第7話 こはく、学級委員選挙に出馬する【後編】
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第6話 こはく、学級委員選挙に出馬する【前編】
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いよいよ学級委員選挙当日。
「では今から3年1組の学級委員を男子、女子それぞれ1名決めます。誰か立候補したい人はいますか?」
「はいっ!」
「「りっちゃんがんばれ~!!!」」
「ありがとうっ!」
「はい」
「おー!未咲も立候補したぞ」
結局女子で立候補したのは、白豚、前田、高橋、牧野、そしてあたしの5名だ。
「では5人の中で良いと思う人を1人投票用紙に書いてください」
前田は真面目そうだが暗い。
高橋は特筆すべき点が何もないモブ。
牧野は頭が悪くて意味の分からないことばかり言う脳内花畑のメルヘン女である。
流石にこいつらには負けないだろう。
「投票の結果、浜井さん14票、未咲さん14票、前田さん7票、高橋さん3票、牧野さん1票、白票が1票でした」
「浜井と未咲が並んだぞ!」
「えー!どうなるんだろう??」
「……浜井さんと未咲さんがどちらも14票だったのでこれから決選投票をします」
「「「けっせんとうひょう?!」」」
「2人には今から前に出てスピーチをしてもらいます。それを聞いてどちらが学級委員にふさわしいか決めてください。まずは浜井さんから」
あたしは万が一の演説に備えて、昨日夜な夜な原稿を考えてきた。
子供騙しの善人スピーチで投票間違いなしだっ!
「浜井里佳子です。わたしはみんなに『やさしいね』ってよく言われます。小さい頃から困っている人を助けるのがだいすきで、いつもお年寄りに席を譲ってあげます。わたしが学級委員になったら困っている子達を助けてあげます。みんな投票よろしくおねがいしますっ」
パチパチパチパチ
(『やさしい』って何だ?)
「じゃあ次は未咲さん前に出てきてください」
「……未咲こはくです。えーっと、私は3年1組のみんなが大好きで、みんなと一緒にやさしくて温かいクラスを作り上げて……、役に立って……、えーっと、その……、あの……」
「「「???」」」
(しまった…!昨日構想に構想を重ねて作り上げた噓八百スピーチの原稿、家に置いてきた!)
「あれ、未咲さんどうしたんだろう…?」
「何か固まってるぞ」
もう何が何だか分からなくなって、あたしの中の何かが切れてしまった。
(……ふざけるな。あたしはこんなヤツらと一緒にされたくない)
「あたしはね、毎日毎日塾とかバレエとか体操を死ぬ気でやってるの!休みなんて1日もないわ!こんなにやってるんだから絶対誰にも負けるわけがない!このクラスは勉強も運動もろくに出来ないヤツばっかり!あたしはね!……そういう出来ないことから逃げて、『やさしさ』みたいなヌルい言葉で誤魔化すヤツが大嫌いなのよっ!!!あたしが学級委員になったらそういうバカに勉強や運動を叩き込んで、全員自信持って学校に通えるようにしてやるわ!みんないい?本当に優しい人間は自分で自分を『やさしい』なんて言わないのよ!厚かましいにもほどがあるわっ!この淫乱白豚女が!!!」
「「「……」」」
終わった。
「なんかやばいね~(笑)どっちに投票する?」
「どう考えても浜井さんでしょ!あの人はやばいよ(笑)」
「未咲は最低だけど、宿題とか教えてくれそうだし俺は未咲に入れてみようかな」
「マジ?物好きだね~。でもこはくちゃんがやった方がクラスが滅茶苦茶になって面白そう!私もこはくちゃんに入れる~」
「……投票の前に先生から一言いいか?」
いつもヘラヘラしている山崎が真顔で口を開いた。
「みんな、人間は成績が全てじゃないんだ。得意な子も苦手な子もみんな違ってみんな良い。ナンバーワンにならなくてもいい、元々特別なオンリーワンなんだ。勘違いしないで欲しいが、学級委員は『先生』じゃない。先生は勉強やスポーツなんかより、思いやりを大事に出来る子が学級委員に相応しいと思うぞ。それをよく考えたうえで投票するんだ」
「「「……」」」
クラスの雰囲気がいつもと違って若干重たい。
(クソッやってくれたな!教師の分際でこんなあからさまな依怙贔屓、許されると思ってんのか!あとSMAPにも謝れっ!!)
