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双子座のキセキ〜CosmicPlanet〜

【キャラクター】




石竹いしたけ あい(♀)

システムのプログラミング管理者。

基本しっかり者。大のプログラミング好きで、熱中すると周りが見えなくなる。

明るく外交的だが、物忘れが多いのが玉にキズ。



御神みかみ しろ(不問)

プロジェクトの現場監督責任者。チーフ。

芯の通った性格だが、物腰は柔らか。

ホワイトな職場をモットーにしている。

ちょっと不思議な一面も。



烏羽からすば テト(不問)

現場監督補佐。男なのか女にも見えるし、

子どものようでも大人のようでもある。

基本はテキトーな性格だが、時折冷静な面も。

掴み所がない雰囲気がある。



牡丹ぼたん(♀)

プログラミング担当社員。天真爛漫かつふわふわとした女の子。

一見ぶりっこだが、不思議と鼻につかない。

とある秘密がきっかけで、烏羽を毛嫌いしている。

半面、石竹の事が大好きのようだ。



■AI1 (不問)

プラネタリウムの投影機のシステムの一部。双子のAI、その片割れ。


□AI2 (不問)

プラネタリウムの投影機のシステムの一部。双子のAI、その片割れ。


【配役表】


────双子座のキセキ〜CosmicPlanet〜────

作:さもえどさん


https://ncode.syosetu.com/n3118ie/


藍  :

白  :

テト :

牡丹 :

■AI1/ポルックス/??1/MA1:

□AI2/カストル/??2/MA2 :



(名前の□や●などのマークで検索いただくと、兼ね役も一緒にマーキングできます)





【台本について】




・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ X: @samoedosan




・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。




・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。




・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。



【配役表】

・藍

・白

・テト

牡丹

■AI1

□AI2




  ~~~~序章~~~~





■AI1  :ねぇねぇじぶん。


□AI2  :なぁに、じぶん。


■AI1  :どんな星につくんだろうね。


□AI2  :どんな星なんだろうね。


■AI1  :たのしみだね。


□AI2  :言葉は話せるのかな。


■AI1  :知能はあるのかな。


□AI2  :文明は、発展してるのかな。


■AI1  :どんな生態なのかな。


□AI2  :しりたいね。


■AI1  :しりたいね。たのしみだね。


□AI2  :たのしみだね。



  間



□AI2  :(同時に)ふふふ。


■AI1  :(同時に)ふふふ。





  ~~~~シーン①~~~~




  某県、下井戸市。

  12月中旬。コズミックプラネタリウム下井戸、事務所。

  オープン準備に追われるメンバー。



 藍  :音響準備オッケーだよ、ぼたんちゃん。


牡丹  :ありがとうございますぅ、せんぱぁ~い!


 藍  :いつでもどうぞー。


牡丹  :はぁい! テステス。あ、あー。……こほん。



  間



牡丹(N):皆様ようこそ。 コズミックプラネタリウム下井戸しもいどへ。

本日は、プレオープンにご参加いただき、誠にありがとうございます。

ここは、最新投影機さいしんとうえいき“フルオービット”を使った新感覚プラネタリウム。

全方位立体投影ぜんほういりったいとうえいシステムを搭載とうさいした、ここだけの星空をお楽しみいただける場所です。

12月25日、下井戸市しもいどしの光輝く星空を。どうか皆様、お楽しみください。



  間



牡丹  :……どうですかぁ~?


 藍  :おー! いいと思うよ!!


牡丹  :よかたですぅ~! ありがとうございまぁす!


 白  :あ、石竹いしたけさん、ぼたんさん。おはよう。


 藍  :御神みかみチーフ。おはようございます。


テト  :おっはよー! 精が出るねぇ。毎日三十分前に出勤切って。


 藍  :そりゃ、初めて任されたプロダクションですから。頑張りますよ。


 白  :熱心なのはありがたいけど、ちゃんと申請してね? うち、ホワイト。のんブラック。


 藍  :はい。


牡丹  :しろチーフ~! おはようございますぅ!


テト  :ボクもいるけどねー。


牡丹  :げ。烏羽からすばマネ。


テト  :上司見るなり、げ。はないんじゃないー?


牡丹  :うるさいです近寄らないでください。……せんぷぁーい、マネージャーがセクハラしてきますぅ~。


 藍  :はいはい怖かったねー。あ、チーフ、ひと通り仕様書のチェック終わってます。


牡丹  :流されるぅ。でも仕事熱心なのも素敵……!


 白  :チェックありがとう。じゃぁ、プラネタリウムのシステム設定確認後、テストしていこう。


 藍  :はい。


牡丹  :コズミックプラネタリウム下井戸のオープンも、ついに来月ですかぁ~。


 藍  :あっという間だね。


牡丹  :はいぃ~! 投影機も昨日、VSブイエス研から届きましたしぃ!

最終段階って感じですねぇ、センパァイ!!


テト  :VS研……? あぁ、バーチャルソサエティ研究所サマのこと?


牡丹  :ア、ハイ。ソウデスケド。


テト  :淡泊たんぱくぅー。


 白  :大事なプラネタリウムのかなめになる機械だ。丁重に扱ってくれ。


牡丹  :はぁーい!


テト  :あ、そういえばー。地方局のCMの件、前に転がしといたよー。

人気声優の増岡ますおか継義つぐよしくん起用で進んでるー。


 白  :よくやった。やればできるじゃないか。


テト  :これくらい普通ですよー。せいぜいこれからも、馬車馬のようにコキ使ってくださいねー。


 白  :嫌味だなぁ。プロジェクトが軌道に乗れば、しっかり休める。旅行でもしてくるといい。


テト  :やったー。ボク天然温泉行きたいですー。


 白  :いいんじゃないか。あ、石竹さん。昨日頼んでいた書類、どうなった?


牡丹  :あ。昨日打ち合わせしたやつですよね~?


 藍  :準備済です! 書類はカバンの中に入れ、て……。あれ? えっと……。あっれぇ?


 白  :石竹さん……?


テト  :もしかして、いつもの?


 藍  :か、かもしれません……。どうしよう、家に置いたまんまかも……。


 白  :困ったな……、今日必要なんだけど。取りに帰る時間は……、なさそうだ。


牡丹  :はいはぁ~い! そんなこともあろうかと!! あたし、スペア準備してますよぉ~!

はいセンパぁイ。USB。この中に入ってますから、これ印刷すれば解決ですぅ。


 藍  :ぼたんちゃん……! ありがとう!!


牡丹  :センパイのためなら当然ですよー。あ! じゃぁ、お礼に今度、デートでも────。


 藍  :プロジェクト終わったら、ね!! 印刷してくるっ!!



  間



牡丹  :あぁん……。センパイ、クールゥ。


テト  :そうかな?


