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1 話は訓練中突然に

 現在、番外編を更新中です。

 次回は4月16日(水)に投稿予定です。

 投稿時間はいつも通り午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「対抗戦――代表戦?」


 私――リッチェンは、問いと共に剣を振り下ろす。


 ガキンッ!


 騒がしい訓練場の中で、殊更に鋭い金属音が響く。

 私の渾身の斬撃は、一文字に構えた剣によって受け止められていた。


「はい。去年もありましたよね?」


 交錯する剣と剣の向こう側で、妙齢の女性が呟く。


 生糸のようにサラサラと揺れる金の短髪。

 こちらの一挙手一投足を逃さず捉える、真っ直ぐな瞳。

 肉体を覆う鎧は、鈍い輝きを帯びている。


「うーん……そんなのありましたっけ?

 代表戦?


 私、出場した記憶がありませんのよ? 団長(・・)


 ……隙がないですわね。


 仕方なく女性騎士――アオスビルドゥング公爵騎士団の団長であるルーマリーの剣を弾きつつ、背後に飛び退く。

 そんな私から目を離さず、団長は軽く首を傾げた。


「本当に覚えてないんですか? アレですよアレ。

 貴女が昨年、聖騎士ゾーガを下して優勝した大会ですよ」


「ああ! アレですのね!」


 昨年――私とルングが各々の学校に入学して間もなく。

「新入生歓迎」等と銘打って、腕試しの大会が開催されたのだ。


 参加条件は特になし。

 それによって参加者はアーバイツ王国内外から集まり、大盛況に終わった。


 騎士学校の友人であるフリッドや上級生たち、獣極国シュティアの獣騎士、聖教国ゲルディの聖騎士たちと死闘を繰り広げることになったのは、記憶に新しい。


 割かし険悪な関係だったフリッドと仲を深められたのは、この大会が切っ掛けだったりする。


「……ってあの大会、代表戦って名前なんですの?

 トーナメントだった気がするんですけど」


 私の記憶が正しければ、大会形式は勝ち上がりのトーナメント戦だったはずだ。


 1戦毎に報酬を得ることができ、勝ち上がれば上がる程に報酬もまた増える。

 各国のお偉いさんも見に来ており、実力を示せれば騎士団への推薦も貰える。


 そんな懐が寂しかったり、就職が不安な騎士候補の学生にとっては、ありがたい大会だった様に思う。


 ……ちなみにだが。


 守銭奴の幼馴染(ルング)は、大会に合わせて賭博場の経営及び胴元をしていた。


 騎士学校の学生ですらないのに、大会を利用して荒稼ぎしたと聞いている。


 ……あの少年のお金に対しての執念は、本当にどうかしていると思う。


「一応『国の』代表戦とか『国別の』対抗戦という意味合いがあるのですけどね。

 トーナメント形式といえども、その根本は変わらないはずですが……。


 ちなみに学生の皆さんは、どんな風に呼んでるんですか?」


「求職大会」


「身もふたもない呼び名を……」


 団長は呆れたような笑みを浮かべたかと思うと、


 トッ――


 軽やかな足音を響かせる。


 ……速い。


 一切の重力(おもさ)を感じさせない、静かな加速。


 ……しかし私は知っている。


 力感のない踏み込み。

 ゆったりとした――優雅さすら感じる剣戟。


 その威力を、私はよく知っている。


 ……横薙ぎですわね!


 来る剣戟に備え、歯を食いしばる。

 身構える。


 団長の剣の軌道と重なる様に、こちらも剣を振るう。

 すると――


 キンッ!


 澄んだ金属音と共に、信じ難い衝撃が私に襲い掛かってきた。


 ……本当に、人間なんですの⁉


 まだ魔物の打撃の方が、楽に受けられますの!


「くっ! 


 ……でも、開催できますの?

 魔物のせいで各国、大変だと聞き及んでいますが」


 魔物の数は、年々増え続けている。

 そうなると当然ながら、魔術師だけでなく騎士の仕事も増える。


 それは我が国(アーバイツ王国)のみならず、昨年その行事に参戦した聖教国(ゲルディ)獣極国(シュティア)の騎士たちもまた同様の筈だ。


 ちなみに私の幼馴染たちもまた「魔物討伐」の件で、王宮魔術師にして師匠のレーリン様によって、駆り出されている。


 ……獣極国へと向かったクー姉は、無事帰って来たが。


 クー姉と入れ替わりに聖教国へと向かったルングは、未だ帰る気配がない。

 音沙汰ない。

 影も形もない。


 ……何なんですの、あの幼馴染(バカ)


 奴の場合、魔術を使えばひとっ飛びだろうに。

 帰って来られないにしても、連絡くらいはできるだろうに。


 まあ、幼馴染(ルング)らしいといえばらしいのだが。


 団長は彼女の剣を受けた私を、楽しそうに見つめる。

 次の瞬間――


 ヒュッ!


