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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
14歳 姉弟での魔術研究――『転移魔術』
162/245

5 騎士は魔術師たちを仲裁する

 現在、火水木土日の週5回更新中です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「初期座標と最終座標を魔力で繋げてしまうのはどうだ?」


 そびえ立つ紙々(かみがみ)を背に、黒髪無表情の少年――ルングが提案する。

 すると正面で対峙する少女――クー姉が、同様に紙山を背景に応じた。


「魔力で任意の2地点を繋げるって、ルンちゃんはイメージしているのかな?

 でも魔力を繋げても、移動はできないでしょ?」


「そこは『魔術化魔術』の応用でいけるんじゃないか?

 質量体を魔術に変換するのが可能なら、質量体を魔力に変換することもできるだろ」


 少年の見解に、少女も自身の魔術観をぶつける。


「それは可能かもしれないけど、現実的じゃないんじゃない?

 私たち、起こす現象(魔術)はともかく、その火種(魔力)に関してはまだ研究が足りてないと思うの。


 今のルンちゃんの考えって『人を魔力に変換分解』後、初期座標と最終座標を結んだ魔力経路を利用して送り込み、『届いた魔力を元の人型に再構築する』って感じでしょう?」


「そうだ。

 魔力なら、遮蔽物があっても透過するだろ」


「それはそうだけど、元の人型に再構築出来るとは限らないんじゃない?

 人を魔力に変換したとして、どの程度の量になるかもわからないし、その変換した魔力を寸分違わず再構築することって、できるのかなあ?

 最低でもトラ先生(学長)並みの繊細な魔力制御能力が、必須になるよね?


 それに実験の流れ的に、何かしらの物質から始めて最終的に人体実験に至るわけだけど、判明してない致命的な齟齬が、人体実験(そこ)で生じた場合、マズいんじゃない?」


人体実験の危険性(それ)は、どの魔術実験にも存在するだろう?


 ……まあでも、トラーシュ先生並みの精緻な魔力制御は、まだ厳しいだろうな。


 加えて、俺たちが今扱っている魔力は所詮、魂から生じる余波(・・)

 存在そのものを変換した場合の魔力量は、想像もつかないか……」


「後、仮に『術者を魔力に変換し再構築』が可能なんだとしても『魔力に変換された術者』に意識があるのかなあ?

『魔術化魔術』の時は、マナちゃんの能力(フェイ)――未来(ツーカ)ってお手本があったけど。

 存在そのものを魔力変換した人なんて、見たこともないわけじゃない?


 そんな未確認存在の意識の有無なんて、確認できないし。

 もし意識が無ければ詠唱・無詠唱関係なく、魔術制御はできないと思うんだけど」


「……その場合、まず俺が実験台になれば――」


「駄目! 許可しないよ!

 ただでさえ、危ない事ばかりしてて、お父さんとお母さんを心配させてるんだから!」


「姉さんに言われる筋合いはない。大体な――」


 姉弟――魔術師同士の白熱した議論は、理解できないことばかりだ。

 

 騎士()魔術師(彼ら)

 私たちは共にいながら、別世界に生きている。

 そう思わされることも多い。


 ……それでも、懐かしいですの。


 自身の頬の緩みを自覚する。


 3人でいる空間。

 姉弟がああだこうだと言い合うのを、見ているだけだが。

 それは故郷アンファング村で送った日々を思い出して、少し楽しかった。


 けれど――


 ……そろそろですわね。


 2人の会話に意識を向けながら、その辺に散らばっている資料類をまとめる。


「それこそ許可できないよ、ルンちゃんの方が弱っちいんだから!」


「なんだと? 誰が誰より弱いだと? 試してみるか?」


「弟がお姉ちゃんに勝てる道理なんてないんだよ? 姉、最強!」


「なんだと? やってみるか?

 最強はいつだって倒される運命だということを、教えてやる」


「はい、ストップですの!」


 議論から子どもの罵り合いへ。

 話し合いから取っ組み合いへと移行したタイミングで、止めに入る。


「どうしてあなた方は、いつも最終的に喧嘩に行きつきますの?」


「「だって姉さん(ルンちゃん)が!」」


「お黙りなさいな!

 2人共いい年なんですから、仲良くなさい」


 姉弟の取っ組み合いは止まったが、彼らは未だに睨み合っている。


 普段は仲の良い姉弟――という割に喧嘩が多い気もする――だが、魔術のこととなると頑固なのだ。


 ……流石はあの(・・)レーリン様の弟子たちですの。


 よくよく考えてみれば。

 アンファング村での喧嘩は、この姉弟に師匠のレーリン様も加わり、壮絶な戦い(魔術有り)となっていた。

 

 それを考えると、魔術戦にならないだけ、彼らも大人になったのかもしれない。


 ぐうぅぅぅぅ


 姉弟のお腹が、同時に鳴く。


「……お腹が空いてカリカリしてるんですのよ。一旦ご飯にしましょう」


 私の言葉に返事をする様に、再び2人のお腹は鳴いたのであった。




「流石リッチェン。料理上手だな」


「そうだねえ、美味しいねえ! やっぱり私たちの嫁になる?」


「また揶揄って……大体ルングは私より料理上手でしょうに」


「揶揄ってないよ!

