉が魔力持ちのヴァイを育ててからは、少なくとも3日に1回のペースで、我が家――正確には父の農地――を訪れている。


 仕事が忙しいのなら、こんなハイペースでウチを訪れる余裕なんてないはずだし……。


 もしかしたらとは思っていたが、本当に村長という職業は、暇なのかもしれない。


「ああ……いくつか用はある(・・・・・・・・)が、とりあえずあれ(・・)だ」


 だがどうやら今日の村長は、一味違うらしい。

 今回こそは、ちゃんとした要件があって訪れたようだ。


 その真剣な声色に、家族たちは皆、村長の発言へと耳を傾ける。

 

 村長は勿体ぶる様に、少し間を置くと――


「クーグルンの魔術の先生につい(・・・・・・・・)ての要請が通った(・・・・・・・・)ぞ」


 おそらく今日1番の朗報を、真面目くさった顔で俺たちに報告したのだった。


 ――実験は、色々と試行錯誤しながら進められています。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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