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琥珀の才能Blooming!  作者: 仮名無し
9/10

第9話 写生大会大作戦

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

「お母さん、写生大会あるからまともなお弁当用意しといてよ!あとおやつもね!」


「分かったわ。デパ地下で惣菜買いに行ってくるから」


「もう!お母さんは情緒を全く分かってない!もっと温もりのある弁当を作るべきよ!」


「よそンちだってどうせやっすい冷凍食品よ!添加物まみれのグラタンとデパ地下の高級な青椒肉絲、どっちがいいかなんて一目瞭然でしょ」 


「もう青椒肉絲は飽きたわ!毎度毎度そればっかりじゃない!芸がないわよ」


「食べ物の話なんてどうでも良いわよ、賤しん坊!そんなことより今年こそはまともな絵描いて頂戴よ!去年お母さん恥かいたんだから!」


 ウチの小学校の2年生から4年生は毎年この時期に写生大会がある。

 去年は「校内の遊具でみんなと遊ぶ風景」がお題だったのだが、あたしは一人で鉄棒にぶら下がっている絵を描いた。

 その描いた絵は後日体育館に掲示され、それを親が観覧するというまたしょうもないイベントもある。

 他の生徒の作品は笑顔で楽しく砂場で遊んでいるようなものばかりなのに、あたしだけ一人で不貞腐れながら鉄棒をしている棒人間を描いたせいでお母さんは酷くご立腹であった。


「その話いい加減しつこいわよ、絵なんて習ってないんだから仕方ないでしょ!あたしは毎日忙しいの」


「そんなの許されないわ!全部一番出来なきゃダメなのよ!」


「お母さんは無職で家事すらせずに寝てばっかのクセによく言うわよ!バカバカしい!」


「ワタシはアンタの送り迎えとか色々頑張ってるわよ!アンタの出来が良いのはお母さんのお陰なの!」


「そんなのやれなんて一度も頼んでないわ!無職のババアが偉そうに生きれてるのはあたしのお陰じゃない!」


「……」


 少し言い過ぎたがよかろう。

 お母さんはいつも酷いことばかり言うもの。あたしだってコイツに負けたくないのだ…


「まあいいわ。今年は圧倒的な絵を描いてやるからお母さんも鼻高々に威張り散らせるわよ、期待しといて頂戴」


「ホントアンタは嫌な子なんだから…せめて出来が良くないと…今年は花の絵かなんか描くんでしょ?」


「そうよ。植物園で描くの。今年はクレヨンじゃなくて絵の具を使うのよ」


「じゃあ良い絵の具を買いましょ!アンタはセンスないから元から良い色に出来上がってる絵の具で描けば一番良い絵になるわよ」


「ふーん、そんなのあるのね…」


 あたしが存じ上げてる絵の具は学校で買わされた絵の具バッグに内蔵してた『ぺんてる』の水彩絵の具12色だ。ちなみにこれを「学校と業者はズブズブ」と呼ぶらしい。

 植物の茎を描くにはぺんてるのパッキパキの緑色で塗るもんかと思っていたが、どうやら東急ハンズに売ってる高い絵の具を使えば何の努力なしにお洒落な茎が即座に描けるっぽい。


