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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
15歳 それぞれの後日談
210/245

5 聖女の勧誘。

 火木土日の週4日更新予定です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「父さん、母さん。

 マナ先輩に、ビリビリされなかったか?」


「ルング……貴方、私を何だと思っているんですか?」


「雷神?」


「……女神様に並ぶのも、悪くありませんね。今後はそう名乗りましょうか」


 女神に仕えるのが聖女という事を考えると、彼女の言葉は不敬だと思うのだが、良いのだろうか。


「ルング……隅に置けないな!」


「ルンちゃん、お姉さんをからかうのはダメよ?」


 そんなやり取りを交わす俺たちを、父は誇らしげに、母は苦笑しながら見ている。 


「……まあ、冗談は置いておいて。


 結局マナ先輩は、何しに来たんですか?

 姉さんや俺でなく、両親に用だなんて」


 俺の問いを、その碧眼は真っ直ぐに受け止める。


教皇様(お父さん)に話したところ『クーグさんの聖女認定(・・・・・・・・・・)』の許可を貰えたので、まずはご両親の認可を頂きに参りました」


 ……そういえば、ウバダランでコソコソと話していたな。


 以前、聖教国でも「姉を聖女にする(その類の)」噂を聞いた事はあったが。

 まさか本気だったとは思わなかった。


「……聖女認定されたら、何か義務とか利益とかあるんですか?」


 俺の問いに、マナ先輩は両親の方へ1度視線を向け、再び俺に戻す。


「一応、ご両親には説明しましたが、では改めて。


 聖女の義務としては、主に聖教国ゲルディの守護と、私が今している(・・・・・)様な(・・)外交活動ですね。

 明確な利益としては、聖教国からの報酬。


 そして、これは私見ですが……。

 聖女という称号のおか(・・・・・・・・・・)げで(・・)諸活動がしやすい(・・・・・・・・)気がします。


 ただ――」


 淡々とした口調に、ほんの少し温かみが宿る。


教皇様(お父さん)としては、クーグさんへの感謝の気持ちを表したいという部分が大きい様に思います。


 イスズ様――元勇者様の為に、クーグさんは女神様の御力に匹敵する大規模魔術を使ってくれたのですから、それに報いたいのでしょう。


 なので今回の話は、『クーグさんに義務を課すつもりはない』という前提の元の話です。

 

 ……無論、聖教国のために働いてくれることがあれば、逐次報酬はお支払いしますが」


 ……なるほど。


 義務はなく、報酬は随時支払い。

 聖女の称号――名声は、使いたい放題という条件の様だ。


 ……悪くない。しかし――

 

「姉さんは、アーバイツの魔術師ですよ?

 聖教国の民ですらない者に、聖女の称号を与えて良いんですか?」


「そこは大丈夫です。

 そちらの国王陛下の許可は、教皇様(うちのおとうさん)が頂いたらしいので。

 快諾だったそうですよ?」


 ……となると、姉に不利益は無さそうだ。


 ただおそらく、狙いはそれだけではない。


 ……教皇パーシュ様は優秀だ。


 聖教国ゲルディは、決して規模の大きな国ではない。

 そんな聖教国が、国としての地位を維持できているのは、歴代の教皇が女神エンゲルディへの信仰を軸としつつ、時流に合わせて適切な治政を行ってきたからだ。


 特に今代の教皇パーシュ様には、能力(フェイ)――未来(ツーカ)看破(ベシュテン)』がある。

 世界魔力を目に纏うあの能力(フェイ)は、人の技能をある程度見抜くことができる。


 パーシュ様は姉の功績と、あの眼の力を以て、「姉を聖女に認定した方が、好都合だ」と結論を下したのだろう。


 ……慧眼と言わざるを得ない。


 姉は可能性の塊だ。

 現時点で王宮魔術師並の――或いはそれすら超えた成果を出している。

 

