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16 家族はどこに。

1日1話投稿中です。

今週は午前6時台に投稿予定です。

 パチリ


 目を開けると、見慣れた天井に、藁葺の匂い。

 

 随分と、ぐっすり寝た気がする。


 心地の良い朝。

 久しぶり(・・・・)の朝だ。


 ……うん? 久しぶり? なぜ?


 どうして俺はそう思ったのだろう?


 感覚的に、なんとなくそんな気がしたのだが。


 それに、静かな――静かすぎる朝にも違和感がある。


 ……あれ? 姉さんは?


 いつも俺を起こしに来るはずの、姉の声がないからだ。


 ……なんか落ち着かないな。


 転生して約3年。

 元気な姉や家族たちと共にいるのが、日常になってもう3年も経つ。


 その中で、これほどまでに静寂に包まれた朝は、初めてかもしれない。


 ……母さんはどこだろう? 父さんは――


「とーさん!」


 父のことが頭に過ぎり、身体が勢いよく跳ね上がる。


 ……そうだ。そうだ。そうだ!


 一瞬にして眠気が吹き飛ぶ。


 そうだ、俺は父に治療魔術(・・・・・・)を使用したのだ(・・・・・・・)


 全身全霊。

 あの時の己の総てを用いた魔術。


 その治療魔術の光が見えた後は――


「……だめだ、おもいだせない」

 

 魔術を発動させた記憶はあれど、その魔術によって生じた結果までは、確認できなかった。



 家の中をキョロキョロと見渡す。


 しかし、相変わらず父の姿どころか、家族の姿はない。


 ……どこだ? 皆どこにいる。


 嫌な汗が流れる。


 ……俺の魔術は成功したはずだ。


 絶対に父の傷は治ったはず。

 それなのにどうして。


 ……どうして父さんの姿が見えないことが、こんなにも怖いんだ?


 ぶるりと身震いする。


 すると――


 ガタッ


「っ⁉」


 急に聞こえてきた物音に、視線を向ける。


 そこには――


「ルンちゃん?」


 信じられないものを見たかのように、母のゾーレが、立ち竦んでいる。


 先程聞こえた物音は、どうやら母が立てた音だったらしい。


 ふわりと揺れる黒髪に、同色の瞳。


 その美しい黒色の瞳は今、大きく見開かれ、心なし涙を湛えているように見える。


 いつも可愛らしく落ち着いた母なのだが――


 ……少し瘦せただろうか?


 若干、疲れている気もする。

 可憐さに儚さが加わり、ただでさえ華奢な母は、今にもポキリと折れてしまいそうだ。


「かーさ――」


「よかった……ルンちゃん起きた」


 母は広くない家にも関わらず、俺の元へと駆け寄る。


 ゆっくりと差し出された母の手。


 その手は、やはりいつもよりも細く、震えていた。


「かーさん、さむいのか?」


 そう尋ねる俺に、母は答えない。

 ただ、差し出した手で、そのまま俺の頬に触れる。


「ああ……ちゃんと温かい。

 ルンちゃん、夢じゃないわよね? ちゃんと起きてるのよね?」


「みてのとおりだ」


 確かめるように、何度も俺の頬を撫でると、母は俺をがばりと抱きしめる。


「良かった。本当に……良かった」


 ……苦しい。


 その細腕のどこからそんな力が湧いてくるのかと思う程の、力強い抱擁。

 温かくて落ち着く、優しい香りだ。


「かーさん、とーさんは?」


 しかし、それに浸っているわけにもいかない。

 彼女の腕の中でもがく。


 ……父さんは無事なのか?


 俺の魔術は無事成功したのだろうか。


 手応えはあった。

 それなのに……不安で不安で仕方がない。


 早く父の能天気な笑顔が見たい。


 それに、倒れた姉の事も気になる。


 魔力を使い過ぎて――あの魔力(・・・・)を使用して、意識を失ってしまった姉。

 

 太陽のように朗らかな姉も、無事だろうか。


 じっと母を見る。


「あのねえ、ルンちゃん……」


 母は呆れた様に何かを告げようとして、


「……もう仕方ないわね」


 諦める。


 そのまま母は俺を解放――といっても手は繋いでいるが――して、立ち上がる。


「手は離しちゃ駄目よ?」


 そう念を押す。


 ……珍しい。


 俺や姉が魔術で遊んでいたり、ヴァイの栽培や家畜の放牧をしていたりすることからもわかるように、母は基本俺たちに全て任せている。


 良い意味で放任主義なのだ。

 

 その母が今日は、俺の手を決して離さない。


 ……いつもはここまで過保護じゃないのに。


 繋いだ手は、先程の抱擁が嘘のように弱々しい。

 それに、やはりどこか痩せている気がする。


 持ち前の可愛らしさで、若干誤魔化されてはいるが。


「どうしたの? ルンちゃん?」


「かーさん、つかれてるのか?」


 俺の言葉に、母は目を丸くする。


「えっ⁉ 私、疲れてるように見える⁉」


「いや、いつもどおりびじんだ。ただ、いつもよりひかえめだったから」


「もうルンちゃんったら! 上手なんだから!」


 そんな母の顔に浮かぶのは、いつも通りの笑顔だ。


 ……良かった。


 俺を見て涙を浮かべた時には、心配したが。

 やはり母には涙よりも、笑顔の方が似合う。



 さて、母と2人仲良く家を出ると、外では――


「ルンちゃんが早く良くなりますように!」


「クーグルン、これ高過ぎねえか⁉ 超怖いんだが⁉」


 風に乗って宙に浮かぶ姉と父が、ご近所さんもびっくりな大声で叫んでいたのであった。


 ――風で飛んでいますが、父と姉の無事を確認した主人公。

 何故二人がこんなことをしているのかは、また後の話で明らかになると思います。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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