表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/245

1 姉の実験。

本日3話投稿予定の1話目です。

次の話は12時以降に投稿予定です。

「うーん」


 我が家の畑の隅に、佇む影が1つあった。

 風に髪の毛がふわりと靡き、茶色の髪が陽光に照らされ輝く。

 質素なスカート姿から伸びる、日に焼けた細い手脚。


 少女の名はクーグルン。

 転生した俺の姉である。


 考え込む様に腕組みをしている姿は、本人からすれば真剣なのだろうが、傍から見ると、とても愛らしい。


「むーん」 

 

 姉は仁王立ちの構えで、ずっと唸っている。


 ……何をしてるんだろう?


 赤ん坊として生まれ変わって早3年(・・)

 未だに姉の生態は、掴み切れていない。


 畑の中へ入り、彼女の足元までよちよち歩く。


 ようやく安定して移動できるようになってきたが、それでもまだまだおぼつかない。


 やっとのことで辿り着いて、姉を見上げる。


 母によく似た黒の瞳は、いつもの爛漫な笑顔が嘘のように、理知的な色を帯びている。


「どうした? ねーさん」


 流暢に発音するのは、まだ難しい。

 自身の回らない口に、多少の羞恥はあったが、それよりも姉が何を考え込んでいるのかが気になる。


「ああ、ルンちゃん! よく歩けたねえ! 大丈夫だった?」


 先程までの真剣な表情が打って変わって、華やかな笑顔を姉は浮かべる。

 ここ数年の少女の成長を感じさせる、可憐な笑顔だ。


「だいじょうぶ。おれも、もうおとな」


「そうねえ。ルンちゃんも大きくなったねえ」


 そう言って姉は、俺の頭を撫でる。


 土と草の匂い。

 働き者の香りだ。


「それで、ねーさん。なにしてる?」


「えっとね――私の(・・)作物を見てたの」


 姉が見ていたのは、小さい畑。

 畳数枚分ほどの面積の、小さな畑だ。


 畑は三枚の区画に分けられ、各区画には成長した作物が並んでいる、


「成長の違いが面白くて」


「うん? せいちょうのちがい?」


 そこで姉が(・・)育てているのは、前世でいうところの麦に少しだけ似た作物。

「ヴァイ」と呼ばれている作物だ。


 畑の作物に目を遣ると、一見3枚の畑のヴァイは、見事な成長を遂げているように見える。


 しかし――


 ……本当だ、全然違うな。


 姉の言う通り、ヴァイは区画ごとに成長の度合いが、大きく異なっていた。


 1枚目の畑のヴァイは、父が育てているヴァイとほぼ同じ……否。

 少しだけ大きいだろうか。


 青々としていて、とても元気そうだが、良くも悪くも見慣れたヴァイである。


 2枚目の畑のヴァイは、先程(1枚目)のヴァイよりも二回りは大きい。

 ヴァイ自体の長さもさることながら、(かん)の太さもより太く、よく育っている。


 そして最後の1枚で育つヴァイは、父のヴァイと比べてもずっと小さい。


 ……最後のヴァイは、出荷にも足りない長さのように見えるが――妙に気になる。


「ああ……そうか。

 ねーさんがい(・・・・・・)ましている(・・・・・)のは、ヴァイのせいちょうと、まりょくのかんけいせいについてのじっけんだものな。

 おれも、ちゃんとさんかしたかった……」


 俺の不満顔に、姉は苦笑いを浮かべる。


「仕方ないでしょう?

 お父さんの言いたいこともわかるし」


 父ツーリンダーは1年程前、姉に農地の一部を与え、


「クーグルン、自由(好きに)にしていいぞ」


 と告げたのだった……俺に手出しを禁じて。


 おそらく父としては、遊び場にしたり、姉自身で管理することで責任感を持って欲しいとか、そんな狙いがあったのだと思われるが――


「じゃあ、私、やってみたいことがあるの」


 そう言って姉がその場で始めたのは、魔術の練習だった。

 既に家では、姉の魔術――魔力を解放するには狭かったからだ。


 こうして姉は、魔術を外で扱うようになっていったのだが――


 ……ホント何があったのか。


 いつの間にか姉は魔術の練習だけでなく、魔術で作物を育てる(・・・・・・・・・)ようになっていた(・・・・・・・)


「それで……なにがきになる?」


「うーん、いくつかあるんだけど――」


 姉は少し考える仕草をすると、


「ルンちゃん、どのヴァイをどんな風に育てたか知ってる?」 


「ううん、しらない」


 正直に、首を横に振る。

 姉の実験場所(敷地)には手を出さないようにという、父のお達しをちゃんと守っていたからだ。


 ……おかげでこんな楽しそうな実験に、口しか(・・・)出せなかったわけだが。


 意外な所でちゃんと親をしている父が、少し恨めしい。


「じゃあ、ちょうどいいかな。

 ルンちゃん、この三つの畑……って規模じゃないけど、畑の中で水魔術で水やり(・・・・・・・)をしたのはどの畑でしょう?」


 元気のいいハキハキとした物言いで、姉はクイズの様に告げる。


 水魔術での水撒きによる、ヴァイの成長度合いの比較。

 それが姉の現在行っている実験である。


 おそらく比較検討するために、普通の水と魔術の水とで、育てたヴァイを区画ごとに分けているのだろう。


 しかし――


「ねーさん、それをみぬけばいいのか? かんたんだぞ?」


 ……甘く見てもらっては困る。

 

 そんなのは問題にすらなっていない。


「えー? 何でー?」


 理由は単純だ。


 ……魔術で水やりをしているのなら、魔力――白光の痕跡が残っている。


 通常の水の中に、魔力の輝きは見えない。

 それに対して、水の魔術で生み出した水は、魔力によって淡い白色に輝いて見えるのだ。


 春過ぎに種まきをして、今は夏真っ盛り。

 作物への水やりは最低でも、週1回以上はしたはず。


 その頻度で撒いたのなら、確実に――間違いなくわかる。


 魔力を見れば(・・・・・・)いいだけなのだから(・・・・・・・・・)


 育ったヴァイを見る。

 初めて白光(魔力)を見た時と、同じ視界が広がっていく。

 赤ん坊の時には集中しなければ見られなかったこの光景も、今では見慣れたものだ。


 ……これで魔力を帯びたヴァイが見えるはずだが――


「えっ⁉」


 目を疑う光景に、思わず声が漏れる。


「ほら、難しいでしょう?」


 姉のどうだと言わんばかりの笑顔は、少し鼻につくが――確かに悩む。


 姉は優秀だ。


 その姉が魔力を見るなんて、初歩の判別方法を思いついていないはずがなかった。


 すなわちそれは――魔力を見た上で、何か悩むような現象が起きたということ。


 ……その現象がこれ(・・)か。


「ねーさん、どうしてすべてのヴァイが、まりょくをおびてるんだ?」

 

 区分けされたはずのヴァイ。

 その全て(・・)が、魔力の光で輝いていることが、姉――クーグルンの悩みの種の様だ。


 ――この章から主人公のルングは3歳、姉のクーグルンは6歳くらいになっています。


 本作『どうして異世界に来ることになったのか。』をお読みいただき、誠にありがとうございます!


 今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 ではまた次のお話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