 将来的には、更なる成功を見込める逸材だ。


 ……現時点で姉さんを聖女認定しておけば。


 聖女(・・)がそれを成したという実績を、聖教国は得ることが出来る。


 ……そして同時に。


 アーバイツ王国にも利益はある。

 基本的に聖教国に所属しているはずの聖女が、アーバイツにもいるとなると、それだけで拍が付く。


 ……アーバイツの国王様と会ったことは、未だないが――


 食えない権力者たちである。

 

「……それで父さんと母さんは、許可したのか?」


 ……答えは想像できる(・・・・・・・・)が、一応両親に尋ねる。


 すると2人は、慣れ親しんだいつもの笑みを浮かべる。


「そんなの決まってんだろ? 『クーグルン次第』だ」


「そうねえ。クーちゃんに任せるわ。

 昔からクーちゃんも、ルンちゃんも、自分の事は自分で決めてきたもんねえ」


 ……やはりそう(・・)だろうな。


 両親は、昔からそうだ。

 時に忠告はするが、基本的に俺たちの選択を――意志を優先してくれる。


「そうか」と両親の返答に頷き、マナ先輩に尋ねる。


「ならマナ先輩は今から、姉さん本人の意思確認をしに行くってことですか?」


「はい、その通りです」


 そう話がまとまったから、3人とも領主用邸宅(マナーハウス)から出てきたわけだ。

 

 ……なら(・・)丁度良いか(・・・・・)


「ここからは、俺が先輩を案内しましょうか?」


 俺の言葉に、先輩は目を剥く。


「良いんですか?

 クーグさんが魔術学校に居るなら、少し時間がかかりそうですが……」


 ……良いも悪いもない。


 お世話になった、先輩の役に立てるのなら安いものだろう。

 加えて――


「姉さんなら、村内にいますよ?

 丁度俺が目指している場所に、姉さんの魔術の気配を感じますので」


「えっ?」


 大人びたマイーナ先輩のキョトンとした顔は――普段との落差もあって、大層可愛らしかった。


 

「――ハイリンとゾーガは今、仕事中ですよ。

 あの2人、魔物討伐シフトを別の子たちに任せての参加だったらしいので。


 今日は、連続出勤で不寝番の予定です」


「そういえばシフト制でしたね……。

 参加はありがたいですが、少し申し訳なかったかな……」


「良いんですよ。

 本人たちの意志でしたから。自己責任です」


「それなら良いですけど――あっ、ここがさっきの村長の家です。

 ちなみに村長の娘がリッチェンなんですよ」


「ああ、先程の村長さんは、リッチェンのお父さんでしたか。

 もっとちゃんと挨拶しておけばよかったですね。

 リッチェンを聖騎士に、ルングを聖女にスカウトする予定も今後ありますし」


「……リッチェンはともかく、俺のは嘘ですよね?」


 そんな冗談交じりの世間話をしつつ、マナ先輩と村道を歩く。



「ルングお前、偶には帰って来いよ!」


「村長にも言ったが、忙しくてあまり帰って来れなかったんだ」


「おい、ルング! その別嬪さんは誰だ?」


「こちらは、聖教国の聖女様だ。失礼があったら、処されるぞ?」


「ルング、遂に結婚かい? リッチェンが泣くよ?」


「いや、リッチェンは驚くと思うぞ?

