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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
15歳 どうして異世界に来ることになったのか。
190/245

26 天啓の根源は。

 火木土日の週4日更新予定です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

 聖女ハイリン様と聖騎士ゾーガ様の戦闘は、2人のいつものやり取りが嘘の様に効率的だ。


「ゾーガ! 合体よ!」


「おい、その言葉選びは止めろ」


 聖騎士に片手で抱えられた聖女。

 空いたもう一方の手には、十字を模ったかのように真っ直ぐな剣が握られている。


「『主よ、信ず(ベー)る者に施しを(リッヒ)』!」


 聖女の詠唱によって極小の魔法円が、聖騎士の片腕に宿り、


 スパッ――


 その腕による1振りが、魔物の首を断つ。

 それと同時に、魔法円が消失する。


 瞬間的な強化魔術と、それを利用した斬撃。


 極めて端的な魔術と剣技に、積み重ねてきた全てが集約されている。


 敵の攻撃の見極め。

 強化魔術のタイミング。

 斬撃の角度及び速度。

 体勢の良し悪し。


 諸々の条件が1つでも満たされなければ、成立しないであろう攻撃を、あの2人は持ち前のコンビネーションで形にしている。


 互いへの絶対的信頼。

 踏み外せば破滅を招きかねない道を、彼らは決して違えない。


 ……これ程通じ合っているのに――


 どうしてお付き合いすらしていないのだろう?

 不思議だ。

 ハイリン様は好意を明け透けに見せている様なので、ゾーガ様が奥手なのかもしれない。


 ……アンスもザンフ先輩もそうだが――


 俺の周囲の男共は、ヘタレが多い様だ。


 死線の中で斬り結ぶヘタレ聖騎士と聖女の活躍を眺めていると、2人の背後に魔物が迫る。

 それに対して――


 ドオォォォォォォォン!


 1本の雷撃が貫く。


 雷鳴聖女ことマナ先輩の駆使する特殊属性魔術――『雷属性魔術』だ。


 彼女の『雷属性魔術』もまた、聖騎士と聖女のコンビネーションと同様、難しい魔術である。

 普通の人間では捉えられない雷速に、一瞬とはいえ炎を優に超える熱量。

 魔物たちの歩みすら止める雷撃は、人間からすればひとたまりもない。


 ……しかし、マナ先輩は――


「イスズ様、右から敵が3体。

 5秒動きを止めるので、その間に滅ぼしてください」


「わ、分かりました!」


「ハイリン、退却」


「っ⁉ ゾーガ! お姉ちゃんのとこまで下がるよ!」


「了解!」


 絶対的な制御能力と、味方への指示によって、生じる成果を最大限にまで高めている。

 バチバチと走る度に、雷は魔物を屍へと変えていく。  


「さて……ルング。伺いたいんですが」


 聖騎士を色々な意味(・・・・・)で追い込んだその青の瞳が、俺に向けられる。


「何でしょう?

 さすがに俺はマナ先輩を『お姉ちゃん』とは、呼びませんよ?

 俺の姉はただ1人なので」


 パチリと少女は大きく瞬きする。


「……魅力的な話ですが、貴方に『お姉ちゃん』と呼ばれたとなると、クーグさんに何をされるか分かりませんので、遠慮します」


 少女は冗談を冗談で返し、即座に続ける。


「私たちは、貴方を(・・・)中心部に届ければ良いんですか?」


「何を今更――」と答えようとして、言葉を止める。


 ……今の問いの意図は、行き先を問うような単純なものではない。


 俺を――俺だけ(・・・)を、中心部に届ければいいのか?


 そういう問いだ。


 魔物を断つ阿部さんに、チラリと目を遣る。


 ……ウバダラン王国の旅には、いつも隣に彼女の姿があった。


 ひた向きに頑張る漆黒の少女に、支えられたことも多い。


 天啓(オフーバ)を発端として始まった彼女との旅。

 それ故、てっきり2人で中心部に行かなければならないと、思い込んでいたが――


 ……その必要はないのか?


