表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
15歳 どうして異世界に来ることになったのか。
196/245

32 最後の助っ人。

 火木土日の週4日更新予定です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

 ……今のは――


 男に、加速を重ねた水の魔術が届く寸前。

 驚異的な速度を持った水が、俺の魔術を撃ち落とした(・・・・・・)ように見えた。

 その威力は凄まじく、狙撃の勢いと重力のままに、水は忌々しい男の直ぐ足元に穴を開ける。


 ズサッ――


 その場に男の座り込む音が、耳に入る。

 しかし今は、そちらに視線をやる余裕など無い。


 ……困ったことになった。


 空の世界魔力(マヴェル)の濃さは、気になっていたものの。

 まさか、あんな敵(・・・・)が――魔物がいるとは思っていなかった。


 ……今のは魔術だ(・・・・・・)


 水と風の混合魔術。

 魔術師のそれとは違い、魔法円は無かったが。

 しかし今のは確かに、魔力の変換によって生じた現象――魔術である。


 ……どちらかというと、姉さんや俺の扱う無詠唱魔術に近い魔術かもしれない。


 以前、聞いた事があった。

 魔物の中には、魔術を使えるものもいると。


 ……あの空を陣取る魔力塊の中にいる魔物は、間違いなくそれ(・・)だ。


 魔術の出所である空の魔力塊が、収束していく。

 元々密集していた世界魔力は更に密度を増し、質量を持ったその真の姿が顕わになる。


 ……一見すると、巨大な蛇だ。


 大海(そら)を泳ぐ大蛇。

 その全身は、真っ青な鱗によって覆われている。


 ……しかし、通常の蛇と異なる点がいくつかあった。


 まずはその巨躯だ。

 俺の発動した炎の蛇とは、比較にならない体躯を誇っている。


 ……距離のせいで断言はできないが。


 ともすればその大きさは、聖教国で対峙した黒の巨亀に匹敵するかもしれない。

 そして体躯と比すれば小さい手足が2本ずつ生え、その手足に付いた指先には鋭い爪が、3爪ずつ付いている。


 蛇の頭部からは2本の長い角が突き出し、紐の様に長く太い髭と、神々しい(たてがみ)が、空をたゆたって(・・・・・)いた。


 ……()だ。


 あの魔物は――龍。

 翼の大きな西洋竜――いわゆるドラゴンとは異なる、蛇の様な身体の東洋の龍。

 神にも似た権能を持ち、天候を支配するとされる、神話上の存在。


 魔物の姿形は、その龍と酷似していた。 



 ……我ながら妙な話だが――


 緊迫感に満ちた状況であるにも関わらず、空の魔物に対して興味が湧く。

 創作作品や物語の挿絵でしか見たことのない異形。

 天空を制し、神威を帯びた畏敬すら抱かせる怪物。


 この状況でなければ、一目散にあの魔物の元に飛び出していったかもしれない。


 ……だが今は――


 あの(りゅう)が、厄介極まりない。


 ブオン!


 突如、右側から振るわれた爪を、屈むことで躱す。


 ……残念ながら、空の龍からの攻撃ではなく。


 地上の魔物からの攻撃だ。


「ふふふ……どうだ、驚いたか?

 アレが僕の最大戦力!

 王都の全ての素材を用いて『召喚』した、最強の魔物だ!」


 龍の攻撃に驚き、座り込んでしまった分際で、男は勝ち誇る様な声を上げる。


 ……本当に耳障りな声だ。


 可能ならさっさと排してしまいたいが、あの龍に睨まれている今、迂闊な動きは避けたい。


 ……先程、あの龍の放った魔術は強力だ。


 1対1ならまだしも。

 男と魔物(邪魔者)がいる状況で、龍のみに集中することは出来ない。

 かといって雑魚の排除に力を注ぎ過ぎれば、あの竜の1撃でやられる可能性もある。


 ……控え目に言って、苦しい状況だ。


 攻撃してきた魔物を蹴り飛ばし、魔術で追い打ちをかけようとしたところで――


「っ⁉」


 上空の魔力の高まりを感じ、飛び退く。


 ジュッ――ズドン!


 次の瞬間、摩擦熱で蒸発する水の匂いが、鼻につく。

 今まで俺の居た場所が、龍の魔術によって撃ち抜かれたのだ。

 

 ……手が足りないか。


 男と魔物を滅ぼすには、あの龍が邪魔であり。

 龍を滅ぼすには、男と魔物が邪魔だ。


 魔物の攻撃を捌き、反撃しようとするタイミングに合わせて、龍の魔術は飛んでくる。

 龍の魔術でこちらの動きが阻害されると、それに乗じて魔物たちは攻めたてる。


 ……嫌なコンビネーションだ。


 空か地上。

 少しの時間でいいから、どちらかを抑えられる人手が欲しい。


 ……誰かが追い付くことに賭けるか?


