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10話 ステータス画面

『創世神エルステラ』との会合を経てすぐのこと。教会の外に出るや否や、俺は早速貰った指輪を装着していた。


(うん、大きさはぴったりだ!)


 指に嵌めたそのリングは、日の光を反射して白く輝いていた。

 天啓の指輪。創世神から授けられたステータス開示用のアイテムだ。ようやく手に入った最重要アイテムに思わず頬が緩む。


「じゃあ早速、試してみようかな。確か、心の中で能力値の表示を念じるんだよな……」


 そして、念願の時はやってきた。この教会に来た唯一の目的を果たす時だ。


 先ほど神様に言われた表示方法を思い返して、とりあえず実行してみることにする。もちろん現実で使うのは初めてだし、色々と手探りでやっていくしかないだろう。

 

 ――ステータスオープンっ! こんな感じかな?


 一度言ってみたかったセリフを脳内で唱え、指輪の反応を待つ。詳細な合言葉は伝えられてないし文言はなんでもいいはずだ。どうせなら異世界ファンタジーっぽい感じでいこう。


 と、唱えてからほんの数秒後。


「おっ、出て来たぞ!」


 目の前にホログラムのような透明な板が出現した。どうやら狙い通りうまくいったみたいだ。やはり文言はステータスオープンの一言に限る。


「……えっと、なになに。『能力値』と『習得魔法』か。うん。本編と全く同じだ」


 そこには二つの項目を示す文字のみ浮かんでいた。『能力値』と『習得魔法』。各項目の詳細を知るにはもう一度ボタン入力が必要みたいだ。


(コントローラなんてないし、指で触れればいいのかな?)


 見覚えのあるフォント、見覚えのあるボタン配置。液晶の機器に触れるように、文字の上に指を運ぶ。


 表示させるのは、もちろん『能力値』の方だ。

 敵モンスターやイベントごとの難易度の目安として重宝するのがこの数値。敵わない相手かどうか見極めたり、ストーリーの進捗度と比較して足りない能力を補うなどの調整を可能にする便利なものだ。つまるところステータスとは、八割がたこの能力値のことを指すのである。


(こんなにリアルな世界でゲームオーバーとかシャレにならないし、ステータスは生命線になるだろうな)


 ここが現実である事を考慮に入れれば、さらにその働きは必要不可欠なものになるだろう。慎重に、余裕を持って、計画的に。この指輪の権能を生かしたそれらの配慮は今後最大限していくつもりである。

 

 そんな事を考えながら、『能力値』との文字に指の腹で触れた。


 ピッ、という電子音と共に新たに表示される画面。そこには各能力値の詳細が映し出されている。


 並んでいたのは見覚えのあるステータス画面――


「…………ん?」

 

 ――の、はずだった。


 ――


 ニコラ・エヴァンス


 総合戦力 0 (F)


 攻撃魔法 0 (F)

 支援魔法 0 (F)

  剣術  0 (F)


 魔力量 100/100


 ――

 

 画面から放たれる光に照らされる自身の面。指を画面に沿わせた体勢のままで俺は硬直した。


「な、なんだこれ? ……見間違いじゃないよな? なんかゼロが並んでるんだけど!?」

 

 思わず声を漏らした。本来なら初期から全て『100』前後の数値があるはずなのだ。それなのに、今目の前にある数字は衝撃のオール『0』である。


(……バグってるのか?)


 もはや不具合としか考えられなかった。一応、右上のばつ印で画面を閉じてみる。


「もう一回開いて……って、やっぱり『0』……!?」


 しかし何度試しても結果は同じだった。突如として先程までの能天気な空気が打ち砕かれる。


「どういうことだ? そもそもニコラは魔法学園の生徒なんだぞ。この数値はおかしいでしょ……!?」


 驚いたのには、ここが王国一の魔法学校であることに一因があった。

 

 主人公であるニコラには入学までにこの世界で蓄えた知識がある。さらに、この有名な学園の試験を正攻法で突破し、少なくとも魔法と剣術において常人以上の才能や知識、経験があるはずなのだ。いくら能力値が低くてもゼロはあり得ない。才能云々とか以前に能力が皆無というのは不自然である。

 

「……って、待てよ?」


 と、その時額を一筋の汗が伝った。脳裏に浮かんだのは一つの可能性である。


 たしかに、二コラにはこの世界で培った経験がある。でも……。


「俺に、ニコラの記憶がないから……!?」

 

 当たり前のことに今更気がついた。


 なぜ今朝の時点でこの結論に至らなかったのだろうか。今の自分にはゲーム知識はあっても、ニコラの経験や知識はない。

 それはすなわち、魔法と剣術の双方において全くのど素人が学園に入学したことを指す。たとえ剣術や魔法の実技試験を入学前に突破していようが関係ない。なぜなら俺自身はそれらを経験していないのだ。


 この能力値皆無のステータスは、紛れもなく本物である。


 ――ただ、少し言い直すとすれば、これは()()()()()における能力値だったのだ。


「……嘘、だろ?」


 憧れの学園生活の理想像が、瓦解する音がした。現実とは時に残酷なものである。ようやくゲームっぽくなるはずだったのに、なんだよこの仕打ち。俺が一体何したっていうんだ!?


 何度憂いても現実は覆らない。思い描いていたゲーム内の生活がどんどん消滅していく。


 クラスの人気者になるのも、ヒロインと仲良くするのも、隠しアイテムの収集も、モンスター素材で作る武器や装備の充実も全部霞んでしまう。展望は一瞬にして水泡に変わった。

 

 ふと、もう一度ステータス画面に目をやる。


(……習得済みの魔法は?)


 能力値の項目の次、『習得魔法』の文字を発見する。すかさず何かに縋るようにその文字をタッチした。


 ――

 習得魔法

 

 なし


 ――


(だと思った! 魔法の能力値ないのに魔法が使えるわけないもんね!)

 

 念のため確認した習得魔法も全滅。本編であれば、数種類の下級魔法を既に会得しているはずである。不安と焦りが脳裏に渦巻いている。俺はどうしようもない現実を味わいながら頭を抱えた。


「まずい。このままだと、どのイベントも乗り切れないぞ……!?」


 これからニコラに待ち受ける数多の困難。


 それは、どれも魔法や剣術なしには乗り切れないのだ。特に戦闘パートでは命の危険さえ存在する。凶悪なモンスターや、敵対する人物に素手で挑んで勝てるわけがない。


「それに……」


 その時、真っ先に脳裏に浮かんだのは、中でもゲーム序盤の一大イベントだった。


「『ダンジョン』で行われる実技試験まで、あとちょっとしかないぞ!?」


 それは『ダンジョン』と呼ばれる巨大な地下迷宮で行われる最初の学内試験。一定の成績を出さなければ、即ゲームオーバーという最序盤の分岐点である。


「呑気に突っ立ってる暇はない。ひとまずルーカスに色々聞かないと!」


 彼自身の魔法の習得率や、学内施設の利用方法など確かめたいことは山ほどある。少しでも時間が惜しいと嘆きながら、一目散に校舎へと駆け出した。


 ――実技試験までの猶予は、今日を含めて残り14日である。

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