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10 審判は騎士団長

 現在、番外編を更新中です。

 次回は6月15日(日)に投稿予定です。

 投稿時間はいつも通り午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「さて代表戦もいよいよ最終戦――大将戦へと差し掛かりました!

 最初に入場するのは、我らがアオスビルドゥング騎士団及び騎士学校所属!


 前回求しょ――代表戦トーナメント優勝者『理性と野生(フィルドゥニス)』ことリッチェエェェェェン!」


「「「わあぁぁぁぁぁ!」」」 


 実況の声と共に闘技場へと現れた私に大歓声が叩きつけられる。


「……えっ、いつの間にそんな通名(シュピネ)付いてましたの?」


 困惑しつつ、私は歩みを進める。

 すると揃っていた歓声が個々の意志を持ち始めた


「リッチェン様、こっち向いてえぇぇぇぇ!」


「リッチェンさん、殺さない様にちゃんと手加減しなよ!」


「リッチェン! フリッドの仇討ちだ! 絶対勝てよ!」


「リっちゃん、ルンちゃんの仇も! ルンちゃんの仇も!」


 ……応援の中に、聞き慣れた声が混ざってますわね。


 そして聞き慣れた声程、中々に失礼なことを言っている気がする。

 アンス様は私が対戦相手を殺害してしまわないか心配し、クー姉に至ってはルングの仇を討って欲しい様だ。


 ……いやいやいやいや。


 今の所人を死に至らしめたことはない。

 そしてルングは死んでおらず、聖教国生活を謳歌しているはずだ。


 こちらに一切合切の便りもなく。


 ……むう。

 

 少しむくれながら、私は大将戦の舞台――闘技場を見回す。


 ……去年とは随分違いますわね。


 昨年はこんな大規模な闘技場などなかった。


 今回より出場選手数が遥かに多かった昨年は、試合数を消化するために騎士学校や騎士団及び魔術学校の施設がフル活用されたと記憶している。


 ……しかし今年は。


 選手数の――というよりは試合数の少なさを誤魔化す為か、特別会場を新設することになったらしい。

 その結果つい先日まで更地だったこの場所に、巨大な闘技場が出現していた。


 ……高いですわね。


 聖教国は壁に覆われていると聞いた事があるが、こんな感じなのだろうか?


 闘技場の外枠――円型にそびえ立つ壁を見上げる。


 円柱型の闘技場だ。


 しかし上面――円柱の蓋はぽっかりと開き、燦々とした陽の光がそこから降り注いでいる。


 観客席はその壁の上に設置されていて、多くの騎士・魔術師の候補生(がくせい)たちが、こちらに身を乗り出す様に見下ろしている。


 そんな手前を陣取る学生たちより更に奥の客席では、王族や聖教国の教皇様、公爵様を始めとした高貴な方々がこの代表戦を観戦していると聞いている。



 ……こんな大規模な闘技場があっという間に作れるのだから、魔術というのは便利だ。


 観客の顔を見て回りながら、ふとそんなことを考える。


 正確には魔術で闘技場を丸々顕現させたわけではなく、魔術師たちが魔術と魔道具類を駆使することで、会場設営に必要な資材を製作し、それを肉体労働担当の騎士や学生たちが組み上げたらしい。


 ルングがその人脈によって騎士と魔術師の壁を取り払った影響は、こんな所にも派生していた様だ。


 ……何なんでしょう。


 私自身が何かを成したわけではない。

 しかしこの場にはいない幼馴染の成した小さな偉業が、妙に誇らしかった。



 そんな騎士と魔術師たちの合作である闘技場を横切り、円の中心へと進む。

 そこには1人の騎士が既に立っていた。


 実直の具現。

 誠実を体現したその立ち姿は、正に騎士の中の騎士。


団長(・・)、お疲れ様ですの。

 その格好は初めて見ましたが、お似合いですわね」


 アオスビルドゥング騎士団団長――ルーマリー様だ。


 いつもは顔を除いた全身に鎧をキッチリ纏っている彼女だが、今日は何故か胸当て(プレートアーマー)を外している。


「仕事は審判だけですからね。軽装でも問題ないと言われました。

 さすがに剣は帯びていますが」


「いや、それなら手甲(ガントレット)脛当て鎧(グリーブ)も外していいのでは……」


 私の意見に騎士団長はキョトンと目を丸める。


「? これは私の身体の一部なので外せませんよ」


「いやいや、真顔で言うの止めていただけませんの?

 本気に聞こえて怖いんですけど!」


「……まあ、流石に冗談ですが。この程度重さに入らないので問題ありません」


 どうやらこの強者にとって、腕や脚を覆う鎧程度は重量にカウントされないらしい。


 ……相も変わらずどうかしてますの。


 このおかしな感覚を基準として騎士たちに訓練を課すから、いつも死屍累々の惨状が広がることになるのではなかろうか。


 団長は呆れている私の視線をあっさり流しつつ、手に持っていた金属板型の魔道具を起動させる。

 

「騎士リッチェン、所定の位置に到着しました。

 クルテ様の準備が整い次第、実況及び入場お願いします」


 どうやら彼女の持つ魔道具は連絡用のものらしい。


 ……うん?


 気のせいでしょうか?

