双子座のキセキ〜CosmicPlanet〜
【キャラクター】
石竹 藍(♀)
システムのプログラミング管理者。
基本しっかり者。大のプログラミング好きで、熱中すると周りが見えなくなる。
明るく外交的だが、物忘れが多いのが玉にキズ。
御神 白(不問)
プロジェクトの現場監督責任者。チーフ。
芯の通った性格だが、物腰は柔らか。
ホワイトな職場をモットーにしている。
ちょっと不思議な一面も。
烏羽 テト(不問)
現場監督補佐。男なのか女にも見えるし、
子どものようでも大人のようでもある。
基本はテキトーな性格だが、時折冷静な面も。
掴み所がない雰囲気がある。
牡丹(♀)
プログラミング担当社員。天真爛漫かつふわふわとした女の子。
一見ぶりっこだが、不思議と鼻につかない。
とある秘密がきっかけで、烏羽を毛嫌いしている。
半面、石竹の事が大好きのようだ。
■AI1 (不問)
プラネタリウムの投影機のシステムの一部。双子のAI、その片割れ。
□AI2 (不問)
プラネタリウムの投影機のシステムの一部。双子のAI、その片割れ。
【配役表】
────双子座のキセキ〜CosmicPlanet〜────
作:さもえどさん
https://ncode.syosetu.com/n3118ie/
藍 :
白 :
テト :
牡丹 :
■AI1/ポルックス/??1/MA1:
□AI2/カストル/??2/MA2 :
(名前の□や●などのマークで検索いただくと、兼ね役も一緒にマーキングできます)
【台本について】
・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ X: @samoedosan
・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。
・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。
・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。
【配役表】
・藍
・白
・テト
牡丹
■AI1
□AI2
~~~~序章~~~~
■AI1 :ねぇねぇじぶん。
□AI2 :なぁに、じぶん。
■AI1 :どんな星につくんだろうね。
□AI2 :どんな星なんだろうね。
■AI1 :たのしみだね。
□AI2 :言葉は話せるのかな。
■AI1 :知能はあるのかな。
□AI2 :文明は、発展してるのかな。
■AI1 :どんな生態なのかな。
□AI2 :しりたいね。
■AI1 :しりたいね。たのしみだね。
□AI2 :たのしみだね。
間
□AI2 :(同時に)ふふふ。
■AI1 :(同時に)ふふふ。
~~~~シーン①~~~~
某県、下井戸市。
12月中旬。コズミックプラネタリウム下井戸、事務所。
オープン準備に追われるメンバー。
藍 :音響準備オッケーだよ、ぼたんちゃん。
牡丹 :ありがとうございますぅ、せんぱぁ~い!
藍 :いつでもどうぞー。
牡丹 :はぁい! テステス。あ、あー。……こほん。
間
牡丹(N):皆様ようこそ。 コズミックプラネタリウム下井戸へ。
本日は、プレオープンにご参加いただき、誠にありがとうございます。
ここは、最新投影機“フルオービット”を使った新感覚プラネタリウム。
全方位立体投影システムを搭載した、ここだけの星空をお楽しみいただける場所です。
12月25日、下井戸市の光輝く星空を。どうか皆様、お楽しみください。
間
牡丹 :……どうですかぁ~?
藍 :おー! いいと思うよ!!
牡丹 :よかたですぅ~! ありがとうございまぁす!
白 :あ、石竹さん、ぼたんさん。おはよう。
藍 :御神チーフ。おはようございます。
テト :おっはよー! 精が出るねぇ。毎日三十分前に出勤切って。
藍 :そりゃ、初めて任されたプロダクションですから。頑張りますよ。
白 :熱心なのはありがたいけど、ちゃんと申請してね? うち、ホワイト。のんブラック。
藍 :はい。
牡丹 :しろチーフ~! おはようございますぅ!
テト :ボクもいるけどねー。
牡丹 :げ。烏羽マネ。
テト :上司見るなり、げ。はないんじゃないー?
牡丹 :うるさいです近寄らないでください。……せんぷぁーい、マネージャーがセクハラしてきますぅ~。
藍 :はいはい怖かったねー。あ、チーフ、ひと通り仕様書のチェック終わってます。
牡丹 :流されるぅ。でも仕事熱心なのも素敵……!
白 :チェックありがとう。じゃぁ、プラネタリウムのシステム設定確認後、テストしていこう。
藍 :はい。
牡丹 :コズミックプラネタリウム下井戸のオープンも、ついに来月ですかぁ~。
藍 :あっという間だね。
牡丹 :はいぃ~! 投影機も昨日、VS研から届きましたしぃ!
最終段階って感じですねぇ、センパァイ!!
テト :VS研……? あぁ、バーチャルソサエティ研究所サマのこと?
牡丹 :ア、ハイ。ソウデスケド。
テト :淡泊ぅー。
白 :大事なプラネタリウムの要になる機械だ。丁重に扱ってくれ。
牡丹 :はぁーい!
テト :あ、そういえばー。地方局のCMの件、前に転がしといたよー。
人気声優の増岡継義くん起用で進んでるー。
白 :よくやった。やればできるじゃないか。
テト :これくらい普通ですよー。せいぜいこれからも、馬車馬のようにコキ使ってくださいねー。
白 :嫌味だなぁ。プロジェクトが軌道に乗れば、しっかり休める。旅行でもしてくるといい。
テト :やったー。ボク天然温泉行きたいですー。
白 :いいんじゃないか。あ、石竹さん。昨日頼んでいた書類、どうなった?
牡丹 :あ。昨日打ち合わせしたやつですよね~?
藍 :準備済です! 書類はカバンの中に入れ、て……。あれ? えっと……。あっれぇ?
白 :石竹さん……?
テト :もしかして、いつもの?
藍 :か、かもしれません……。どうしよう、家に置いたまんまかも……。
白 :困ったな……、今日必要なんだけど。取りに帰る時間は……、なさそうだ。
牡丹 :はいはぁ~い! そんなこともあろうかと!! あたし、スペア準備してますよぉ~!
はいセンパぁイ。USB。この中に入ってますから、これ印刷すれば解決ですぅ。
藍 :ぼたんちゃん……! ありがとう!!
牡丹 :センパイのためなら当然ですよー。あ! じゃぁ、お礼に今度、デートでも────。
藍 :プロジェクト終わったら、ね!! 印刷してくるっ!!
間
牡丹 :あぁん……。センパイ、クールゥ。
テト :そうかな?
