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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
15歳 それぞれの後日談
208/245

3 久しぶりの先輩。

 火木土日の週4日更新予定です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

 魔術学校の研究用庭園――農園にて、見慣れた背中を見つける。


ザンフ先輩(・・・・・)、最近だと珍しいですね」


 バチンッ!


「うおっ⁉」


 ビクッ!


 雷の弾ける音か、俺の声か。

 どちらに対しての反応かは分からないが、茶色のローブが尻もちをつく。


「先輩、大袈裟ですよ?

 リアクションを追求したいにしても、やり過ぎは良くないです」


「お前……そんな音立てて接近されたら、誰だって驚くに決まってるだろ⁉

 まさか、いつもそんな風に移動してるんじゃないだろうな⁉」


 そう答えながら立ち上がったのは、ザンフ・ランダウィル先輩だ。


 ランダヴィル伯爵家嫡男であり、何度も俺と魔道具の共同開発をしている、大位クラス4年(1つ上)の先輩である。


「……まさか、そんな訳ないじゃないですか。


 騒音は実験や研究の邪魔になるでしょうし。

 音関連の実験の誤差になりますから。


 今回は諸事情があって、『雷化』で逃げるしかなかったんです」


「お前が逃げるしかなかったって、どんな相手だ?」


「……魔術学校学長(トラーシュ先生)


「何をやらかしたら、トラーシュ先生から逃げる羽目になるんだよ!」


 ザンフ先輩のツッコミを無視して尋ねる。


「それで、今日はどうしたんですか?

 学校の農園(ここ)に来るなんて。

 今はランダヴィル領の農園で、獣人三姉妹(社員たち)と卒業研究中では?」


 先輩は今、大位クラス4年生。

 魔術学校を卒業する日は、目と鼻の先のはずだ。


 ……しかし、卒業または進学には――


 研究論文が必要になる。

 ウバダランに旅立つ前、先輩は俺との魔道具制作と論文作成に大忙しだったのだが。


「農業関連の研究は終わったし、魔道具関連はお前と共同研究した『連携機能』を論文にして提出済みだよ。

 今日はその精査の為に呼び出されたんだ」


「卒業できそうですか?」


「……ああ。おかげ様でな」


 感慨深そうに呟く先輩に告げる。


「何だ、卒業保留で同級生になれるかと思ったのに。残念です」


「おい! 先輩の卒業を残念がるな! 

 もっと盛大に祝え!」


 そう軽口を叩く先輩の目の下には、濃いくまが出来ていた。


 ……きっとザンフ先輩は――


 俺がウバダランに行っていた間も、実験や研究に明け暮れていたのだろう。

 試行錯誤を重ね、魔術研究に打ち込んでいたに違いない。


 ……気安く口を利いてしまっているが――


 魔道を共に歩む、尊敬に足る先輩なのだ。


「……本当に、お疲れ様です。

 ところでザンフ先輩は、修位クラスに上がらないんですか?」


 俺の問いに、先輩は首を振る。


「いや修位クラスは……俺には厳しいな。

 というか気を付けろよ?

 分かっているとは思うが、お前の姉ちゃん――クーグルン先輩を普通だと思っちゃダメだ。


 そもそも、修位クラスにあっさり上がれてるのがヤバい。

 その上、王宮魔術師になるのを保留できてること自体がもっとヤバい」


「えっ? そうなんですか?」


「ああ。

 そもそも王宮魔術師は、試験を受けなきゃなれない。

 だけどクーグルンさんは、試験を受けてない(・・・・・・・・)はずだ」


「そういえば……そんな話、聞いた事ないですね」


 ……まあ、あの姉さんなら。


 試験対策などせずとも、サラリと受かっていそうだが。


「だろう?」と、ザンフ先輩は大仰に頷く。


「ってことは多分、クーグルンさんは推薦(スカウト)だな。

 でないと保留権限がないはずだ。


 お前らの師匠レーリン様でも、成し得なかった『試験無しの幻の制度』だよ。


 王宮魔術師に足る実績と、王宮魔術師総任(シャイテル様)の許可、それに国王陛下のお眼鏡に適った者のみに授けられる特権だ。


 それだけクーグルンさんは、色んな人たちに評価されてるんだろうな」


 ……知らなかった。


 王宮魔術師になるのを、保留していたのは知っていたが。

 ザンフ先輩が感心する程凄いことだとは、まるで知らなかった。


 ……俺の知らない内に――


 姉はいつも通り(・・・・・)、常識外れなことをしでかしていたらしい。


 ……けれど。


 王宮魔術師を保留(やらか)した凄さは知らずとも、その理由は分かる気がする。


 ……姉さんはおそらく――


「俺を異世界に送る魔術」を開発する為に、その選択をしたのだろう。

 王宮魔術師になれば、さまざまな特権と引き換えに、重い義務も生じる。


 ……師匠を見ていると、判り辛いが。


 王の為、国民の為にその魔術(ちから)を振るう義務が生じるのだ。

 そうなると、年単位で個人研究の時間を取ることは難しくなる。


 ……研究環境と時間。


 その2つを比較し、後者を取ったのだろう。


 ……まったく、これだから姉さんは。


 勘違いだったが。

 思い違いだったが。


 (おれ)の幸せの為に、自身の時間を捧げてくれていた様だ。

 そんな少女の一途さが嬉しくもあり、申し訳なく思う。


 ……この恩を返せる時が、来るのだろうか?