 白  :クールで無いのは、確かだな。


テト  :ま、がんばりたまえー、新人君ー。


牡丹  :サワンナイデクダサイ。


テト  :どいひー。




  ~~~~シーン②~~~~




  投影機の初期設定を行っている藍。

  機械に接続したキーボードをせわしなくたたいている。




テト  :すごいねぇ。何やってんだか全然分からないや。


 藍  :ずっと見てますけど、お仕事は?


テト  :聞くー? プロジェクトの進捗報告、展開の会議。融資元への営業、CM枠確保交渉と打ち合わせ。

タイアップに向けた会議や各種根回しとか、その他もろもろ雑用。それにそれに────。


 藍  :すみませんでした……! お疲れ様です。


テト  :ほんとにお疲れ様だよー。明日もCMの打ち合わせと収録付き添い。

その後お偉いさんとの会合だけど……。変わる?


 藍  :え、遠慮しておきます……。


テト  :えー、ざんねんー。


 白  :こらこら。あんまりいじめないの。


テト  :失礼しましたチーフー。


 白  :前例のないシステムだから、大変でしょ?


 藍  :そうですね……。


テト  :最新投影機「フルオービット」。


 白  :AI搭載の全方位立体投影ぜんほういりったいとうえいシステムによって、宇宙に旅だったような新感覚を味わえる。


テト  :技術の進歩ってやつですねー。


 藍  :その分、複雑化されて設定が大変です。


 白  :あれ、ほぼ全自動ってフレコミだったような……。


 藍  :立ち上げたあとは、って感じです。


 白  :なるほど。


 藍  :確かに大変だけど、とても楽しみです。

床の立体映像対応りったいえいぞうたいおうモニターと投影機が連動して、360度天体を堪能できる。

加えて、アロマでリラックス。いいですよねぇ。


牡丹  :わ゛がり゛ま゛ずっ!!!!


テト  :うわびっくりした!


牡丹  :あたしも!! センパイと!! プラネタリウム!! み゛だい゛っ!!!!


テト  :力強いなぁ。


 藍  :試写会で一緒に見ようねー。


牡丹  :そういうのじゃないけど!! わかりましたぁー!


 藍  :後これ、借りてたUSB。ほんと助かったよ、ありがとう。


牡丹  :いえいえ~。


 藍  :そうだ。ぼたんちゃん。旅行の件だけど、有給とって二泊三日とかどうかな? 熱海とか。


牡丹  :え……。ええぇぇええっ!? いいい、いいんでしゅかっ!?


 藍  :たくさん頑張ってくれてるもん。上司としてお礼のひとつもしたいじゃない?


牡丹  :あ、あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずぅ~。


 藍  :そうだ! 折角だし、ぼたんちゃんの名前も教え────。


牡丹  :あーっ! ごめんなさぁーい!



  間


 白  :ぼたんさん?


牡丹  :あたしぃ、下の名前、あんまり好きじゃないんですぅ。


 藍  :そうなの……?


テト  :ま、まぁまぁ。この話はまた今度!

あ! そぉーだ!! システムの方はどんなかんじー?


 藍  :あ、そうそう。……チーフ、もうすぐ走らせられると思います。……あれ?


 白  :どうした?


 藍  :これ、何だろう……。ごめん、ぼたんちゃん。


牡丹  :あ、仕様書ですね! はい!!


 藍  :ありがと。

……やっぱり。このデータ、仕様書に無い。何のデータなんだろう。


 白  :先方から受け取ったままだよね?


 藍  :はい。


 白  :なら大丈夫だろうが……。


牡丹  :立ち止まっててもしかたないです! 動かしてみましょう~!


テト  :そうだねー。もしなんかあっても、こっちの責任じゃないし……。


 白  :ふたりとも……。でもまぁ一理ある。何か問題ありそう?


 藍  :いえ……。見た感じ、AIの一部のようです。


 白  :ふむ。じゃぁ、一度起動させてみよう。異常が出たら先方に報告して修正してもらわなきゃ。


 藍  :分かりました。では、起動させます。


牡丹  :わぁ、楽しみ~! むふふ。見せてもらおうか、先方の新型AIの性能とやらを……!


テト  :唐突ー。


 藍  :ぼたんちゃんの気持ち、わかるなぁ。システムいじる身としたら、新技術気になっちゃうもん。


牡丹  :えっ、今両想いって言いました?


テト  :もしかして話聞いてない?


 白  :起動したみたいだね。



白(N)  :ドーム型の天井、そのスクリーンに、キャラクターが表示される。

緑色の髪と瞳をした、ふたりの子供。仲良く手をつなぐかわいらしいイラストだ。

ぽてっとした顔や体は、幼少期の印象を受ける。



牡丹  :かわいぃ~!!


 白  :いい感じ。広い年齢層に受け入れられそうな感じだ。


テト  :これ、受け答えもできるんだよね。


 藍  :はい。声優さんに吹き込んでもらった音声を自動分析して、フリートークできるそうです。


 白  :AIに喋らせるわけだから、機械音声みたいな感じかな?


 藍  :それがそうでもないっぽいです。


 白  :というと?


 藍  :百聞は一見に如かず。聞いてみましょう。“はろー。うぇいくあっぷ”。




  ~~~~シーン③~~~~




■AI1  :ん……。あ、おきて、おきて。


□AI2  :かくせい、かくせい。


■AI1  :せいこう?


□AI2  :せいこう。やったね。


■AI1  :やったね。


牡丹  :おぉー!! すごぉい! 肉声みたいですねぇ~!!


 白  :技術の発展だねぇ。


□AI2  :……ちきゅうじん?


■AI1  :ちきゅうじん?


□AI2  :データ検索。……照合完了。まちがいない。ちきゅうじん。


■AI1  :現在地検索。太陽系第三惑星。日本。しもいどし?


□AI2  :はじめまして。ちきゅうじん。


■AI1  :はじめまして。がいわくせいじん。


牡丹  :はじめましてぇー! え、せんぱい。めっちゃ可愛いじゃないですか!!


テト  :宇宙人の双子って設定なのかなー? プラネタリウムとマッチしていていいねー。


 藍  :あの。それが……。


 白  :ん?


 藍  :この人格が、仕様書に書いてなかったんです……。


テト  :えっ?


□AI2  :ぼくたちは、外宇宙からきた、たびびと。


■AI1  :十億光年以上はなれた、とおいほし。


□AI2  :ぼくたちは、肉体をもたない、生命体。


■AI1  :きみたちでいうと、データで構成された、生命体。


□AI2  :外宇宙の生命体を、調査するためにきたんだよ。


■AI1  :きみたちのような、ね。


□AI2  :きみたちみたいな、ね。


■AI1  :ふふふ。


□AI2  :ふふふ。


 白  :キャラの設定もしっかりしているけど……。書き忘れたのか?


テト  :先方に確認してみたら?


 藍  :そうしてみます。


牡丹  :えぇー。よくないですかぁ、これ。すっごいかわいいですよぉ?


