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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
13歳 聖教国ゲルディ
130/245

6 未来と贈物。

 現在、火水木土日の週5回更新中です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

「……どっちとは、どういう意味ですか?」


 教皇の質問に、こちらから尋ね返す。


 ……パーシュ様には、何が見えている?


 世界の魔力を(・・・・・・)帯びた両の瞳(・・・・・・)

 こちらを見透かすような視線を、真っ直ぐに見つめ返す。


「ああ……ごめんよ。言葉が足りなかったね」


 パーシュ様はそう言うと、1度師匠に目を遣って告げる。


「君は魔術師としての高みに(・・・・・・・・・・)立っているのか(・・・・・・・)

 それとも私同様(・・・)未来(ツーカ)を持っているのか。

 どちらだろうという意味さ」


未来(ツーカ)?」


 聞き覚えのない単語に首を傾げると、大人しく話を聞いていた師匠が口を開く。


能力(フェイ)のことですよ」


「……ああ、なるほど」


 どうやらパーシュ様――というよりゲルディの住人がなのかもしれないが――は、スキルあるいは能力(フェイ)のことを、未来(ツーカ)と呼んでいるらしい。


「俺に……ツーカですか? そんなものは備わっていないですよ」


 以前エルフの魔術師トラーシュ先生にも聞かれたが。

 異世界転移者のほとんどが持つと言われた力を、俺は持っていないのだ。


 転生者だからなのか、他に理由があるのかは知らないが。


「となるとルング君は、魔術師としての高み(・・)に既に立っているのか。

 それはそれで、凄まじい。

 きっと、想像を絶する研鑽があったのだろうね」


 ……魔術師としての高み。


 先程から何度か連呼されているが、それもまた心当たりはない。

 未だ上級魔術も扱えない未熟者なのである。


「あの……パーシュ様。

 魔術師としての高みに立っているというのは、些か言い過ぎでは?」


 俺の言葉に、パーシュ様は首を傾げる。


「でも君は世界魔力(マヴェル)を扱えるんだよね(・・・・・・・・)

 それなら、魔術師としての高みにいるのは、間違いではないはずだが……」


 世界魔力(マヴェル)

 それもまた、トラーシュ先生とのやり取りに出てきた言葉だ。


 あらゆる生命に魔力は宿り、魂として輝いている。

 しかしそれは、生物に限らない。


 花の香りを運ぶ風。

 心地良い川のせせらぎ。

 植物を育む大地。


 全てに魔力は宿っている。


 ……世界は魔力で満ちている。


 そして確かに俺は、その世界の魔力を利用した魔術を扱えるが――


 ……どうしてそれを、パーシュ様が知っている?


 そう一瞬考えて、当然の結論に辿り着く。


「その目ですね。

 その世界魔力を湛えた目で、俺が世界魔力(それ)を扱えるのを、見抜いたんですね?」


 教皇は輝く瞳を細める。


「その通り。

 君がレーリン殿に匹敵する魔術師だということは、この目が見抜いた」


 そう言って自身の目を指差すパーシュ様に、恐縮した思いで答える。


「……評価していただけるのは嬉しいですが、化物と同じ扱いをされるのは――」


「だ、誰が化物ですか!?」


 ……そんなの、言わなくともわかるだろうに。


「ああ、良かった。初めて外したかと思ったよ……」と、教皇は分かりやすく安堵した表情を作る。


 その瞳は未だ、強く輝き続けている。


 ……不思議な感覚だ。


 魔術師(おれたち)が魔力を見る時も、似たような現象が起きる。

 自身の中心にある魔力(たましい)を制御し、自身の目に集めるのである。

 その時の魔力は、勿論自前の魔力だ。


 ……しかしこの人は。


 それを世界魔力でしているのだ。


 ……俺たちのそれと、違いはあるのか?


 見えている世界は違うのか?