「今からハンズに行くわよ」



 ハンズの画材コーナーには沢山絵の具があった。

 ターコイズブルーだのビリジアングリーンだのオペラピンクだのどれも鼻につく名前ばっかりだ。そこで茎とか花に使えそうな色を一通り買い揃えた。


 あと植物図鑑も買った。

 どうやらとっておきの秘策があるようなのだ。


「こはく、次はキンコーズに行くわよ」


「キンコーズなんて初めてよ〜あそこってコピー機のない貧乏人が行くところでしょ」


 無論ウチにもないが。


「コピー機なんて家にあっても仕方ないでしょ、あれは何百万もするのよ?さあ!さっきの図鑑を4つ切り画用紙に合うサイズに拡大するわよ」


「そうねー、でも図鑑には色んな花があるじゃない。どれを描けばいいか悩ましいわね」


「何でもいいじゃない。春だしチューリップと菜の花でも描いときなさい」


「もうっ!テキトーね!」


 ウチの親はこだわってるのかこだわってないのかよく分からない人間だ。

 だってそもそもバレリーナか弁護士か医者ならどれでも良いからとにかく頑張れだなんて滅茶苦茶ではないか。きっと威張り散らせれば何でも良いのだろう。

 今回の写生大会に関しても一番上手く描ければそれ以外は何でも良いそうである。



 無事チューリップと菜の花の写真をクソデカく拡大コピーしてきた。


「お母さん、こっからどうすりゃいいのさ」


「さっき買ったトレーシングペーパーと画用紙があるでしょ?まあ見てなさい」


 お母さんは拡大コピーした写真の上にでっかいあぶらとり紙みたいなトレーシングペーパーとやらを載せて花の輪郭を上からなぞり出す。


「今なぞったトレーシングペーパーを画用紙の上に載っけるの。それで輪郭を上から鉛筆で強くなぞるとこうやって画用紙に跡がつくのよ」


「へぇお母さんって案外賢いのね」


「フフ、すごいでしょ?」


「うん。姑息業界の天才よ」


「嫌な子ね!お母さんは可愛い妖精よ」


「ハハ!バッカみたい!どこにそんなクソデブ妖精がいるのよ」


「これ以上調子乗るとぶん殴るわよ!この画用紙を当日こっそり持って行って、この輪郭の跡を使って絵を描いてきなさい。買った絵の具もバレないように予めパレットに出しときなさいね」


 お母さんはこんな姑息な技をどこで覚えたのだろうか。大人ならこれが常識なのだろうか。

 さっき買った絵の具を図鑑の写真を見ながら必要十分な量出しておく。



 いよいよ写生会当日になった。

 バスの中でみんなお菓子を交換している。


「渦下さん、あたしのお菓子とそのキャラメル交換してよ」


「……やだ。マズそう」


「……こ、これは、す、すごく美味しいのよっ!だから交換して頂戴」


 お母さんの用意したお菓子はよりによってあのメイシーちゃんのウェハースだった。

 行きつけの自然食品店で売ってるやたら意識だけ高くて味気ないアレ。精製された白砂糖ではなく、北海道産の甜菜糖使ってるから体に良いようである。

 勘違いハイソ女が産み落とした赤ん坊が食わされてそうな食い物を与えないで欲しい。誰もお菓子と交換してくれないではないか!



「それじゃあ色んな植物を見て回って描きたいものを見つけた人から描き始めましょう!」


「「「はーい」」」


 あたしは描きたいものなど探さなくていい。とにかくチューリップと菜の花だ!

 今回のイカサマがバレぬよう、人気(ひとけ)のないベンチに座り黙々と描き始める。

 描き方も家で散々練習してきた。チューリップというのはアディダスのロゴみたく雑に描いてはならない。花弁を繊細に描くべきらしい。




(あ、雨だ)


 もともと朝から雲行きが怪しかったがとうとう降り出してしまった。


「どうしよう〜雨降っちゃった〜」


「私まだ何描くか決まってないのに〜」


 遠くからそんな声が聞こえる。


(ふん、のろまなヤツめ)


 雨が強くなっても咲いてる花に目もくれずひたすら屋根の下で描き続けた。

 絵の具の感じもバッチリ。これは確実に一番上手い。小3のクオリティじゃないもの。


「みんな!雨が強くなってきたから今日は中止だ〜続きは図工の授業で描くのでみんなバスでお弁当を食べたら帰りましょう」


 一通り絵が完成したのでみんながいる辺りに戻る。

 渦下の弁当にはいかにも冷凍食品なグラタンが入っていた。あたしの弁当には相変わらずデパ地下の青椒肉絲が入っていた。

 もうどっちもどっちなのだが、あたしはいつか大人になったら体に悪そうな冷凍食品をたらふく食べてみたいと思った。




 次の日、図工の時間で昨日の続きを描かされた。あたしはほぼ完成していたので、ちょろっと仕上げに色を塗り足しているところだ。

 みんな下手くそな絵。色も汚いし、それに比べてあたしのチューリップと菜の花は圧倒的に洒落てる。

 あたしが死ぬ程嫌ってる白豚淫乱女・浜井里佳子の絵もかなりショボかった。無能で、強いて言うならば人の陰口叩くしか能のないアイツが学級委員だなんて、やっぱりこの学校はおかしい。


