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5 濃厚な料理。

本日2話投稿予定2話目です。

次回は明日0時以降投稿予定です。

 香ばしい匂いが家の中に立ち込める。


 姉のヴァイを収穫して数週間、いよいよこの日がやって来た。


「はい、簡単な料理だけど」


 母の言葉と共に出てくるのは、ヴァイゲ――ヴァイを水に入れて熱したお粥のような料理――だ。


 そう。

 今日はいよいよ、姉の育てたヴァイの試食の日。


 ヴァイゲはヴァイ自体を味わうための料理であり、本来なら素朴な味がするのだが、


「ほーじゅんなかおり」


「ルング、お前どこでそんな難しい言葉覚えたんだ」


 今日のヴァイゲは、これまで食べてきたどのヴァイゲよりも、ずっと濃厚な香りがする。

 水を吸うことで、膨らんだヴァイの粒は艶々と輝き、とても美味しそうだ。


 母の用意してくれた容器は三つ。

 

 姉の育てたヴァイを、魔力の濃淡(畑ごと)で分けて調理してくれている。


「ヴァイゲの魔力もすごいね!」


 ……姉さんの言葉通り、料理に魔力が満ち満ちている。


 調理の過程で、宿した魔力がどうなるのか気になっていたが、結局ヴァイに保有された魔力に変化はなかったようだ。


 ……というか。


 気のせいかもしれないが、心なし料理自体が魔力で光り輝いている気がする。


「じゃあ、食べましょうか? 私はこれから――」


 姉の育てたヴァイを食べるのを、母は心待ちにしていたようで、喜色満面の様子だ。



 俺はその母を、


「かーさん、まって」


 全力で止める。


 母が手に取ろうとしたのは、最も輝きの強い(魔力を宿した)ヴァイ。


 確かに、元々は普通のヴァイ。

 なによりも、姉が手塩にかけて育てたヴァイだ。


 ……だが、魔力の宿ったヴァイでもある。


 魔力は――それを用いた魔術もだが――まだ俺の理解の及ばない存在。

 それを母にいきなり食べさせるのは、少し怖い。



 おまけに躊躇わず一番魔力の濃いものを、食べようとするのだから、困ったものだ


 姉の育てたものだから、危険なことはないという確信――信頼があるのだろう。


 でも万が一を考えると、いきなり食べさせるわけにはいかない。


 ……せめて薄い方から。


 そしてできれば、頑丈そうな人から食べるべきだ。


 俺の考えがそこに至った時、姉と視線が交錯する。


 ……さすが姉さん。


 至った結論は、同じらしい。


「とーさん」


「お父さん」


 姉と声が重なる。


 同時に匙を輝き(魔力)の薄いヴァイゲに差し入れて、父の前へと差し出す。


「「あーん」」


 二人の行動に対する父の反応は涙。

 その茶色の目から、悲しみの水が溢れ出す。


「可愛い娘と息子よ、お前たちのそれは勿論食べたい。

 ……だけど、俺への心配はないのか⁉」


 父のツッコミに対して、俺たちは匙を同時に下げる。

 

 ……勿論冗談だ。


 父がこの中で一番頑丈なのは間違いない。


 とはいえ、魔力に関しては――どうなるかわからない。


 故に最初に食するのは、魔力の制御ができる俺か姉にしようと、事前にそう決めていたのだが――


「じょーだんだよ、とーさん。ねーさん、おれがたべる」


 冗談とはいえ、父に食べさせようとして自身の気持ちに気付く。


 ……この家族に、危ない目に遭って欲しくない。


「ルンちゃん、大丈夫? 私も一緒に食べるよ?」


 姉は心配そうに俺を見つめる。

 思いやり。

 人に寄り添う優しさ。

 俺を心配する黒色の瞳。


「ねーさん、そのきもちはうれしい。

 だが、まりょくのあるたべものは、はじめてたべる。

 なにがあるか、わからない。

 だからもし、おれになにかあったら、たすけてほしい」

 

 魔力のある食べ物を食べる。

 前世も含めて、初めての事だ。


 何もない可能性も勿論あるだろうが、何かある可能性もある。


 であれば念の為、魔術の扱える姉は、フォローに回ってもらいたい。


 姉は優秀だ。

 もし俺に何かあったなら、きっと助けになってくれるだろう。


「……わかった、ルンちゃん。

 お姉ちゃんに、任せておいて!」


 姉は小さい手で、自身の胸を軽く叩く。

 日に少し焼けた肌に、細い腕。


 けれど俺たちは知っている。


 その細腕で、一生懸命ヴァイを育てていたことを。


「私のヴァイを食べて、ルンちゃんが大きくなるの楽しみ!」


 そんなことを言いながら、天真爛漫な笑みを浮かべて、張り切って水を撒いていたことを。


 雑草が生えていないか。

 虫がついていないか。


 丁寧に確認していたことを――よく知っている。


 そんな姉が、一生懸命育てたヴァイだ。


 ……きっと大丈夫だろう。

 

 ヴァイゲを、自身の口へと運ぶ。


 口に含んだ瞬間に広がる甘味。

 さっぱりとした、自然の甘味だ。


 麦によく似た香り。

 水分の多く含まれた粒の中に、ほんの少し残っているモチモチとした弾力。


 ……滅茶苦茶美味い!


 これは間違いなく流行る。


「どう? 身体は元気? 大丈夫?」


 何も言わない俺を心配して見つめる姉に、

 

「ねーさん、だいじょうぶ。あじもさいこう」


 ぐっとサムズアップで応える。


 途端に姉の表情が明るくなった。


「とーさん、かーさん、うちのねーさんはてんさいだぞ」


 口の中にヴァイゲの風味が残ったまま、両親に姉を自慢する。


 このヴァイゲの美味さは尋常じゃない。

 母には悪いが、転生して食べた料理の中で、一番美味い料理と言っても過言ではない。


 だが、それ以上に素晴らしいことがある。


 それはある(・・)感覚だ。


 味もさることながら、身体に力が湧いてくる感覚。

 身体の芯が温まるような。

 何かが満たされるような。


 ……不思議な感覚だ。


 ふとここで思い立つ。


 ……今の俺の魔力(・・)は、どうなってるんだろう?


 魔力の宿ったヴァイゲを食べたことで、自身の魔力とヴァイゲの魔力にどんな反応があっただろうか。

 

 集中して、自身の魔力を確認すると、


「っ⁉」


 衝撃。


 ……魔力が回復している⁉

 ――ヴァイゲはオートミールのお粥みたいなイメージです。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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