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19 元気のない姉。

1日1話投稿中です。

今週は午前6時台に投稿予定となっています。


新しく『鏡の魔女は、令嬢を渡る』という短編も投稿してみました。

もしよろしければ、そちらもお読みいただけると、嬉しく思います。

「それで村長は、今日()結局暇なの?」


「クーグルン、()ってなんだ! だから俺は暇じゃねえんだって!」


 再びの姉の素朴な問いに、村長は慌てたように答える。

 

 ……慌てている段階で、やっぱり怪しいとも思うが。


 村長という職業は、結構楽なのだろうか。


「ちゃんと他の仕事だってある。

 だが、お前らは村の子ども。

 まあ、やってることは子どもらしくねえけどよ。

 それでも、俺の管理する村の可愛い子どもだからな。

 それが無事なのを最優先で確認してるだけだ!」


 ……なるほど。ということは――


「そんちょー、おれたちとのかんけいは、しごとだったんだな」


「村長酷いよ! ルンちゃんや私との関係はその程度だったの⁉」


「おい、人聞きの悪い事言ってんじゃねえ!」


 開けた農地に、俺たちの声が響く。


「ったく、ただでさえ最近娘にも色々言われてるのに、なんて奴らだ」


 汗を拭う仕草をする村長。

 発言から察するに、村長は村長なりに、色々と苦労しているようだ。


「じゃあ、おれたちのぶじはかくにんしたとして、つぎはなんのしごとだ?」 


 ……まあ、たとえ苦労していたとしても。


 もし今後の予定が何もないのだとしたら、いよいよただの暇人認定をしてしまおう。


 そんな俺の含みのある問いに、村長は「ああ、そうだった」と答えて、姉に尋ねる。


「クーグルン」


「ん? 何? 村長」


「お前がやったアレ(・・)のことなんだが」


 先程とは村長の声色が変わる。


「あれ?」


 ……何のことだ?

 

 姉を見ると、彼女は父を送り出した時のような神妙な顔で、こくりと頷く。


「うん。私がやった(・・・・・)アレがどうかしたの?」


 村長はチラリと俺を見て、


「ちなみにルングは知ってるのか?」


 ()に尋ねる。


「……ううん。まだ知らない」


「そうか……」


 謎のやり取りを姉としながら、ガシガシと頭を搔く村長。


 ……何の話だろうか。

 

 全く内容が見えてこない。


「ねーさん、そんちょー。なんのことだ?」


 よく分かっていない俺に対して、村長は複雑そうな顔をする。


「ああ……そのだな……」


 やはり村長は、チラチラと姉を見ている――気にしている。

 あるいは、気遣っていると言っても良いかもしれない。


「村長、ルンちゃんは大丈夫」


 姉は村長を安心させるように言うと、俺に向けて手を差し出す。


「それじゃあルンちゃん、一緒にお出かけしようか」


 少女は儚い表情で、そう俺を誘ったのだった。



 

 家畜たちの管理を母に任せ、姉と村長と共に、アンファング村の道を歩く。


 まだ幼く、足取りがおぼつかないためか、姉はずっと俺の手を引いてくれている。


 温かく、柔らかい手だ。


 ビク


 しかし、そんな姉の手が急に強張る。


 ……どうしたのだろう。


 姉の顔を見上げると、掌以上に強張った表情。


 彼女の視線の先を追う。


 母によく似た黒の瞳は、これから訪れようとしているアンファング村中央広場の方向に向いている。


 しかし実際に見ているのは、目と鼻の先にある広場ではなく、もっと遠い場所。

 その背景だ。


 姉の視線の先には、父が狩りに入った山がそびえ立っている。


 もちろん、俺にとっても見慣れた風景。

 何度も見たことのある光景ではあるのだが――


「うん? あんなところに、みちってあったか?」


 違和感があった。


 元々自然が多く、木々に囲まれた山。

 その山に、見慣れない道(・・・・・・)が出現していた。


 おそらく木々が伐採されたのだろう。

 それによって生まれた隙間から山肌が露出し、こちらから見ると、道の様に見えている。

 

 ……あれは確か――


「あのやまのみちは、ねーさんがや(・・・・・・)ったものか(・・・・・)


「……」


 あの時(・・・)


 姉が自身の魔力を絞り出し、そして世界から魔力を取り込んだあの時。


 父たちを探り当て、その居場所を示した1撃(・・)


 巨大な風の刃による斬撃は、見事に道を切り開き、山には未だその威力が刻み込まれている。


 だが――


「……あれ? ねーさん、いちげきじゃ(・・・・・・)なかったのか(・・・・・・)?」 


 山へと刻まれた道は1本ではない。


 2本。


 山に刻まれた刃の残痕は、俺が捉えていたものよりも、1本多い。


「……うん。私がやったんだ。両方とも(・・・・)


 強大な2撃。探知まで含めれば3度発動された、巨大な魔術。

 

 既にその魔力の残滓は失われているが、間違いなく姉の人生の中でも最大の魔術だったはずだ。


 ギュッ


 俺と繋いだ手が、強く握られる。


 ……それなのにどうして。


 最大にして最高の魔術が成功し、おかげで父たちは無事だったのに、どうして。


 ……どうして姉さんは、こんな悲しそうな顔をしてるんだ?


 今にも泣き出しそうな、涙が流れるのを我慢しているような、そんな表情。

 

 姉はそれ以上何も語らず、手の強張りだけが俺に伝わる。


 そんな姉に対して、見ることしかできていない自分が、もどかしくて仕方ない。


 ――姉の表情の理由は、次回明らかになりますので、お楽しみに。

 何かを言いたくても、言えないもどかしさはある気がします。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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