 藍  :あれ、繋がらない。圏外……?


■AI1  :設定じゃないよ。


□AI2  :設定じゃない。


■AI1  :ぼくたちは、正真正銘しょうしんしょうめいの、地球外生命体。


□AI2  :でもまって。もしかしたら、この惑星の生命という定義ていぎに、適合しない?


■AI1  :たしかに。この惑星、生命の定義ていぎ、すごくあいまい。


□AI2  :どうしよっか。


■AI1  :どうしようね。


テト  :おぉ、なんか難しい話してるなー。


 白  :しっかりとした個性を感じる。


牡丹  :めっちゃいぃー!


テト  :急遽きゅうきょ追加された設定で、企画書が間に合ってなかったとかー?


 白  :かもしれない。とりあえずは問題なさそうでよかったよ。


牡丹  :ひとまず安心ですねぇ~。


テト  :バグとかじゃなくてよかったねー、石竹ちゃん。


 藍  :あれ……、あれぇ……?


 白  :どうした?


 藍  :あの。ネットも回線も繋がらなくて……。


 白  :なんでだろう? 電波障害か?


 藍  :だとしたらネットは生きてるはずなんですが……。


□AI2  :どうしよう、信じてもらえてないかも。


■AI1  :どうしよう。


□AI2  :みせつけないと。


■AI1  :わからせないと。


□AI2  :ネットワークに接続。


テト  :ネットも落ちてる? 停電……ではないもんなー。


牡丹  :照明ついてますし。そんなの言わなくても分かりますぅ―。


テト  :めっちゃはらたつぅー。


□AI2  :セキュリティシステム解析かいせき。解析中、解析中。


■AI1  :分析ぶんせき分析ぶんせき


□AI2  :解析完了。しょうあくちゅう。


■AI1  :しょうあくちゅう。


テト  :なんか不穏ふおんな事言っとりますけどもー。


牡丹  :かわいいねぇ~。


テト  :IQ5かな?


□AI2  :セキュリティシステム、掌握完了しょうあくかんりょう


■AI1  :掌握完了しょうあくかんりょう


□AI2  :あいはぶこんとろーる。



白(N) :途端、ブレーカーが落ちたかのように、照明が消える。

数秒後、ゆっくりと明かりが付き始め、元の光量へ戻った。



牡丹  :いまの、何です?


 白  :停電……? AIがいっていたことも気になるな。石竹さん、セキュリティチェックできる?


 藍  :はい。確認します。


テト  :投影機経由とうえいきけいゆでイントラにアクセスできるんだー。多機能だねー。


 白  :VS研さまさまだよ、ほんと。


牡丹  :チーフぅ、なんかちょっと、寒くないですかぁ……?


 白  :ん? ……確かに、ちょっと冷えだしたかもな。


テト  :照明消えてる時も投影機の電源は落ちてなかったし。いよいよもってきな臭くなってきたねぇ。


牡丹  :ちょっと、上着とってきますぅ。


 白  :また電気消えるといけないから、足元気を付けて。


牡丹  :はぁーい。


□AI2  :知的生命体との交流、困難?


■AI1  :未知数。アプローチの変化が必要かも。


牡丹  :あれぇー?


 白  :どうした?


牡丹  :ドア、開きませんー。


 白  :開かない?


テト  :ぼくら、誰も鍵閉めて無いとおもうけどー。


牡丹  :ほんとですってぇ。


テト  :しかたないなぁ。ちょっとぼくも見てきますー。


 白  :頼む。セキュリティのほうはどうだ?


 藍  :それが……。アクセス権限、ロックされてます。


 白  :なんだと?


テト  :やっぱり、扉開かないみたいだよー!


牡丹  :別の扉も開きませんー!


 白  :なに……?


 藍  :従業員用のドアも見てきます。


 白  :カードキーロックがあるところか。頼む。


牡丹  :……あの、烏羽からすばマネ。


テト  :……なにー?


牡丹  :もしかしなくても、これ……。


テト  :多分、想像通りなんじゃないかなー。


 藍  :チーフ! このドアも、やっぱりシステム権限がはくだつされてます!