 そんな時、女子のグループがあたしのそばに寄ってきた。この前の学級委員選挙であたしが票工作のためにハンカチを配った女らだ。一体何事か。


「未咲さんこの色すごくキレイ!どうやってこの色作るの?」


「ほんとだすごい!私にも教えて〜!」


(ハァ?!教えられるワケないだろうが!こっちは金掛かってんだよ!)


「……えっとね、いつものぺんてる絵の具の赤に、白と黄色をちょっとだけ混ぜておくと大体こんな感じになるわよ」


「へぇ〜ありがとう!!でもチューリップと菜の花が一緒に咲いてた場所なんてあったっけ?!」


「……あ、あったわよ。あんたが見逃してただけじゃないかしら?」


 あーあ、ばかみたい。

 頑張ったのにどこか後ろめたい気持ちになる。




「こはく!今日の鑑賞会はお母さんすごく鼻が高かったわ〜みんなド下手だったじゃない!お母さんいろんな親に誉められたわよ!気分良いわぁ」


「あれだけやったら当然でしょ。何も嬉しくないわ」


「流石よ、こうやって自分に厳しい子供っていうのはどんどん成長するのよ!」


「お母さんは何であたしことばっかり張り切るの?よそであんたが自分で描けばいいじゃない。なんであたしにそこまで取り憑かれるの?」


「……アンタのことが一番大事だからよ。自分の人生よりも」


「……」


「だからもっとワタシに感謝して」



 登校すると教室にド下手な絵が飾ってある。

 下に浜井里佳子と名前が書いてあった。


「写生大会で特に優秀だった絵をしばらく教室に飾ることにします!今回は浜井さんの絵が特に良かったです。みんな浜井さんに拍手しましょう!」


パチパチパチパチ


「りっちゃんすごい!」


「上手だねー!」


「さすが学級委員!おめでとうー!」


 もうどうでもいい。

 この山崎という担任にひどく嫌われているあたしが頑張ったところで一生評価されることなどない。

 報われない努力ばかりするのも疲れるものだ。1時間目は渦下とサボって学校を徘徊することにした。


「ねーどこ行く?図書館か屋上でも行く?」


「……ほけんしつで寝る。ねむいから」


「あたしも寝ようかしら。あ、保健の先生にはちゃんと頭が痛いって言うのよ?じゃないと追い払われるわよ」


「……わかった」



 渦下と一緒に保健室に向かおうと1階の隅っこの方までとぼとぼと歩いていく。



(……!!!)


 あたしの絵が、ある。

 チューリップと菜の花のアレが……何故か校長室の前の壁に。


「君達どうしたんだい?」


「頭が痛くて保健室に行くんです」


「ほ〜雨の日は頭が痛くなるね〜ゆっくり休むんだよ」


 校長は気楽なもんだ。

 コイツは日々何の仕事をしているのだろうか。暇そうにしか見えない。


「あの、先生、この絵って何でここにあるんですか?」


「ああ、これは確か3年の学年主任の山崎先生が選んでここに飾ってたよ」


「……ホントにあの先生が?」


「うん、そうだよ。毎年ここに写生大会で全生徒の中から一番良かった絵を飾ることにしてるんだよ。この絵がどうかしたのかい?」


「……いえ」


 何故だ。何故なんだ?!

 アイツは何を考えているんだ。


 もう分からない……。何も分からなくなった。


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