 先程とは全く異なる速度で、剣が空を走る。


「獣極国はもう落ち着いていますし、聖教国もつい先日元凶と思わしき魔物が討伐されたそうですよ。

 おじょう――王宮魔術師レーリン様と、ルング君の手によって。


 だから両国共に参加できるかと思ったのですが――」


 迫る剣をどうにか処理し、団長を腕力に任せて弾き飛ばす。


「やりますね」と、騎士は愉快そうに目を細めると、再びこちらへと斬りかかってくる。


「残念ながら、獣極国は被害が大きかったらしく、不参加とのことです。

 なので今回は、聖教国との合同行事になりますね」


 無数に繰り出される剣戟を1つ1つ見極め、どうにか打ち落とす。


 ……なるほど、そうなんですのね。


 連絡はないものの、どうやらルングとレーリン様の師弟コンビは、ちゃんと働いていたらしい。


 ……というか――


 仕事が終わったのなら、早く帰って来なさいと言いたい。

 せめて1報ぐらい入れなさいと言いたい。


「……意外ですわね。


 聖騎士の方々ならともかく。

 獣騎士の方たちなら多少の怪我を押してでも、実力を誇示できる(こういう)行事には参加しそうですが」


 ルングへの不満は胸に秘めつつ、疑問を呈する。


 獣極国は良くも悪くも実力主義の国だ。

 競争意識が非常に高く、他国と競える機会があるのなら、積極的に参戦しそうな印象があったのだが。


「まあ、つまり多少の怪我じゃ済まなかったのでしょうね……まったくお嬢様(・・・)は」と、団長は遥か遠くを見つめつつ、剣戟を繰り出し続ける。


 ……お嬢様。


 アオスビルドゥング騎士団員がそう呼ぶ存在は、レーリン様(ひとり)しかいなかったはずだが。

 獣騎士たちの被害とやらには、どうやら彼女も一枚噛んでいるらしい。


 ……獣極国には、クー姉も同行していましたわね。


 一体何をやらかしたのだろう。


 ルングが見えない所でやらかすタイプなら、クー姉とレーリン様はド派手にやらかすタイプである。

 国際問題の1つや2つ起こしていても、おかしくない。


 ……あれ?


 そんなことを考えていたからだろうか。

 ふと昨年の求職――代表戦の事を思い出す。


「団長、少しよろしいです――の!」


「どうぞ」


 団長の剣を再度強く弾き、後方へ跳ぶことで距離を取る。


 ……決してルングやクー姉の様に、やらかした(・・・・・)という訳ではないのだが――


「私、昨年のトーナメント後『出禁(・・)』と言われたのですが……参加しても良いんですの?」


 腰を落とし、力を溜める。


 狙うは最速。

 駆けるは最短。

 過去の己を越える、最高を以て――


 団長の防御を、切り崩して見せる!


 ドンッ!


 団長(てき)の答えを待たず、私は走り出す。


 足元は破裂し、周囲の景色が加速する。


 ……次で狙いを定め、最後の踏み込みを剣戟へと繋げますの!


 そんな算段の私を見て、金髪の騎士は柔らかく――それでいて苛烈な笑みを浮かべる。

 洗練されていた気配は急激に膨れ上がり、絶大の気合として発散される。


 ……怖い――けれど。


 甘く見てもらっては困りますわ!


「はあぁぁぁぁぁ!」


 死すら連想させる団長の気迫を、吠えることで跳ね除ける。


「まるで猛獣ですね」


「どっちがですの!」


「ふふっ!」


 先程の質問への答えはない。


 私より遥か格上の騎士は、切先を垂らしつつ剣を脇に構え、待ち受ける。


「食らいなさいな!」


 そんな騎士に向けて、渾身の1撃を振り下ろす。

 

 対して――

 

「ふっ!」


 団長もまた、全力を以てそれを迎撃する。


 下段からの斬り上げ。

 軽やかな剣閃は空を切り裂き、私の剣へと向けられる。


 刹那の交差。

 2つの斬撃が接触した直後――


 パキッ――スパッ!


 乾いた音を立てて、私の剣(・・・)は綺麗に切断されたのであった。

 ――おそらく、これが一旦最後の番外編になるかと思われます。

 時系列としては、聖教国での事件が終わった直後くらいです。


 毎年騎士学校で開催される代表戦。

 その話を団長から切り出された騎士リッチェンが、主人公となります。

 何故リッチェンは、代表戦出禁となったのか。

 そしてリッチェンは、参戦できるのか。


 次回以降のお話もお楽しみに!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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