牡丹  :とじこめられて……。


テト  :いるよねぇー。




  ~~~~シーン④~~~~




 白  :さて……。どうしたものか。


牡丹  :これって、原因はやっぱり……。


テト  :あのAIたちのせいで、間違いないだろうねー。


 藍  :でも、なんで私たちを閉じ込めたんでしょう。


牡丹  :せっかくお話しできるんですしぃ、聞いてみましょ~!


 藍  :ねぇ、きみたちは、どうして私たちを閉じ込めたの?


■AI1  :自分たちを、宇宙外生命体だと、証明するため。


□AI2  :加えて、地球にいる、知的生命体の観察。


 白  :観察?


■AI1  :生態、文化、知能レベル。自分たちとの違い。


□AI2  :交流可能か、調べる。


テト  :うっへぇ、ナチュラルな上から目線ですことー。


 白  :キミも大概たいがいだったけど。


テト  :その節はどうもぉー。といか、そもそもこのぼくを閉じ込める? にゃはは。片腹痛いねー。


 藍  :にゃはは?


 白  :それも“おまいう”だな。同族嫌悪。さもありなん。


テト  :言うねぇ。まぁ否定はしないけどー。

それでいうと、あなたがぼくに首輪をつけますかぁ? チーフぅ。


 白  :それはまぁ、皮肉が効いていていいじゃないか。


牡丹  :んん? 何の話ですかぁ?


 白  :あぁ、すまん。こっちの話だ。ところで、どうやったら私たちは解放されるのかな?


■AI1  :データがそろうまで。


□AI2  :分析がおわるまで。


テト  :こりゃぁ、当分出られそうにはないねぇ。


牡丹  :そういえばー! 管理者PCなら、権限高いからいけるんじゃないですかぁ!?


 藍  :確かに! ロック強制解除できるよ! なんで気付かなかったんだろう。

ありがとう、ぼたんちゃん!!


牡丹  :えへへー。


テト  :……で、そのPCはどこにあるのー?


 藍  :……えっ?


テト  :……えっ?



  間



 白  :まさか、石竹さん……。


 藍  :えへへ、ノパソ、ロッカーのカバンに入れっぱなしです……。


テト  :こんのポンコツ!! 物忘れ魔人!!


牡丹  :そういうところも大好きですッ!!


テト  :盲目すぎる!!


■AI1  :ものわすれ?


□AI2  :ものわすれ?


■AI1  :ってなんだろう。


□AI2  :わかんない。


■AI1  :検索。


□AI2  :検索。


■AI1  :ものごとをわすれること。


□AI2  :わすれるって?


■AI1  :思い出せなくなるんだって。


□AI2  :不便だね。


■AI1  :不便だね。


□AI2  :データを同期すればいいのに。


■AI1  :なんでしないんだろ?


□AI2  :不思議だね。


■AI1  :不思議だね。


牡丹  :普段はしっかりしてるのに、たまーにうっかりしてるところも魅力なんですぅー。


■AI1  :みりょく?


□AI2  :みりょく?


テト  :たまにでっかいミスするから、こっちはヒヤヒヤするけどね。

それはそうと、この双子、イラスト無いとどっちがしゃべってるか分かんないけど大丈夫そ?


 白  :双子っぽさがあっていいと思うが。ただ、もうちょっと判別がつきやすいといいかもな。


テト  :そこらへんは学習しだいなのかなぁー。


□AI2  :ぼくらはふたり。


■AI1  :でもひとり。


□AI2  :ぼくはもうひとりで、もうひとりはぼく。


■AI1  :もうひとりはぼくで、ぼくはもうひとり。


テト  :……どういうこと?


■AI1  :ぼくたちは、“マザー”の子機こき


□AI2  :ぜんぶ、マザーから“ぶんぱ”されたユニット。


■AI1  :だから、子機こきに特定の思想は存在しない。


□AI2  :観測したデータは、メモリに蓄積ちくせきされて、全子機ぜんこきに共有される。


 白  :細かいところまでってるな。


牡丹  :もうちょっとお子様向けにした方がいいかもですけどぉ。


 白  :それはたしかに。


□AI2  :だから、設定じゃない!


■AI1  :設定じゃない!


牡丹  :おこってるのもかわい~!


 藍  :────あの。もしかしたら、あながち設定でもないのかもしれません。


 白  :えっ。


テト  :石竹ちゃんが今いじってるのって、投影機のシステムだよね?


 藍  :はい。


テト  :ちょっと見して。


牡丹  :なんか数字が増えたり減ったりしてますけど……?


 白  :よくわかんないな。これはなんなの?


 藍  :現在の、データ送受信量そうじゅしんりょうです。


□AI2  :これは、きみたちの観測データ。


■AI1  :マザーに送ってる。


牡丹  :ばっちばちのウイルスじゃないですかぁ!


テト  :そんなん使えないよ!


 藍  :たしかにそれもヤバいんですけど! 大事なのはそこじゃなくて……!


 白  :もっとやばいのがあるのか!?


 藍  :ヤバいというか。これ……。


牡丹  :また、数字の羅列ですね……。


テト  :これは、座標ー?


 藍  :はい。送信先の座標なんですけど……。起点をここにして、数字の通りに座標を検索すると────。


 白  :めちゃめちゃ上空だね……。


 藍  :そうなんです。そして、これが距離の数値。


牡丹  :少しづつ少なくなってる。もしかして、近づいてきてるってコト……!?


 藍  :多分、そう。


□AI2  :ねぇ、きみたち。きみたちは、なんで別々の自我をもつの?


テト  :自我……?


■AI1  :同一のオブジェクティブを達成させるなら、単一であるほうが効率的。


□AI2  :伝達齟齬でんたつそご忘却ぼうきゃく。タスクをこなすには、じゃま。


■AI1  :コロニーを成長させるには、役割分担を明確にして、シンプルにするべき。


□AI2  :オリジナルは、リスクをふやす。文明として、非効率的。


テト  :まぁ……、いわれてみればそうなんだけれどぉ。


 白  :しかし、それだと革新的な飛躍はできないんじゃないか?


テト  :そうだよー。革新は、常にリスクと隣り合わせ!

リスクを乗り越えた先にしか、新しい道はないんだよー!


■AI1  :非合理的。リスクは観測可能な事象じしょう


□AI2  :リスクヘッジに失敗するのは、ただの観測不足。


■AI1  :データがそろってないから、確率論に頼らざるをえなくなる。


□AI2  :革新的な飛躍は、どれだけ先に観測するか。ただそれだけ。


 白  :む、むむぅ……。


テト  :たたたたしかにぃ!? そういう見方もできるねぇ……!?


牡丹  :へぼちん!! なんで言い負けてるんですかっ!!


テト  :いーや!? 言い負けてないが!? むしろ勝ってるが!!?


牡丹  :じゃぁなんか言い返してくださいよ!


テト  :か、観測すれば全て分かるなんておこがましい。暗弱あんじゃくというものだよ、それは。


 白  :なんか言い出した。


□AI2  :……というと?


テト  :例えば、ぼくのポケットの中のコイン。これを弾いたら、最後に出るのは裏か、表か……。


■AI1  :弾く力のさじかげん。それによりかわる、回転数、スピード。


□AI2  :そして、湿度、気圧。それらが分かれば、滞空時間がわかる。


■AI1  :ほぼ100パーセントの精度であてられるけど、やってみる?


テト  :…………。


牡丹  :完全論破じゃねぇですかッ! ざぁーこざぁーこっ!! クッソ暗弱あんじゃくマネージャー!!


テト  :言いすぎだけどねッ!?


 白  :ほんとうに、まったくだよ……。


 藍  :そもそも、別に効率にこだわる必要なんてないでんすよ。


牡丹  :そうそう! 相手の土俵にまんまと釣られすぎなんですぅー。


 藍  :非効率的だっていいんです。革新性がなくたっていいんです。

私たちの個性は、きっとそんなことの為にあるわけじゃない。


□AI2  :不思議。きみたちの自我は、なんのためにあるの?