 初めての事象である。

 興味がないはずがない。

 もう少し、観察してみたい。


 しかし、そんな俺のささやかな願いは届かない。


 パーシュ様が目を閉じると、世界の魔力は霧散する。


「ああ……もう少し調べたかったのに」


「ルング貴方、一国の代表を捕まえてよくそんなことが言えますねえ」


「ごめんよ……時間もないからね」


 師匠にだけは、そんなことを言われる筋合いはないと思うのだが。


 パーシュ様は、改めて俺に語りかける。


「これは私――パーシュ・ゲルベストのツーカ『看破(ベシュテン)』だよ。

 視認している相手が、世界魔力(マヴェル)と関わりがあるかどうかを、見極めることができる。


 ……こんな風にすればね」


 そう言うと再び世界魔力が(・・・・・)、教皇の目に集まる。


 ……つまり。


 今、目前で起きている現象。

 教皇の瞳が魔力で輝いているのは、魔力制御ではなく教皇のツーカ――スキルや能力(フェイ)によって起きた現象ということなのだろう。


 ……興味深い。


 発動条件は?

 どうして世界魔力なのか。

 目に集める魔力量を制御することはできるのか。


 あらゆることが気になってくる。


 そこでふと気づく。


 パーシュ様はツーカで俺を見て、こう言った。


「魔術師の高みにいるかあるいは、ツーカを持っているのか」と。


 断定ではない、絞られた2()()だった。


 その上今は、こうも言っていた。


 ツーカ『看破(ベシュテン)』によって、俺と世界魔力の関連(・・・・・・・)を見抜いたと。


 その事実は、ある予測(・・・・)を導き出す。


 ツーカ――スキルや能力(フェイ)は、世界魔力を利用する(・・・・・・・・・)のではないか?


 でなければ、世界魔力との関与を見抜いた後に、俺がスキルを持っているという選択肢を出さないだろう。


「パーシュ様。

 スキル(・・・)は、世界魔力を使用して発動するものなのですか?」


 ……もし、そうであるのなら。


 教皇の『看破』の際、目に世界魔力が集中しているのも納得がいく。


 ……面白い。


 もし俺のこの予測が正しいなら、世界魔力を見ることで(・・・・・・・・・・)スキル保有者を見抜く(・・・・・・・・・・)ことも可能(・・・・・)かもしれない。


 これは俺の転生のヒント探しに――


 ……うん?


 いつの間にか、場を静寂が満たしていた。


 パーシュ様の目の輝きも収まり、師匠の茶々すらない。


 何故だろうと考えたところで――


「ルング君!」


 緊張感に満ちた声が、聖堂内に響く。


「はい……パーシュ様」


 その声の主は、教皇パーシュ様。

 先程まで穏やかに話していたはずの教皇は今、鬼気迫る表情を浮かべている。


 ……いや。


 パーシュ様だけではない。

 師匠――王宮魔術師レーリン様もまた、珍しく険しい表情をしている。


「ルング……貴方どこでその言葉(・・・・)を?」


 ……その言葉?


「何のことですか?」


スキル(・・・)です。どこでその言葉を?」


 ……あ。


 思考の流れで能力(フェイ)でも未来(ツーカ)でもなく、スキルと言ってしまったようだ。


 そして、教皇と師匠の過敏な反応を見る限り――


 ……「スキル」という言葉は、禁句のように扱われているらしい。


 さて、どうしたものか。


 俺の転生を今(・・・・・・)話すべきか(・・・・・)


 正直にその話をすれば、俺がスキルという言葉を知っていたことも説明がつくだろう。

 