 団長の所持している魔道具に見覚えがある様な……。


 そんな引っ掛かりを胸に抱きつつ団長に告げる。


「魔道具をいくつか所持されてるのは知ってましたが、団長が使用してる姿を見るのは初めてですわね」


「変ですか?」


「変というか……新鮮って感じでしょうか?」


「魔術は貴族のもの」という固定観念は未だ根強く残っている。


 故郷アンファング村では、クー姉やルングを皮切りに魔術適正のある子どもたちが増えてきたことで、大分薄れてきているが。


 しかし騎士の中にも未だ「魔道具は魔術師しか扱えない」という偏見を持つ者は少なくない。

 それを知ってか知らずか、団長が騎士たちの前で魔道具を使用する姿を、私は見たことが無かった。


「まあ……そうかもしれませんね。

 私も基本的に魔道具は使いませんし」


「何故ですの? 便利ですのに」


「そうですね……動力源の魔石が勿体ないというのが大きいでしょうか?

 魔術師なら魔力を補充できますが、ただの(・・・)騎士である私には勿論できませんし。

 魔力を補充してもらうのも、お金がかかりますしね。


 魔石自体は魔物を滅ぼせば手に入りますが、魔道具に設置できる様に加工するのも結局お金が必要なんですよ」


 世知辛い事情を、団長はしかし淡々と告げる。


 ……騎士団長はお金持ってるでしょうに。


 公爵様が騎士団を公爵領の――或いは国の――護り手として重宝しているのは知っている。

 故にその騎士団を構成する騎士たちは高給取りのはずだ。

 あまつさえそれを束ねる騎士団長となると、かなりの報奨を受け取っているはずだが。


 ……そんな団長でも遠慮したい程に――


 魔道具と魔石にはお金がかかるものらしい。

 

 ……ルングとクー姉によって幾度も魔道具の実験に付き合わされてきたが。


 どうやらアレは貴重な経験だった様だ。

 今後は多少認識を改める必要があるかもしれない。


「まあこれは、私が以前から所有していた魔道具(それ)とは別物ですけどね。

 短距離連絡用の最新式魔道具らしいです。


 従来品よりも連絡可能距離が狭まった代わりに、魔石の消費量が従来の物よりはるかに少ないと聞いています」


 そんなことを私が考えているとは露知らず、団長はその手に持っている魔道具を私に見せつける。 

 適当に団長に相槌を打とうとして――


「ルング君から貰いました」


「はあっ⁉」


 その一言で、頭に血が上る。


 ……なんであの幼馴染(バカ)は団長に魔道具をプレゼントしてるんですの⁉


 血液が沸騰しているかの様に体が熱い。


 いつの間に⁉

 私には何もないのに!

 どうして!


 心臓が強く私の全身を叩く。


 もしかして、年上が好みだったりするのだろうか?

 奴がクー姉や母親であるゾーレ様に甘いのもそういうことか?

 レーリン様は――流石に無いか。


 燃える様な血潮が全身を巡り、思考が迷走を始めた所で――


「落ち着いてください」


 どうどうと団長は両手を私に向け、宥める様にパタパタ振る。


「お、落ち着いてますの!」


「そうですか?」と彼女は可愛らしく首を傾げた。


「私にも彼にも他意はありませんよ。

 単なる賄賂(・・)だそうです」


「いやいやいや、そっちの方がおかしいでしょう⁉

 バリバリ他意ありますの!


 どうして騎士団長ともあろう御方が、堂々と賄賂受け取った宣言かましてくれてますの⁉


 問題しかありませんわよ⁉ 逮捕ですの!」


「その逮捕する組織を牛耳っているのが私なので、不可能です」


「腐敗! 大人の醜い社会を見せられてますわ!」


 しれっと恐ろしい事を言い放った団長に戦慄する。


 ……権力者って恐ろしいですの!


 そしてそれ以上に。

 ルングが団長に賄賂を渡したという事実が恐ろしい。


 あの幼馴染が――奴が賄賂を団長に渡したことで、何が起こるのだろうか。

 天気の良い昼下がりの筈なのに、周囲が暗くなったように感じる。


 何か変な権謀術数に巻き込まれている様な。

 そして既に逃げられない所まで来ている様な。


 そんな嫌な感覚に襲われる。


 ……ああ、女神様。


 叶うならどうかお願いします。

 私が彼らの陰謀に巻き込まれていませんように。


「さあ、続いて登場するのは、聖教国ゲルディからやって来た騎士だあぁぁぁぁ!」


 私の切なる願いを上書きするかの様に、熱い実況が流れる。

 それと共に――


「「「わあぁぁぁぁぁぁ!」」」


 私を迎えた時以上の大歓声が上がる。

 聖女騎士――クルテ様が、その姿を現したのであった。

 ――入場した騎士とそれを待っていた騎士団長(審判)。

 騎士団長が持っている魔道具はどうやらルングから貰ったようですが……。

 さて、次回から大将戦がいよいよ開始のはずです!

 次回以降もお楽しみに!


 入力データが何故か消えてしまったので、ひょっとすると次回遅れるかもしれませんが、頑張ろうと思いますのでよろしくお願いします。


 ※現在、新作構想中です。

 書き溜めたら投稿していく予定なので、そちらもお楽しみにして頂けると幸いです!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。

 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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