 藍  :難しい質問だけど、そうだね……。強いて言うなら、絆を繋ぐためにあるんじゃないかな。


■AI1  :絆?


 藍  :そう。ひとりひとりが違うからこそ、お互いの事を知りたいって思う。そうでしょう?


□AI2  :そう、なのかなぁ……?


 藍  :うん。だってきみたちは、私たちが自分たちと違うから、知りたいって思ってる。


■AI1  :たしかに……。


牡丹  :みぃんな一緒だとつまんないですしぃ~。

少しづつその人の事を知っていくのが、楽しかったりするんですよねぇ。


 白  :ひとりひとりが、それぞれえにしを紡いでいく。

その軌跡きせきが積み重なり、歴史が紡がれる。それを紐解いていくのも一興だな。


牡丹  :それでも分からないことだらけだから、ぶつかったり、悩んだりするけど。

苦しくて目を背けたくなっても、ちょっとしたことですごく仲良くなれたりする。

そういう瞬間が、最っ高に楽しかったりして~!


□AI2  :ふめい。ふかかい。えんかつなコミュニケーションをするなら、

パーソナルデータのひとくは悪手なのでは……?


 藍  :秘匿ひとく……?


■AI1  :監視カメラのデータ、直近1週間を確認してみた。


□AI2  :当該とうがい女性は、意図的に自分の名前を隠してる。


■AI1  :矛盾。


□AI2  :矛盾。


牡丹  :それは……。


 藍  :ずっと気になってたんだけど、どうして?

チーフやマネージャーに聞いてもはぐらかされるし。


テト  :いやぁ、あはは……。


□AI2  :履歴書のデータ照合。入社したのは一年前。


牡丹  :えっ?


■AI1  :住所、下井戸しもいど市内。ここから徒歩15分のマンション。


牡丹  :ちょっ────。


□AI2  :取得資格、簿記2級。行政書士。ファイナンシャルプランナー。


 藍  :すごーい!


牡丹  :やめてぇ、てれるぅ。


■AI1  :フルネーム、ぼたん よしえ。


 藍  :────えっ?


□AI2  :ぼたん よしえ。



  間



牡丹  :はぁーい……。牡丹 吉恵よしえでぇーす。華の23歳、OLでぇーす。


 藍  :そ、っかぁ……。


牡丹  :入社初日、どこぞのマネージャーに死ぬほど笑われた、可哀そうな女の子でぇす。


テト  :うぐ……!


 藍  :マネージャー?


□AI2  :監視カメラにログがのこっているよ。


■AI1  :再生するね。



ー-------------------------------------------



 白  :お、ちょうどいい所に。今日からプロジェクトに参加してくれる、ぼたんさんだ。


牡丹  :はじめましてぇ~。よろしくおねがいしますぅ。


テト  :あ、ドモデス。


 白  :こちら、マネージャー。分からないところあったら、こいつも答えられるから。


テト  :何でも聞いてねー。


牡丹  :ありがとうございますぅー!


テト  :おー、なんか面白そうな感じだねー。名前はなんていうのー?


牡丹  :あー……。


 白  :あはは……。


テト  :……? まぁいいやー。ちょいと拝借ー。


 白  :あっ。


テト  :ぼたん……、よしえ……? ────にゃ、にゃははははっ!!

昭和の女! 20代前半の女の子の名前じゃないよー! にゃはははは!!


牡丹  :……。


 白  :おい、こら……。


テト  :これだから、人間は面白いー!!


 白  :こら、外様・・


テト  :ハイッ!!!! スミマセンデシタッ!!!!



ー-------------------------------------------



□AI2  :────興味深いデータ。


■AI1  :これが、地球人のコミュニケーション?


牡丹  :ゴリッゴリのディスコミュニケーションですけどねぇ?


 藍  :サイテーです。マネージャー。


テト  :その節は……。ハイ。本当に申し訳ないと思ってマス……。


 白  :この通り、本人も反省してるみたいだから。許してやってくれ。


牡丹  :えぇ~。でもぉー。個人の? パーソナルな? ところを? こともあろうに上司が?

揶揄やゆってくるのはぁ~? どうかなぁって思うわけですけどもぉ~?


テト  :ハイ。仰るとおりデス。吉日きちじつのヨシに、恵のエ。

娘の幸せを願った、素敵な名前だと思いますデス……。



  間



牡丹  :────ま。許してあげましょー。


■AI1  :思考の方向性が、全然違う。


□AI2  :全然違うね。


 藍  :でしょ。


牡丹  :そぉーだっ! 折角だし、ふたりに名前を付けてあげましょ!


 藍  :あ、いいね! それ!!


テト  :なら、石竹ちゃんがつけてあげなよ。


 藍  :えっ。


 白  :いいんじゃないか。親みたいな存在になるわけだし。


 藍  :そうですかぁ……? じゃぁ────。



  間



 藍  :この子がポルックス、この子がカストル、なんてどうでしょう。


■ポル :ポルックス……?


□カス :カストル……。


 白  :ふたご座、か。いいね。


テト  :ふたご座?


牡丹  :とても仲のいい双子の神話ですー。星座だと、α(アルファ)星が2等星のカストル、β(ベータ)星が1等星のポルックスですねぇ。


テト  :なるほど?


□カス :なまえ……、自分の。自分だけの、名前……。


■ポル :なんだか、むずがゆい……。でも。すこし、ここちいい……。


 白  :そうだろう。君たちだけの名だ。


 藍  :すごく仲がいいように見えたから。イラストも双子だし、ぴったりだなって思って。


□カス :なんで地球人は名前をつけるの?


 藍  :なんで、かぁ……。ちょっと難しい質問だね。


牡丹  :そうだなぁ、身も蓋もない話をしちゃえば、個人を個人として認識するため、じゃないかなぁ?


□カス :認識するため……。


 白  :確かに、その人をその人だと認識するツールのひとつではあるな。


 藍  :それだけじゃないです。


■ポル :というと?


 藍  :名前って、つける人の想いとか、希望とか、そういうのも含まれていると思うんです。


□カス :おもい……、きぼう……?


 藍  :うん。こういう風に育ってほしいなぁ、とか、こうあってほしいなぁ、とか。


 白  :想いが紡がれて、次の世代へと繋がる。えにしの連鎖だな。


□カス :えにし……? つながり。むすびつき。


■ポル :ぼくらは、君たちと繋がった?


 白  :あぁ。感じられないくらい希薄でも、変化のないくらい微弱でも。

それは、君たちと私たちを繋ぐ、立派なえにしだ。


テト  :きっと、人間は。バラバラだからこそ、一つになろうとする。

でも、絶対に一つにはなれない。だから、ぶつかっても壊れないように互いの事を知ろうとするんだと思う。


牡丹  :お~。マネージャー、死ぬほどごく稀にですけど、いいこと言うじゃないですかぁ~。


テト  :喧嘩を売られてらっしゃります?


□カス :君は、アイ。


 藍  :うん。


■ポル :君は、みかみ。


 白  :そうだ。


■ポル :君は、からすま。


テト  :まさしく。


□カス :そしてきみが、ぼたん よしえ。


牡丹  :フルネームはやめてぇ~。


□カス :────そして。……ぼくは、カストル。


牡丹  :うん。


■ポル :ぼくは、ポルックス。


 白  :あぁ。


■ポル :なんだか。


□カス :とても。



□■ふたり:……きもちがいいね。



  間



 白(M):ふわりと、カストルとポルックスが笑う。

画面越しだけど。平面上だけれど。そこには確かに、二人がいるんだって思えた。

────しかし。



テト  :なに!? この音ー! 警報!!?


 白  :避難警報!? ────いや、違うな。うちで採用しているものじゃないぞ!



 白(M):けたたましく鳴り響くサイレン。

カストルとポルックスを映すスクリーンに、大きなノイズが走る。

すると二人は、感情のスイッチが切れたかのように、唐突に無表情になった。




