9 狩りの結果。
少し予定より遅れました。すみません。
本日5話投稿予定の1話目です。
次回は8時以降に投稿予定です。
「お父さん、お帰り!」
「おかえり。どうだった?」
……あれ?
父の立ち姿に違和感を覚える。
行きの時と比べて、どこか違う気がする。
何だろうと考えて、思い当たる。
……荷物、あんなに多かったっけ?
朝出発した父は、狩猟用の弓以外に大きな荷物はなかったはずだ。
しかし今、畑の外にいる父は、朝の倍近くの荷物を持っている気がする。
……ひょっとすると、大猟だったのかもしれない。
姉と二人で期待に胸を膨らませる。
そんな俺たちの期待を背負った父は、荷物のいくつかをその場に置くと、畑の中を突っ切って、こちらへと歩いてくる。
「あーなんだ、あれだな」
少し申し訳なさそうな父。
……まさか。
「悪いな、二人共。狩りは失敗だ。
やっぱ思い付きで行く前に、猟師のイークトにも声かけるべきだったぜ。
獲物が見つからなくてなあ」
いくら父が若く、体力があるといっても、単独で獲物を発見するのは難しかったらしい。
「そっかー。仕方ないねー」
ゆっくりと肩を落とす姉と俺。
……残念だ。
父が狩ってくる動物は、脂がのっていて美味しいのだが。
そんな落ち込む俺たちに、微笑みかける父。
「だからよ――ほれ」
そう言って背負った籠から、取り出したのは――
「うわあ! 魚だあ!」
でっぷりと大きい魚。
見るからに脂も乗っている。
「無理だって判断してすぐに、魚釣りに切り替えたんだ」
「「やったあ!」」
大喜びする俺たち。
肉とは勿論違うが、魚もまた美味しい。
美味しいものが食べられるだけで、幸せなのだ。
そんな俺たちの幸せ気分を、隣にいた村長が遮る。
「おい、ツーリンダー、誰がじいさんだ! このバカ野郎が! 訂正しろ!
俺はおっちゃんなんて歳じゃないし、俺とお前もそこまで離れてないだろ!
ウチの娘だって、ルングと同い年だろうが!」
村長は顔つきと体格から誤解されがちだが、父とそう年齢は変わらないと聞いている。
「そうだったか? 俺がガキの頃から、村長は村長じゃなかったか?」
惚ける父と、
「えっ⁉ 村長、お父さんと年近いの⁉」
目を丸くする姉。
どうやら姉は、その事実を知らなかったらしい。
可愛らしい顔いっぱいに、驚愕の表情が満ちている。
「ねーさん、やめてやれ。そんちょー、ないてるぞ」
憐れな村長は、そんな姉の言葉と表情に、しくしくと涙を流していた。
……意外に繊細だ。
そしてガタイの良い大人が、畑のド真ん中でそんな風に泣く姿は、シュールだ。
「そんちょー。おれはそんちょうのいげんのあるすがた、すきだぞ」
「ルング、お前ってやつは……本当に良いやつだなあ。このバカの息子とは思えないよ」
……ちなみにこれは、ただの慰めではない。
父のような細マッチョにも憧れるが、村長のようなゴリゴリのマッチョにも憧れる。
まあ、そのゴリゴリマッチョがひしっと俺に抱き付く姿には、威厳もへったくれもない気もするが。
「な、なんだと⁉ ルングお前、俺よりもそんな老け顔を選ぶのか⁉ 許さんぞ⁉」
「誰が老け顔だあ⁉ お前こそ顔も中身も、未だにただのクソガキだろうが!」
「「ぐぬぬぬぬぬぬ」」
いい年をした大人が、本気で取っ組み合っている。
お互い示し合わせたかのように互角。
二人の仲の良さを感じさせる光景だが、家畜たちが少し怯えているから、止めて欲しい。
「全くもう! お父さん! 村長! ケンカしちゃダメ!
動物たちが怖がってるでしょ!」
姉も俺と同じことを思ったようで、二人の争いを止め――
「それに、ルンちゃんが1番好きなのは私なんだから!
それでケンカするのは良くないよ!」
るどころか、参戦してきた。
ふんぞり返る姉。
その威風堂々たる姿に毒気を抜かれたのか、大人たちは醜い争いを止める。
「ほら二人共、相手に謝って!」
「「す、すみませんでした……」」
どちらが大人か分からないが、いつも通りといえばいつも通りの光景である。
「それで、うちのルングを拐かすつもりじゃないなら、何の用だよ?
お前、遊べるほど暇じゃねえだろ」
少し棘のある父のその言葉に、村長が我が家を訪れた理由を思い出す。
「そうだ……そうだった! 怒りのあまり、忘れるところだった!
ツーリンダー!
お前、冬の事前報告もせずに狩りに出やがって!
こっちは村民の生活確認が仕事なんだぞ⁉」
「あっ……やっべ」
父は気まずそうな表情を浮かべると、村長から逃げ出そうと走り出す。
畑は父の本拠地。
ここでの単純な追いかけっこなら、父は誰にも負けない。
しかしそんな父が、なぜか畑の中で躓く。
「バカな⁉ 畑を極めているこの俺がこんなところで、転ぶわけが――」
父の両足には、不自然に突出した土。
土の魔術で制御された土が10㎝程、顔を出している。
「クーグルンさん⁉ ルングさん⁉」
俺たちの魔術だ。
「この大バカ野郎が! お前ってやつはいつもいつも――」
「すまんすまん、ごめんって――」
父が村長に捕まる。
魚を獲って来てくれたのはありがたいが、だからといって村長に迷惑をかけるのは良くない。
この辺りで、一度叱られていた方が良いだろう。
「クーちゃん! ルンちゃん! ご飯の準備するわよ!」
母に呼ばれる。
「「はーい!」」
捕獲した魚の入った籠を、姉と二人で持つ。
家畜たちは、父と村長がいるから大丈夫だろう。
「ゾーレ! クーグルン! ルング!
助けてくれえぇぇぇぇぇ!」
父の哀れな声は畑の中を響き渡り、快晴の空へと消えていったのであった。
――魚はこの後調理され、その日の食事と保存食になりました。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!