表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琥珀の才能Blooming!  作者: 仮名無し
3/10

第3話 こはく、買い食いにチャレンジする【前編】

 今日の晩ごはんは目玉焼きと鶏のササミとブロッコリーを茹でたやつ。

 隣にいるお母さんは餃子の王将でテイクアウトした天津飯と唐揚げを食べている。


「あー、こはく!待って待って!やっぱり目玉焼きは黄身がない方がいいわ!今黄身をくりぬいてあげるからちょっと待ってなさいっ」


「何でよ!お母さん、もしかしてこの卵腐ってたの?」 


「違うわよ!この前お昼のニュースで、アンタの体操クラブからオリンピックに出場した千葉真弓さんの特集がやってたのよ。そんで千葉さんのお宅では減量のために卵は白身だけにしてるって言ってたわ」


「ふーん。分かったけど、白身まで取らないように上手にくりぬいて頂戴よ」


「任せなさいっ!」


 そんなこんなであたしは「目玉無し」に醤油をかけて食べている。昔からあたしは醤油派だ。




「次のニュースです。中国から輸入した野菜に基準値をはるかに超える残留農薬が検出されました。主にほうれん草などの葉物野菜に多いとのことです。」


「残留農薬ですって~怖いわぁ」


「お母さん、このブロッコリーも残留農薬かしら?」


「何言ってんの!コレはね、国産のオーガニックしか取り扱わない自然食品店で買った高級なブロッコリーよ。アンタの肌がキレイなのもワタシの努力の賜物なのよ」


「じゃあお母さんも王将じゃなくてブロッコリー食べれば?」


「……お母さんはもうおばさんだからいいのよっ。でもワタシだって昔は相当可愛かったのよ?」


 そう言われても今のお母さんの体重は80キロだから、昔可愛かったかどうかの真偽は判らない。


(ふーん…。残留農薬ねぇ…)




 翌日。

 4時間目が終わり給食の時間になった。


「あれ、未咲さん給食食べないの~?」


 給食に手を付けずにジーッと座っているあたしを、隣にいる女子が不思議そうに眺めてくる。


「き、き、ききき君さ、もし食べないならさ、そ、そのプリンく、くれよっ」


 小学3年生にしては規格外の重量級……濁さず言うと、とんでもないデブの肉田にくたという男子があたしのプリンを物欲しそうに眺めている。


「もう肉田!あんたはね、メタボリックシンドロームなんだから大概にした方がいいわよ。特にね、卵の黄身っていうのは太るのよ?あんたの体は縦と横の比率がおかしいから、縦に伸ばせばいいのっ。…そうだ!もっと牛乳を飲むといいわ!」


 メタボの肉田をスリムにしてあげようと、あたしの牛乳を差し出してやった。


「う、う、うるせぇなっ!お前、せ、せ、せ、性格悪いぞっ!」


(…なんだとコラ?ホントのこと言っただけだろうがっ)


「とにかくあたしはね、今日からもう給食は食べませんっ!この給食には残留農薬が沢山入っているの!こんな飯、どうせ中国産の安い食材しか使ってないから農薬だらけよっ。あたしこんなの怖くて食べられないわ!」


 思ったより声が大きかったのか、クラス中がギッとこちらを注目する。


「未咲さんって偉そうで鬱陶しいわ~」


 ヒソヒソとあたしの陰口を言っている女子の塊に目をやる。

 性悪そうなツラ構えをした色黒の女子・土屋を中心に、5、6人の女子が金魚のフンよろしく群がっている。


(あの土屋って女、気に食わねぇ…!ソバカスだらけで真っ黒な土女め)


「未咲さん調子に乗ってるから、話しかけられてもみんなで無視しちゃおうよっ」


 土女のフンである白豚もゴソゴソと言い出した。

 白豚っていうのは、新学期初日の自己紹介の時にえげつないぶりっ子で男子達を囲い込んだ浜井里佳子という淫乱女のことだ。


「あんたたち、さっきからゴチャゴチャうるさいのよっ。白豚のお前があたしをイジメようなんて百億年早いわっ!せめて人間になってから物申してちょうだいっ」


「未咲さんひどいっっ」


「おい、未咲!りっちゃんになんてこと言うんだ!」


「そうだぞ!お前ほんとに最低だな!」


 男子達が一斉にあたしを非難する。

 さっきまでほくそ笑んでいた白豚は、男子達に注目されるや否や突然泣きマネを始めた。


(何なんだコイツ!ブッ殺す!!!)


「おい白豚!いつか必ずお前の本性を暴いてやるからなっ。覚えとけよ!」


「本性ってなにっ?里佳子かなしい…」


「未咲さん、偉そうにするのやめな?ウザいよ?」


(クソッ、土女め…)


「はぁ?何言ってんの?あたしはね『偉そう』じゃなくて、事実『偉い』の!!陰口叩いて、男にすり寄るあんた達ブスとは格が違うのよっ!」


「「「うわぁ……」」」


 まったく。このクラスの連中にはついていけない。




 6時間目。

 昨日のオーガニックブロッコリー以来、まだ何も食べていない。


(おなかすいたなぁ…)


 屋上で渦下さんから貰ったチョコレートの味が忘れられない。チョコレートというのは本当に麻薬だ。

 ブロッコリーよりもチョコレートが食べたい!もっと甘いおやつが食べたい!でもウチでは食べられない。




 今日は天気が良いから気晴らしにバスじゃなくて歩いて家に帰ることにした。暑くも寒くもなく風が気持ちいい。


「ら・ら・ら~♪ら・ら・ら~♪ら・ら・ら…。あ……」


 あたしは家まであと500メートルぐらいの地点にあるコンビニの前で停止した。

 コンビニの所在自体は知っているものの、店の中に入ったことはない。


(入るだけならいいよね…?)



