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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
15歳 どうして異世界に来ることになったのか。
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29 僕の『召喚』スキル

 火木土日の週4日更新予定です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

 ……僕の部屋に出現した、謎の黒い横笛。


 両手で抱えたそれに視線を向ける。

 

 数日程調べてみた結果、この横笛らしきものは、この世界には存在しな(・・・・・・・・・・)い楽器(・・・)であることが判明した。


 ……だが、しかし――


「何か特別な力がある」という訳ではない。


 僕の身体能力が急に上がったり、魔術が扱えるようになったりなどという事は、残念ながらなく、機能としては普通の――何の変哲もない楽器に過ぎなかった。


 不思議なことといえば、妙に手に馴染むこと。 

 そして、初めて見た楽器であるにも関わらず、何故か吹くことが可能だという事だろうか。


 ヒュー


 神秘的な高い音が、室内に響く。


 ……期待していた即戦力になる力はこの笛には、なかったが。


 しかし僕には、予感があった(・・・・・・)


 ……いや。


 それは最早、予感ではなく確信といっても良い。


「この笛の出現には、特別な意味があるのだ」という確信が、僕にはあった。

 それも当然だ。

 

 ……何故なら僕は、特別な存在だから。

 

 特別な存在には、特別な力があるもの。


 英雄に桁違いな力が宿っている様に。

 賢者が並外れた知識を有している様に。


 僕が特別な力を秘めていることを、僕は昔から信じていたし、知っていた。


 だからこそ――


 この笛を出現させた力。

 あの力こそが、僕の真の力なのだと確信していた。


 ……問題は――


 力の発動条件を、知らないことだ。


 だから僕は、その条件を見つけなければならない。

 考えなければならない。

 探し出さなければならない。


 ……僕の野望の為に。


 自身の力に思いを馳せながら――深い夜は更けていく。




「殿下! そんなことでは、陛下の後を継げませんよ?」


 僕の力について考えていると、口うるさい家庭教師(おとこ)が、今日も僕に小言を告げる。


 ……この家庭教師は、僕の不興を買っていることに気付いているのだろうか。


 確かに知識はあるのかもしれない。

 研究や学問においては、一角の人物なのかもしれない。


 ……だがその授業に、何の意味があるというのだ?


 所詮はお勉強しかできない、頭でっかちにすぎないではないか!

 僕の願い――「均人至上主義を世界に示す」という野望への道筋を、提示することもできないくせに、何が教師だ!

 

「陛下の後を継げません」だと?

 王族でもないこいつが、王族の何を知っているというのか。

 

 男から僕に向けられた言葉を、すべて受け流す。


 ……こんな男に割く時間があるのなら――


 僕の力について考えていた方が、遥かに有意義だろう。 

 強制的に設けられた無駄な時間(じゅぎょう)の中で、僕は必死に思考を巡らせる。


 ……笛の調査は終わった。


 であれば次は、笛の出現(あの現象)が起きた状況について考えなければならない。


 誕生日の夜の自室。

 積み重なった貢物。

 憤りと怒り。


 ……確かあの時――


 僕は渡された貢物を、「いらない」と考えていたはずだ。


 ウバダランの王を継ぐ予定の僕。

 その気持ちを察することもできない、無能な臣下共がのこのこと持って来た貢物に、腹を立てていたはずだ。


 ……その燃え上がる憤怒のままに――


 貢物(いらないもの)を睨みつけ、自身の欲するものについて考えようとした時、貢物が輝き始めたのだ。 


 ……「いらない――不要だ」と考えることが、発動条件か?


 或いはあの時の様な、心の底から湧き上がる怒りの感情か?

 それとも他の何かか?