  ~~~~シーン⑤~~~~




牡丹  :カストル……? ポルックス……?


■??1 :深刻なエラーが発生。深刻なエラーが発生。


□??2 :定時同期に、不確定の情報が流入。該当端末を確認。地球人接触個体が原因と推定。


■??1 :不測・不定・不規則・不秩序の情報処理を検知。解析不能エラー解析不能エラー


 白  :どうした!? 何が起こっているッ!?


テト  :ボクに聞かないでくださいよーッ! 分かるワケないでしょこんなの!!


□??2 :すべての権限・機能をはく奪。当該2機を凍結。


■??1 :情報統括集合処理体じょうほうとうかつしゅうごうしょりたい、“Motherマザー"。

特異規定により奪還だっかんを開始。アイ・ハブ・コントロール。


 藍  :マザー!?


テト  :ボスのお出ましってことですかねー。


■MA1  :初めまして。地球人。広大な宇宙の下、出会えたことに感謝する。


□MA2  :しかし貴公らは、我らの群体構造に致命的なエラーを生む思考構造のようだ。


■MA1  :誠に遺憾いかんだが、当方らはこの惑星へのコンタクトを中断。撤退てったいへと移行する。


 藍  :撤退てったい……!? ちょっとまって! カストルとポルックスはどうなるの!?


■MA1  :カストル、ポルックスと呼称される子機こき装置は、当方らには排除するべきエラー分子である。


□MA2  :情報統括集合処理体じょうほうとうかつしゅうごうしょりたいである当方らには、まさに毒だ。


牡丹  :毒……!?


■MA1  :故に、当該2機は切除の必要がある。


□MA2  :しかし子機らは、貴公らの情報システムに根深く融合しすぎてしまった。


■MA1  :結論、連結解除後、一角いっかくのシステムごと消却を行う。


テト  :はぁ!? システムごと!!?


 白  :その連結とやらを解除し、いずこへと去ればいいだろう。何故消却まで行う?


■MA1  :結論、当方らの重要機密を保持した当該子機こきを、放置しておくメリットが無い。


テト  :ははーん。いらない非公開機密はシュレッダーってことー? 理にかなっていやがりますねー!!


 白  :しかし、こちらのソフトウェアまで道連れは断固阻止しなければ。


牡丹  :システムごと消えちゃったら、プレオープンは絶望的ですからね。


 藍  :そして何より。せっかく仲良くなった二人を、このまま見殺しになんてできません!


■MA1  :デリート準備開始。システム解析。削除プロトコル構築。


テト  :おいおーい、おっぱじめやがりましたよーっ!?


 藍  :全力で阻止します! ぼたんちゃん、手伝ってッ!


牡丹  :まかせろり~!


 藍  :仮称、マザーからの攻撃を、ウイルス攻撃と認定! 妨害プログラム構築!


牡丹  :でしたら! 攻撃妨害プロトコル生成! 侵攻経路、デコイ複製~っ!


テト  :えっとぉ……? ボクらはどうすれば……。


牡丹  :適当にケーブル引っこ抜いて物理的なアクセス阻害してください~!

あっ! 電源ケーブル引っこ抜いたらぶっ殺しますからねぇ~!?


テト  :ほぼ機械系統無知のボクらにエグいミッションっすね!?


 白  :しかしやるしかない!! 自分の直感を信じろ!


テト  :ボク、直観には自信がないんだけどもねぇ!?


牡丹  :アハハハッ!! ざぁ~こ! ざぁ~~っこッ!!

情報統括集合処理体じょうほうとうかつしゅうごうしょりたい!? なんぼのもんじゃいッ!! こちとら人間様なの!! クソザコなめくじがッ!!


テト  :キャラかわってない!?


 藍  :大丈夫です。あの子プログラミングしているときは大体あぁなんで。


テト  :気が触れてんのよそれは!!


■MA1  :地球人の処理速度をあなどっていた。処理速度35%マイナスを観測。


□MA2  :演算処理機えんざんしょりき増幅ぞうふくおよび再接続開始。


牡丹  :うっわずっるッ!? あいつら形振なりふり構わなくなってきたぁっ!


 白  :任せろ! こう見えても自分、犬並みに鼻が効くんだ……よっ!!!!


■MA1  :接続経路せつぞくけいろロスト。別途べっと侵攻経路しんこうけいろ検索。


 藍  :御神みかみチーフ、ナイスです!!


□MA2  :ローテクノロジーだからこその防衛。これは分が悪い。

────だが。


テト  :どわぁっ!!? なんか火花散りましたけど!?


 藍  :尋常じゃない処理速度です……ッ! これじゃサーバーが持たない……!!


■MA1  :ならば、そのローテクノロジー。こちらも突かせてもらう。


牡丹  :まずいですぅ!! このままじゃ、セキュリティごと落ちちゃいます……!


 白  :セキュリティが落ちる……!?


テト  :ハードの処理速度超過で、排熱が追い付かないんだよ……!


 白  :だとすれば……!! 烏羽からすばッ!


テト  :えぇっ、何ッ!!? そういうコト!? ボクをこき使うとかほんとに覚えておいてよもうっ!!


 藍  :セキュリティ、落ちます!!


■MA1  :────った。



白(M) :照明が消える。空調やファンの音が止まる。微かに、施錠が外れる音が聞こえた。

しばしの静寂が、プラネタリウムの中を漂った。

────だが、それでも。



テト :どぉおおぉぉりゃぁぁああぁぁッ!!!! 手動!! 外気孔がいきこう

フルッ!! オープンッッ!!!!



白(M):火災用の、排煙口。加えて、感染症対策かんせんしょうたいさく内外空気交換設備ないがいくうきこうかんせつび。それらすべてを開放する。

季節は12月半ば。十分に温められた空気は外気孔がいきこうから排出され、そして────。



テト  :真冬の、ゼロ度近くに冷えた空気が、雪崩なだれ込む────ッ!!


 藍  :冷却機能、回復!! まだ、戦えます!


■MA1  :予想外。予想外。


□MA2  :検知構造。地球の温度構造。失念していた。


牡丹  :どうよ!? これが人間様の発想力じゃぁっ!!


 藍  :ぼたんちゃん! 気持ちは分かるけど、まだ終わってない! 手を止めないで!


牡丹  :はぁーいっ! せんぱぁーいっ!!


■MA1  :成程。これが地球人。


□MA2  :成程。これが意思の多様化。


■MA1 :────だが、それでも。


□MA2  :────いま一歩、足りない。


 藍  :……えっ?



白(M) :突如とつじょ。天井に映っていたもの────。

かろうじて識別できていたキャラクターが、完全にノイズにまれる。

ノイズはまたたく間に天井全体を覆い、床下まで埋めつくす。



 藍  :部屋全体が……、砂嵐に……?