「いらっしゃいませ~」


(おお…!ここがコンビニ…!)


 コンビニは全体的に白くて明るかった。

 雑誌、文房具、おにぎりにカップラーメン、ジュース、お菓子、パン…。

 どうやら子供が入ってはいけないとんでもない世界に入ってしまった。


 中でもあたしの気を引いたモノは菓子パンだった。

 お母さんがよく「菓子パンなんてケーキが買えない貧乏人が食べるものだ」と言う、その「菓子パン」がどういうモノなのか前から気になっていた。


(あんぱんは100円、チョコホイップメロンパンは120円かぁ…)


 高い…。

 あたしにはとても買えない金額だ。

 貧乏人が食っている食べ物さえ買えないあたしって一体何なんだろうか…。



(あっ。……コレだ!)


 高い菓子パンばかりが陳列されている棚の一番下にちいさなクリームパンがある。


【ミニクリームパン 60円】


(……これならいつか買えるかもしれない!)


 

 制服を着た女子小学生が店内を物色しているのが怪しいと思ったのか、さっきから店員のオジサンがジロジロこっちを見てくる。

 オジサンという人種は女児のセーラー服やブルマが大好きで、ヘタ打つと強姦されるから早めに立ち去ることにした。


(クリームパンが欲しい!とにかく欲しい!)


 あたしはミニクリームパンの代金60円をかき集めるため、しばらく奮闘することとなる。




 帰宅した。

 この家は相変わらず物が多く、足の踏み場もない。


 玄関に散乱したチラシと段ボールに目をやっていると、そこにキラリと光るモノを見つけた。1円玉だ。

 そうだ!この家のゴミ山を漁ればお金が沢山見つかるかもしれない。



「アンタ珍しいじゃない!掃除してるの?」


「お母さん、この家は汚過ぎるのよっ。夏になったらまたゴキブリが出ちゃう」


「もう!アンタはそんなことしなくていいのよ!掃除なんて位の低い人間がすることよ?こはくはエリートになる人間なんだから、お勉強と習い事だけ頑張ればいいの」


「お前、いい加減にしろよ!コイツは家の手伝いをしなさ過ぎる。オレがガキの頃は一日中お袋の手伝いしてたぞ。お前の言う通りにさせてたらコイツがどんどんグレちまう」


「家の手伝いばっかりしてたから、お父さんは何のスキルもない安月給なのよ。何なら今は無職じゃない!この子にはそういう人生送って欲しくないの」


「オレは会社でも期待されてて出世コースだったんだぞ!今は無職じゃなくて起業準備期間なんだ…!あんまりオレを舐めてると痛い目に遭うぞ?大体な、お前は娘の習い事に毎月いくら使ってると思ってるんだ!」


(やれやれ。2人が喧嘩しているうちに、お金探そう…)



 結局集まったのは1円玉10枚だけだった。

 ウチにはゴミはいっぱいあるのに、金目のものがろくにない。がっかりだ。

 でもマンションの横にある自動販売機に行けば、もしかするとお金が落ちてるかもしれない…。



(やったー!!!50円玉だ!!!)


 自販機の下に潜んでいたドロドロの50円玉を水道で洗い、全財産60円を眺める。


 明日の朝、あのクリームパンを買おう。

 60円は親に見つからないようにランドセルのポケットに押し込んでおいた。




 作戦決行の日。


「お母さん、今日は車で送らなくていいわよ。今日は歩いて行くからっ」


「こんなに早起きして急にどうしたのよ」


「……ダイエットよっ。学校まで1時間歩けば痩せるでしょ?」


「ふーん。じゃあお母さんはもうちょっと寝るから。気を付けてね。変なオジサンについていったら絶対ダメだからね!」


「行ってきまーす…」




 あぁ…心臓がバクバクだ…。

 ちゃんと買えるのか、学校の人にバレないか、買ったクリームパンはどこで食べればよいのか、ゴミはどこに捨てればよいのか…。

 失敗は許されない。


 スマートに購入できるように、ランドセルのポケットにしまっておいたミニクリームパンの代金60円分を取り出し、それを制服のポケットの中に移した。



「いらっしゃいませ~」


 あたしの戦いは始まった!

 ミニクリームパンの場所はもう知っている。

 奥まで進んでちょっと右に曲がったところにある棚の一番下。


(よしっ!あった!)


 菓子パンコーナーに群がるドカタの男達を掻き分け急いでレジに向かい、ミニクリームパンと60円をカウンターに置く。


(もうっ、オジサン、早く会計してよ!)



「1点で63円です」


「……え?」


「あれ、あと3円足りないねー」


「あの…、袋には60円って書いてありますよ?」



 状況が飲み込めない。


(こいつ表示価格から3円もボッタくってきやがった!このジジイはそこまでしてあたしにクリームパンを食わせたくないのか?ふざけるな!本社に電話してやるっ!)


「消費税の5%を加算したら63円なんだよ。ここの商品は全部税抜き価格で表示してあるから」


「……っ!!!」



 悔しい…!悔しい…!!!あと3円あれば買えたのにっ…!

 泣いたってクリームパンは食べられないのに、あたしは1円の価値すらない涙を流す。

 


(あたしは絶対に諦めない…!どんな手を使っても必ずクリームパンを手に入れてやる…!)



次回

こはくちゃんはミニクリームパンを買えるのか?

後編へ続く!!

毎日16時10分頃投稿予定です

よかったらブックマークと高評価お願い致します

Twitterもやってるのでよかったらお越しください

ID:@djgtgm

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