 一生かかっても返せる気がしない。


「クーグルンさん、何でそんな妙な進路にしたのか、お前知らないか?」

 

「……さて。俺にも姉さんの考えは読み切れませんよ」


「お前に分からないなら、皆分かんねえよ」と先輩はニヒルに笑う。


「まあそういう訳で、俺は修位クラスには上がらずに領地に戻って農業を極める予定ってわけさ。


 ……そういえばお前、ウバダランからいつ帰ってきたんだ?」


「一昨日です」


 ザンフ先輩は眉をひそめる。


「活動報告書とか無かったのか?

 あるなら、昨日今日で終わる様な量じゃないと思うが」


「ああ……それは師匠に始末書と一緒に押し付けてきました」


「お前、豪快過ぎるだろ!」


 ……そうは言うが。


 いつもこちらが迷惑を被っているのだ。

 偶にはこちらが師匠(あの人)を、書類仕事でこき使ってもいいだろう。



「……じゃあ、そろそろ時間だから行くわ」


 しばしの談笑を楽しみ、そろそろ解散しようとしたところで――


「あっ」と先輩は声を上げる。


「どうかしました?」


「いや、本格的にラーザに魔術を習わせたくてな」


「良いですね」


 ラーザはザンフ先輩の所にいる、獣人三姉妹の三女だ。

 偶に魔術を教えていたのだが、どうやらその道を歩む気になったらしい。


「ただ……問題があってな」


「問題?」


 ……何だろう。


 魔力量が少ないとかだろうか?


魔術学校以外の場所(・・・・・・・・・)で、学んでみたいらしい」


「……どこでですか?」


 ……うーん。


 先輩の言葉に、顔が険しくなる。

 先輩もまた、俺の言わんとすること(・・・・・・・・・・)は理解している(・・・・・・・)様だ。


「ああ……もちろん分かってるよ。

『魔術研究したいなら、魔術学校(ここ)が良い』って言いたいんだろ?」


 ……その通りだ。


 全てが魔術に染まる都市。

 先行研究も豊富であり、1流の魔術師(導き手)も多く、実験環境も整った場所。


 それがアオスビルドゥング(教育)公爵領魔術特区であり、マギザライ魔術学校である。


「……そうです。

 俺はここを越える教育環境を、知りませんよ?

 聖教国の教導園でも、ここ程ではなかったと思います。


 それに――」


「……研究仲間だな」


 先輩の言葉に素直に頷く。


 ……同じ志を持つ者たちと、切磋琢磨できる。


 魔術を愛し、魔術を楽しみ、魔術を極めたいと望む者同士で競うこと。

 それは魔術のみならず、あらゆる方面で実力を伸ばすのに、必須の様に思える。


「……何かラーザにとって、魔術学校が嫌な理由でもあるんですか?

 姉たちから離れるのが嫌とか?」

 

 俺の言葉に、ザンフ先輩は気まずそうな顔をする。


「それが嫌ってわけじゃなくてだな……どうやら、お前の故郷(・・・・・)で学びたいらしいぞ?」


 ……俺の故郷?


「アンファング村ですか?

 良い所ではありますし、村の子たちが魔力に目覚めてますけど……」


 うちの両親や村長を筆頭に、お人好しばかりの村だ。

 加えて新魔術や魔道具を実験的に導入したことで、以前と比べて暮らしは快適になっているが――


「やっぱり比較にならないと思いますよ?」


 ……魔術教育を受ける場として、悪い場所ではない。


 しかしそれは、悪くないだけで最良とは思えない。


 ……魔術学校の方が、やはり遥かに学びの環境としては上だ。


「アンファング村が故郷のお前には悪いが、俺もそう思う。

 だけど、ラーザの目的は魔術の(・・・・・・・・・・)勉強だけじゃない(・・・・・・・・)と思うぞ?」


「じゃあ……何故?」


 じっ――


 ザンフ先輩は()を、真摯な瞳で見つめる。

 

「多分、お前の事を知りたい(・・・・・・・・・)んじゃないか?

 なにせ自分たちを助けてくれた、『憧れの魔術師(しゃちょう)』だからな。


 そんな人が、どんな所で生まれ育ったのか知りたいんだろ」


 先輩のその言葉に――何も言葉が出なかった。


 ……何と言えば良いのか。


 何を言えば良いのか分からなかったのだ。


 ……けれど、少しだけくすぐったくて。


 そこまで慕ってくれているのが、純粋に嬉しかった。 


「……まあ、俺は人気者ですからね。ラーザは見る目がありますよ」


 ザンフ先輩はその無愛想な顔に、温かい笑みを浮かべている。

 必死で俺が言葉を絞り出したことを、どうやら察しているらしい。


「……それなら、仕方ありませんね。

 ただ魔術学校には、行った方が良いと思います。

 なので、こういうのはどうでしょうか?」


「うん?」


 首を傾げる先輩に、ちょっとした提案をする。


「今から帰省ついでに、アンファング村の教導園を体験できないか、確認してきますよ。

 ラーザ本人が体験して合いそうなら、村で魔術を学ぶのを許可してみては?

 魔術学校に行きたくなったら、そこから進学って感じで」


 ……環境としては、随分劣ってしまうが。


 本人が望むのなら、仕方ない。

 魔術の先生もいることだし、試しにアンファング村で体験してみるのも良いだろう。


 俺の提案にザンフ先輩は――


「おう! よろしく頼むな!」


 滅多に見ない朗らかな笑顔を浮かべたのであった。

 ――逃げ出して辿り着いたのは、ザンフ先輩の元でした。

 意外にストレートに憧れられるのに弱い主人公。

 報告書諸々は、師匠に押し付けた模様です。

 こうしてルングは、久しぶりに故郷へ。

 もうすぐ完結するかと思いますが、それまでお付き合いいただければ幸いです!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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