 疑問の渦の中で、試しに握っているペンを「いらないもの」だと考えてみる。

 しかし残念ながら、変化はない。


 ……では、次だ。


 あの時程の怒りはないが、家庭教師に抱いている憤りを込めて、強くペンを握ってみる。


 ミシッ


 多少音を立てるだけで、やはりそれも変化はなかった。


 ……それなら――


 今度は「不要な存在」ではなく、「自身の欲する存在――望むモノ」について考えてみる。


 握っているペンの代わりに――メモを取るための紙が欲しいと、試しに考えてみる。


 すると――


「っ⁉」


 心の中で歓声を上げる。

「紙が必要だ」という僕の願い。

 その願いに応えるように、ペンが輝き始めたのだ。



 ……さて――


 この現象が、家庭教師(無能な男)の目にどう映るのだろうか。

 いつも賢しらなこの男が慌てふためく姿を、僕は期待していた。


 しかし――


「殿下! 私の話を、お聞きになっているのですか⁉」


 男の態度や語り口に、変化はない。


 ……どうやらこの輝きは、男には見えていない様だ。


 或いはひょっとすると、僕に――力の持ち主にしか見えないのかもしれない。


 ……じゃあ、後は――


 輝くペン(これ)が、どうなるかだ。


 ……僕の望み通り、紙に変化するのか。


 或いは別の何か――想像もつかないものに変わるのか。


 輝きは、あの夜の貢物より遥かに小さい。

 精々がロウソクの灯火程度の輝きだ。


 しかしそのペンは、貢物の時と同様に――突如として消える。


「っ⁉」


 握っていたものが、不意に消え去る感覚。

 ペンに添えてあった指が、虚空を摘まむ。


 そして次の瞬間――


 想像より1回り程小さい紙が、僕の手元に出現したのであった。




 ……やはり僕は――特別な存在なのだ。


 出現した紙を眺める。


 笛と同様に、普通の紙だ。

 何の変哲もない紙である。

 ひょっとすると笛の様に、この世界には無いものだったりするのかもしれないが、そこは判別できない。


 ……しかし――


 この紙を出現させたのは――召喚した(・・・・)のは、間違いなく僕の力だ。


 ……そう考えた時。


 ようやく僕は(・・・・・・)この力の正体を掴み取(・・・・・・・・・・)()


 ……どうして、気が付かなかったのだろう。


 僕にしては珍しく察しが悪い。

 ここ数日間、笛についての調査に集中していたことで、僕の頭も鈍っていたのかもしれない。 


 ……この力の正体を、僕は以前から知っていた(・・・・・・・・・)のだ。


 世界をその手に収めんとし、あと1歩のところでアンビスとかいう(・・・・・・・・)痴れ者に阻止された(・・・・・・・・・)、偉大なる王――ウバダラン王国(・・・・・・・)初代国王(・・・・)が持っていたとされる、能力(スキル)


 ……『召喚(ハール)』である。


 その気付きを得た日から、僕の試行錯誤の日々は更に加速したのであった。




 ……数ヶ月の時を経て――


 僕は王城内を歩き回りながら、『召喚』について判明した事実を整理する。


『召喚』するには、僕の所持品が必要であ(・・・・・・・・・・)()事。

 僕の所持品(モノ)を素材に、新たな僕のモノを生み出せる事。

 その『召喚』した存在を、僕はある程度制御できる事。


 そして――


『召喚』に用いるモノ――素材が生物であれば(・・・・・・・・・)生物を(・・・)

 無生物であれば(・・・・・・・)無生物を(・・・・ )召喚(・・)できる事(・・・・)


 どうやら初代国王は、この『召喚』の能力(スキル)を用いて魔物を『召喚』し、制御していたらしい。


 ……この特性を僕が活用することが出来れば――


 他国を鎮圧できる戦力――魔物を、手に入れることが出来る。


 ……遂に僕は、見つけたのだ!


 野望の為の力を。

 王道を歩むに足る力を。


 ようやく得られたのだ!


 ……これで僕は、自身の望みを叶えることが出来る。


 そう喜んでいたのだが――


 野望が大きい分、その困難もまた大きいものらしい。

『召喚』については、ある程度理解が進んできたものの、「魔物の『召喚』」については、なんら光明が見えなかった。


 だが――


 ……魔物は生物だ。


 つまりその『召喚』には、生物が必要になるはずだ。

 その推測を元に、この数ヶ月間、植物や昆虫から大型の(・・・・・・・・・・)動物まで(・・・・)、何十何百種類と『召喚』の素材にしてきたのだが――


「残る生物は1()種類(・・)……」


 新たな生物の『召喚』はできても、普通の生物ばかり。

 父や臣下共から聞いた事のある、魔物と思しき存在は『召喚』できず、どれも戦力になりそうになかった。


 ……だが――


 それも今日までだ(・・・・・・・・)

 足が付かない様――特に父にはバレない様、『召喚』についての調査は最大限の注意を払っていた。


 しかし「魔物の『召喚』」は、僕の計画の要といっても過言ではない。


 それを叶える為なら、多少の危険(・・・・・)も、覚悟しなければならないだろう。


 ……それに。


 この最後の種類の生物が(・・・・・・・・・)、言うなれば本命(・・)だ。

 これを素材に僕は、魔物という究極の戦力を手に入れることができるはずだ。



 ちなみに標的はその生物の中で(・・・・・・・・・・)()特に生意気な生物だ(・・・・・・・・・)

 僕の時間を無駄に食いつぶし、自身の知識を賢しらに吐き出す、愚かな生物である。


 ……この個体を素材として――


 僕は『召喚(ちから)』を使用するつもりだ。


 今日は、その生物が王城を訪れ(・・・・・・・・・・)る日(・・)

 僕の家庭教師の日(・・・・・・)だ。


 ……こうして僕は――


 愉快な足取りで、家庭教師の待つ部屋へと歩を進めた。




 ……そしてこの日――


 僕は『召喚』によって、戦力を――魔物を召喚することに(・・・・・・・・・・)成功したのであった(・・・・・・・・・)

 ――その男は自覚なく修羅の道を歩き始める。

 男の行動が、どのような結果に結びつくのでしょうか。

 この男の行き先を、批判的な目で見ていただければ幸いです。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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