表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/245

21 魔物は売れるらしい。

本日7時過ぎより、短編『鏡の魔女は、令嬢を見抜く』を投稿予定です。

もしよろしければ、そちらも目を通していただけると嬉しいです!


1日1話投稿中です。

明日は午前7時台に投稿予定となっています。

「さて、2人とも!」


 姉弟愛を確かめ合う美しい抱擁を、村長の野太く、明るい声が引き裂く。


 ……空気の読めない村長だ。


 姉と離れる。

 少し心残りだが仕方ない。


 そのまま姉から村長へと視線を移すと、その顔には先程の姉に負けないくらい満面の笑みが、浮かんでいた。


「この魔物だが……滅茶苦茶高く売れるぞ? どうする?」


「「えっ⁉」」


 思わず姉と声が重なる。


 ……高く売れる? この魔物が?


 大の字で転がっている魔物。

 死してなお、凶暴かつ獰猛な姿。


 ……ひょっとして。


 こんな姿形をしているが――


「にくとか、おいしいのか?」


「ええっ⁉ 魔物って美味しいの⁉」


 俺の予想に、姉が驚く。


 もし美味いのなら、悩ましい所だ。


 売るよりも、食べてみたいという気持ちは大きい。


 だけど――


 魔物の顔を見る。

 父に傷つけられた左目を置いたとしても、恐ろしいまでの形相。

 父たちの件からもわかる通り、この魔物は――


 ……人間の1人や2人食べててもおかしくない。


 そんな魔物を食べていいものか。


「おにく! おにく!」


 倫理観と鬩ぎ合っている俺を尻目に、姉は美味しい肉を想像して涎を垂らしている。


 そんな姉に、村長は浮かない表情を向けている。


「いや、期待してるとこ悪いが……滅茶苦茶不味いぞ?

 肉は腐らないが、食って腹を下した奴もいたし」


「せめてもっと美味けりゃな……」と、村長は何かを思い出す様に、顔をしかめている。

 

 ……ひょっとして、食べたことがあるのだろうか。


 だとすると、味の細かい感想が、非常に気になるのだが。


「えー? それじゃあ、何が高く売れるの?」


 味の事を考える俺に対して、姉の方は何が売れるのか気になっているようだ。


「そうだなあ」と、村長は魔物に近付いて、屈む。


「主に取れる素材だな。

 今回のこの魔物なら、この辺の爪や牙に、毛皮とかだ。

 武器とか防具に使えるんだよ。

 まあ、本来なら一番売れるのは、魔石なんだけどな――」


 そう言って、村長は魔物全体を見渡すように、立ち上がった。


「傷が目立ちすぎて、魔石がどこにあるのかわからん」


「ご、ごめんなさい」


 その傷を負わせた張本人である姉が、悲しげに謝る。


「そんちょー?」


 ……ようやく笑顔の戻った姉さんに、どういうつもりだこの人は。


 そんなんだから、子どもに怖がられるんだぞ。


 俺の抗議の視線を、村長はちゃんと受け取ったらしい。


「いや、違うぞ、クーグルン! 責めてるわけじゃねえよ!

 そもそも、魔物は魔石をどうにかするか、致命傷を負わせるかしないと倒せない。

 むしろ、お前には、村を守ってくれた感謝しかないんだぞ⁉」


 村長の必死の弁明に、姉は気を良くしたらしい。


「どういたしましてだよ!」


 底抜けに明るい笑顔で、大きく胸を張った姿は、これまでの反動からか元気いっぱいだ。


「それでだ――」


 と村長は気を取り直すと、俺たちへの望み(仕事)を告げる。


「お前たちにお願いしたいのは、この魔物の魔力を見て欲しいんだ」


「まりょくをみる? もちろんいいけど――」


「どうして?」


 俺の言葉を引き継いだ姉の疑問に、村長は答える。


「ほら、魔石って魔力の塊だろ?

 それなら魔力の見えるお前たちなら、見えるかと思ってな。

 ひょっとすると、身体の中に残ってるかもしれないし」


 確かに、言われてみればそうだ。

 姉と顔を見合わせて頷くと、俺たちは魔物の魔力を見始める。


 ……あれ?


 最初に違和感があった。

 別に調子が悪いわけではない。


 むしろ逆だ。


 調子が良い。

 良すぎるくらいだ。


 魔力が見える。

 見え過ぎる(・・・・・)


 元々、俺たちの見えていた白光(魔力)は、生物の胸元に1つだけ。

 魔術を使う時に白光が複数に分かれるのが確認できるくらいで、普段は魔術が使えようが使えまいが胸元の1つだけしか見えなかったのだ。


 しかし、今はそうじゃない(・・・・・・・・)


 生物の全身。


 胸元の白光を中心として、身体の部位ごとの(・・・・・・・・)魔力の濃淡も(・・・・・・)、見えるようになっている。


「「っ⁉」」


 驚きで姉を見ると、姉もまたこちらを見ている。


 姉は魔力を見るために、意識を集中させているからか、目の魔力の濃度が高い。

 可愛らしい黒目がまん丸になっているあたり、どうやら俺と同じ状況の様だ。


 ……一体俺たちに何が――


 と考えたところで、首を振る。

 そんなのは決まっている。


 きっかけはあの日だ。

 2人で父を助けたあの日。

 俺たちが、世界に満ちる魔力を見たあの日。


 自身の身すら顧みず、魔術を発動したあの日、おそらく俺たちは、1つ限界()を超えたのだ。

 

「ねえさんも、みえてるよね? どこかいたいところとかない?」


「ううん、びっくりはしたけど……やっぱり、ルンちゃんも?」


 互いに言葉で確認して、胸を撫でおろす。


 魔力に輝く姉の瞳(・・・・・・・・)

 それ以外は、胸元の魔力も含めて、普段の姉と変わったところはない。


「どうした? お前たち?」


 心配そうに俺たちを眺める村長。

 彼の白光もまた同様に、俺たちを心配するかのように揺れている。


「だいじょうぶだ。そんちょー」


「だから心配しないでね! 絶好調だから! 逆に」


「それならいいが……」


 俺たちの言葉にも、まだ白光は揺れ続けている。


 ……早く見つけて、村長を安心させるか。


 魔物を2人で注視すると――


「「あっ」」


 同時に声を上げる。


 ……あった。


 村長の予想通り、薄っすら魔力が充満している魔物の身体の中に、白光――魔力のより濃い部分がある。


 ただ――


「おお、見つけられたか?」


「うん、見つけたけど」


「けど?」


 村長の疑問に、俺が答える。


「2つあるぞ?」


 大きな白光(魔力)

 眩い白光は、魔物の巨大な体の中に、2つ程存在していたのであった。

 ――見ることもまた、才能の1つだと思います。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