表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/245

18 少女騎士の推理

 現在、番外編を更新中です。

 次回は8月10日(日)に投稿予定です。

 投稿時間はいつも通り午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「何のことでしょう? 私がルング君だなんて本気で言ってるんですか?」


 金髪の少女が淡々と滔々と私に尋ねる。

 今までの斬り合いによって白ローブは酷い状態だが、それでも彼女の気品は揺るがない。


 ……いや。


 少女ではない(・・・・・・)のか。

 聖女――と騎士――の格好をしてはいるものの、彼は男だ(・・・・)


 王宮魔術師レーリン様の弟子。

 姉弟揃って最年少で魔術学校に入学した才子。

 聖教国に旅立って一切の便りも出さない、冷淡な無愛想男。


 それがクルテ様(かれ)――私の幼馴染の少年、ルングなのである。


 ……当の本人はしらばっくれようとしているが。


 アレだけ魔術と剣について語っておいて、何を今更としか思えない。

 しかしクルテ様は――ルング(バカ)は未だに隠しおおせられると考えているらしい。


 ……往生際が悪過ぎますわね。


 そして腹立たしい。

 クルテ様はルングなのだと理解しているにも関わらず、それでもクルテ様が可愛らしく見えるのが心底腹立たしい。


 ……何なんですの、この幼馴染。


 もうずっとこの姿でいたら良いんじゃなかろうか。

 その方が色々と丸く収まりやすい気がする。


 そんなバカみたいなことを考えつつ、私はルングの懐に力強く踏み込む。

 両手で握った剣が少年の右胴に向けて弧を描く。

 

 剣が地表スレスレを這い、腰の捻りと同時に跳ね上がる。

 狙いは右切り上げ。

 敵の胴から左肩へと抜ける斬撃だ。


 しかし少年は左手(・・)で握った魔術製の剣――土剣で受け止める。


「怪我は治ったようで何よりですわね!

 お得意の治癒魔術ですの? ルング!」


「光属性の治癒魔術は便利なんですよ。

 術式の構築をいじれば座標変更も簡単ですし。

 魔力量も調節可能なので、継戦能力も高いです。


 ……あの、リッチェン様。

 私がルング君であるという前提で話が進んでいる気がしますが、気のせいでしょうか?」 


 聖女騎士の皮を被った幼馴染(バカ)は、私の導き出した真実を認めない。


 ……もしかして気付いていないのだろうか?


 魔術について――自身の興味の対象について嬉々として語るその姿が。

 その表情が。

 その在り方が――完全にルングそのものだということに。


 ……よくよく考えれば、明白(バレバレ)でしたわね。


 我ながらどうして今の今まで気付かなかったのだろう?

 似ているという感想だけで止まっていたのだろう?


 気付いてしまうと、過去の自身が滑稽でならない。


 ……輝く金髪に目でも眩んだのだろうか?


 鍔ぜり合うルング(クルテ様)を視界に収める。


 聖女から転向した騎士。

 金髪に聖女の証(白ローブ)

 可愛らしい声色に整った容姿。 


 そんな彼女から繰り出される美しい剣戟と魔術の融合に――私は魅了され、浮かれていたのかもしれない。


 ……人間って不思議だ。


 数々の情報の激流によって「クルテ様は女子だ」と自然に思い込んでいた。

 思い込まされていた。


 そんなたった1つの先入観で、こんなにも視野は狭まるものなのか。

 頭からつま先まで、どこからどう見ても彼女はルングじゃないか。


 ギリギリと刃を交えながら、ルングは問う。


「……どうしてリッチェン様は私の事をルング君だと思うのですか?


 そもそも性別が違うんですよ?」


 少年はこちらの剣を斬り払い、受け流す。

 自我のない剣。

 敵の動きを読み、隙を突く、効率を追求した剣。


 ……見れば見る程。


 刃を交えれば交える程、剣筋もまた見知ったルングの剣だとしか思えない。

 何故私はこんなあからさまな――


 ……いやいやいやいや。


 思考の反復を無理矢理止める。


 私が見抜けなかったのは仕方ないはずだ。

 問題はなく、落ち度もないはずだ。


 見た目も仕草も――匂いすらこのバカは完全に偽っていた。

 限界寸前の戦況になってようやく尻尾を出した(・・・・・・)のだ。


 それでどう気付けというのだろう。


 悪いのは気付けなかった私ではなく、性別を偽ってまで何故か大将戦に参加している幼馴染(バカ)のはずだ。

 

「性別云々なんて、小さい話ですの。

 ルングぐらいの身長なら、少し背の高い女の子で通りますし」


「……リッチェン様は私がルング君だと確信している様に見えますが。

 何か根拠でもあるんですか?」


 言葉を交わし、剣を交わす。

 しかし――


 バキン


 打ち合いの衝撃に耐えられず、ルングの魔術剣が砕ける。


 ……チャンスですわね!


