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2 友人騎士は情報通

 現在、番外編を更新中です。

 次回は4月22日(火)に投稿予定です。

 投稿時間はいつも通り午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「えっ……リッチェン、求職大会参加すんの⁉

 ってか、できんの(・・・・)

 参加して大丈夫(・・・・・・・)なの?」


 騎士学校の昼休み。

 私の報告を受けた友人――フリッドが机から身を乗り出したことで、彼女の青のショートカットがサラリと揺れる。


 ポカンと開いた口に、見開かれた目。

 いつも強気な吊り目が、まん丸になっているその様は、非常に可愛らしい。


「そんな心配しなくても大丈夫ですのよ、フリッド。

 体調も万全ですし、訓練も上々。


 私が負ける理由はありませんの」


 友人を安心させるつもりで、胸を叩く。

 そんな私にフリッドは「あー違う違う」と、半目を突き付ける。


「アタシがアンタを心配すると思う?

 

 去年大会で、完膚なきまでにボコボコにされたア・タ・シが!


 アタシだけじゃ飽き足らず、対戦相手全員を血祭りにあげたア・ン・タを!」


 言葉と共に、友人の怒りの気勢が強まっていく。

 どうやら私の状態を、心配してくれたわけではないらしい。


 ……それにしても、大袈裟ですわね。


 藪蛇なのは理解していたが、怒れる少女の言葉を訂正する。


「フリッド……人聞き悪いですの。

 私は別に血祭りにあげてませんの」


 フリッドの吊り目が、更に吊り上がる。


「アタシをどれだけ酷い目にあわせたか、憶えていないの?

 鎧、完全に破壊(こわ)したよね?

 剣もバッキバキに折ったよね?」


 ……やれやれですの。


 友人の言葉に、少々呆れる。

 この青髪の騎士、性根は決して悪くないのだが、時々こんな風に他責する節がある。


「剣も鎧も手入れをしないから、あんな事故が起きてしまったんですの。


 そういう意味では、感謝して欲しいくらいですのよ?

 私のおかげで武器も新調できたし、手入れする習慣も身についたんですから」


「あの剣と鎧は、入学に合わせて買ってもらったんだけど⁉

 使い始めて2ヶ月も経ってなかったんだけど⁉


 元々手入れもしてたし!」


「じゃあ、粗悪品だったんですのね……ドンマイですの。

 良い鍛冶屋を紹介しましょうか?」


 私の言葉に友人は青筋を立て、拳に「はあ――」と息を吹きかける。


「殴って良い⁉ 良いよね⁉」


「良いですけど、防御も反撃もしますのよ?」


 グッ――


 こちらも軽く拳を握る。

 フリッドはそれを見て、ビクリと身震いしたかと思うと――


「ま、まあ……今回はこっちが大人になってやるわよ」


 ストンと席に着く。

 拳は収めたが、その顔は不満そうだ。


 青髪の騎士は、そのまま机に頬杖をつく。


「それで……どうして参加許可が貰えたことを、アタシに報告したのさ。

 牽制? 牽制なの?


『出場したら、去年みたいにボコボコにしますの』って言いたいの?

 言っとくけど、そんなのには屈しないよ!

 今回こそ、アンタに勝つ!

 アンタの剣も鎧もボコボコにしてやる!」


 気丈に言い放つ少女の目には、燃えるような闘志と向上心が灯っている。


 良き友人であり、良きライバルのさっぱりとした熱気は、どこか心地良い。

 だからこそ、この友人が好きなのだ。


 ……若干、恨みが込められている気がするのは、おそらく気のせいだろう。


「残念ながら、それは無理ですの」


 少女はこちらをギロリと睨みつける。


「……何? アタシの実力が足りないっていうの?」


「いえ……そういう意味ではなく。

 ああ勿論、貴女に負けるつもりもありませんけど」


 少女は「けっ!」と悪態をつきつつも、私の言葉の続きを待つ。


「今年はトーナメントではないらしいんですの。

 騎士学校(ウチ)と、聖教国の国別対抗戦――それも1対1形式で開催されると聞きましたの。


 なので、フリッドとは戦いたくても戦えません」


 茶目っ気たっぷりに、私は首をすくめる。


 獣極国――獣騎士たちの不参加。

 それによって今回の代表戦は、トーナメント型の勝ち上がり方式ではなく「我が国(アーバイツ)代表対聖教国(ゲルディ)代表」という形で、開催されることになったのだ。


 それに伴い、参加者も10代の騎士及び騎士候補と定められた。

 

