表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
14歳 姉弟での魔術研究――『転移魔術』
161/245

4 魔術師たちの研究は騎士の日常となっている

 現在、火水木土日の週5回更新中ですが、明日11月14日(木)と明後日11月15日(金)は所用により、更新できないです。


 よって次回の更新は、11月16日(土)となります。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

 クー姉とルングの魔術師姉弟への支援(サポート)を始めて1週間(・・・)


「リッチェン、今日は行くよね?」


 午前中の座学が終わり、姉弟に昼食を運ぶか悩んでいる私に、確認の声が向けられる。


 声の出所を向くと、1人の騎士が立っていた。


 鮮やかな青のショートカット。

 整った顔立ちに、鋭く活発そうな吊り目。

 鉄の手甲(ガントレット)脛当て鎧(グリーブ)は使い込まれ、腰に刺された剣は少女(・・)が歴戦の騎士であることを主張している。


「新入生歓迎大会(・・)ですの?

 ……貴女が居ますし、行かなくとも問題ないですわよね? フリッド?」


「なんでそんなに興味なさげなのさ⁉」


 少女の名はフリッド。

 私の騎士学校の友人である。


「リッチェン、アンタ、首席だよね?

 それも在学中なのに既に騎士団所属の、エリート様だよね⁉

 どうして行事に消極的かなあ⁉」


「首席だからこそ、好き勝手やって良いんですのよ。

 それに騎士団に所属しているおかげで、色々免除されますし。


 そんな私の尻拭いをするのは、次席である貴女の仕事ですわ」


 ニコリと微笑むと、少女は呆れた様にため息を吐く。


「去年はちゃんと出てたのに……」


「……去年は特別ですの。

 聖教国から聖騎士も来てましたし、出ざるを得ませんでした。

 変わり種の騎士(・・・・・・・)も、聖教国側にいましたし」


「懐かしいね……。

 リッチェンと『黒の聖女騎士』との戦い、最高だったよ!

 今年も、あんな激闘をお披露目してよ!」


 ぐっと少女は親指を立てて、拳でグッドサインを作る。


 ……言ってやりたい。


「『黒の聖女騎士』は、どこかの誰かさん(・・・・・・・)が女装してただけだ」と彼女にネタばらしをしたくて仕方ないが、無理矢理その事実を飲み下す。


「……とりあえず。今年いるのは、普通の新入生だけですの。

 なので運営は貴女にお任せして、私は職務に勤しみます」


 私の言葉に、少女騎士はここぞとばかりに、ニヤリと笑みを浮かべる。


「職務って……どうせ幼馴染の所に通い妻してるんでしょ?」


 ドキリ


 ……通い妻。


 心惹かれる響きだが、残念ながら事実とは大きく異なる。


「通い妻なんて大層なものじゃありませんわよ。ただの雑用ですの」


 ……腹の立つことに。 


 あの姉弟は私を雇うや否や、日常生活をこちらに丸投げしたのだ。

 彼らの世界には、最早魔術しか存在していない。


 帰宅も食事もお風呂も睡眠も。

 私が言わなければ決してしない。

 