 剣を失った少年の頭に向けて、愛剣を全力で振り下ろす。


「『土よ、形を成せ(フォードゥン)並列起動(パラリーラ)』」


 ガキンッ!


 それをルングは2本の剣(・・・・)を交差させて受け止める。


 ……そうか。


 魔術で剣を生み出せるのなら、敵の獲物は1本とは限らないのか。


「リッチェン様、私を殺す気ですか?」


「この程度で貴方は死なないでしょう?


 ……ちなみに言っておきますが、その魔術(・・・・)ですのよ。

 私が貴方をルングだと確信したの――は!」


 縦横無尽に駆け回り、四方八方からルングに剣を差し向ける。

 しかし幼馴染はその尽くを打ち落とす。

 

 ……なるほど、防御の為の双剣という訳ですわね。


 読みによる初速。

 それでも埋まらない私との速度の差を埋める為の1手として、少年は手数を増やすことを選んだのだ。

 

 ルングの周囲を私が駆け回ることで大気が渦を巻く。

 

「どうして土属性の魔術を使った(・・・・・・・・・・)くらいで(・・・・)、私がルング君だと?

 論理に飛躍がある様に思いますが」


 甲高い金属音の合間に、言葉が差し込まれる。


「その認識の甘い(・・・・・)発言そのものが根拠ですわ!


 あのですね……貴方――貴方たち姉弟(・・・・・・)は、常識を知らなさ過ぎですのよ?

 2()属性を扱える魔術師(・・・・・・・・・)というだけで、どれだけ珍しいと思ってますの?」


 ……姉弟(かれら)の悪癖だ。


 自身の興味関心から外れた物事には、一切意識を向けない。


 クー姉はそもそも魔術しか頭にないし。

 ルングは他者に対する興味はあれど、自身のことは完全に度外視している。

 

 方向性は多少違うかもしれない。

 しかし結局の所、この姉弟は自身の名声に興味の無い似た者同士なのだ。


 ……だからこそ。


 自分たちがどれだけ目立つ存在なのか理解していない。

 認識できていないのである。


 ……魔術は1人1属性。


 それが幼馴染(ルング)たちが現れるまでの魔術師たちの標準認識だ。


 故に2属性以上の適性を持つ魔術師は、それだけで注目され、重宝され、畏怖される存在だったと聞いている。


 姉弟の師であり、王宮魔術師のレーリン様。

 王宮魔術師を取り仕切るシャイテル・ドライエック様。

 魔術学校学長にして長命種の大英雄トラーシュ・Z(ツァウベアー)・ズィーヴェルヒン様。


 騎士学校所属の(まじゅつしではない)私ですら、多属性魔術師(かれら)の名前はある程度知っている。


 ……まあ。


 それどころかレーリン様に至っては、話したこともあるし、ルングと組んで手合わせしたこともあるのだが。

 それは置いておこう。


 複数の属性魔術を扱えるというだけで――魔術師としては別格扱いされるのだ。


 しかしこの姉弟の中にその常識はほぼ無い。

 皆無といってもいい。


 ……昔から――あるいは最初(うまれたとき)から。


 姉弟(かれら)は様々な魔術を扱えたのだから。


 ルングはどうにかその常識との乖離を呑み込もうと、小首を傾げる。


「……でもそれだけでは、私がルング君だと断言できないでしょう?

 偶々聖教国に2属性扱える魔術師がいたのかもしれません」


 表情を変えずに、そんな的外れな反論をする女装魔術師に目を細める。


 ……少しやり辛いですわね。


 クー姉に顔立ちがそっくりなせいで、今のルングと話していると妙な気分になる。


「……つまり複数の属性魔術を扱える魔術師は、それだけ希少ってことなんですの。

 言ってしまえば――そうですね。


 力量関係なく、彼らは将来性も込みで(・・・・・・・)幼少期から(・・・・・)有名なんですのよ?