「決選投票の結果、浜井さん37票、未咲さん2票……。白紙が1票だ」
あたしは惨敗した。
「りっちゃんおめでとう!!!」
「浜井みたいなやさしいヤツが学級委員になって安心だな!未咲だったら側転できないだけで怒鳴ってくるぞっ」
「「「あははははは!」」」
「ボ、ボ、ボクも、り、り、り、里佳子ちゃんが選ばれてう、う、う、うれしい!!未咲はサイアクなやつだ!」
(あの肉ダルマめ……!!許さねぇ!!!)
肉田が寝返りやがった!!!
お腹が減ってクラクラになりながら清き1票のために、肉田へ捧げたなけなしの唐揚げだったのに……。もう誰も信じられない。
ただでさえ肉田は気色悪いヤツなのに、義理人情すら無いなんて本当に死んだほうがいい!!!
「浜井さんは先生のお手伝いをよくしてくれるし、周りのお友達を大切に出来る素敵な子です。先生は浜井さんに決まってとてもうれしいです。浜井さん、これから頼むな?」
「「おめでとうー!」」
「ありがとうっ!里佳子に投票してくれた子達には、恩返しできるようにがんばるねっ」
「「がんばれよ~!」」
終礼後、廊下を歩いていく山崎に駆け寄った。
「先生、さっきのアレ何なんですか?あんなあからさまな依怙贔屓で票を操作するなんておかしいです!」
「依怙贔屓?先生はどんなときでも皆に平等だ」
「白々しい!そもそも小学生の本分は勉強と運動です。努力している人間を正当に評価しないなんておかしいです。だいたい浜井さんは皆の前では良い子ぶってるけど陰でイジメに加担しています!」
「おい未咲、デタラメなこと言うんじゃない!浜井さんはとても良い子だ」
「何で先生は浜井さんをそこまで贔屓するんですか?これ以上贔屓するなら教育委員会に訴えます」
「ハァ?お前何言ってんだ。私立の小学校に教育委員会なんて関係ないぞ(笑)」
「だってお母さんが…」
「賢ぶるならお母さんではなく、もう少しきちんとした人から正しい情報を仕入れてくるといい(笑)とにかく今学期の通知表は覚悟しておきなさい」
「……!!!」
こんなの絶対におかしい!
教師の分際でこんなことがまかり通っていいのか?!一体あたしの何が気に入らないのだ!!!
気力を失い、抜け殻になったあたしはフラフラと教室に戻り荷物を片付ける。
「ねぇ、渦下さんはちゃんとあたしに投票してくれたわよね?」
「……なにもかいてない」
「やっぱり白紙はあんただったのね!少しは空気読んでよっ!」
「オレはお前に票入れてやったぞ。お前も色々大変だな~」
「なによ、臆川じゃない。こんなの別に大したことないわ!学級委員なんてテイのいい奴隷よ、これからどんどんコキ使ってやろうじゃないっ」
「オレも毎日塾に行ってるんだ」
「あらそう、良かったわね!塾に行ってればバカにならずに済むわ」
臆川は山崎によく反抗している男子だ。
いつもお調子者で不潔なヤツの癖にどういう風の吹き回しなのか知らないが、神妙に自分語りを始めた。
「父さんが医者だから、オレも絶対医者にならなきゃいけないんだ。御三家の閉成中学に合格して国立の医学部に行けって」
「ふーん。ウチのお父さんも医者か弁護士になれってよく言ってるわよ!」
「お互い頑張ろうぜ。医者になったらあんな安月給の先公なんかと二度と口聞かなくて済むからな!」
「そうよ!子供の前でミノムシみたいに前転してお金貰うような人生は御免よっ」
ストックが尽きた…!
書く内容自体は考えているので早めに仕上げます
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