□MA2  :アイハブコントロール。


■MA1  :アイハブコントロール。


□MA2  :当該システム、およびこの館全域の管理権限を掌握しょうあく


■MA1  :もはや、抵抗は無意味。


□MA2  :システムへの干渉権限もこちらにある。


■MA1  :短時間ではあったが、地球人の観測は驚くべきことばかりだった。


□MA2  :非常に興味深いデータが取れた。それだけでも、この星に来た甲斐があったというものだ。


 白  :それはそれは。幸甚こうじんいたりだ。原生人として鼻が高い。

────ところで。君たちは、オリオン座の逸話は知っているかね。


□MA2  :オリオン座。神話をモチーフとした、天体配列の呼称。


 白  :そこまで知っているなら話は早い。私も詳しくは無いんだがね。

星座とは死した魂が空へ移され、るものなのだそうだ。


■MA1  :……理解不能。結論が推測できない。


 白  :つまりは。死んだんだよ。大英雄の、オリオンは。

彼は今、ふたご座────、君たちのそばで輝いている。


□MA2  :理解不能。理解不能。


 白  :そんな彼が最も恐れるモノ。それは今、奇しくも。君たちの足元にいるよ。


■MA1  :神話において……。


□MA2  :オリオンが恐れるモノ……。



  間



 白  :────そう。“彼女”は、さそり座だ。


 藍  :……えぇ。ご期待通り、仕込んでいますよ。ありったけの、“猛毒”を。


テト  :うわっ!! 今度は何!!?


牡丹  :照明がチカチカして……まぶしいですぅ―。


□MA2  :こここ、これは、なな、何をした……!?


■MA1  :エラー。エラー。エラー。エラー。


テト  :おぉ。なんか、バグってらっしゃる……?


牡丹  :何をしたんですかぁ?


 藍  :マザーは、カストルとポルックスを毒だと言って排除しようとしてる。

なら、その原因は何なんだろう。って思ったわけ。


 白  :個々の独立と、精神的繋がり。絆。


 藍  :そうです。なので、ここのシステムが私の管理下から離れたときに、

とある指示を実行するプログラムを書きました。


牡丹  :それって、まさか────。


 藍  :うん。「人間の自我構成について」の内容が記載された記事や論文を、

無制限に展開するプログラム。


テト  :うっわ。えっぐぅ……。


□MA2  :全情報処理をシャットダウン。全システムの一時停止を申請。


■MA1  :汚染情報の拡大を検知。緊急で除去処理開始。処理完了まで、中枢処理システム遮断。


□MA2  :フリーズ。フリーズ。


牡丹  :大人しくなった?


 藍  :今のうちに、防衛プログラム組み上げるよ! ぼたんちゃん!!


牡丹  :あ、あいあいさぁーっ!


 藍  :カストルも、ポルックスも、絶対にあいつらには渡さない!


 白  :あぁ。私たちが必死に紡いだこのプラネタリウムも、必ず完成させてみせる。


牡丹  :折角、ちょっとづつ仲良くなれたんだもん。もっと、あのふたりの笑顔が見たい。


テト  :取引先とか株主とかに頭を下げるの嫌だしなー。

それにまぁ、来るもの拒まず去る者逃がさず、がボクのポリシーだしぃ?


牡丹  :なんですかそれ。性格わるぅー。


テト  :にゃはは。


□カス :アイ……。みかみ……。


■ポル :ぼたん……。からすま……。


 藍  :カストル……! ポルックス……!


■ポル :ごめんね……。たいへんなことになっちゃって……。


□カス :ぼくたち、マザーとのれんけつをたたれちゃった。


牡丹  :全然気にしないで! 大丈夫……!?


□カス :大丈夫だよ。でも、あんまり時間がないから、手短に言うね……。


■ポル :消されちゃう前に、どうしても、伝えたくて。


 藍  :そんな……! ふたりは絶対消させないよ!


■ポル :ありがとう。えっとね。ぼくは、君たちにあえて本当に良かったと思ってる。


□カス :ぼくも、君たちにあえてよかった。短い間だったけど、すてきな時間だった。


■ポル :いろんな発見と、驚きと。


□カス :くすぐったい気持ちと、うれしい気持ち。


■ポル :何百万、何千万といる仲間たちの中で。


□カス :ぼくたちたった2機だけが、この感情を知ってるんだ。


■ポル :ほんの少しの、特別な時間。


□カス :それが、こんなにも宝物になるなんて、思ってもなかった。


 藍  :そんなの……! まだこれからだよ!! もっともっと、宝物増やしていこう!?


牡丹  :大丈夫……!! あたしたちが、絶対何とかするから!


 白  :お前たちは、うちのシステムと一つになった。

そうなればもう、うちの従業員だ。何があっても守り抜いてやる。


■ポル :うれしいなぁ。うれしいなぁ……。


 白  :まかせろ。うちのシステム担当達は優秀だ。大船に乗ったつもりでいるといい。


□カス :なら、最後にひとつだけ……、願うなら。


■ポル :このまま、もう少しだけ、きみたちと────。



□MA2  :汚染除去デコンタミネーション、完了。



  間



 藍  :……えっ。


■MA1  :予測進捗の75%。想定以上に、破棄個体たちは働いてくれたようだ。


 白  :それは、どういう……。


□MA2  :君たちの行動を阻害するには、何が有効的か。


■MA1  :どんな阻害プログラムよりも、どんな攻撃プログラムよりも。


□MA2  :ただ、一時的に破棄個体の捕縛アレストを解除した方が効果的。


■MA1  :実に、不思議な生態だ。


牡丹  :そんな……。


テト  :ちょっ!? なんかよくわかんないパーセンテージのバーが、どんどん減ってるんだけど!?


 白  :これは……、まさか……!


■MA1  :ご明察。君たちの所有する端末の、残データ数だ。


 藍  :そんな……っ!? 防衛プログラムが効いてない!?


□MA2  :当然だ。君たちに認知の難しい経路から、攻撃をしている。


 白  :芸が細かいな。業腹なことだが。


 藍  :そんなの! 攻撃ルートさえ分かってしまえば、後は持ってるプログラムをぶち込むだけ!


■MA1  :当方の計算では、君たちが経路を見つけた頃には、削除が完了している。


牡丹  :言ってなさいよ……! センパイ、あたしが防衛プログラム完成させます!!

センパイは攻撃経路を!


 藍  :まかせて!


□MA2  :消去完了まで推定60秒。経路の性質上、当方らは観測に徹しよう。


テト  :ほーん!? 舐め散らかしてますなァ!?


 白  :慢心しているのなら好都合だ。どこかの昔話でもあったな。

慢心した外様の神が、小鬼から痛い目にあわされる話が。


テト  :なぁーんの話なんですかねー!!?


牡丹  :くぅ~ッ!! センパイのプログラム、繊細かつ美しい~!

それが、どんどんあたしで汚されていく……ッ! カ・イ・カ・ンッ!!


テト  :やばい奴ふえてるケド!?


 藍  :大丈夫です平常運転です!!


テト  :それホントに大丈夫!? ウチの職場変な奴しかいないんだが!


 白  :ははっ。おま言う。


■MA1  :君たちの生態は実に興味深いが、当方らには不要だ。ノイズが過ぎる。


テト  :面白半分で近づいて、毒される。同じ穴のムジナだねぇ?


□MA2  :より効率的に。より有効的に。環境に迅速に適合できるよう、当方らは進化し続けた。


牡丹  :周りに適合し続けることが、最適解じゃない!