 可能な限り全てを魔術研究につぎ込むという、人間を完全に逸脱した生活を彼らは送っている。


 この世に魔術師(彼ら)しかいなかったのなら、一瞬で絶滅するだろう。

 そう確信できるくらいの、社会不適合者ぶりである。


「大体、騎士団の仕事には出ているので、文句を言われる筋合いはありませんの。

 それに、首席の仕事もするつもりですわ。


 大会で優勝した新入生を、可愛がって(・・・・・)あげればいいのですのよね?」


「リッチェンの可愛がりは、受けたくないなあ」と、少女は苦々しい笑みを浮かべている。


「まあ、仕事をしてくれるなら良いよ。

 それにしてもさあ――」


 少女騎士の顔が、怪訝そうな表情へと変化する。


「……何ですの?」


「いや、雑用の何がそんなに楽しいのか分からないなあって思って」


 ……フリッドは勘違いをしていますの。


 正確には、雑用が楽しいわけではない。

 別に家事をするのが好きなわけでもない。


 しかし、2人のお世話をするのは、昔から好きだったのだ。


 普段とはまた異なる、真剣な雰囲気。

 全身全霊を研究に注ぎ込む、真摯で一途な姿。


 それだけで、彼らの無茶苦茶な性格が帳消しになるくらい格好良い。


 そんな姉弟の雄姿を見守れるのは、騎士団長になる以上に贅沢な気がするのだ。


「貴女もいずれ、私の気持ちが分かる時が来るかもしれませんわよ?」


「そうかねえ?」


 私の胸中を知らない友人は、半信半疑な様子でそう答えたのだった。



 ちなみにこの後姉弟は、昼食を抜こうとしていたことが私にバレ、無理矢理食べさせられたことを追記しておく。




「騎士のリッチェンさん、久しぶり。今大丈夫か?」


 姉弟に雇われて1ヶ月(・・・)


 魔術学校内で、声をかけられる。


ザンフ様(・・・・)。お久しぶりですの」


 私に声をかけてきた青年は、ザンフ・ランダヴィル様。

 ランダヴィル伯爵家嫡男。 


 ルングと魔道具開発を行い、ランダヴィル伯爵領の農地で作物の共同研究も行っている、土属性の魔術師である。


「今からルングたちの所に行く予定ですが、何か御用ですの?」


 私の言葉に、ツンとした青年の表情がほんの少し和らぐ。


「それなら丁度良かった。

 ルングから頼まれていた魔道具を、リッチェンさんに託してもいいか?」


「……魔道具? 勿論、構いませんが」


 ……いつの間にそんなものを?


 どうやら私の知らない間に、ザンフ様に色々と頼み込んでいたらしい。


「ありがとう、感謝する」


 ぶっきらぼうな口調で青年はそう言うと、布袋を私に手渡す。

 袋の感触的に、どうやらいくつか魔道具が入っている様だ。


「いえ、こちらこそウチのルングが、ホントいつもお世話になっておりますの」


「構わんさ。こっちだって報酬(・・)は受け取っているしな」


 青年はそう言うと、目を逸らす。


 ……何故でしょう、見覚えがある表情ですの。


 ここ最近だと、姉弟が徹夜で研究していたことを私に言い当てられた時に見た顔に、よく似ている。


 ……つまり――


 何かやましい事を、隠している時の顔だ。


 話の流れ(・・・・)ザンフ様の弱点(・・・・・・・)を考えると――


「……ああ、なるほどですの」


「……む? 何がだ?」


 いそいそとザンフ様に近寄り、自身の導き出した結論を耳打ちする。


「安心してください。

 アイランの画像集(・・・・・・・・)をルングに頼んだことは、内緒にしておきますの」


 ルングが雇い、ランダヴィル伯爵領でザンフ様と共に畑の世話をしている、獣人の3姉妹。

 その長女であるアイランに、ザンフ様は確か懸想をしていたはずだ。


「な、な……何故知っている⁉」


「乙女の勘ですの! では、失礼しますの!」


「ちょっと待て! こら! 騎士リッチェン!」


 顔を真っ赤に染め、目を白黒させた青年から、走って逃げる。


 そんな私の背後から――


「3姉妹も楽しみにしているから、今度ルングと一緒に遊びに来いよ」と、青年の声が聞こえてくる。


「ええ! 絶対に行きますわ!」と答えながら振り向くと、少し離れた所で佇む青年は珍しいことに、嬉しそうな笑みを浮かべていたのであった。



 ちなみに――

 この時受け取った魔道具をルングに渡すと、大袈裟に感謝された。

 一体、どんな魔術が刻印されていたのだろうか。

 実に印象的な出来事であった。




「リッチェンさん、こんにちは。

 大変そうですね。お手伝いしましょうか?」


「ありがとうございます、マイーナ様。

 でも、平気ですわ! 私、力持ちなので」


 ルングたちのお世話を始めて3()ヶ月(・・)