「分かりません。

 俺自身は確実に行くつもりですが……」


 俺の視線の先にいる少女に、マナ先輩もまた視線を移す。


「……なるほど。イスズ様を連れて行くべきか判断がつかないのですか?」


「ええ。阿部さんがこの旅に同行したのは、天啓が理由です。

 ただ……」


 その天啓内容は「旅への同行」のみ。

 旅の終着点――王都ゼースモス中心部まで、阿部さんを連れて行った方が良いのか否か、俺にはわからなかった。


「ルング」


 考える俺に、マナ先輩が――聖女が問う。


「旅の中で、イスズ様に他の天啓はありましたか?」


「『風の刃よ、断て(ヴィッデン)』。

 ……はい。1度程ありました」


「どういう状況だったのか、教えてください」


 ……無人の都市オーブリーで1度。


 傷付いた父親の為に、無人の病院から薬や包帯といった物資を運んでいた少年――フローシュを、追うかどうか。


 それについて考えていた時、彼女に天啓が下りたのだ。


 聖女は魔物を迎撃しつつ俺の話を聞き、ゆっくり言葉を紡ぐ。


「……残念ながら、私に『女神様からのお告げ(オフーバ)』は聞こえません。

 だから、あくまで想像になってしまいますが――」


 天啓が聞こえる少女(阿部さん)に向いていた瞳の青が深まる。


「イスズ様にとって大きな選択がある時に、天啓があるのでは?」


 ……それはどういう事だろう?


 俺の沈黙に構わず、少女は「つまりですね――」と続ける。


ルングや周囲の人々の(・・・・・・・・・・)行動が(・・・)イスズ様の価値観(・・・・・・・・)――信念と言っても良いかもしれませんね――に大きく関わる場合(・・・・・・・・・)天啓がある(・・・・・)のではないですか?」


 ……雷鳴聖女に、天啓(女神の言葉)は聞こえない。


 しかし、だからこそ(・・・・・)――聞こえないからこそ、天啓についての推察を、マナ先輩は重ねていた様だ。


 ……確かに、言われてみると――


 聖女の考察と天啓のあった場面には、合致する点が多い。


 少女の天啓に従い、フローシュを追いかけた結果、俺たちは彼の父ライシャンさんを助ける事になった。


 もしその天啓が「自身の命を天秤にかけてでも、人を助けたい」という、阿部さんの信念に基づいて授けられたものだとしたら。

 阿部さんが天啓を聞いて、必死に「フローシュを追うべき」だと言っていたのも当然だ。

 

 なにせ天啓自体が、阿部さん自身の「人を助けたい」という意向に即して授けられているのだから。


 ……ではその想定が、事実だと仮定して。


 俺が初めて天啓に遭遇した時は、どうだったろうか。


 王宮魔術師総任――シャイテル様の部屋で、彼女が俺への同行を強弁した時。

 あの時には、どんな信念がその天啓の根底にあったのだろうか。


 そう考えて、答えは既に出ていたことに気が付く。

 数日前、彼女は言ってたではないか。


「人生を生き抜いていつか亡くなった時、天国で丸井征生(前世の俺)に、頑張って生きたことを伝えたい」と。


 彼女は俺が、天国にいる前提で話していたが――


 ……俺はこの世界にいる。


 転生している。

 言うなれば、彼女が天寿を全うしたとしても、天国に俺はいないのだ。


 ……もし。


 もし「丸井征生()に、全力で生きたということを伝えたい」という気持ちが、信念と呼べる域にまで(・・・・・・・・・・)昇華されていた(・・・・・・・)とするのなら。


 それはマナ先輩の考察した、天啓の条件を満たすのではなかろうか。


 ……実際阿部さんは――


 旅に同行したことで、ルングに――丸井征生(おれ)に「全力で生きる」という意志を、伝えられたのだ。

 

 そういう意味で阿部さんは、「旅に同行する」という天啓によって、自身の信念――切なる願いを、叶えられたと言えるのかもしれない。


 雷鳴聖女は告げる。


「『ルングだけを目的地に行かせる』と、イスズ様に提案しましょう。


 もしイスズ様も行かなければならないのなら、天啓があるでしょうし。

 無いなら無いで、貴方だけを送り出せばいい。

 ルングも、早く向こうに行きたい(・・・・・・・・・・)のでしょう?」


 ドキッ


 胸の鼓動が高鳴る。


 ……マナ先輩の言葉は正しい。


 この聖女は、俺の心の逸りを見抜いているのだ。


「早くあの場所に」「あの存在(・・・・)に」「アイツに(・・・・)