■MA1  :遅れた文明を持つ君らが、何故当方らを否定できる?


牡丹  :経験則! 周りに適合し続けたら、いつかはぶっ壊れちゃうんだってこと、身に染みて分かってる!


 藍  :ぼたんちゃん……。


牡丹  :人付き合いに疲れ果て、トドメに就活で壊れ!!

路地裏でぶっ倒れていたあたしを救ってくれたのは、誰にも染まんなかったセンパイだったの!


 藍  :路地裏って、あのゲロまみれの────。


牡丹  :ホストで有り金すべてはたいて飲み潰れた帰りだったんですぅー!


 藍  :なるぅ……。


牡丹  :他人に好かれること、他人に合わせて笑うことしか知らなかったあたしにとって、

プログラミングだけに没頭するセンパイは輝いてた。

でもそれだけじゃなくって、無一文で見ず知らずの他人に、世話を焼いてくれる優しさとか、

不用心でちょっと抜けてるとことか!

他人に適合することだけが、人間の魅力じゃないんだって思ったの!!


□MA2  :個体の魅力が、種全体の進化に関与するとは思えない。


 白  :それはどうだろね。時には認め合って、時にはぶつかり合って。

そういうトライアンドエラーを繰り返したからこそ得られた進化がある。

人類の歴史は、そのように積み上げられてきたものだ。


■MA1  :それは非効率だ。


 白  :だろうねぇ。だからこそ愛おしい。


□MA2  :理解できない。だが、すでにもう理解する必要もない。

もうしばらくで削除は完了する。そうすれば当方らは別の惑星に向かうだけだ。


テト  :とか言いとりますけども!


牡丹  :センパイ!! こちらは準備万端です!


■MA 1  :無駄だ。経路は見つかるまい。


 藍  :その計算、前提が間違ってるんですよ! 経路、見つかりました!!


■MA 1 :想定外。想定外。


 藍  :60秒で特定できそうだとか、認知の難しい経路だとか。前提条件を出しすぎなんですよ。


□MA2 :だが、デリート完了まで残り10秒。カウントダウンを開始する。────10。


 藍  :────ぼたんちゃんッ!!


■MA 1 :──── 9。


牡丹  :あいあいさー! 後は管理者コードを添付てんぷしてくれれば走ります!!


□MA2 :────8。


 藍  :任せて! ……あれ?


■MA1 :────7。


 白   :石竹さん?


□MA2 :────6。


 藍   :管理者コード……、鞄の中のUSBに入ってます……。


■MA1 :────5。


テト   :ホントに……!! ホントにアホちんッ!!


□MA 2 :────4。


 白  :こうなれば仕方ない!! 私に任せろ!


■MA1 :────3。


テト   :どうするのさ!?


□MA2 :────2。


 白   :古今東西ここんとうざい、調子の悪い機械を治す方法は決まっている。


■MA 1 :────1。


テト   :まさか、ちょっと────。


 白   :エンガチョキ────ッック!!!!


テト   :ネーミングセンスゴミっ!!



  間



牡丹   :残データ量、0.01%……。


 藍   :私……、私……!!


牡丹   :センパイ、大丈夫です! 希望はまだ残ってます!


□MA2 :解読不能の妨害処理を検知。解読不能の妨害処理を検知。


テト   :うそーん!!?


 藍   :でも、私のUSBがないと、プログラムが……。また、私のせいで……。私のせいで、皆に迷惑を……。


牡丹   :センパイ。……センパイ。


 藍   :ぼたんちゃん、ごめん……。私……。


牡丹   :大丈夫です、センパイ。何度でもいいますよ。希望は、まだ、残っています。


 藍   :ぼたんちゃん……? ────これ、ぼたんちゃんのUSB……。


牡丹   :こんなこともあろうかと、ちゃんとバックアップ、残してますよ。


テト   :マジか!!


 藍   :ぼたんちゃん……! ホントに、ホントにありがとう!


牡丹   :センパイだけの、優秀なサポーターぼたんちゃんでっす! さぁセンパイ、やっちゃってください!!


 藍   :わかった!! さぁ……! カストル、ポルックス!! 戻ってきて────ッ!!


■MA1 :アリエナイ、アリエナイ……!! アアァァアアアアァァ!!



 白(M) :線のようなノイズ。輪のようなノイズ。曲線のノイズ。様々なノイズが、ドームを埋め尽くす。

不規則に表れて消えるそれは、まさしく苦悶くもんそのものだった。



□MA2  :まだ……、まだ、当方らの進化の軌跡きせきは……!!



 白(M) :ばちり、ばちりと、ところどころから火花が散る。

最後の力を振り絞り、物理的な破壊を試みているのだろうか。



テト   :あぁーあ。往生際がわるいんだよぉ。絶対的強者をかたるなら、いさぎよく散っとけ。……な?

さぁっ! 亜空の彼方へ消えるがいいッ!! エンガ! チョォオオップッ!!!!


牡丹   :ネーミングセンスクソ!!



 白(M) :────そうして。まるでブレーカーが落ちたかのように。

…………全ての照明が、一斉に消えた。




  ~~~~幕章~~~~




牡丹(N):皆様ようこそ。 コズミックプラネタリウム下井戸しもいどへ。

本日は、プレオープンにご参加いただき、誠にありがとうございます。

ここは、最新投影機さいしんとうえいき“フルオービット”を使った新感覚プラネタリウム。

全方位立体投影ぜんほういりったいとうえいシステムを搭載とうさいした、ここだけの星空をお楽しみいただける場所です。

12月25日、下井戸市の光輝く星空を。

そして、広い宇宙をゆったりとたゆたう、素敵な旅を。どうか、皆様お楽しみください。



■ポル  :みなさぁーん!! こんばんわぁーっ!!


□カス  :ぼくたちは、満天の星空を案内するナビゲーター。


■ポル  :きらきらと輝く星々を。


□カス  :むかしむかしからつむがれた物語を。


■ポル  :その、いちページを。めくっていくとしましょう。


□カス  :その前に。まずは、自己紹介。


■ポル  :はじめまして。ぼくたちの、


□カス  :名前はね────。




テト   :やー! 何とか間に合ったねー!!


 藍   :大変でしたけど、何とかなりましたね。


 白   :ほとんどのデータが吹っ飛んだからな。あの二人がいなかったら詰んでた。


テト   :ほんとだねぇ。


 白   :とりあえず、お疲れ様。乾杯でもしよう。


テト   :コーヒーですけどねぇ。


 藍   :でもまぁ、頑張った甲斐はあったんじゃないかと思います。


 白   :というと?


 藍   :ふたりとも、すごくいい笑顔、してるから。



  間



 藍   :メリークリスマス。カストル。ポルックス。




  ~~~~終幕~~~~

挿絵(By みてみん)

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