 おそらく、実力をある程度拮抗させる狙いもあるのだろう。

 昨年の門戸が開かれたトーナメント形式では、実力差の大きい組み合わせも散見していたし。


 今回は年代別にすることで、ある程度の均一化を図ったのだと思う。

 

 ちなみに20代以上の騎士たちの大会は、また異なる機会に開催されるらしい。

 

 ……どうにかして、そちらにも参戦することはできないだろうか。

 

 そんな悪巧みをしていると、フリッドは話を引き戻す。


「それなら尚更聞きたいんだけど。


 どうしてアタシに求職――代表戦の話を?

 流れ的にアンタが出場するってのは、なんとなくわかるけどさ」


「団長に頼まれたんですの。

『後日正式に打診予定ですが、貴女の友人(フリッド)も団体戦の選手候補に挙がっています。

 なので話を通しておいてください。後々楽なので』ですって」


 団長に訓練用の剣を切断され(敗北を喫し)た後。


「言う事を聞いてください。負けたんですから」という業腹な言葉と共に、私は団長から今回の「代表戦」の詳細を説明され、フリッドへの言伝を頼まれたのだ。


 ……ちなみにだが。


 私の「大会参加禁止(できん)」が解かれた理由は、教えてもらえなかった。

 というより、聞くのをすっかり忘れていた。

  

団長(あの人)、結構雑よね……まあ、いいけど。

『承知しました、謹んでお受けします。報酬は弾んでください』って伝えておいて」


「そんなの言わずとも、結構貰えると思いますのよ?

 団長の話だと、貴女は副将戦(最後から2番目)で出場予定みたいですし」


「ああ、そうなの? それならまあ――」と言ったところで、フリッドは言葉を中断する。

 

「どうしたんですの?」


「……ちなみに大将戦――最後(アタシの次)は誰?」


「……私ですの」


「アタシ、アンタの前座じゃないの!」


「うがあぁぁあ!」と少女は頭を抱え、不満を全身で表現する。


「まあ……仕方ないですわ。

 私の方が強いのは事実ですし」


 フリッドとの戦績は今の所、全戦全勝。

 それを考えれば、こうなるのも必然と言える。


「慰めるでも自慢するでもなく、淡々と傷口に塩を塗るな!」と、フリッドは見事なツッコミを入れると、自身に言い聞かせるかの様に続ける。


「まあ……まあ。

 報酬があるならいいわ……妥協する。

 例え、大将がアンタでもね!


 でもそうなると――あの噂(・・・)は本当なのかもね」


「噂?」


 フリッドは答えず、更に問いを重ねる。


「リッチェン、アンタの相手――聖教国の大将は誰か聞いた?」


「誰って……それはゾーガ様じゃありませんの?」


 昨年、代表戦で手合わせした騎士の中で、最も印象的だったのが聖騎士ゾーガ様だ。


 どうにか勝利は拾えたが、実力は伯仲。

 彼の騎士が聖騎士本来の戦い方――聖女との2人1組(ツーマンセル)だ――をできていれば、勝敗は逆だったかもしれない。


 ……それにこの1年で、あの聖騎士もまた腕を上げているはずですの。

 

 それを考えれば、やはり大将戦の相手はゾーガ様で決まりだろう。


 しかしフリッドは、呆れた様子で告げる。


「あのさあ……だとするとアンタの参戦許可が下りるのがおかしいでしょうが。


 そのゾーガ様までボコボコにした結果、アンタは出禁になったんでしょ?」


「別にゾーガ様をボコボコにした覚えはないのですが……」


 ……だがしかし――


 フリッドの言い分にも一理ある。

 ボコボコはともかく、ゾーガ様に勝利した結果、出場禁止となったのは事実だ。

 それを加味すると、ゾーガ様との大将戦に参戦許可が下りる可能性は低い。

 

「……それなら、どうして許可が下りてるんですの?