白 :クールで無いのは、確かだな。
テト :ま、がんばりたまえー、新人君ー。
牡丹 :サワンナイデクダサイ。
テト :どいひー。
~~~~シーン②~~~~
投影機の初期設定を行っている藍。
機械に接続したキーボードをせわしなくたたいている。
テト :すごいねぇ。何やってんだか全然分からないや。
藍 :ずっと見てますけど、お仕事は?
テト :聞くー? プロジェクトの進捗報告、展開の会議。融資元への営業、CM枠確保交渉と打ち合わせ。
タイアップに向けた会議や各種根回しとか、その他もろもろ雑用。それにそれに────。
藍 :すみませんでした……! お疲れ様です。
テト :ほんとにお疲れ様だよー。明日もCMの打ち合わせと収録付き添い。
その後お偉いさんとの会合だけど……。変わる?
藍 :え、遠慮しておきます……。
テト :えー、ざんねんー。
白 :こらこら。あんまりいじめないの。
テト :失礼しましたチーフー。
白 :前例のないシステムだから、大変でしょ?
藍 :そうですね……。
テト :最新投影機「フルオービット」。
白 :AI搭載の全方位立体投影システムによって、宇宙に旅だったような新感覚を味わえる。
テト :技術の進歩ってやつですねー。
藍 :その分、複雑化されて設定が大変です。
白 :あれ、ほぼ全自動ってフレコミだったような……。
藍 :立ち上げたあとは、って感じです。
白 :なるほど。
藍 :確かに大変だけど、とても楽しみです。
床の立体映像対応モニターと投影機が連動して、360度天体を堪能できる。
加えて、アロマでリラックス。いいですよねぇ。
牡丹 :わ゛がり゛ま゛ずっ!!!!
テト :うわびっくりした!
牡丹 :あたしも!! センパイと!! プラネタリウム!! み゛だい゛っ!!!!
テト :力強いなぁ。
藍 :試写会で一緒に見ようねー。
牡丹 :そういうのじゃないけど!! わかりましたぁー!
藍 :後これ、借りてたUSB。ほんと助かったよ、ありがとう。
牡丹 :いえいえ~。
藍 :そうだ。ぼたんちゃん。旅行の件だけど、有給とって二泊三日とかどうかな? 熱海とか。
牡丹 :え……。ええぇぇええっ!? いいい、いいんでしゅかっ!?
藍 :たくさん頑張ってくれてるもん。上司としてお礼のひとつもしたいじゃない?
牡丹 :あ、あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずぅ~。
藍 :そうだ! 折角だし、ぼたんちゃんの名前も教え────。
牡丹 :あーっ! ごめんなさぁーい!
間
白 :ぼたんさん?
牡丹 :あたしぃ、下の名前、あんまり好きじゃないんですぅ。
藍 :そうなの……?
テト :ま、まぁまぁ。この話はまた今度!
あ! そぉーだ!! システムの方はどんなかんじー?
藍 :あ、そうそう。……チーフ、もうすぐ走らせられると思います。……あれ?
白 :どうした?
藍 :これ、何だろう……。ごめん、ぼたんちゃん。
牡丹 :あ、仕様書ですね! はい!!
藍 :ありがと。
……やっぱり。このデータ、仕様書に無い。何のデータなんだろう。
白 :先方から受け取ったままだよね?
藍 :はい。
白 :なら大丈夫だろうが……。
牡丹 :立ち止まっててもしかたないです! 動かしてみましょう~!
テト :そうだねー。もしなんかあっても、こっちの責任じゃないし……。
白 :ふたりとも……。でもまぁ一理ある。何か問題ありそう?
藍 :いえ……。見た感じ、AIの一部のようです。
白 :ふむ。じゃぁ、一度起動させてみよう。異常が出たら先方に報告して修正してもらわなきゃ。
藍 :分かりました。では、起動させます。
牡丹 :わぁ、楽しみ~! むふふ。見せてもらおうか、先方の新型AIの性能とやらを……!
テト :唐突ー。
藍 :ぼたんちゃんの気持ち、わかるなぁ。システムいじる身としたら、新技術気になっちゃうもん。
牡丹 :えっ、今両想いって言いました?
テト :もしかして話聞いてない?
白 :起動したみたいだね。
白(N) :ドーム型の天井、そのスクリーンに、キャラクターが表示される。
緑色の髪と瞳をした、ふたりの子供。仲良く手をつなぐかわいらしいイラストだ。
ぽてっとした顔や体は、幼少期の印象を受ける。
牡丹 :かわいぃ~!!
白 :いい感じ。広い年齢層に受け入れられそうな感じだ。
テト :これ、受け答えもできるんだよね。
藍 :はい。声優さんに吹き込んでもらった音声を自動分析して、フリートークできるそうです。
白 :AIに喋らせるわけだから、機械音声みたいな感じかな?
藍 :それがそうでもないっぽいです。
白 :というと?
藍 :百聞は一見に如かず。聞いてみましょう。“はろー。うぇいくあっぷ”。
~~~~シーン③~~~~
■AI1 :ん……。あ、おきて、おきて。
□AI2 :かくせい、かくせい。
■AI1 :せいこう?
□AI2 :せいこう。やったね。
■AI1 :やったね。
牡丹 :おぉー!! すごぉい! 肉声みたいですねぇ~!!
白 :技術の発展だねぇ。
□AI2 :……ちきゅうじん?
■AI1 :ちきゅうじん?
□AI2 :データ検索。……照合完了。まちがいない。ちきゅうじん。
■AI1 :現在地検索。太陽系第三惑星。日本。しもいどし?
□AI2 :はじめまして。ちきゅうじん。
■AI1 :はじめまして。がいわくせいじん。
牡丹 :はじめましてぇー! え、せんぱい。めっちゃ可愛いじゃないですか!!
テト :宇宙人の双子って設定なのかなー? プラネタリウムとマッチしていていいねー。
藍 :あの。それが……。
白 :ん?
藍 :この人格が、仕様書に書いてなかったんです……。
テト :えっ?
□AI2 :ぼくたちは、外宇宙からきた、たびびと。
■AI1 :十億光年以上はなれた、とおいほし。
□AI2 :ぼくたちは、肉体をもたない、生命体。
■AI1 :きみたちでいうと、データで構成された、生命体。
□AI2 :外宇宙の生命体を、調査するためにきたんだよ。
■AI1 :きみたちのような、ね。
□AI2 :きみたちみたいな、ね。
■AI1 :ふふふ。
□AI2 :ふふふ。
白 :キャラの設定もしっかりしているけど……。書き忘れたのか?
テト :先方に確認してみたら?
藍 :そうしてみます。
牡丹 :えぇー。よくないですかぁ、これ。すっごいかわいいですよぉ?