 貴方の師匠のレーリン様もずっと有名だったという話ですし。

 私たちの同年代なら……聖教国の『雷鳴聖女』は知っているでしょう?


 あの人だって、小さい頃から注目を集めていたらしいですわよ?」


 ……そして言うまでもなく、私の幼馴染たちも名を馳せていたらしい。


 村でアレだけ愛されていた姉弟(かれら)が、公爵領どころか国内でも有名だったことにはさすがに驚いた。

 騎士学校に入学して1週間程、姉弟について質問攻めにされたのは鮮明に記憶に残っている。


 ……それどころか――


 入学して2年以上経つというのに、ルングやクー姉について未だに尋ねられることすらあるのだ。


「それなのに貴方の――聖女クルテ様の噂は全(・・・・・・・・・・)く聞いた事ありません(・・・・・・・・・・)()

 それっておかしいですわよね?」


 先程ルングは言っていた。


「幼少期から土属性魔術を扱えた」と。

 そうなるとレーリン様や『雷鳴聖女』の前例がある以上、クルテ様の存在が周知されていないのはおかしい。


 ……無論聖教国が他国に対する手札として、存在を伏せていた可能性もあるが。


 それなら『雷鳴聖女』の存在も秘されて然るべきだ。

 特殊属性(ひかり)基本属性(つち)のクルテ様と特殊属性(ひかり)特殊属性(いかずち)の『聖女騎士』では優先されるべき存在は後者のはず。


 故に『雷鳴聖女』の存在を周知しておいて、クルテ様を隠蔽するのはおかしい。

 筋が通らない。


 ……加えて言うならば。


 仮にクルテ様の存在を伏せていたのだとしても、彼女の――多属性魔術師の存在を大将戦(こんなところ)でわざわざ明かす必然性がない。


 ……私がクルテ様の存在を認識したのはつい先日。


 更に言及するのなら、その情報もあくまで噂程度。

「聖女から騎士へと転向した人がいる」――「『聖女騎士』がいる」程度のもので、決してその聖女が多属性魔術師などという話ではなかった。


 ……いや。


 本来なら「聖女が騎士に転向した」というのも中々衝撃的な話なのだ。


 しかしそれ以上に複数の属性魔術を扱える魔術師――聖女の存在の方が、話題性に富んでいる。

 それにも関わらず話題に上がらなかったという事は、その情報は意図的に隠されていたという事に他ならない。


 ルングは黙って、その茶色の瞳を私に向けながらこちらの言葉を待っている。

 

「だから私、思いましたの!

 聖女クルテ様の幼少期の話を聞いた事がないのは――クルテ様が最近まで聖教国にいな(・・・・・・・・・・)かったんじゃないか(・・・・・・・・・)と。


 最近土属性魔術を扱える者(・・・・・・・・・・)が聖教国に入国し(・・・・・・・・)光属性魔術を学んだ(・・・・・・・・・)んじゃないかって」

  

 つまりは――


「私は幸い、そんな人に心当たりが在りましたから。

 ねえ……ルング。

 貴方が光属性を学んだ結果生まれた存在が、聖女騎士クルテ様なのでしょう?」


 剣と共に私の主張を叩きつける。

 それに対してルングの双剣は、音を立てて砕け散る。 


「どうですの? ルング! 答えなさいな!」


 止めとばかりに振るった剣を少年は――


 ガギンッ!


 鈍い音と共に、生成した双剣で受け止めつつ、


「やれやれ、妙な所で勘の鋭い奴め」


 ようやく自白したのであった。

 ――往生際の悪い聖女騎士でしたが、少女騎士の勢いのある指摘に折れたのでした。

 割と理屈としては穴があったのですが、勢いに押し切られた形です。

 という訳で、薄々察していた方もいらっしゃったかもしれませんが、クルテ様はルングだったのでした。

 その本編主人公がどうして女装してまで大将戦に参加しているのでしょうか?

 次回以降もお楽しみに!


 ※現在、新作構想中です。

 書き溜めたら投稿していく予定なので、そちらもお楽しみにして頂けると幸いです!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。

 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