 そんな甘えた思考を、首を軽く振ることで追い出す。


 ……俺を送り出してくれた友人たちにも、余裕があったわけではない。


 個々の魔物に負けることはないだろうが、その数は想像を絶する。

 加勢を期待して均衡を長引かせることで、消耗した誰かが取り返しのつかない状況に陥る可能性も、考えられるのだ。


 ……というかそもそも――


 ジュッ


 龍の魔術が腕を掠める。


 ……均衡状態を保つのすら難しい。



 カシャッ(・・・・)


 手を探りつつ龍と魔物に対応していると、ローブのポケットに入れていた魔道具から、勝手に(・・・)音が鳴る。

 画像撮影用魔道具(マジカルカメラ)

 その自動撮影機能(・・・・・・)が、働いたのだ。


 撮影された画像が世界魔力を通じて、連携した姉の魔道具へと送信される。


 ……助っ人の心当たりはもうない。


 腕利きの人物は何人も思いつくが、その実力故に相応の仕事や任務に就いているはずだ。

 したがって、この場に対応できる程の人材は望めない。

 そのはずだった。


 しかし――


 ぼう


 何故か『転移魔術』の魔法円が、咲き誇る。

 すると即座に――


「『炎の嵐は空を焼く(ブシュトール)』!」


 透き通った声が響き、天に――龍に照準を合わせた(・・・・・・・・・)巨大な魔法円が展開される。


 完全統御された魔力。

 美しい構築術式。

 それらを囲うのは、整った真円だ。


 ……籠められた魔力量が膨大だからか、魔法円自体が既に燃えるように熱い。


 そう感じた直後――


 轟っ!


 魔法円から炎が吹きあがる。

 太陽の様に眩く輝く炎は大地を舐め、膨れ上がったかと思うと――龍の鎮座する天空に放たれる。


 ドオォォォォン!


 逆巻く炎は天を駆け、空を飛ぶ魔物を呑み込みながら、龍へと襲い掛かった。


 ガアァァァァァァッ!


 しかし、敵もさるもの。

 迫る火勢に対して雄叫びを上げる。


 それと同時に――


 炎の魔法円に勝るとも劣らない量の魔力が、鋭い牙の生えた口に集まっていく。


 直後に放たれたのは、龍の咆哮だ。

 水と風の混合魔術。

 暴風雨の息吹(ブレス)といったところだろうか。


 放たれた火炎と息吹は凄まじい速度と共に、空中で衝突する。


 ボオォォォォォン!


 衝突箇所を中心として、天空に大爆発が生じる。

 雲を押しのける程の衝撃が走り、1()()1()()の魔術が世界を揺さぶった。



「……師匠(・・)、仕事は?」


「他の王宮魔術師に任せて、来ちゃいました!

 私がいなくても問題なさそうな、つまらない現場だったので!


 それにしても、中々やりますねえ。

 それにクーグ(・・・)の『転移魔術』って、魔術も転移できるんですね」


 ……大爆発を見届けて、『転移』の魔法円に話しかけると――


 先程の炎とは対照的な、呑気な声色が響く。


 現れたのは、黒のローブを羽織った女性である。

 陽光に輝く桜色の髪に、強い意志に煌めく同色の瞳。

 普段は洗練され、制御されている魔力だが、今は臨戦態勢を取るためか、完全に開放されている。


「……その『魔術転移可能ネタ』は、既にやってた人がいますよ?」


「ええっ⁉ そうなんですか⁉ 

 早く言ってくださいよ!」


 レーリン・フォン・アオスビルドゥング。


 火と風の2属性魔術師にして、全王宮魔術師中最凶の問題児。

 アオスビルドゥング公爵家の長女にして、アンスの姉。

 そして――


 ……姉と俺の魔術の師匠である。


「口を挟む暇はなかったじゃないですか」


 俺の不満の声に「それもそうですね」と師はあっさり告げて、ニヤリと言葉を続ける。


「さて……アレは私が貰っても良いですよね?」


 アンスによく似た、整った顔を彩るのは獰猛な笑顔だ。

 肉食獣や猛禽類を思わせる、桜色の捕食者の笑み。

 その視線の向く先は勿論、魔術を交わした龍である。


 ……色々聞きたい事はあるが――


 話が早い。

 少し早過ぎるくらいだ。


「はあ……駄目って言っても、聞く気ないでしょう?」


「勿論。弟子は師匠の命令に従う義務がありますので。

 反対に聞きますが、私があの(変なの)を相手にしても良いんですか?」


 チラリと桜色の視線が、男に向けられる。


「……お断りします。

 アイツだけは、俺が滅ぼさなければいけないので」


 師は目を俺に――正確には俺の胸元(たましい)に向け、「でしょうね(・・・・・)」と微笑む。


 ……間違いない。


 師匠(この人)は、俺の内に宿るウバダランの魔力の叫びを、今のやり取りで見抜いたのだ。

 相も変わらず、魔術に関する技量だけ(・・)は凄まじい人である。


「では、私は行ってきますので。

 師匠の雄姿をしっかり見てるんですよ?」


 師は辛抱たまらなくなったのか、言うや否や風の魔術で飛び上がる。

 その背中はまるで、好物を見つけた子どもの様だ。


「……いや、そんな見てる暇ありますかね?」


 みるみる離れていく背中は、こちらを振り返る気配もなく。

 一目散に、龍へと突撃していく。



 ……まあ、良いか。


 一連のやり取りを終えて、気を取り直す。

 師が龍を抑えてくれるのなら、上空の様子を過度に窺う必要はないだろう。


 視線を師の背中から、驚きのあまり座り込んだままの男に向ける。

 魔術の衝撃によるものなのか、座った勢いによるものなのか。

 美しかった王冠は脱げ、地面に転がっていた。


 ……都合が良い。


 師の介入によって、状況は一変した。

 足りなかったはずの手は、過剰なまでに補われた。


 これで俺は、この男と魔物たちにぶつけることが出来る。

 全力を尽くすことが出来る。

 全身全霊を以て、対することが出来る。


 ……状況は全て整ったのだ。

 ――現れたのは龍、それに最凶の王宮魔術師。

 空では怪獣大決戦が、これから行われる模様です。

 さて、地上の主人公たちも佳境に差し掛かりました。

 彼らの結末は如何に!

 次回以降も、お楽しみに!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
戦力の逐次投入とゆ〜愚策をなぜ採用ったのか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