 一応団長は『上役から許可は貰った』って言ってましたが……」


 団長の言葉が正しければ、上役――おそらく公爵様か、それに準ずる貴族の方々の支持を貰えたから、私の参戦許可が下りた筈なのだが。

 

 ブルッ


 不意に悪寒が走る。


 ……胡散臭いですの。


 何か私のあずかり知らぬところで、陰謀が渦巻いている様な。

 悪だくみに巻き込まれている様な。


 そんな気がしてならない。


 フリッドは私の言葉に、したり顔で頷く。


「ふーん……なるほどねえ」


 何かに納得している様子だ。


 ……できれば私にも分かる様に、説明して欲しいのですが。


 こちらを置いてきぼりにして1人で頷いているあたり、その気は無さそうである。


「フリッド、何か思い当たる節がありますの?」


 尋ねてみると、彼女は勝ち誇るように胸を張り、ニヤリと笑う。


「ふふふ……教えて欲しいのなら、アタシに頭を下げな!

『フリッド様、無知な私にご教授ください』ってさ!」


 ……うーん、面倒臭い。


 日頃から面倒な友人ではあるのだが、その中でも格別の面倒臭さだ。


「とりあえず、もう用件はお伝えしたので良いですわね?

 それじゃあ、私はそろそろ食堂に――」


「待って! 冗談! 冗談だから!

 だから無視すんな!」


 去ろうとした私に、友人が縋りつく。


 ……これはこれで面倒臭いですの。


 酷いかまってちゃんである。


「重いんで、放してください。


 ……それで、何ですの? 端的に教えなさいな」


 仕方なく水を向けると、パアっと水色の騎士の表情が華やぐ。

 

 ……本当に口惜しいですの。


 常にその顔をしていれば、今頃モテモテだろうに。


 そんな私の心情も露知らず、フリッドは語り始める。


「これはあくまで、聖教国の友だちから聞いたんだけどさ……。


 新しく凄腕の騎士が入ったって話があるんだよね。

 だからアンタの参戦許可は、その騎士との戦いの為に下りたんじゃない?」


「新しい凄腕の騎士……ですの?」


 ……確かに。


 もしゾーガ様を押しのけ、大将戦に出場できる騎士がいたとすれば、かなりの強者の筈だ。

 しかし――


「本当ですの?

 

 昨年時点では、ゾーガ様が明らかに抜きん出ていた様に思いますわよ?

 そんな彼の代わりに出場できる実力者となると……スカウトでしょうか?


 けれどゾーガ様に劣らない騎士って、在野にいるとは思えないんですけど」


 ……他国から引き抜いたとかだろうか?


 聖教国生え抜きの聖騎士が、1年かけて成長した可能性も0ではない。

 しかしそれでも、ゾーガ様を凌駕するのは難しいだろう。


 私の疑問に、友人はしたり顔で首を縦に振る。


「うん、それはアンタの言う通り。

 ゾーガ様並みの騎士がその辺に落ちてるなら、アーバイツ(ウチ)だって欲しくてスカウトするだろうし。


 だからその騎士がいたのは、国外じゃなくて国内。

 要するに、聖教国内にいたらしいんだよね」


「じゃあ、新しく成長した騎士がいたと?」


 ……だとすれば、凄まじい成長速度だ。


 侮ることはできないだろう。

 しかし友人は、私の言葉を否定する。


「いや、そうじゃない」


「じゃあ、どこに?」


 ……まさか、降って湧いたとでもいうのだろうか?


 困惑している私に、少女はニヤリと笑う。


聖女(・・)だったらしいんだよね。


 つまりアンタと戦う相手は、聖女の力を持った騎士(・・・・・・・・・・)

聖女騎士(・・・・)』って呼ばれてる子が、大将戦に出て来るんじゃない?」


 心底嬉しそうに――揶揄う様に。

 顔の広い友人は、そう告げたのであった。

 ――リッチェンが出禁となったのは、本人に自覚はないかもしれませんが、実力が圧倒的だったからなのでした。

 そんなリッチェンの出禁が解除される様な相手――聖女騎士が、今回はやってくるようです。

 どんな人がやって来るのか、次回以降のお話をお楽しみに!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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