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どうして異世界に来ることになったのか。  作者: スポンジ
13歳 聖教国ゲルディ
125/245

1 魔物除けの葉の特性。

 現在、火水木土日の週5回更新中です。

 次回の投稿時間も午前6時台となっていますので、よろしくお願いします。

 冬の冷たさがすっかり和らぎ、心地よい日差しが畑へと降り注ぐ春。


「社長って、見かけによらず(・・・・・・・)魔力制御、繊細ですよね……凄いです」


 感心した声が畑の脇――実験用に作られた広場に響く。


 声の主は、質素なシャツにパンツ姿。

 十代序盤の可愛らしい少女ではあるのだが、彼女には取り分け人目を引く部位があった。


 ピンと天を突くように伸びた尻尾(・・)に、頭上で動く綺麗な三角耳(・・・)である。


 猫耳――獣人の少女の視線は、目前で展開される魔術に釘付けだ。


 そんな少女に対して、心底愉快そうな声が応える。


「ふふふ……そうだろう、そうだろう。

 社員ナンバー1、ラーザよ。もっと褒めるがいい!」


 少女より少し年上の、黒髪の少年である。

 そんな尊大な少年に、少女は軽妙に合いの手を入れる。


「ははあ! 社長最高! 天下一! 大金持ち!」


「「ふふふふ……はははははは!」」


 2人の声量は徐々に大きくなり、隣の広大な(・・・)畑を包み込んだ。




「……でもこれ(・・)、相変わらず結構匂いしますね。

 ヴィー姉ちゃんだったら、卒倒しそう」


 獣人の三女――ラーザは鼻を抑えながら(・・・・・・・)()の魔術をじっと観察している。


魔物除けの葉(・・・・・・)を潰して、魔術の水に溶かしたものだしな……。

 それでも、改善した方なんだぞ?」


 俺の言葉に少女は納得するように頷く。


「確かにこの丸薬(・・)よりも、プルスー(・・・・)本体の方が臭いますね」


 俺たちの見つめる先では、親指程度の大きさの球体が乱回転している。

 こうやって内容物を攪拌することで、内容物の偏りを減らそうとする試みだ。


 その球体のすぐ下には、魔術によって生じた火。


 この火によって、人間並の大きさだった球体の水分は徐々に蒸発し、現在のビー玉サイズまで縮小し、反対にその色合いは透明度の高い薄緑から、光を通さない重苦しい深緑へと変貌したのであった。


「……こんなもので良いか」


 制御していた()()の魔術を解く。


 ポトリ


 すると俺の掌に、深緑の丸薬が落ちてくる。


「これ1個に、プルスー(・・・・)が何百枚も使われてるんですよね……不思議」


 少女は、しげしげとその丸薬を眺めている。


 彼女――獣人3姉妹が、魔物をやり過ごした時に発見した植物。


 俺たちはそれにプルスーという名前を付け、ここ数ヶ月実験してきた。

 すると、いくつかの特性を持つことが判明した。


 1つは、その葉に魔力を吸収する能力があること。


 これは発見時から分かっていた特性ではあるが、数ヶ月の調査と魔物を相手取った実験により、プルスーの魔力吸収能力が、魔物には直接作用する(・・・・・・・・・・)ことが判明した。


 要はこの葉に魔物が近寄ると(・・・・・・・)魔物の体内を満たして(・・・・・・・・・・)いた魔力が吸収され(・・・・・・・・・)魔物自体が弱ることに(・・・・・・・・・・)なる(・・)のである。


 短時間でも魔力の減少は確認され、それが長時間となると生命の危機に陥る可能性すらある。


 それ故に魔物たちは、この葉を避けるらしい。

 その結果が魔物除けという形で、表面化していたようだ。


 ちなみに、魔物以外の生物の体内から魔力を吸収する現象は、見られなかった。


 試しにその葉を長時間所持してみたのだが、大気の魔力を吸収するばかりで俺の体内から魔力を奪うようなことは、確認できなかった。


 ……原因は何だろう。


 そう考えたところ思い当たったのは、魔物と通常の生物との最大の相違点。


 魔石だ。


 その有無が、葉の魔力吸収に影響を及ぼしているような気がするのだが、推測の域を出ない。


 これに関しては、今後の調査で解明していく予定である。



 次の1つは、前述の魔力吸収効果が、葉の形状を取っている(・・・・・・・・・・)()にしか、発揮されないということだ。


 葉として存在しない――つまり何枚かに切り分けたり、すり潰したりしてしまえば、魔力を吸収できなくなるのである。


 ……不思議だ。


 それが意味するのは、魔力の吸収が葉の成分によるものではなく、葉の形状が因をなして生じたということだ。


 ……あるいは。


 植物の葉という概念そのもの(・・・・・・)が、魔力吸収効果を発揮しているかのような不思議な感覚だ。


 ……まあ、それは一旦置いておくとして。


 掌を見る。

 そこに存在するのは、深緑色の球体(・・)