 私が姉弟の食事用の食材を運び込んでいると、以前共同研究――といっても、私は実験台となっていただけだが――で一緒になった、マイーナ様と遭遇した。


 金髪碧眼に白のローブ。


 思わず見惚れてしまう美しい少女だが、無表情っぷりは相変わらずである。


「その様子と()から察するに……また彼らの面倒を見ているのですか?」


「面倒は見ていますけど……噂とは何ですの?」


 私の疑問に、聖女は答える。


「ええ。

 実験室に入り浸る黒の騎士と、その実験室に出現する姉弟のお化けという……」


 ……確かに偶に、姉弟は死にかけの形相で実験室から出ているが――


 まさかそんな噂になっているとは。


「あの姉弟(2人)、魔術学校でどんな扱いをされていますの?」


 マイーナ様は考えることもなく、即座に応える。


「良くも悪くも特別枠で、何をやっていても噂にはなりますね。


 王宮魔術師の弟子で、最年少での大位クラス入学。

 それもほぼ全ての属性魔術を扱える姉弟となると、注目するなという方が無理かと思われます。


 私の雷属性魔術も悔しいことに、直ぐ扱えるようになりましたし」


「雷鳴聖女」の表情は、その言葉とは裏腹に、全く悔しさを感じさせない。


「……ああ、すみません。そんなことはどうでも良かったです。

 リッチェンさん、ルングに伝言をお願いしても良いですか?」


 世間話もそこそこに、聖女は用件を告げる。


「ええ。勿論ですの」


「それでは。

 まずは教皇様(お父様)からの伝言を。


『画像集とやらについて話があります。できれば聖教国に来て欲しい。そして聖女と聖騎士の画像集を買い取りたい』


 とのことです。

 ルングへの手紙も何通か送ったそうですが、無視されたそうです」


 ……なんでルングは、教皇様(一国の代表)から手紙を送られていますの?


 その上それを無視するなんて、並の神経ではできない。


 しかし私は、彼の――彼らのことを、よく知ってしまっている。


「……元々、彼らは不精者なんですの。

 研究に必死すぎて、手紙に気付いてすらいないと思いますわ。

 なので、処刑だけは許してあげて欲しいですの!」


 姉弟の師匠であるレーリン様もそうなのだが。

 彼らは手紙のやり取りをする暇があるなら、研究に打ち込みたいと考えている種族なのだ。


 おかげで帰省の度に、両親――主に母親のゾーレさん――から叱られている。


「しませんよ、そんなこと」


 私の懇願が届いたのか、聖女は首を左右に振る。


「……まあ、良いでしょう。

 ここにリッチェンさんが通りがかったのは、きっと女神様のお導きですね。

 教皇様の言葉をよろしくお願いします」


「それと――」と聖女は続ける。


「私からの伝言もお願いします。

『聖女と聖騎士の画像集の第3弾を、早めにお願いします』と。

 お金に糸目は付けないので」


 騎士学校の友人たちも、アンス様やザンフ様もそうだったが。

 聖女や聖教国の教皇ですら、ルングの画像集に首ったけの様だ。


 私の幼馴染の発明品は、よっぽどの代物なのだろう。


「了解しましたわ。必ずお伝えすることを誓います」


「ええ。よろしくお願いします」


 そう言うとマイーナ様は、トコトコと去って行った。



 聖女の伝言をルングに伝えると、ただでさえ悪かった顔色が、更にくすんだような気がした。

 彼は教皇様を相手に、何をやらかしたのだろうか。

 私に被害が及ばないことを、祈るばかりである。

 ――騎士リッチェンの日常? と、時間経過の回です。

 少し短編集に近い回かもしれません。初登場や久しぶりの人物をお楽しみいただければ嬉しいです。

 姉弟のサポートをしながら、学校生活や諸々で大忙しの騎士の少女なのでした。

 

 次回は再び姉弟の転移魔術開発に視点が戻る予定です。

 この数ヶ月で、彼らの魔術研究はどの程度進んだのでしょうか。お楽しみに!


 ※次回の更新は所用のため、11月16日(土)となりますのでよろしくお願いします。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