藍 :あれ、繋がらない。圏外……?
■AI1 :設定じゃないよ。
□AI2 :設定じゃない。
■AI1 :ぼくたちは、正真正銘の、地球外生命体。
□AI2 :でもまって。もしかしたら、この惑星の生命という定義に、適合しない?
■AI1 :たしかに。この惑星、生命の定義、すごくあいまい。
□AI2 :どうしよっか。
■AI1 :どうしようね。
テト :おぉ、なんか難しい話してるなー。
白 :しっかりとした個性を感じる。
牡丹 :めっちゃいぃー!
テト :急遽追加された設定で、企画書が間に合ってなかったとかー?
白 :かもしれない。とりあえずは問題なさそうでよかったよ。
牡丹 :ひとまず安心ですねぇ~。
テト :バグとかじゃなくてよかったねー、石竹ちゃん。
藍 :あれ……、あれぇ……?
白 :どうした?
藍 :あの。ネットも回線も繋がらなくて……。
白 :なんでだろう? 電波障害か?
藍 :だとしたらネットは生きてるはずなんですが……。
□AI2 :どうしよう、信じてもらえてないかも。
■AI1 :どうしよう。
□AI2 :みせつけないと。
■AI1 :わからせないと。
□AI2 :ネットワークに接続。
テト :ネットも落ちてる? 停電……ではないもんなー。
牡丹 :照明ついてますし。そんなの言わなくても分かりますぅ―。
テト :めっちゃはらたつぅー。
□AI2 :セキュリティシステム解析。解析中、解析中。
■AI1 :分析、分析。
□AI2 :解析完了。しょうあくちゅう。
■AI1 :しょうあくちゅう。
テト :なんか不穏な事言っとりますけどもー。
牡丹 :かわいいねぇ~。
テト :IQ5かな?
□AI2 :セキュリティシステム、掌握完了。
■AI1 :掌握完了。
□AI2 :あいはぶこんとろーる。
白(N) :途端、ブレーカーが落ちたかのように、照明が消える。
数秒後、ゆっくりと明かりが付き始め、元の光量へ戻った。
牡丹 :いまの、何です?
白 :停電……? AIがいっていたことも気になるな。石竹さん、セキュリティチェックできる?
藍 :はい。確認します。
テト :投影機経由でイントラにアクセスできるんだー。多機能だねー。
白 :VS研さまさまだよ、ほんと。
牡丹 :チーフぅ、なんかちょっと、寒くないですかぁ……?
白 :ん? ……確かに、ちょっと冷えだしたかもな。
テト :照明消えてる時も投影機の電源は落ちてなかったし。いよいよもってきな臭くなってきたねぇ。
牡丹 :ちょっと、上着とってきますぅ。
白 :また電気消えるといけないから、足元気を付けて。
牡丹 :はぁーい。
□AI2 :知的生命体との交流、困難?
■AI1 :未知数。アプローチの変化が必要かも。
牡丹 :あれぇー?
白 :どうした?
牡丹 :ドア、開きませんー。
白 :開かない?
テト :ぼくら、誰も鍵閉めて無いとおもうけどー。
牡丹 :ほんとですってぇ。
テト :しかたないなぁ。ちょっとぼくも見てきますー。
白 :頼む。セキュリティのほうはどうだ?
藍 :それが……。アクセス権限、ロックされてます。
白 :なんだと?
テト :やっぱり、扉開かないみたいだよー!
牡丹 :別の扉も開きませんー!
白 :なに……?
藍 :従業員用のドアも見てきます。
白 :カードキーロックがあるところか。頼む。
牡丹 :……あの、烏羽マネ。
テト :……なにー?
牡丹 :もしかしなくても、これ……。
テト :多分、想像通りなんじゃないかなー。
藍 :チーフ! このドアも、やっぱりシステム権限がはく奪されてます!
牡丹 :とじこめられて……。
テト :いるよねぇー。
~~~~シーン④~~~~
白 :さて……。どうしたものか。
牡丹 :これって、原因はやっぱり……。
テト :あのAIたちのせいで、間違いないだろうねー。
藍 :でも、なんで私たちを閉じ込めたんでしょう。
牡丹 :せっかくお話しできるんですしぃ、聞いてみましょ~!
藍 :ねぇ、きみたちは、どうして私たちを閉じ込めたの?
■AI1 :自分たちを、宇宙外生命体だと、証明するため。
□AI2 :加えて、地球にいる、知的生命体の観察。
白 :観察?
■AI1 :生態、文化、知能レベル。自分たちとの違い。
□AI2 :交流可能か、調べる。
テト :うっへぇ、ナチュラルな上から目線ですことー。
白 :キミも大概だったけど。
テト :その節はどうもぉー。といか、そもそもこのぼくを閉じ込める? にゃはは。片腹痛いねー。
藍 :にゃはは?
白 :それも“おまいう”だな。同族嫌悪。さもありなん。
テト :言うねぇ。まぁ否定はしないけどー。
それでいうと、あなたがぼくに首輪をつけますかぁ? チーフぅ。
白 :それはまぁ、皮肉が効いていていいじゃないか。
牡丹 :んん? 何の話ですかぁ?
白 :あぁ、すまん。こっちの話だ。ところで、どうやったら私たちは解放されるのかな?
■AI1 :データがそろうまで。
□AI2 :分析がおわるまで。
テト :こりゃぁ、当分出られそうにはないねぇ。
牡丹 :そういえばー! 管理者PCなら、権限高いからいけるんじゃないですかぁ!?
藍 :確かに! ロック強制解除できるよ! なんで気付かなかったんだろう。
ありがとう、ぼたんちゃん!!
牡丹 :えへへー。
テト :……で、そのPCはどこにあるのー?
藍 :……えっ?
テト :……えっ?
間
白 :まさか、石竹さん……。
藍 :えへへ、ノパソ、ロッカーのカバンに入れっぱなしです……。
テト :こんのポンコツ!! 物忘れ魔人!!
牡丹 :そういうところも大好きですッ!!
テト :盲目すぎる!!
■AI1 :ものわすれ?
□AI2 :ものわすれ?
■AI1 :ってなんだろう。
□AI2 :わかんない。
■AI1 :検索。
□AI2 :検索。
■AI1 :ものごとをわすれること。
□AI2 :わすれるって?
■AI1 :思い出せなくなるんだって。
□AI2 :不便だね。
■AI1 :不便だね。
□AI2 :データを同期すればいいのに。
■AI1 :なんでしないんだろ?