 ……だが、その気にはなれない。


 師匠と教皇の反応が、どうにも気にかかる。


「スキル」は元々、俺の世界の言葉だ。

 それが忌み言葉の様にされているのなら、転生者もまた忌まわしき存在と扱われる可能性は0ではない。


 トラーシュ先生は、異世界転生者だろうと差別などされないと言っていたが。


 しかし現在の空気から、それを鵜呑みにすることはできない。


「えっと……学長のトラーシュ先生からですけど。

 言ってはダメな言葉なんですか?」


 ……という訳で。


 全責任を、歴史の目撃者であるエルフの魔術師へと押し付ける。


「ああ……トラーシュ先生なら、仕方ないですね。

 若者にこんな言葉を吹き込むなんて、これだから長命種(おばあちゃん)は」


 やれやれと師匠は呆れた様に呟く。

 その声に、先程の様な圧はない。


「ルング君、気を付けた方が良い」


 しかしパーシュ様の表情は、未だ険しいままだ。


その言葉(・・・・)を――」と教皇は言葉を選ぶように、慎重に述べる。


その言葉(・・・・)を使うのは気を付けてください。


 確かに意味合いは、ツーカや能力(フェイ)と同じかもしれません。


 しかし、その言葉は特別なのです……良くも悪くも(・・・・・・)ね。


 なにせその言葉は、魔王が自身の能力を称(・・・・・・・・・・)した言葉ですから(・・・・・・・・)ね」


 ガツンと殴られたような衝撃が走る。


 ……魔王が使用していた言葉。


 エルフの魔術師トラーシュ先生の友人――勇者。

 その勇者と相打ったと言われる魔王が、スキルという(その)言葉を使っていたのか?


「なのでレーリン殿の様に能力(フェイ)と……これはこれで古めかしい言い方だけどね。

 そう呼ぶか、あるいは私の様に未来(ツーカ)と呼んだ方が良いかな」


「……はい、分かりました。すみませんでした」


 俺の謝罪にようやくパーシュ様は表情を崩す。


「いや、知らなかったなら仕方ないさ。

 こちらこそ、急に怒鳴って申し訳ない」


 頭を下げる教皇に、師匠が話題を変えるように尋ねる。


「そういえば教皇様たちは、能力(フェイ)のことを、未来(ツーカ)って言いますよね?

 どうしてですか?」


 個人的には、勇者や魔王の話も気になる。

 しかし、その呼び名の件も確かに気になっていた。


 スキルが禁句になっているのは置いておくとしても、パーシュ様は明確にそして執拗に(・・・)未来(ツーカ)としか呼ばない。


 呼称に関して頑ななのだ。


「そうですね……私たちは能力(フェイ)を、2種に区分しているんです。

 その1つが未来(ツーカ)です」


「もう1つは?」


 間髪入れない師匠の疑問に、教皇もまた即座に答える。


「もう1つは贈物(ゲッシェ)と呼んでいます」


「ゲッシェ……その2種類は、どういう基準で分けているんですか?」


 ……教皇様は、先程からツーカしか言葉にしていない。

 

 ゲッシェとは一切発言していないのだ。


 その2つに、どんな違いがあるのだろうか?


 俺の問いに、パーシュ様は微笑む。


「そうだね……では、レーリン殿。

 貴女は、能力(フェイ)についてどうお考えですか?」


「能力ですか?

 気に食わないですが、神とやらから才を貰ったんだろうなって感じですかね?

 まあそれでも、戦えば私が勝ちますけど」


 師匠の自負を覗かせた答えに、教皇はコクリと頷く。


「レーリン殿と似た様に考える人は多いですね。

()神から与えられた才能』だと。


 ……でも、本当にそうでしょうか?」


 そう言うと再度、世界魔力がパーシュ様の目に集まり始める。


「私のこのツーカ――『看破』は、幼い頃からできました。

 しかし本当にこれは、女神様から与えられる程の才能と言えるでしょうか?」


 そう言うと、パーシュ様は俺たち2人を視界に収める。


「だって魔術師(あなたたち)にも、世界魔力(マヴェル)は見えますよね?

 なんなら私よりも深く。


 それも世界魔力など使用せずともね。

 つまり私の『看破』は、あなた方の下位互換に過ぎないのです」


「いや、そんなことは……」


 パーシュ様は首を左右に振る。


「恥ずかしながら、幼少期の私は増長していたものですよ。

 私――俺はこのツーカがあるから『特別なのだ』と。

 他者を見下すことすら、あった様に思います」


「しかし」と教皇は続ける。


「ある日、とある年下の魔術師に出会ったのです。

 彼は私よりも遥かに特別で、それでいて好奇心に真っ直ぐな男でした。


 ……恥ずかしかった。


 他者を見下して、自尊心を満たす。

 他者と比較してしか、自分の価値を誇れない。


 彼と接して、そんな矮小な自分が情けなくなったんです。


 そう考えた時に、この呼び名がストンと胸に落ちてきたのです。


 未来(ツーカ)


