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11 父が帰って来ない。

本日5話投稿予定の3話目です。

次回は19時以降に投稿予定です。

 村長とヴァイの話をして、早数時間。


「それにしても――」


 既に日が落ち始め、辺りは次第に暗くなってきている。


 放牧していた家畜たちも、既に屋内に入っている。


「とーさん、おそいな」


「そうだねえ。どうしたのかな?」


 姉の言葉からも、父を心配する気持ちが見て取れる。



 父のツーリンダーは、見切りをつけるのが上手い。


 狩りが上手くいかないと見ると、すぐに切り上げる。

 

 例えば前回の様に釣りへと切り替えたり、俺たちと一緒に放牧をしたり。

 

 少しでも家族のためになる選択肢を、自然と選べるのが父だ。



 ……だからこそ。


 こんな時間まで帰って来ないのは、落ち着かない。

 

 帰りが遅くなれば、家族が自身の事を心配するのを、父はちゃんと理解しているからだ。

 

 ……無事なのか?


 溢れそうな仄暗い感情を、どうにか抑えつける。

 

 今日父は、先日の狩りのリベンジをすると言って、猟師のイークトと一緒に出発した。


 であれば――


 ……大丈夫のはずだ。


 父は決して1人じゃない。

 なんなら猟師(本職)と一緒なのだ。


 前回よりもマシじゃないか。


 自身に言い聞かせるように、何度も繰り返す。


「二人とも? 外も寒いから、中で待たない?」


 母の声はいつも通り――


 ……いや、多分そうじゃない。


 母の方が父との付き合いは、ずっと長い。

 故に母の方が、この異常事態を不安に思っているはずだ。


 それでも声にそれを滲ませないのは――


 ……俺たちか。


 父――自身の夫――が帰ってこない不安を、俺たちに感じさせないようにしているのだろう。


「うーん……でも私、もう少し外で待ちたい!」


「……そうね。もう少し待ちましょうか」


「外! 外! 夜のお外!」


 姉がいつも以上に明るく振る舞っているのも、きっと母を元気づけるためだ。


「うん、まとう。とーさんとおにく」


「もう、ルンちゃんのくいしんぼさん!」


 だからこそ、俺も不安を見せるわけにはいかない。

 俺よりも精神的にずっと幼いはずの姉たちが、耐えているのだから。




 ザッザッザ


「お父さん⁉」


 母や姉としばらく外で待っていると、足音が暗闇に響く。

 

「はあはあ。悪いな、お前らの父親じゃねえ。

 その様子じゃあ、まだツーリンダー()帰ってないか」


 昼にも聞いた声。

 全力で走ってきてくれたのだろう。 

 息を大きく切らしている。


「村長?」


 村長のブーガだ。


「とーさんもってことは、りょうしイークトもまだなのか?」


「ああ。まだ帰ってない」


 共に狩りに出た2人が未だに帰らない。

 それも1人は猟師(プロ)


 姉の顔がみるみる曇っていく。


「おいおい、そんな顔するなよクーグルン。

 ツーリンダーも普段はアレだが、バカじゃない。

 それに、一緒にいるイークトが1番、狩りの怖さを知っているはずだからな。

 もうじき帰るだろ!」


 村長は俺たちを安心させるように告げると、


「とりあえず、寒いだろ? お前たちは家の中に居ろよ。な?

 ゾーレはちょっといいか?」


 母を連れて、家から離れていく。


「……ねーさん」


「オッケー」


 俺が目くばせをすると同時に、姉の中で輝きを増す白光(魔力)

 魔力は少女の全身を駆け巡り、胸の中心から身体全体へ拡がったかと思うと、


「ふううう」


 ぶわっ


 姉の全身から、風が吹き出す(・・・・・・)


 風の魔術(・・・・)


 姉によって生み出された風は、俺たちの間を吹き抜けて、大人たち(母と村長)の元へと向かう。


「――ゾーレ。お前は、二人と一緒に待ってろ」


「でも、私も行きたい!」


 風が大人たちの元へと届くと、二人の声が聞こえ始める。


 風の魔術による音の伝達。

 明け透けな言い方をすれば、盗聴だ。


「バカ。捜索隊はもう組んだと言ってるだろ!

 お前が行って何になる!」


「――っ! でも!」


「まだ、何が起きたのかも分からないんだ。

 事故で動けないなら、まだ良い。

 だが……もし。

 もし、魔物がいるなら、その捜索隊すら危ういんだ」


「わかるだろ」と、村長は続ける。


「だから、お前は子どもたちと待ってろ。二人を安心させてやれよ。

 せめて、魔物の仕業じゃないことがわかるまではな」


「うう……」


「大丈夫さ。ツーリンダー(あのバカ)はしぶとい。きっと無事さ。

 多少怪我しても、村医者のアーツトも待機してる」


 ぐすっと母の涙ぐむ声が、俺たちに届く。

 

 ……落ち着け。


 息を大きく吸い込む。

 まだ、父に何かあったわけじゃない。


 あらゆる可能性が考えられる。


 道に迷っているだけかもしれない。

 事故かもしれない。

 どこかで怪我を負って動けないかもしれない。


 ……魔物の仕業かもしれない。


 自身の鼓動が聞こえる。


 魔物。

 魔石を持ち、通常の動物を超える強靭さを誇る生物。


 そして――他の生物を襲う習性を持つ。 


 ……何かをしなければならないのに。動きたいのに。


 何をすべきなのか、分からないもどかしさ。


 ……飛び出していきたい。


 遮二無二探しに行きたいという母の気持ちが、よく分かる。

 居ても立っても居られない気持ち。

 父を探しに、直ぐに走り出したい想い。


 ……早く。


 早く父のいつもの顔が見たい。

 いつものヘラヘラと呑気な笑顔を見て、安心したい。


「……?」


 ふと肌に感じたのは、熱気だ。


 実際に熱いわけではない。


 だが、物理的な熱量を想起させる程に――


「ねーさん⁉」


 燃え上がる白い炎。


 姉の中で燃え上がる、魔力の熱さだ。


「ルンちゃん。私……お父さんを探すね!」

 ――父のツーリンダーは、ちゃらんぽらんに見えて意外とちゃんとやっています。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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