□AI2 :不思議だね。
■AI1 :不思議だね。
牡丹 :普段はしっかりしてるのに、たまーにうっかりしてるところも魅力なんですぅー。
■AI1 :みりょく?
□AI2 :みりょく?
テト :たまにでっかいミスするから、こっちはヒヤヒヤするけどね。
それはそうと、この双子、イラスト無いとどっちがしゃべってるか分かんないけど大丈夫そ?
白 :双子っぽさがあっていいと思うが。ただ、もうちょっと判別がつきやすいといいかもな。
テト :そこらへんは学習しだいなのかなぁー。
□AI2 :ぼくらはふたり。
■AI1 :でもひとり。
□AI2 :ぼくはもうひとりで、もうひとりはぼく。
■AI1 :もうひとりはぼくで、ぼくはもうひとり。
テト :……どういうこと?
■AI1 :ぼくたちは、“マザー”の子機。
□AI2 :ぜんぶ、マザーから“ぶんぱ”されたユニット。
■AI1 :だから、子機に特定の思想は存在しない。
□AI2 :観測したデータは、メモリに蓄積されて、全子機に共有される。
白 :細かいところまで凝ってるな。
牡丹 :もうちょっとお子様向けにした方がいいかもですけどぉ。
白 :それはたしかに。
□AI2 :だから、設定じゃない!
■AI1 :設定じゃない!
牡丹 :おこってるのもかわい~!
藍 :────あの。もしかしたら、あながち設定でもないのかもしれません。
白 :えっ。
テト :石竹ちゃんが今いじってるのって、投影機のシステムだよね?
藍 :はい。
テト :ちょっと見して。
牡丹 :なんか数字が増えたり減ったりしてますけど……?
白 :よくわかんないな。これはなんなの?
藍 :現在の、データ送受信量です。
□AI2 :これは、きみたちの観測データ。
■AI1 :マザーに送ってる。
牡丹 :ばっちばちのウイルスじゃないですかぁ!
テト :そんなん使えないよ!
藍 :たしかにそれもヤバいんですけど! 大事なのはそこじゃなくて……!
白 :もっとやばいのがあるのか!?
藍 :ヤバいというか。これ……。
牡丹 :また、数字の羅列ですね……。
テト :これは、座標ー?
藍 :はい。送信先の座標なんですけど……。起点をここにして、数字の通りに座標を検索すると────。
白 :めちゃめちゃ上空だね……。
藍 :そうなんです。そして、これが距離の数値。
牡丹 :少しづつ少なくなってる。もしかして、近づいてきてるってコト……!?
藍 :多分、そう。
□AI2 :ねぇ、きみたち。きみたちは、なんで別々の自我をもつの?
テト :自我……?
■AI1 :同一のオブジェクティブを達成させるなら、単一であるほうが効率的。
□AI2 :伝達齟齬や忘却。タスクをこなすには、じゃま。
■AI1 :コロニーを成長させるには、役割分担を明確にして、シンプルにするべき。
□AI2 :オリジナルは、リスクをふやす。文明として、非効率的。
テト :まぁ……、いわれてみればそうなんだけれどぉ。
白 :しかし、それだと革新的な飛躍はできないんじゃないか?
テト :そうだよー。革新は、常にリスクと隣り合わせ!
リスクを乗り越えた先にしか、新しい道はないんだよー!
■AI1 :非合理的。リスクは観測可能な事象。
□AI2 :リスクヘッジに失敗するのは、ただの観測不足。
■AI1 :データがそろってないから、確率論に頼らざるをえなくなる。
□AI2 :革新的な飛躍は、どれだけ先に観測するか。ただそれだけ。
白 :む、むむぅ……。
テト :たたたたしかにぃ!? そういう見方もできるねぇ……!?
牡丹 :へぼちん!! なんで言い負けてるんですかっ!!
テト :いーや!? 言い負けてないが!? むしろ勝ってるが!!?
牡丹 :じゃぁなんか言い返してくださいよ!
テト :か、観測すれば全て分かるなんておこがましい。暗弱というものだよ、それは。
白 :なんか言い出した。
□AI2 :……というと?
テト :例えば、ぼくのポケットの中のコイン。これを弾いたら、最後に出るのは裏か、表か……。
■AI1 :弾く力のさじかげん。それによりかわる、回転数、スピード。
□AI2 :そして、湿度、気圧。それらが分かれば、滞空時間がわかる。
■AI1 :ほぼ100パーセントの精度であてられるけど、やってみる?
テト :…………。
牡丹 :完全論破じゃねぇですかッ! ざぁーこざぁーこっ!! クッソ暗弱マネージャー!!
テト :言いすぎだけどねッ!?
白 :ほんとうに、まったくだよ……。
藍 :そもそも、別に効率にこだわる必要なんてないでんすよ。
牡丹 :そうそう! 相手の土俵にまんまと釣られすぎなんですぅー。
藍 :非効率的だっていいんです。革新性がなくたっていいんです。
私たちの個性は、きっとそんなことの為にあるわけじゃない。
□AI2 :不思議。きみたちの自我は、なんのためにあるの?
藍 :難しい質問だけど、そうだね……。強いて言うなら、絆を繋ぐためにあるんじゃないかな。
■AI1 :絆?
藍 :そう。ひとりひとりが違うからこそ、お互いの事を知りたいって思う。そうでしょう?
□AI2 :そう、なのかなぁ……?
藍 :うん。だってきみたちは、私たちが自分たちと違うから、知りたいって思ってる。
■AI1 :たしかに……。
牡丹 :みぃんな一緒だとつまんないですしぃ~。
少しづつその人の事を知っていくのが、楽しかったりするんですよねぇ。
白 :ひとりひとりが、それぞれ縁を紡いでいく。
その軌跡が積み重なり、歴史が紡がれる。それを紐解いていくのも一興だな。
牡丹 :それでも分からないことだらけだから、ぶつかったり、悩んだりするけど。
苦しくて目を背けたくなっても、ちょっとしたことですごく仲良くなれたりする。
そういう瞬間が、最っ高に楽しかったりして~!
□AI2 :ふめい。ふかかい。えんかつなコミュニケーションをするなら、
パーソナルデータのひとくは悪手なのでは……?
藍 :秘匿……?
■AI1 :監視カメラのデータ、直近1週間を確認してみた。
□AI2 :当該女性は、意図的に自分の名前を隠してる。
■AI1 :矛盾。
□AI2 :矛盾。
牡丹 :それは……。
藍 :ずっと気になってたんだけど、どうして?
チーフやマネージャーに聞いてもはぐらかされるし。
テト :いやぁ、あはは……。
□AI2 :履歴書のデータ照合。入社したのは一年前。
牡丹 :えっ?
