2 姉の好み。
1日1話投稿中です。
今週は午前8時台に投稿予定となっています。
「てへ」
格好良い人がタイプと言い切った姉は、パチンとウインクを投げる。
……可愛らしいが、そんなことでは誤魔化されない。
「姉さんのそれだって、『外見が良い』って要素が好きなだけなんじゃないのか?
俺の答えと大差ない気がするが」
「え……そうかなあ?」
そう言って首を傾げる姉には、不安しかない。
……あの母さんの娘だからなあ。
現段階で、母と姉は瓜二つだ。
このまま成長して、姉が母のように成長していくということを考えると――
……悪い虫がつきかねない。
鋭い瞳で、姉を見つめる。
「な、なに、ルンちゃん? どうしたの? そんな怖い目で見て……」
そうやって慌てている姿すら、愛らしいのだ。
そんな姉が顔だけの奴に捕まり、苦労するなんてことは、断じて許さない。
……今の内に、正しい価値観に更新しておかなければ。
「姉さん、ただ顔が良いだけの相手じゃ、苦労するのは目に見えている。
せめてイケメンに加えて付加価値が必要だ」
……たとえ姉さんに相応しい存在なんていないとしても。
それでもせめて、足元に縋りつけるくらいには付加価値が要る。
「うーん? イケメン以外の付加価値って、例えばどんなのがあるの?」
そう聞かれると、答え辛いものがあるが――
「まあ、せめて父さんくらいの図々しさは必要――」
「誰が図々しいイケメンだ! 息子よ!」
俺の言葉に、少し離れた場所で作業をしていた父がツッコむ。
……父さんのことを、イケメンだなんて一切言っていないが。
そして、自身のことを堂々とイケメンだと呼称しているあたり、随分と図々しいとも思う。
……まあ、でも。
父の顔立ちは、実際に整っている。
粗野な話し方も、少々乱暴な部分はあれど、嫌味がないからか許せてしまう不思議な魅力もある。
ちなみにその図々しいイケメンは、姉の恋愛話に真剣に耳を傾けていたらしい。
先程から、雑草の処理作業が全く進んでいない。
「貴方?」
「はい! すみません……」
父と共に作業をしていた母に笑顔で凄まれて、父はあっさりと作業に戻る。
……だが、丁度いい。
俺はその父を例に、姉へと語りかける。
「姉さん、見てて分かると思うが、父さんはイケメンだ。そうだな?」
姉はチラリと父を見て、
「うん、お父さん格好良いよね!」
と、大輪の花を咲かせる。
にんまりと笑う父に、再び注意する母。
「だが姉さん、考えて欲しい。
父さんがただ顔の良いだけの男だったら、母さんを落とせたかって話だ」
母は父が霞んで見える程の美人。
もし――
「もし父さんがただイケメンなだけだったなら、母さんとは結婚できていないだろう」
「ねえ、2人とも」と、両親に矛先を向けると、2人は過去を懐かしむ。
「まあ、それはそうかもな。ゾーレの人気は半端なかったし。
この辺りの村々から、縁談の話が舞い込んできててよ。
挙句の果てには領主様からも――」
「もう、恥ずかしいからやめてよ!」
そんな仲睦まじい2人を見て、姉は疑問を覚えたようだ。
「その中から、お母さんはお父さんを選んだんだよね? どうして?」
姉の真っ直ぐな質問に、母は顔を赤くしながらも答える。
「うーん、小さいころから仲も良かったし、何かと接点も多かったのよね。
それこそ、領主様のパーティーに招待された時とかは、何故か偶々その会場でツーリンダーが働いてたり」
「不思議ねえ」と言う母は、純粋過ぎると俺は思う。
「聞いたか、姉さん。
絶対に父さんは、母さんと結ばれるために、あらゆる手段を講じているぞ」
「間違いなくそうだよね」
こそこそと、姉と話し合う。
そのパーティーの話は、絶対に偶然ではない。
きっと母を領主に奪われると考えた父が、パーティーにどうにか乗り込んだのだろう。
「つまり、父さんはその図々しさ、太々しさで、美人の母さんを落とせたわけだ!」
「なるほど、そういう付加価値ってことだね」
そう腑に落ちる姉と、
「あらもう、ルンちゃんたら!」
照れる母。
2人とも土に塗れているにも関わらず、その美しさ・可愛らしいに陰りはない。
俺が生まれて5年程。
その間ずっと、両親と姉は俺にとって眩しい存在である。
「だから――」と、俺は父に告げる。
「だから、父さんの図々しさは才能だ。
母さんを落とせたんだからな! 誇った方が良い」
「何か言いくるめられてる気もするが、反論もし辛いな……」
父はそうひとりごちると、その矛先を姉に向ける。
「クーグルン!」
「えっ? 何、お父さん」
姉の応答に、父は大きく息を吸いこんで叫んだ。
「言っておくが、お前と結婚するやつは少なくとも俺よりイケメンで、ルングより強くて賢くないとダメだからな!
お父さんは許しませんよ!」
伸びたヴァイの間を吹き抜けていく、父の心の叫び。
……珍しく正論だ。
「ええぇぇ⁉」
驚く姉に、俺も言葉を重ねる。
「父さん、それでは足りない。金と権力も必要だ」
「ふ……さすがルング。抜け目ないな」
「ええぇぇぇぇぇぇ⁉」
……姉さんに釣り合う男。
やはりそんなものが存在するとは思えないが、百歩譲って。
否、千歩譲って許せるのは、顔、権力、金、実力。
全てが揃った上で、姉を世界一大切にする男だ。
それ以外は、認める気などない。
熱量の高まる男性陣に、母が尋ねる。
「あらあら、2人とも? それだとクーちゃん結婚できないんじゃない?」
「「それは最悪仕方ない」」
父と重なる答え。
……無理に結婚する必要なんてない。
この世界だと、まだ結婚が重要視されているのかもしれないが、姉が不幸な結婚をするくらいなら、独身でいいと思う。
「ええぇぇぇぇぇぇ⁉ 結婚したいよ!」
姉の叫びもまた、ヴァイの畑に吸い込まれていく。
そんな俺たちの団欒に――
「……お前たちは、家族全員で何してるんだ……?」
困惑を隠せない、野太い声が割り込んできた。
――父と弟は、可愛い姉を手放す気がないようです。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
現在『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』という作品も同時に投稿しているので、もし少しでも興味がある方はそちらもよろしくお願いします。
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