 あくまでそれは、私が将来できるようになる(・・・・・・・・・・)ことを(・・・)世界魔力で先取りして(・・・・・・・・・・)再現しているに過ぎな(・・・・・・・・・・)()のではないかと。

 

 特別な力などではなくて、私の努力の先にある未来を教えてくれているのだと。


 そう思えるようになりました。

 

 例えば今、聖騎士の中には『騎士(ヘンレッタ)』のツーカを持つ子がいます。

 その子は身体が勝手に動いて、騎士の剣技を放てるそうです。


 勿論、それは凄いと思います。


 しかし彼が真剣に努力を続けていくのなら、将来ツーカなど利用せずとも、その剣技は扱える。


 そう思えるのです。


 だから未来(・・)でツーカ。


 私たちの未来における技量や能力を、世界魔力が現在に出力する。


 言うなれば前借り(・・・)の力を、ツーカと定義しているのです。

 幼少期には特別に感じるかもしれませんが、鍛錬を積み続ければ、ツーカがなくともいずれ届く力をね。


 そして反対に、贈物(ゲッシェ)の方は――」


「「そうではないもの……ですか?」」


 師と揃った言葉を、教皇は肯定する。


「そうです。


 成長しても、再現できない現象を顕現させる力。

 明らかに人の域を超えた力。


 それをツーカと分けて、贈物――ゲッシェと呼称しています。


 女神エンゲルディ様から授かった、本当の贈物(ギフト)

 神の力の片鱗が、垣間見えるものをね」


「……そんなゲッシェを持つ者なんて、いるんですか?」


 師の問いに、たった1人だけ頭に過ぎる。

 会ったことはない。

 本の中でしか(・・・・・・)、見たことがない。


 そんな候補が、1人だけ存在する。

 

「私がそうなのだろうなと考えているのは、1人しかいません。

 そして歴代の教皇たちも、そう考えていたようです」


 遥か昔。

 トラーシュ先生と共に歩んだ人。

 トラーシュ先生が、友人と称した人。


「……勇者アンビス(・・・・・・)。『転生』のゲッシェ(・・・・)を持った、異世界転移者。

 彼女だけが、真の意味で女神に愛された者だと、私たちは考えているのです。

 彼女は快活で勇敢で、何より優しい人だと伺っていますから」


 ……勇者の『転生』。


 それが女神からのゲッシェだというのなら、俺がここに来たのも女神の思し召しなのだろうか。

 

 分からない。

 なにせ俺は、女神とやらに会ったことすらないのだから。


 ……勇者のことを知れば。


 そのあたりの事情も明らかになるのだろうか?


 教皇パーシュ様を見つめる。

 勇者の性格等に言及しているあたり、彼は勇者のことを詳しく知っている様だ。


「あの……パーシュ様。もっと――」


 ……勇者のことを教えて欲しい。


 そうお願いしようとしたところで、


「パーシュ様、そろそろお時間です!」


 ……残念ながら、時間切れとなる。


「おっと、もうそんな時間かい?


 ……ルング君、申し訳ないね。この話はここまでだ。


 残念だが、また次回。

 もっと時間がある時にね。


 ……レーリン殿。

 担当の者がおりますので、仕事の打ち合わせはその者としてください。

 ルング君も、光属性魔術の授業の話はその人と。


 では2人とも本当にこちらに来ていただき、ありがとうございます。

 少しの期間ですが、よろしくお願いします。


 2人の行く道に、主のご加護があらんことを」


 こう言って教皇パーシュは胸元のネックレスに願いを捧げると、彼に呼び掛けた少女と共に、足早に去っていった。

 ――未来(ツーカ)贈物(ゲッシェ)、2つ合わせて能力(フェイ)ということです。

 それらの使用には、世界魔力が使われているようです。

 今後のルングたちに、ツーカやゲッシェがどう関わっていくのか、お楽しみに!


 ※次回から新たな登場人物が出てくるので、よろしくお願いします。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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