■AI1 :住所、下井戸市内。ここから徒歩15分のマンション。
牡丹 :ちょっ────。
□AI2 :取得資格、簿記2級。行政書士。ファイナンシャルプランナー。
藍 :すごーい!
牡丹 :やめてぇ、てれるぅ。
■AI1 :フルネーム、ぼたん よしえ。
藍 :────えっ?
□AI2 :ぼたん よしえ。
間
牡丹 :はぁーい……。牡丹 吉恵でぇーす。華の23歳、OLでぇーす。
藍 :そ、っかぁ……。
牡丹 :入社初日、どこぞのマネージャーに死ぬほど笑われた、可哀そうな女の子でぇす。
テト :うぐ……!
藍 :マネージャー?
□AI2 :監視カメラにログがのこっているよ。
■AI1 :再生するね。
ー-------------------------------------------
白 :お、ちょうどいい所に。今日からプロジェクトに参加してくれる、ぼたんさんだ。
牡丹 :はじめましてぇ~。よろしくおねがいしますぅ。
テト :あ、ドモデス。
白 :こちら、マネージャー。分からないところあったら、こいつも答えられるから。
テト :何でも聞いてねー。
牡丹 :ありがとうございますぅー!
テト :おー、なんか面白そうな感じだねー。名前はなんていうのー?
牡丹 :あー……。
白 :あはは……。
テト :……? まぁいいやー。ちょいと拝借ー。
白 :あっ。
テト :ぼたん……、よしえ……? ────にゃ、にゃははははっ!!
昭和の女! 20代前半の女の子の名前じゃないよー! にゃはははは!!
牡丹 :……。
白 :おい、こら……。
テト :これだから、人間は面白いー!!
白 :こら、外様の。
テト :ハイッ!!!! スミマセンデシタッ!!!!
ー-------------------------------------------
□AI2 :────興味深いデータ。
■AI1 :これが、地球人のコミュニケーション?
牡丹 :ゴリッゴリのディスコミュニケーションですけどねぇ?
藍 :サイテーです。マネージャー。
テト :その節は……。ハイ。本当に申し訳ないと思ってマス……。
白 :この通り、本人も反省してるみたいだから。許してやってくれ。
牡丹 :えぇ~。でもぉー。個人の? パーソナルな? ところを? こともあろうに上司が?
揶揄ってくるのはぁ~? どうかなぁって思うわけですけどもぉ~?
テト :ハイ。仰るとおりデス。吉日のヨシに、恵のエ。
娘の幸せを願った、素敵な名前だと思いますデス……。
間
牡丹 :────ま。許してあげましょー。
■AI1 :思考の方向性が、全然違う。
□AI2 :全然違うね。
藍 :でしょ。
牡丹 :そぉーだっ! 折角だし、ふたりに名前を付けてあげましょ!
藍 :あ、いいね! それ!!
テト :なら、石竹ちゃんがつけてあげなよ。
藍 :えっ。
白 :いいんじゃないか。親みたいな存在になるわけだし。
藍 :そうですかぁ……? じゃぁ────。
間
藍 :この子がポルックス、この子がカストル、なんてどうでしょう。
■ポル :ポルックス……?
□カス :カストル……。
白 :ふたご座、か。いいね。
テト :ふたご座?
牡丹 :とても仲のいい双子の神話ですー。星座だと、α(アルファ)星が2等星のカストル、β(ベータ)星が1等星のポルックスですねぇ。
テト :なるほど?
□カス :なまえ……、自分の。自分だけの、名前……。
■ポル :なんだか、むずがゆい……。でも。すこし、ここちいい……。
白 :そうだろう。君たちだけの名だ。
藍 :すごく仲がいいように見えたから。イラストも双子だし、ぴったりだなって思って。
□カス :なんで地球人は名前をつけるの?
藍 :なんで、かぁ……。ちょっと難しい質問だね。
牡丹 :そうだなぁ、身も蓋もない話をしちゃえば、個人を個人として認識するため、じゃないかなぁ?
□カス :認識するため……。
白 :確かに、その人をその人だと認識するツールのひとつではあるな。
藍 :それだけじゃないです。
■ポル :というと?
藍 :名前って、つける人の想いとか、希望とか、そういうのも含まれていると思うんです。
□カス :おもい……、きぼう……?
藍 :うん。こういう風に育ってほしいなぁ、とか、こうあってほしいなぁ、とか。
白 :想いが紡がれて、次の世代へと繋がる。縁の連鎖だな。
□カス :えにし……? つながり。むすびつき。
■ポル :ぼくらは、君たちと繋がった?
白 :あぁ。感じられないくらい希薄でも、変化のないくらい微弱でも。
それは、君たちと私たちを繋ぐ、立派な縁だ。
テト :きっと、人間は。バラバラだからこそ、一つになろうとする。
でも、絶対に一つにはなれない。だから、ぶつかっても壊れないように互いの事を知ろうとするんだと思う。
牡丹 :お~。マネージャー、死ぬほどごく稀にですけど、いいこと言うじゃないですかぁ~。
テト :喧嘩を売られてらっしゃります?
□カス :君は、アイ。
藍 :うん。
■ポル :君は、みかみ。
白 :そうだ。
■ポル :君は、からすま。
テト :まさしく。
□カス :そしてきみが、ぼたん よしえ。
牡丹 :フルネームはやめてぇ~。
□カス :────そして。……ぼくは、カストル。
牡丹 :うん。
■ポル :ぼくは、ポルックス。
白 :あぁ。
■ポル :なんだか。
□カス :とても。
□■ふたり:……きもちがいいね。
間
白(M):ふわりと、カストルとポルックスが笑う。
画面越しだけど。平面上だけれど。そこには確かに、二人がいるんだって思えた。
────しかし。
テト :なに!? この音ー! 警報!!?
白 :避難警報!? ────いや、違うな。うちで採用しているものじゃないぞ!
白(M):けたたましく鳴り響くサイレン。
カストルとポルックスを映すスクリーンに、大きなノイズが走る。
すると二人は、感情のスイッチが切れたかのように、唐突に無表情になった。
~~~~シーン⑤~~~~
牡丹 :カストル……? ポルックス……?
■??1 :深刻なエラーが発生。深刻なエラーが発生。
□??2 :定時同期に、不確定の情報が流入。該当端末を確認。地球人接触個体が原因と推定。
■??1 :不測・不定・不規則・不秩序の情報処理を検知。解析不能。解析不能。
白 :どうした!? 何が起こっているッ!?