 ……つまり今――


 プルスーを用いて精製したこの丸薬には、魔力を吸収する――魔物除けの効果はないということだ。


 では、どうして魔力吸収効果(葉の形)を解いてまで、丸薬にしたのかというと――


「うわ……輝き始めましたよ? 社長⁉」


 これがもう1つの、際立った特性。


 葉以外の形に加工(・・・・・・・・)することで、これまで吸収貯蔵してきた魔力(・・・・・・・・・・)を、その加工物が宿す(・・)ことができるのだ。


 ……前世に存在した、種々の保存則はどこにいったのだろう。


 そんなことを思いもする。

 ちゃんと適用されているのか、あるいはこの世界では別法則が用いられているのか。

 それとも魔力には、適用外なのか。


 ……何が起きているのか分からないのは、落ち着かない。


 故に今後の研究で、世界の法則等も明らかにできればと思う。


 そんな魔力の複雑な法則事情に対して、この丸薬の効果は分かりやすい。


 端的に言えば、魔力を宿したヴァイと同じだ。

 この丸薬には、魔力を回復する効果がある。

 それも、魔力ヴァイよりも遥かに効率よく。


 1粒食べれば、魔力が全快する。


 そんなとんでもアイテムであることが、判明したのである。

 これがあれば、魔力切れを気にせず長時間の実験に臨むことも可能。

 馬車馬のように働ける、夢のアイテムなのだ。


 ただ強いて欠点を挙げるとすれば――


「じゃあ、ラーザよ。食べてみるか?」


 俺の問いに、社員(ラーザ)はひどく顔を歪める。


「嫌ですよ! それ、滅茶苦茶不味い(・・・・・・・)じゃないですか!

 ただでさえ臭いも厳しいのに!」


 ……不味いのである。


 異常な苦みとえぐみ。

 尋常ではない青臭さ。

 水分は飛ばした丸薬のはずなのに、食べた瞬間広がるドロリとした感触。


 特に毒性があったりするわけではない。

 ないのだが――


 ……現時点では、改良必須の代物だ。


 緊急事態でなければ、絶対に食べたくない。


「とりあえず、後何個製造予定なんですか?」


「残り1個だな」


 ……誰に食べさせたものか。


 今、俺が世話になっているランダヴィル伯爵家や仕える使用人の方々には、既に味見してもらった。


 魔術学校のあるアオスビルドゥング公爵領とも頻繁に行き来しているため、公爵様やアンスたちにも既に食べさせている。


 幼馴染のリッチェンに至っては、何度か騙して食べさせた。

 その結果、最近では俺の持ち込む食べ物を反射的に疑ってくるので、ほとぼりが冷めるまでは頼めない。


 ……アンスやザンフ先輩の食事にでも、混入するか?


 でも、臭いと魔力でバレるからな……どうしたものか。


「社長が食べた方が良いと思いますよ」とラーザはポツリと呟くと、更に続ける。


「まあ……その被験者――被害者になるのはごめんですが、私が最後の1個をお手伝いしても良いですか?」


「勿論良いぞ。やってみてくれ」


 俺の言葉に、少女の耳と尾が喜ぶ。


「了解です! 最初は……水の魔術(・・・・)で良いんですよね?」


 少女は少し前に目覚(・・・・・・)めた水の魔術(・・・・・・)で、水の球を作り出す。


「良いだろう、次に回転させて――」


 こうして社長(おれ)社員(ラーザ)による商品開発は、続く――


 ボコ


「む?」


 ……続くかに見えたが、俺たちの足元の地面が盛り上がる(・・・・・・・・)


 魔術の気配。

 それもこれは――


「うわあああ⁉ 社長、これ何ですか⁉」


 ラーザの悲鳴を背景に、地中で途方もない量の魔力が展開される。


「ラーザ、飛ぶぞ。『風よ、運べ(ヴィントラーゲン)』」


「え、えええぇぇぇぇ⁉」


 言うや否やひょいとラーザを肩車し、春の大空へと飛び上がる。


「しゃ、社長! た、高いです!」


「大丈夫だ。落ちても拾える。

 余裕があるなら、そのまま丸薬作りに戻っていいぞ?」


「こんな時に、できるわけないでしょう⁉」


 宙に静止し、大地を見下ろす。


 魔力の犯人は(・・・・・・)分かっている(・・・・・・)

 問題は、動機だ。

 どうしてこんな真似をしたのか。


 それを問い質さなければならない。


 地中に広がった常識外の魔力が、先程盛り上がった一点に収束し――


 ボンッ


 音と共に、地中にいた犯人が空へと解放される。


 ……速い。


 そのならず者は、恐るべき速度でこちらへと迫ってくる。


 この人(・・・)は何をやっているんだ。


「ちょっと動くぞ」


「り、了解です!」


 飛翔者は自身に集中していた魔力を維持しながら、こちらの正面に突撃する。


 ……まだまだ甘いな。


 速度は十分。

 パワーも適当。

 魔術・魔力の精度は共に精巧にして精緻。


 しかし――


 ヒョイ


 軌道は単純。


 俺が行ったのは、衝突スレスレのタイミングでの回避だ。

 距離にして腕の長さ程度の移動。


 しかし、高速で直線軌道を飛翔する(なぞる)者からすれば、ほんの少しの変化が致命的な齟齬へと繋がる。


 ビュン!


 俺の居たはずの場所を、風を引き連れた少女(・・)が突き抜ける。

 直後に風の魔術による急制動が行われた。


「もう! ルンちゃん!

 お姉ちゃん(・・・・・)の抱擁を躱すなんて、弟にあるまじき行為だよ⁉」


「……あんな速度の突撃を食らったら、死ぬぞ。姉さん(・・・)


「えーそうかなあ?」と、()は太陽を背に首を傾げると、


「ルンちゃんなら私を抱きとめて、甘い言葉を囁いてくれると思うけど?」


 ニッパリと満面の笑顔を浮かべたのであった。

 ――新章開幕です。

 獣人の姉妹が見つけた魔物除けの葉には、こんな特性があったのでした。

 さて、久しぶりの姉登場ですが、何のために少女は来たのでしょうか?

 次回以降のお話を、お楽しみに!


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

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