 そんな叫びが俺の心中に渦巻いているのを、彼女は魔力を通じて見たのだろう。


 マナ先輩は俺の答えも聞かず、指示を出す。


「イスズ様、ハイリン、ゾーガ。

 私とルングの所まで撤退を」


 マナ先輩の言葉を聞いて、全員が一斉に退却を始める。


 ……ひょっとすると聖教国にいる間も――


 阿部さんは彼女らと訓練していたのかもしれない。

 その退却する様は、驚くほどゾーガ様と息が合っていた。


 マナ先輩はその合流を待たずに、魔術を発動する。


「『主よ、思いを守り給え(スパイブル)』」


 マナ先輩の足元を中心として中規模魔法円が展開され、その魔法円外縁を境界として、不可視の壁が張られる(・・・・・・・・・・)


「結界魔術……やっぱり使えるんですね」


「私も一応聖女ですから。

 雷属性魔術の方が、迫力があって好きですけど」


 そんなやり取りをしている間に、


「イスズ様の勝ちね! ゾーガの負けよ!」


「いえ、私もまだまだです!」


重い荷物(誰かさん)を持った俺が不利だろ」


「誰が重いだあぁぁぁ!」


 3人が無事、こちらに合流したのであった。



 ガキンガキン――ドンッ!


 魔物たちが結界を破ろうと攻撃する中、マナ先輩はそれを意にも介さず切り出す。


「3人共、聞いてください。

 今から私が、魔術で中心部までの道を作ります。

 その道をルング1人で行ってもらおうと思います」


 次の瞬間――


「っ⁉」


 阿部さんの周囲で世界魔力(マヴェル)が輝き始めた。


 ……天啓だ。


 マナ先輩は世界魔力の活性に、珍しく目を丸くする。


「……お姉ちゃんのあんな顔、初めて見たかも」


「マイーナ様にも、感情ってあったんだな」


 ハイリン様とゾーガ様は、マナ先輩が驚いた表情をしていることに驚いたらしい。

 ぼそぼそと、中々に失礼なやり取りをしている。


 そんな聖教国の3人を放って、阿部さんに意識を集中する。


「女神からのお告げ」は、阿部さんに授けられた。


 ……マナ先輩の考察に則れば――


 それはつまり「俺が1人で目的地に行く」という選択は、少女の信念と何らかの形で関わることを意味する。


「人を助けたい」なのか。

「丸井征生」関連なのか。

 或いは知らない何かなのか。


 いずれにせよ、天啓次第でこちらの動きも考え直さなければならない。


 光が収まると、阿部さんはその漆黒の瞳の色を深め、悲しそうに伏せた。


「私は……行かない方が良さそうですね」


 少女の言葉に驚く。


 ……どうやら天啓は――


 少女に「同行すべきではない」という事を告げた様だ。


「ルング君、私……ここで足止め頑張ります。

 だから、絶対生き延びてください」


 少女は歯痒そうに身体を揺らす。


 ……阿部さんは、自身を顧みない人だ。


 他人の為に、命を差し出せてしまう人だ。

 そういう価値観を、「丸井征生(おれ)」のせいで築いてしまった人だ。


 ……そんな彼女が「同行しない(・・・・・)」という選択肢を取る。


 それはつまり、想定外の危険が伴う(・・・・・)ということだ。


 しかしそれは(・・・・・・)きっと(・・・)阿部さん自身の危険で(・・・・・・・・・・)はない(・・・)

 阿部さんが危険なだけなら、この旅の様に彼女は恐れを抱きながらも、付いて来ようとするだろう。

 命を懸けようとするだろう。


 ……危険なのは、おそらく俺だ。


 付いて行けば(・・・・・・)俺の身を危険に晒すこ(・・・・・・・・・・)とになる(・・・・)

 天啓にそうあったのか、天啓を聞いて阿部さんが判断したのかは分からない。

 しかし俺の身を案じるからこそ、彼女は今歯痒い思いをしながら、送り出そうとしているのだろう。


「安心してください、阿部さん。

 俺は死にませんよ。

 まだまだ研究し足りないですし、金も稼ぎ足りないですから」


 ……何が俺を待ち構えているのだろうか?


 不安は募りながらも、軽口を叩く。


 申し訳なさそうにする阿部さんから、それについての情報を読み取ることは出来ない。

 しかし予想だにしないナニカ(・・・ )が、目的地で俺を待ち構えているのは、間違いないだろう。


「……話はついたという事でいいですか?

 もう時間ですので」


 雷鳴聖女の確認に、俺も含めた4人はコクリと頷いた。




「さて……やりますよ」


 話し合いが終わり、マナ先輩が中心部(もくてきち)に目を遣る。


「結界魔術を解除した段階で、俺が抜ければ良いんですか?」


「そうですがその前に、ちょっとした魔術(・・・・・・・・)を発動します。

 なので移動は、その後でお願いします」


 ……ちょっとした魔術?