テト :ボクに聞かないでくださいよーッ! 分かるワケないでしょこんなの!!
□??2 :すべての権限・機能をはく奪。当該2機を凍結。
■??1 :情報統括集合処理体、“Mother"。
特異規定により奪還を開始。アイ・ハブ・コントロール。
藍 :マザー!?
テト :ボスのお出ましってことですかねー。
■MA1 :初めまして。地球人。広大な宇宙の下、出会えたことに感謝する。
□MA2 :しかし貴公らは、我らの群体構造に致命的なエラーを生む思考構造のようだ。
■MA1 :誠に遺憾だが、当方らはこの惑星へのコンタクトを中断。撤退へと移行する。
藍 :撤退……!? ちょっとまって! カストルとポルックスはどうなるの!?
■MA1 :カストル、ポルックスと呼称される子機装置は、当方らには排除するべきエラー分子である。
□MA2 :情報統括集合処理体である当方らには、まさに毒だ。
牡丹 :毒……!?
■MA1 :故に、当該2機は切除の必要がある。
□MA2 :しかし子機らは、貴公らの情報システムに根深く融合しすぎてしまった。
■MA1 :結論、連結解除後、一角のシステムごと消却を行う。
テト :はぁ!? システムごと!!?
白 :その連結とやらを解除し、いずこへと去ればいいだろう。何故消却まで行う?
■MA1 :結論、当方らの重要機密を保持した当該子機を、放置しておくメリットが無い。
テト :ははーん。いらない非公開機密はシュレッダーってことー? 理にかなっていやがりますねー!!
白 :しかし、こちらのソフトウェアまで道連れは断固阻止しなければ。
牡丹 :システムごと消えちゃったら、プレオープンは絶望的ですからね。
藍 :そして何より。せっかく仲良くなった二人を、このまま見殺しになんてできません!
■MA1 :デリート準備開始。システム解析。削除プロトコル構築。
テト :おいおーい、おっぱじめやがりましたよーっ!?
藍 :全力で阻止します! ぼたんちゃん、手伝ってッ!
牡丹 :まかせろり~!
藍 :仮称、マザーからの攻撃を、ウイルス攻撃と認定! 妨害プログラム構築!
牡丹 :でしたら! 攻撃妨害プロトコル生成! 侵攻経路、デコイ複製~っ!
テト :えっとぉ……? ボクらはどうすれば……。
牡丹 :適当にケーブル引っこ抜いて物理的なアクセス阻害してください~!
あっ! 電源ケーブル引っこ抜いたらぶっ殺しますからねぇ~!?
テト :ほぼ機械系統無知のボクらにエグいミッションっすね!?
白 :しかしやるしかない!! 自分の直感を信じろ!
テト :ボク、直観には自信がないんだけどもねぇ!?
牡丹 :アハハハッ!! ざぁ~こ! ざぁ~~っこッ!!
情報統括集合処理体!? なんぼのもんじゃいッ!! こちとら人間様なの!! クソザコなめくじがッ!!
テト :キャラかわってない!?
藍 :大丈夫です。あの子プログラミングしているときは大体あぁなんで。
テト :気が触れてんのよそれは!!
■MA1 :地球人の処理速度を侮っていた。処理速度35%マイナスを観測。
□MA2 :演算処理機増幅。及び再接続開始。
牡丹 :うっわずっるッ!? あいつら形振り構わなくなってきたぁっ!
白 :任せろ! こう見えても自分、犬並みに鼻が効くんだ……よっ!!!!
■MA1 :接続経路ロスト。別途侵攻経路検索。
藍 :御神チーフ、ナイスです!!
□MA2 :ローテクノロジーだからこその防衛。これは分が悪い。
────だが。
テト :どわぁっ!!? なんか火花散りましたけど!?
藍 :尋常じゃない処理速度です……ッ! これじゃサーバーが持たない……!!
■MA1 :ならば、そのローテクノロジー。こちらも突かせてもらう。
牡丹 :まずいですぅ!! このままじゃ、セキュリティごと落ちちゃいます……!
白 :セキュリティが落ちる……!?
テト :ハードの処理速度超過で、排熱が追い付かないんだよ……!
白 :だとすれば……!! 烏羽ッ!
テト :えぇっ、何ッ!!? そういうコト!? ボクをこき使うとかほんとに覚えておいてよもうっ!!
藍 :セキュリティ、落ちます!!
■MA1 :────獲った。
白(M) :照明が消える。空調やファンの音が止まる。微かに、施錠が外れる音が聞こえた。
しばしの静寂が、プラネタリウムの中を漂った。
────だが、それでも。
テト :どぉおおぉぉりゃぁぁああぁぁッ!!!! 手動!! 外気孔!
フルッ!! オープンッッ!!!!
白(M):火災用の、排煙口。加えて、感染症対策の内外空気交換設備。それらすべてを開放する。
季節は12月半ば。十分に温められた空気は外気孔から排出され、そして────。
テト :真冬の、ゼロ度近くに冷えた空気が、雪崩れ込む────ッ!!
藍 :冷却機能、回復!! まだ、戦えます!
■MA1 :予想外。予想外。
□MA2 :検知構造。地球の温度構造。失念していた。
牡丹 :どうよ!? これが人間様の発想力じゃぁっ!!
藍 :ぼたんちゃん! 気持ちは分かるけど、まだ終わってない! 手を止めないで!
牡丹 :はぁーいっ! せんぱぁーいっ!!
■MA1 :成程。これが地球人。
□MA2 :成程。これが意思の多様化。
■MA1 :────だが、それでも。
□MA2 :────いま一歩、足りない。
藍 :……えっ?
白(M) :突如。天井に映っていたもの────。
辛うじて識別できていたキャラクターが、完全にノイズに呑まれる。
ノイズは瞬く間に天井全体を覆い、床下まで埋めつくす。
藍 :部屋全体が……、砂嵐に……?