 確かにルンちゃんの料理も美味しいけど、リっちゃんのご飯も凄く美味しいよ!

 美味だよ! 甘味だよ! 最高だよ!」


「一瞬感動しましたが、甘味は出してませんのよ⁉」


「俺も料理の腕に自信はあるが、人に作ってもらった無料のご飯に勝るものはない」


「いや、無料じゃありませんのよ?

 この分の給金は貰いますし、食材費は経費で貰いますからね?」


「騙されないか」と呟いて、少年は続ける。


「この腕前なら、騎士団の遠征とかでも重宝されるだろう?」


「いえ、まだ遠征に行ったことはありませんわね。

 学生はまだ連れて行かない方針みたいですわ。

 代わりに学校開催の泊まり込み有りの演習等で、よく褒められますの」


 故郷アンファング村にいる時から、姉弟(とレーリン様)が研究する時は、彼らの母ゾーレ様と料理をしていた。

 お陰で私の料理の腕前は、そこそこのものになっている。


 加えて騎士学校に通うことになり、1人暮らしと今回の様に姉弟のお世話も増えたことで、更にそれに磨きがかかっている……と思う。


「……それにしても、意外でしたわ」


「え? 何が?」


 私の言葉にクー姉が首を傾げる。


「いえ、まさか2人が本気でやって、こんなに時間がかかるとは思っていませんでしたのよ」


 現在食事をしているこの場所――実験室を見回す。


 この実験室(ここ)に通い始めて、約半年(・・・)が経とうとしていた。


 ……この姉弟なら――


 どんな奇々怪々な魔術だろうと、どうにか開発するものだと思っていたのだが。


「確かに、ここまで手間取るのは初めてかもしれないね。

 マナちゃんの時(前回)は、私たち途中参加だし。


 今回はもう半年だもんね……。


 というかよく考えたら、もっとかかってるかも(・・・・・・・・・・)!」


 クー姉の謎の発言に、疑問を呈する。


「どういうことですの?」


「元々この研究自体は、昔からしたかった研究なんだよ!

 それも加味したら、14年ぐらい経ってるんじゃないかなあ」


「そうですの⁉

 そんな幼い頃から、この魔術のことを考えていたんですの⁉」


 私の驚愕に、少年が答える。


「そんなわけないだろう。姉さんの冗談だよ、間違いなく」


「もう、冗談じゃないのに」


 クー姉は不満そうに頬を膨らませる。

 しかし料理を口に運ぶと一転して、蕩ける様な笑みに変わった。


「それにしても、リっちゃん。

 短時間で、よくこんなに美味しく料理出来たよね!」


「そういえば……あっという間だったよな。何かコツでもあるのか?」


 先程喧嘩していた時のことが嘘の様に、2人仲良く私の料理時間の短さに言及する。

 どうやら姉弟の好奇心の対象は、魔術のみに留まらないらしい。


 ……まあ、ルングはいつも通りの無表情ですけど。


「時短のコツと言っても、普通のことをしただけですのよ?

 家で下ごしらえをしておいて、魔術学校(こちら)の食堂の使用許可を、事前に(・・・)とっておいただけですの」


 これだけ褒めちぎってもらって申し訳ないが、私のしたことなどそれくらいのものだ。


 ……2人に温かく且つ手早く美味しいものを。


 そう考えて、工夫してみただけである。


「言うなれば手順の省略(・・・・・)ですの。

 調理の行程の中で、事前にできるものはし(・・・・・・・・・・)ておく(・・・)ってだけですのよ?

 下味は付けておいて、後は焼くだけにするとかそういう単純なものですわ」


「いや、それでも大した――」とルングは何か――おそらく誉め言葉――を言いかけた所で、ピタリと動きを止める(・・・・・・)


「どうしたんですの?」


 怪訝に思って静止した少年に目を向けると、彼は何故か大げさに目を見開いている。


 しかしその目は(・・・・・・・)私に向けられて(・・・・・・・)()いない(・・・)


 その目は私ではなく――


「……リっちゃん、ありがとう(・・・・・)

 ルンちゃん、私……分かったかもしれない」


 天才魔術師()を、捉えていたのであった。

 ――魔術師の姉は、弟と騎士とのやり取りで、何かに気付いたようです。

 そしてなんだかんだと、姉弟に尽くす騎士様。

 家事系の腕前もメキメキ上昇中です。

 次話ではいよいよ、姉が転移魔術に踏み込みますので、お楽しみに!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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