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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
5歳 騎士を目指す少女
35/245

1 姉の真剣な質問。

5歳編開幕です。

少し成長したルングたちを、よろしくお願いします。


1日1話投稿中です。

今週は午前8時台に投稿予定となっています。

 ドン


 青天の下、轟音が大気を揺らす。

 

「ルンちゃんは、どんな子とだったら、仲良くしたいとかあるかな?」


 穏やかな声色が、真っ直ぐ俺へと届く。

 すらりと伸びた手足に、ふわりと長く伸びた茶色の髪。


 その所作は清流のように、自然で美しい。

 彼女が存在するだけで、周囲が浄化されるような。

 そんな錯覚に陥る。


「仲良く……」


 そんな美しく成長しつつある姉からの、唐突な質問に俺は戸惑う。


 姉――クーグルンの問いに答えるのは、簡単なようでいて難しい。


 仲良くしたい人。

 

 今でも心の痛む話だが、前世では、特段仲の良い人はいなかった。

 他者との距離の取り方が、わからなかったのだ。


 ……自分とこの人は、本当に友だちなのか。


 そんなことを考えれば考えるほど、口も頭も回らなくなっていって。

 気付けば友だちらしい友だちもおらず、ただ淡々と過ごす日々を送る人生となっていたのだ。


 故に仲良くしたい人に、明確な基準なんてものは、特にないのだが――


 ドン


 再びの轟音の中、姉は答えを期待するかのように、じっと俺の言葉を待っている。


 透き通った美しい黒の瞳。


 ……これに答えないのは、弟の道義に反する。


 そんな気にさせる瞳だ。


「強いて言うなら……金のある人かな。

 権力を持ってたり、魔術がすごい人でもいい。

 全部持っていたら、最高だな」 


 故に、こちらも思いつく限り、正直に答える。


 ちなみに理由としては、そういう人脈を築ければ、家族や村の人たちを守りやすくなるからだ。


 ……我ながら、非の打ちどころのない完璧な答えだと思う。


 そんな自画自賛の俺に向けられるのは、


「ルンちゃん、そういうのじゃなくて……」


 姉の呆れた目だ。


 ……そんなにダメな答えだっただろうか。

 

 姉は両手で頭を抱える。


「じゃなくて?」


 俺が尋ねながら放った火の魔術(・・・・・・・)を、姉は水の魔術(・・・・・・)で撃ち落とす(・・・・・・)


 ドン


 再び響く轟音。


「す、好きな女の子のタイプとか、こういう子にキュンとするとかそういうのを、お姉ちゃんは教えて欲しいかな!」


 ……何故、姉さんが少し顔を赤らめているのか。


 こういう話題に、照れる年頃なのかもしれない。


 しかし自身の両手で、真っ赤な頬を恥ずかしそうに覆いながらも、姉は魔術の制御を緩めない。


 相変わらず、鋼の制御能力だ。


 それにしても――


 ……きゅん(・・・)とするか。


 思うに、どうやら姉が聞きたかったのは、恋愛とかそういう類の話だったらしい。


 魔術を放ちながら、じっくりと考える。


 前世での恋愛を思い出そうとして、遮断した(止めた)


 ……よくよく考えれば、友人付き合いすらなかったのに、恋愛(そういう)関係があるはずもない。


 心に無駄な――そして不毛な痛みを負う。


「いや、そんな真剣に考え過ぎなくて良いんだよ?

 思うままに、こんな子好きだなあとか!

 可愛いなあとかでも!」


 俺の真剣な表情を、姉は難しく考えているのだと思ったらしい。

 感覚的な言葉を並べて、俺の反応を探っている。


 ……さて、どうしたものか。


 好きなタイプ。


 ドン


 魔術のぶつかり合う音が、俺の胸を叩く。


 かなりの難題だ。

 できるなら、好きなタイプという言葉の定義から話したいくらいに。


 でも、姉の望んでいるのは、そんな考察を伴うものではないのだろう。


 なんとなく。

 それくらいの好みでいいのだと思う。


 であれば――


「まあ、無いなら仕方ない――」


「あるよ、姉さん。タイプだよな?」


 俺のその言葉に、姉は安堵の表情を取る。


「良かった! どんな子が良い?」


「そうだな。敢えて言うならだが――」と少し溜めを作って、一気に言い切る。


「金持ちで、貴族で、魔術が使える人だな」


「さっきと同じじゃない!」


 一際大きな魔術が、空中でぶつかり合う。


「姉さん、危ない。急に何するんだ?」


 そんな俺の言葉に姉は答えず、


「ダメよルンちゃん! それはお金と権力と魔術が好きなだけで、好きな子とは言えないよ!」


 どこか当たりの強い魔術を放ちながら、姉は青臭いことを叫ぶ。


「心から、相手自身の事を好きにならなくちゃ!」


 しかし、その一生懸命な顔は、とても魅力的だ。


 ……ふと。


 好きな人――好きなタイプの話題に、これほど必死な姉相手だからこそ、逆に同じ問いを差し向けたくなる。


「好きなタイプはあるのか」という問いだ。


 言いたいことを言い切って胸を張る姉に、その問いを投げかける。


「じゃあ、姉さんはどんな人がタイプなんだ?」


「え? 私のタイプ?」


 姉は一瞬きょとんとして、すぐに答える。


格好いい人(イケメン)……かな!」


 姉と俺の答えに、どの程度の差があるのか、今の俺には残念ながらわからなかった。

 ――ルング5歳、クーグルン8歳に成長しています。

 姉から出た、謎の質問。

 ちなみに、どうして魔術をぶつけ合っているのかは、今後の話で明らかになる予定です。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのとしていて、間延びせず、かといって早すぎもしないいい塩梅です [一言] 恋愛観については、似たもの姉弟なんだな
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