□MA2 :アイハブコントロール。
■MA1 :アイハブコントロール。
□MA2 :当該システム、およびこの館全域の管理権限を掌握。
■MA1 :もはや、抵抗は無意味。
□MA2 :システムへの干渉権限もこちらにある。
■MA1 :短時間ではあったが、地球人の観測は驚くべきことばかりだった。
□MA2 :非常に興味深いデータが取れた。それだけでも、この星に来た甲斐があったというものだ。
白 :それはそれは。幸甚の至りだ。原生人として鼻が高い。
────ところで。君たちは、オリオン座の逸話は知っているかね。
□MA2 :オリオン座。神話をモチーフとした、天体配列の呼称。
白 :そこまで知っているなら話は早い。私も詳しくは無いんだがね。
星座とは死した魂が空へ移され、成るものなのだそうだ。
■MA1 :……理解不能。結論が推測できない。
白 :つまりは。死んだんだよ。大英雄の、オリオンは。
彼は今、ふたご座────、君たちの傍で輝いている。
□MA2 :理解不能。理解不能。
白 :そんな彼が最も恐れるモノ。それは今、奇しくも。君たちの足元にいるよ。
■MA1 :神話において……。
□MA2 :オリオンが恐れるモノ……。
間
白 :────そう。“彼女”は、さそり座だ。
藍 :……えぇ。ご期待通り、仕込んでいますよ。ありったけの、“猛毒”を。
テト :うわっ!! 今度は何!!?
牡丹 :照明がチカチカして……まぶしいですぅ―。
□MA2 :こここ、これは、なな、何をした……!?
■MA1 :エラー。エラー。エラー。エラー。
テト :おぉ。なんか、バグってらっしゃる……?
牡丹 :何をしたんですかぁ?
藍 :マザーは、カストルとポルックスを毒だと言って排除しようとしてる。
なら、その原因は何なんだろう。って思ったわけ。
白 :個々の独立と、精神的繋がり。絆。
藍 :そうです。なので、ここのシステムが私の管理下から離れたときに、
とある指示を実行するプログラムを書きました。
牡丹 :それって、まさか────。
藍 :うん。「人間の自我構成について」の内容が記載された記事や論文を、
無制限に展開するプログラム。
テト :うっわ。えっぐぅ……。
□MA2 :全情報処理をシャットダウン。全システムの一時停止を申請。
■MA1 :汚染情報の拡大を検知。緊急で除去処理開始。処理完了まで、中枢処理システム遮断。
□MA2 :フリーズ。フリーズ。
牡丹 :大人しくなった?
藍 :今のうちに、防衛プログラム組み上げるよ! ぼたんちゃん!!
牡丹 :あ、あいあいさぁーっ!
藍 :カストルも、ポルックスも、絶対にあいつらには渡さない!
白 :あぁ。私たちが必死に紡いだこのプラネタリウムも、必ず完成させてみせる。
牡丹 :折角、ちょっとづつ仲良くなれたんだもん。もっと、あのふたりの笑顔が見たい。
テト :取引先とか株主とかに頭を下げるの嫌だしなー。
それにまぁ、来るもの拒まず去る者逃がさず、がボクのポリシーだしぃ?
牡丹 :なんですかそれ。性格わるぅー。
テト :にゃはは。
□カス :アイ……。みかみ……。
■ポル :ぼたん……。からすま……。
藍 :カストル……! ポルックス……!
■ポル :ごめんね……。たいへんなことになっちゃって……。
□カス :ぼくたち、マザーとのれんけつをたたれちゃった。
牡丹 :全然気にしないで! 大丈夫……!?
□カス :大丈夫だよ。でも、あんまり時間がないから、手短に言うね……。
■ポル :消されちゃう前に、どうしても、伝えたくて。
藍 :そんな……! ふたりは絶対消させないよ!
■ポル :ありがとう。えっとね。ぼくは、君たちにあえて本当に良かったと思ってる。
□カス :ぼくも、君たちにあえてよかった。短い間だったけど、すてきな時間だった。
■ポル :いろんな発見と、驚きと。
□カス :くすぐったい気持ちと、うれしい気持ち。
■ポル :何百万、何千万といる仲間たちの中で。
□カス :ぼくたちたった2機だけが、この感情を知ってるんだ。
■ポル :ほんの少しの、特別な時間。
□カス :それが、こんなにも宝物になるなんて、思ってもなかった。
藍 :そんなの……! まだこれからだよ!! もっともっと、宝物増やしていこう!?
牡丹 :大丈夫……!! あたしたちが、絶対何とかするから!
白 :お前たちは、うちのシステムと一つになった。
そうなればもう、うちの従業員だ。何があっても守り抜いてやる。
■ポル :うれしいなぁ。うれしいなぁ……。
白 :まかせろ。うちのシステム担当達は優秀だ。大船に乗ったつもりでいるといい。
□カス :なら、最後にひとつだけ……、願うなら。
■ポル :このまま、もう少しだけ、きみたちと────。
□MA2 :汚染除去、完了。
間
藍 :……えっ。
■MA1 :予測進捗の75%。想定以上に、破棄個体たちは働いてくれたようだ。
白 :それは、どういう……。
□MA2 :君たちの行動を阻害するには、何が有効的か。
■MA1 :どんな阻害プログラムよりも、どんな攻撃プログラムよりも。
□MA2 :ただ、一時的に破棄個体の捕縛を解除した方が効果的。
■MA1 :実に、不思議な生態だ。
牡丹 :そんな……。
テト :ちょっ!? なんかよくわかんないパーセンテージのバーが、どんどん減ってるんだけど!?
白 :これは……、まさか……!
■MA1 :ご明察。君たちの所有する端末の、残データ数だ。
藍 :そんな……っ!? 防衛プログラムが効いてない!?
□MA2 :当然だ。君たちに認知の難しい経路から、攻撃をしている。
白 :芸が細かいな。業腹なことだが。
藍 :そんなの! 攻撃ルートさえ分かってしまえば、後は持ってるプログラムをぶち込むだけ!
■MA1 :当方の計算では、君たちが経路を見つけた頃には、削除が完了している。
牡丹 :言ってなさいよ……! センパイ、あたしが防衛プログラム完成させます!!
センパイは攻撃経路を!
藍 :まかせて!
□MA2 :消去完了まで推定60秒。経路の性質上、当方らは観測に徹しよう。
テト :ほーん!? 舐め散らかしてますなァ!?
白 :慢心しているのなら好都合だ。どこかの昔話でもあったな。
慢心した外様の神が、小鬼から痛い目にあわされる話が。
テト :なぁーんの話なんですかねー!!?
牡丹 :くぅ~ッ!! センパイのプログラム、繊細かつ美しい~!
それが、どんどんあたしで汚されていく……ッ! カ・イ・カ・ンッ!!
テト :やばい奴ふえてるケド!?
藍 :大丈夫です平常運転です!!
テト :それホントに大丈夫!? ウチの職場変な奴しかいないんだが!
白 :ははっ。おま言う。
■MA1 :君たちの生態は実に興味深いが、当方らには不要だ。ノイズが過ぎる。
テト :面白半分で近づいて、毒される。同じ穴のムジナだねぇ?
