10 作物量産の可否。
本日5話投稿予定の2話目です。
次回は13時以降に投稿予定です。
村長ブーガの来訪から1週間。
今日も今日とて、姉と放牧作業中だ。
父は「今度こそやってやるぜ!」と、猟師イークトと共に山へ狩りに、母は冬の備えの物々交換のために、村の中央広場へと行っている。
それなのに――
「お前たちは勤勉だなあ」
……なぜだ?
「村長、暇なの?」
家畜たちを見ていた姉が振り返るのは、ムキムキの男。
村長のブーガである。
佇む姿は相変わらず、熊のように大きい。
何故か再び、村長が俺たちの元を訪れていた。
「おいおい、クーグルン。俺は村長だぞ? 大忙しだ!」
……その割には、結構頻繁にここに来ている気がするが。
懐疑的な視線を、村長へと向ける。
「ここに来たのも、一応仕事なんだぞ? だから2人とも! ちょっとこっちに来い」
「「……」」
2人で顔を見合わせて、呼ばれるままに近寄る。
どうやら今回の仕事とやらには、俺たちも関係しているらしい。
……何の話なのだろうか。
厄介なことじゃなければいいのだが。
俺たち二人が村長の元に集まると、おもむろに村長は話し出す。
「……お前たちが育てたヴァイだがよ。アレって、量産可能なのか?」
「量産?」
「たくさんつくれるかってことだよ」
姉の疑問に答えながら、その言葉の意味を考える。
魔力を回復できる作物の量産。
……それが意味するのは、一体何だ。
村長を見る。
彼の胸元にも、両親と同じく白光は確かに存在している。
だがその輝きは、姉や俺とは明らかに異なる輝きだ。
すなわち――
……俺たちの様に、村長が魔術を使えるとは思えない。
「そんちょー、まじゅつ、つかえたっけ?」
「あん? 俺は魔術師じゃないから使えないぞ?」
……尚更分からなくなる。
姉のヴァイの量産。
どうしてそれを、魔術の使えない者が望むのか。
「いやいや、そんな目をされても俺も知らねえよ。
お前らのヴァイの事を領主様に報告したら、そう言われたってだけだ」
そんな俺の考えを読み取ったのか、村長は慌てた様に白状する。
……領主様。
村長の上役。
この辺りの村々を収める貴族だ。
会ったこともないので、未だにどんな人なのか、よくわかっていないのだが――
「うーん、ヴァイを沢山作れるかは、まだわからないかも?」
量産可能かの問いに、姉は玉虫色の返答をする。
「なんか微妙な言い方だな」
「しかたないんだ。そんちょー」
姉の返答の説明を、俺が引き継ぐ。
「ねーさんのヴァイは、ことしはじめてそだてたヴァイだからな。
いくら、ねーさんがてんさいとはいえ、らいねんもつくれるかは、まだわからないだろう?」
魔力を宿したヴァイ。
食べた者の魔力を回復させる効能。
魔術を使える者からすれば、夢のような効果だ。
その上芳醇な香りに、濃厚な味わいとくれば、量産したい気持ちも理解できる。
……領主が欲しがったというのは、やはり気にかかる話だが。
畑を見る。
正確には、姉がヴァイを育てていた箇所を見る。
……でも、そんな夢みたいな効能だからこそ、まだ勘定に入れるべきではないとも思う。
姉のヴァイがあった場所には、未だに魔力の輝きが残っている。
……だがあの輝きが、次回も同様に宿るとは限らない。
今回限定で、魔力を宿すヴァイが育成できた可能性だって、往々にしてある。
姉の水の魔術以外にも、土壌や天候といった条件が偶々合致したことで生まれた、奇跡の産物である可能性は否めないのだ。
だからこそ姉の回答は、あやふやなものになってしまったのだろう。
「さすがルンちゃん! 私のことよくわかってる!」
姉はぎゅっと背後から抱き付いてくる。
嬉しいが、この小さい身体で支えるのは一苦労だからやめて欲しい。
「なるほどなあ。お前ら2人とも、色々と考えてるんだなあ」
感心する村長に対して、姉は続ける。
「だから次の収穫……なんならその次くらいまでは、わからないかな!
それに、今回取れたヴァイの種も植えてみたいし!
収穫量がちゃんとするのは、もっと後かも?」
「……お前ら、本当に6歳と3歳か⁉
もうツーリンダーより、ヴァイの専門家っぽいぞ⁉」
正確にはヴァイを手ずから育てていたのは姉なので、専門家とその補助のような関係性かもしれない。
そして個人的には、父は父で別方向で専門家だとも思う。
父のツーリンダーは、感覚派だ。
自身のやりたいことや、思い立ったことは確実にやるタイプ。
「なんとなく、こんな感じ」
その感覚を方針として、物事をこなす故に失敗することも、ままある。
しかし――
……ヴァイに関しては、間違えないんだよなあ。
そんな父だが、毎年ヴァイの生産量だけは、確実に維持している。
ヴァイも植物――生き物であるが故に、年ごとに収穫量は異なるはずなのだ。
その年ごとの気候や、起きた災害によって、収穫量の上下が起きるのが普通。
しかし父の農地においては、その差が非常に少ないように見える。
農家としての経験と、鋭い感覚。
それによって、父は農家として立派に生き延びているのだ。
「うん! 私とルンちゃんすごいでしょ!」
姉は「ふふん」と誇らしげに笑う。
父の捕捉で、姉のこの笑顔にわざわざ水を差す必要もないので、黙っておく。
「だとすると、早くても来年――安定するのまで考えたら、後2年は欲しいか……」
村長は少しだけ考え込むと、
「まあ、領主様には俺が良い感じに伝えておくから、好きにやってみろよ。
お前らが今後どんな事をするのか、今から楽しみにしとくからな」
俺たちにお人好しの笑顔を向けたのだった。
――色々と試してみたいお年頃の姉弟です。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!