8 魔物になる可能性。
本日3話投稿予定の3話目です。
次回は明日0時以降に投稿予定です。
魔物――それは魔力を有した生物だと言われている。
両親や姉曰く、魔物に定型はないらしい。
既存の生物を模したものから、見たことのない生物まで、外見はいかなる形を取ってもおかしくないとのことだ。
通常の生物との大きな違いは3つ。
1つ目は凶暴性。
生物は基本的に自身の生存が最優先。
そのため、戦いを避けることが多い。
しかし、魔物は積極的に他の生物を襲うと言われている。
2つめは魔石。
身体のどこかに魔石を保有している。
その魔石が魔力を集め、貯蔵することにより、魔物は魔物足り得るとのことだ。
雲をつかむような話だが、個体によっては、その魔力を利用して、魔術を扱うものすら存在するらしい。
3つ目は身体強化。
既存の生物よりも頑丈な個体が多いとされている。
まあ、俺は未だに見たことはないのだが……。
「結局、家畜たちは魔物になりそうなのか?」
村長は姉に真っ直ぐ問う。
「うーん、今のところは大丈夫そうかな?」
姉は簡単に応える。
姉の言う通り、魔力有りのヴァイを食べても、今のところ家畜に大きな変化はない。
「ただ、しょくよくはかなりあるな」
「そうだね。その割には、フンに魔力はないし」
食欲があるのは理解できる。
魔力を宿したヴァイは、通常のそれよりも美味しい。
人間が食べても美味しく感じるのだ。
家畜たちが美味しく感じても、不思議ではない。
故に家畜たちの食が進むのは、ある意味当然なのかもしれない。
しかし、フンに魔力がないということは――
「おいおい、それって家畜たちが魔力を食っちまったってことだよな?
本当に、大丈夫なのか?」
村長の言う通りだ。
収穫され、茎のみになってもまだ輝いていたヴァイの魔力。
それを家畜たちは、取り込んでいる。
魔物の分かりやすい特徴が、魔石を持つこと。
その魔石の性質が、魔力を貯蔵すること。
では、逆の現象が起きたら、どうなるのだろうか。
魔石が魔力を貯蔵する機能を有するのなら、魔力を貯蔵し続ければ魔石が生まれるのか。
つまり俺たちの不安は、家畜が魔力のあるヴァイを摂取し続けて、魔力を溜めつづけることで、魔石が生成してしまわないかという点にある。
そしてもし、魔石が生まれるのなら――
……家畜は魔物となるのだろうか?
わからない。
前世で魔物なんて存在がいなかったからこそ、何が起きるのかわからないのだ。
故に姉と共に、放牧中の家畜たちを見張っているわけだが――
「いまのところは、だいじょうぶそうだぞ。そんちょー」
集中して家畜たちを見ると、彼らの白光が普段よりも少しだけ大きくなっているのが見える。
それ以外は、食欲以外大した変化がない。
「魔力は吸収してるけど、魔物にはならなさそうなのか。
それなら、良かったなあ。クーグルン、頑張ってたもんな」
村長は俺たちの話に頷いている。
だが、本当に魔物にならないかは、まだ断言できない。
比較対象であるはずの魔物の存在自体、俺は見たことがないわけだし。
少なくとも次回の放牧くらいまでは、様子見をしたいところだ。
ふと隣に立つ村長を見る。
長身に、筋肉モリモリの肉体。
村長という職に、そこまで肉体労働がある印象はない。
なのにその肉体が、鍛え上げられている意味は――
ふとそんなことを考えて、
「そんちょーは、まものをみたことあるのか?」
問いを投げかける。
それに対して、村長は頬を気まずそうに掻く。
「まあ……何度かな。確かにあれと比べれば、お前らの家畜は迫力に欠けるか」
遠い目をする村長。
それは魔物と遭遇した時のことを、思い出しているのだろうか。
……遭遇したことがあるのなら、聞きたい。
魔物とはどんな存在だったのか。
どんな特徴があって、その魔物はどうなったのか。
だが、村長の目は告げている。
「聞いて欲しくない」と。
「そういえばそんちょーは、うちになにしにきたんだ?」
仕方なく矛先を逸らす。
「ああ、そういやあそうだったな」
「しまった、忘れてた」と、村長の迫力のある顔には描かれている。
まさか、俺たちと世間話をしに来たわけでもあるまい。
いくら暇だったとしても、仮にも村長。
何の用もなく、俺たちの所に来るはずがないのだ。
「ツーリンダーはどこにいる?」
「お父さん?」
「とーさん?」
どうやら彼は、父に用事があったらしい。
「ああ。各家の冬の備蓄を確認して回ってるんだが……あのバカ、まだ報告してないんだ。
どこにいるか知らないか?」
「どこかは知らないけど――」
「なにをしているかは、しってる」
姉の声に重ねる。
「じゃあ、何してるかで良いから教えてくれよ」
「えーっと、お父さんは『お前たちに肉を食わせてやるぜ!』って言って、狩りに出かけたよ?」
「ほーぼくは、おれたちにまかせるっていってた」
「あのバカ、子どもたちに放牧を任せて、自分はやりたい放題か⁉」
村長は心底呆れているようだ。
「でも、お父さんいつも頑張ってたから、たまには良いかなって」
「ヴァイのじっけんもさせてくれたしな」
そんな俺たちのフォローも、
「お前たち、アレを甘やかしちゃダメだ。
調子に乗ったら、止まらないバカなんだから」
村長の父への愚痴は止まらない。
過去に父のせいで、何か酷い目にでも遭ったのかもしれない。
そして――
……どうして俺たちが、父を甘やかしているように言われているのだろうか。
親子の定義が、揺らいでいる。
「間違いなくアイツは、狩りを楽しんでるだけだ。
絶対、お前たちに仕事を押し付けてるだけだぞ?」
……そんなことは、もちろん知っている。
それでも――
「分かってるよ? でも、お肉食べたーい!」
「にくは、うまいんだ」
「欲望に忠実な所とか、ホントそっくりだよお前ら親子は!」
そんな俺たち姉弟の言葉に、諦めたような物言いをする村長。
彼は仕切り直す様に、
「じゃあ、ゾーレはいるか?」
母の居場所を聞く。
「お母さんなら家の中にいるよ! 冬の準備してる!」
姉の答えに村長は、
「一番はゾーレがあのバカに注意すれば一発なんだが……。
でも一番アイツに甘いのは、ゾーレなんだよな……」
ブツブツと呟きながら、再び遠くを見る目をしている。
「まあ、いいや。とりあえずゾーレに――」
と村長が言いかけたところで、
「クーグルン! ルング! どうだ? 動物たちの調子は!」
俺たちの名が呼ばれる。
聞き慣れた、安心感のある声色。
噂をすれば影が差すとは、よく言ったもの。
話をしていた俺たちに、声をかけてきたのは勿論――
「お父さん!」
「とーさん!」
「ああ? 誰かと思ったら、村長のおっちゃんじゃねえか。何か用か?」
父ことツーリンダーが、帰って来たのだった。
――魔術もあれば、魔物もいる、そんな世界です。
村長は、ツーリンダーに昔から振り回されてきました。
ちなみに年齢は、村長の方が少しだけ上の設定です。外見年齢はずっと上ですが。
本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ではまた次のお話でお会いしましょう!