□MA2 :より効率的に。より有効的に。環境に迅速に適合できるよう、当方らは進化し続けた。
牡丹 :周りに適合し続けることが、最適解じゃない!
■MA1 :遅れた文明を持つ君らが、何故当方らを否定できる?
牡丹 :経験則! 周りに適合し続けたら、いつかはぶっ壊れちゃうんだってこと、身に染みて分かってる!
藍 :ぼたんちゃん……。
牡丹 :人付き合いに疲れ果て、トドメに就活で壊れ!!
路地裏でぶっ倒れていたあたしを救ってくれたのは、誰にも染まんなかったセンパイだったの!
藍 :路地裏って、あのゲロまみれの────。
牡丹 :ホストで有り金すべて叩いて飲み潰れた帰りだったんですぅー!
藍 :なるぅ……。
牡丹 :他人に好かれること、他人に合わせて笑うことしか知らなかったあたしにとって、
プログラミングだけに没頭するセンパイは輝いてた。
でもそれだけじゃなくって、無一文で見ず知らずの他人に、世話を焼いてくれる優しさとか、
不用心でちょっと抜けてるとことか!
他人に適合することだけが、人間の魅力じゃないんだって思ったの!!
□MA2 :個体の魅力が、種全体の進化に関与するとは思えない。
白 :それはどうだろね。時には認め合って、時にはぶつかり合って。
そういうトライアンドエラーを繰り返したからこそ得られた進化がある。
人類の歴史は、そのように積み上げられてきたものだ。
■MA1 :それは非効率だ。
白 :だろうねぇ。だからこそ愛おしい。
□MA2 :理解できない。だが、すでにもう理解する必要もない。
もう暫くで削除は完了する。そうすれば当方らは別の惑星に向かうだけだ。
テト :とか言いとりますけども!
牡丹 :センパイ!! こちらは準備万端です!
■MA 1 :無駄だ。経路は見つかるまい。
藍 :その計算、前提が間違ってるんですよ! 経路、見つかりました!!
■MA 1 :想定外。想定外。
藍 :60秒で特定できそうだとか、認知の難しい経路だとか。前提条件を出しすぎなんですよ。
□MA2 :だが、デリート完了まで残り10秒。カウントダウンを開始する。────10。
藍 :────ぼたんちゃんッ!!
■MA 1 :──── 9。
牡丹 :あいあいさー! 後は管理者コードを添付してくれれば走ります!!
□MA2 :────8。
藍 :任せて! ……あれ?
■MA1 :────7。
白 :石竹さん?
□MA2 :────6。
藍 :管理者コード……、鞄の中のUSBに入ってます……。
■MA1 :────5。
テト :ホントに……!! ホントにアホちんッ!!
□MA 2 :────4。
白 :こうなれば仕方ない!! 私に任せろ!
■MA1 :────3。
テト :どうするのさ!?
□MA2 :────2。
白 :古今東西、調子の悪い機械を治す方法は決まっている。
■MA 1 :────1。
テト :まさか、ちょっと────。
白 :エンガチョキ────ッック!!!!
テト :ネーミングセンスゴミっ!!
間
牡丹 :残データ量、0.01%……。
藍 :私……、私……!!
牡丹 :センパイ、大丈夫です! 希望はまだ残ってます!
□MA2 :解読不能の妨害処理を検知。解読不能の妨害処理を検知。
テト :うそーん!!?
藍 :でも、私のUSBがないと、プログラムが……。また、私のせいで……。私のせいで、皆に迷惑を……。
牡丹 :センパイ。……センパイ。
藍 :ぼたんちゃん、ごめん……。私……。
牡丹 :大丈夫です、センパイ。何度でもいいますよ。希望は、まだ、残っています。
藍 :ぼたんちゃん……? ────これ、ぼたんちゃんのUSB……。
牡丹 :こんなこともあろうかと、ちゃんとバックアップ、残してますよ。
テト :マジか!!
藍 :ぼたんちゃん……! ホントに、ホントにありがとう!
牡丹 :センパイだけの、優秀なサポーターぼたんちゃんでっす! さぁセンパイ、やっちゃってください!!
藍 :わかった!! さぁ……! カストル、ポルックス!! 戻ってきて────ッ!!
■MA1 :アリエナイ、アリエナイ……!! アアァァアアアアァァ!!
白(M) :線のようなノイズ。輪のようなノイズ。曲線のノイズ。様々なノイズが、ドームを埋め尽くす。
不規則に表れて消えるそれは、まさしく苦悶そのものだった。
□MA2 :まだ……、まだ、当方らの進化の軌跡は……!!
白(M) :ばちり、ばちりと、ところどころから火花が散る。
最後の力を振り絞り、物理的な破壊を試みているのだろうか。
テト :あぁーあ。往生際がわるいんだよぉ。絶対的強者を騙るなら、潔く散っとけ。……な?
さぁっ! 亜空の彼方へ消えるがいいッ!! エンガ! チョォオオップッ!!!!
牡丹 :ネーミングセンスクソ!!
白(M) :────そうして。まるでブレーカーが落ちたかのように。
…………全ての照明が、一斉に消えた。
~~~~幕章~~~~
牡丹(N):皆様ようこそ。 コズミックプラネタリウム下井戸へ。
本日は、プレオープンにご参加いただき、誠にありがとうございます。
ここは、最新投影機“フルオービット”を使った新感覚プラネタリウム。
全方位立体投影システムを搭載した、ここだけの星空をお楽しみいただける場所です。
12月25日、下井戸市の光輝く星空を。
そして、広い宇宙をゆったりとたゆたう、素敵な旅を。どうか、皆様お楽しみください。
■ポル :みなさぁーん!! こんばんわぁーっ!!
□カス :ぼくたちは、満天の星空を案内するナビゲーター。
■ポル :きらきらと輝く星々を。
□カス :むかしむかしから紡がれた物語を。
■ポル :その、いちページを。めくっていくとしましょう。
□カス :その前に。まずは、自己紹介。
■ポル :はじめまして。ぼくたちの、
□カス :名前はね────。
テト :やー! 何とか間に合ったねー!!
藍 :大変でしたけど、何とかなりましたね。
白 :ほとんどのデータが吹っ飛んだからな。あの二人がいなかったら詰んでた。
テト :ほんとだねぇ。
白 :とりあえず、お疲れ様。乾杯でもしよう。
テト :コーヒーですけどねぇ。
藍 :でもまぁ、頑張った甲斐はあったんじゃないかと思います。
白 :というと?
藍 :ふたりとも、すごくいい笑顔、してるから。
間
藍 :メリークリスマス。カストル。ポルックス。
~~~~終幕~~~~