 なんだろうか。

 どうせ見るなら、見たことのない魔術――面白い魔術だと、ありがたいのだが。


 それを聞いた阿部さんの表情に、変化はない。


 しかし――


「うえっ⁉」「あっ……」


 聖女聖騎士コンビは、心なし青ざめている。


「ハイリン様、ゾーガ様、どうして――」


 ……俺の言葉を遮るように。


 雷鳴聖女は、内に秘めた莫大な魔力を解放する。


 圧倒的な魔力の輝き。

 未だ魔術に成っていないにも関わらず、その周囲には鋭い火花が弾ける。


「始めますよ――『我が雷は共にありて(ファーリッシ)』」


 雷鳴聖女。

 その通名(シュピネ)に相応しい魔術を、マナ先輩は発動する。


 彼女の足元と頭上の両方に、同一の小型魔法円が展開され――


 スウ


 上下から少女の全身を包む様にゆっくりと動き出し、その腰元で魔法円はピタリと重なる。


 直後―― 


 バチバチバチバチッ!


 本物の雷――その余波である電撃(スパーク)が産声を上げ、少女の全身を雷によく似た白色に染める。


『雷化魔術』――4人で共同開発した魔術だ。


「綺麗……」


「お姉ちゃん、カッコイイ!」


 見惚れる女性陣を尻目に、聖騎士は(・・・・)冷静に尋ねる。


マイーナさ(・・・・・)――」


お姉ちゃん(・・・・・)


 バチバチバチバチ――

 ドンドン――ガキン――


 火花の散る音と、魔物の暴れる音が結界内に響き渡る。

 そんな背筋も凍る沈黙を、聖騎士は精一杯の勇気を以て切り拓いた。


「お、お姉ちゃん、その魔術で今から何をする気なんですか?」


 マナ先輩は満足そうに頷き、答える。


「正確に言えば、これは前準備。

 ちょっと魔術を発動するのは、これからです。

 その魔術で、中心部(あそこ)までの道を撃ち抜きます(・・・・・・)

 ルングならその後『光化魔術』か『雷化魔術』で、目的地まで移動できる様になると思いますので、準備を」


 いつもと変わらない、淡々とした口調。

 しかし――


 ゾクッ


 背筋に寒気が走る。

 魔力の暴風雨。

 雷鳴聖女の臨戦状態の魔力が、結界内を所狭しと荒れ狂っているのだ。


「環境情報確認――問題なし」


 聖女の言葉が進む毎に、彼女の魔力が『雷化』された(その)身体と混ざっていく。


 スッ――


 白色に瞬く少女は、その両手を胸の前で組む。

 神に――女神に祈りを捧げるかのようなその姿は、正に聖女だ。


 しかし、その胸に抱く祈念はおそらく――


「『主の威光は届く(リーシュテン)』――」


 ……物騒極まりない、破壊の願いだ。


 聖女の組んだ手を中心に、大型の魔法円が展開される。

 雷と混ざった魔力は、瞬間的に魔法円を満たす。


 それと同時に――


 パリン


 乾いた音と共に、聖女の張った結界が割れた。

 周辺で蠢いていた魔物たちは、壁が急に失われたことで、前のめりに転倒する。


「……発動」


 そこに告げられる、絶望の開始(スタート)合図。

 次の瞬間――


 世界を貫く極大の閃光が、聖女から放たれる。


 ボッ!


 魔術そのもの(・・・・)に音はない。

 ただ魔法円が向けられたその直線上にいる魔物たちが、音を立てて消えていく(・・・・・)のだ。


 前方の魔物の群れは両断され、道が拓けていく。

 地を削り這う光線(・・)は、王都の緩やかな坂を駆け昇り、その角度を維持したまま、空へと飛び出した。


 ……しかし――


 勢いはそれでも弱まらない。

 飛び出した光線は重力に逆らうかのように昇り続け、上空で滞る世界魔力に、大きな穴を開けたのであった。

 ――雷鳴聖女の突き抜けた1撃。

「ちょっとした魔術とは何か」と問いたい1撃が放たれたのでした。

 さて、次回はいよいよ、ルングが中心部へ乗り込みます。

 何が彼を待ち受けているのか。

 お楽しみに!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう。 

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