『ルング貴方……人間に興味あったんですの⁉』ってな」



 騒がしい村の人たちに返答しながら、目的地へと向かう。


「……割と人気者ですね。

 てっきりルングは仕事一辺倒人間で、村の方々との交流は無いものだと」


「まあ……それは間違っていませんが、皆幼少期からの顔馴染みですから。

 後、俺の場合仕事一辺倒というよりは、趣味一辺倒の方が正しいかもしれませんね」


「その心は?」


「趣味の延長で、偶々金が貰えているというだけです」


 魔術といい、進めている諸々の事業といい。

 金を稼ぐという主目的はあるものの、ほぼ全て「面白そうだから」という理由で、進めてきた企画ばかりだ。


「それをいうなら、マナ先輩こそ仕事一辺倒人間でしょう?」


「私ですか?」


 口調だけは意外そうに、先輩は告げる。


「ええ。だって『聖女』じゃないですか。

『聖女』って仕事でしょう?」


 聖女は少し考えて答える。


「……私にとっての『聖女』の活動は、仕事という感じはありませんね」


「仕事じゃ……ない?」


「ええ」と聖女はゆっくり頷く。


「聖女の活動は、仕事というより生き様……ですね。

 幼少期から、そういう風に生きてきたので。

 

 勿論、後悔などありませんが」


 ……そう言い切る聖女の顔は。


 どことなく晴れ晴れとしていて、格好良かった。




「……あそこですか?」


 2人でのんびり歩いていると、領主用邸宅(マナーハウス)によく似た建物が見えてくる。


「そうです。

 あそこが目的地――アンファング村の教導園(・・・)です。

 姉さんは今……うん、中にいますね」


 告げると、すぐさま青の瞳が魔力で輝き始める。


「ああ……ようやくクーグさんの魔力が見えました。

 この村の魔力濃度だと、見るのも中々難しいですね」


 ……確かに。


 以前から世界魔力(マヴェル)の濃いアンファング村だが、子どもたちが魔術に目覚めて以降、その魔力濃度は上昇の一途を辿っている。


 その濃さはウバダランとまではいかずとも、魔術学校並みだ。

 コツを掴んでいなければ、個人の魔力を追うのは大変かもしれない。


 ゆっくりと近付き、教導園の門を潜る。

 中庭を通過しながら、建物に向けて歩いていると――


「あっ! ルングだ!」

「後ろの人、綺麗!」

「おい、ルング! 浮気はリー姉に怒られるぞ!」


 丁度授業が終わり、休憩時間となったのだろう。

 建物の中から、子どもたちが出て来る。


「おい、浮気ってなんだ。この身は清廉潔白だぞ」


「えーっ⁉ ルング、村にもあまり帰って来ないし、色々な所に現地妻がいるんだろ?」

「あれでしょう? 妻問婚(つまどいこん)って言うんでしょ?」


 ……ふむ。


「とりあえず、その不適切な言葉を教えたやつは誰だ? 何の授業で習った?

 村長に頼んで、クビにしてもらおう」


 子どもたちは「「「せーのっ」」」と、タイミングを合わせ、告げる。


「「「時々来る、レーリン先生の道徳!」」」


 ……姉弟(おれたち)がいなくとも。


 どうやら師匠は、偶にアンファング村に、来てくれていたらしい。

 意外に面倒見がいいところもあるようだ。


「……なるほどな、仕方あるまい。

 すぐクビにしてもらおう。あの人が道徳を教えるなんて論外だ」


 ……まあ、それはそれとして。


 師匠に道徳なんて教えられるわけがないので、即座に解雇(クビ)を提案する。

 すると出てきた子どもたちの背後から――1人の少女が顔を出し、告げる。


「クビにするなら、あれだね!

 もっと上手に教えられる先生が必要だね!」


 茶色の髪に、漆黒の瞳。

 瞳と同色のローブがバサリとはためき、その顔には両親によく似た満面の笑み。


 そして……鍛え抜かれた、美しくも見慣れた魔力。


 全属性の魔術師。

 容姿端麗、頭脳明晰。

 俺の姉こと、クーグルンその人が、参上したのであった。

 ――雷鳴聖女はスカウトの為にやって来たのでした。

 聖騎士と聖女の2人組は、現在労働中です。

 彼らとマイーナ先輩は、同じ孤児院で育った姉弟の様な関係にあたります。


 さて、何故姉のクーグルンは村の教導園にいたのか。

 おそらく次回か、その次あたりが本編最終回となりますので、どうぞよろしくお願いします。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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