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私は普通の恋人になれない  作者: 中の人
プロローグ
3/72

いつまでもあると思うな親と金と勤め先

 私の持病、パニック障害。

 これについてひとつだけ幸いだと思ったのは、発症したのが社会人になってからだったということ。


 学校は、みんなと同じタイミングで動けない子には居場所がない。

 体育、給食、学校行事、それらすべてが集団行動。

 発作の地雷まみれの中、まともな学校生活など送れるはずがないから。


 原因は分からない、いつ起きるかも分からない。

 なんでこんな当たり前のことがこなせないの、と言われても普通に息ができるのは幸せなことなんだよとしか返せない。


 息苦しくなったら、とりあえず治まるまで孤独に待つしかない。

 吐いたり倒れたりするわけじゃないんで。


 対処法が分かっている今は、なんとか服薬により付き合っていけているけど。

 でも今日は、だいぶどでかい発作が続いたと思う。

 もう電車に乗るのが怖くなってきた。こうした予期不安から行動範囲が制限されていくのが、この持病の厄介なところだ。



 密閉空間が無理なのでタクシーもバスも使えず、最寄り駅から歩き続けてやっと自宅が見えてきた。気分はさながら、戦地から命からがら引き上げてきた兵士のよう。


 時刻はもう、夜8時。過呼吸に耐え続けた胃が、ぴきぴきと痛みを訴えている。なのにまだ喉のつかえは取れない。久々に遠出したから反動がきたんだろう。


「ただいま」

 返事が帰ってくることのない、住み慣れた我が家にご挨拶。

 実家暮らしってあまりいい顔されないけど、もう同居する家族がいない場合はどうなのだろう。


 父は出ていった。きょうだいも出ていった。ペットの猫は半年前、最後の一匹が虹の橋を渡った。


 そして母も、三ヶ月前に帰らぬ人となってしまった。

 何の前触れもなく、おやすみと布団に入ってそのまま永遠の眠りへとついてしまった。


 介護で心をすり減らすことなく逝ったというのは、どちらにとっても良いままの思い出だけが残るからそこまで喪失感はなかった。


 私もきっと、生まれ育ったこの家でいずれ朽ちていくのだろう。


 心残りがあるとすれば。

 母の生きている間に、せめて台所だけでもリフォームしてあげたかったと思う。

 いや、今からでもできるか。

 仏壇が飾られているのだから、それにふさわしい家に直してあげないと。


 年が明けたらまた就活の日々だけれど。今度こそ将来を見据えてきっちりと働こう。

 最後の家主の務めとして。



 年末だからかな。急に湧いてきた寂寥感を振り払うように、私はPCの電源を入れた。

 こんなおセンチな夜は、たくさんの美人に癒やされよう。


「よき……」

 SNSに上がってくる美麗なイラストを眺めているうちに、寂しさと胸のつかえは取れてきた。


 二次元の女性は心のお薬だ。

 幼女も少女もお姉さんも熟女も老女も人外も、すべてが絵描きさんの手にかかれば美しい。

 イケメンも好きだけど、ついつい保存してしまうのは女性キャラばかり。


 神と崇めてやまない推し絵描きさんも、コミケ帰りで忙しいだろうに新規絵を上げてくれている。とてもありがたい。


 ただの線と色の集合体なのに、それらを自在に操って一つの芸術作品へと浮かび上がらせられる絵描きさんはまさしく神様だと思う。


 私は二次元の女性が大好きだ。

 歳も取らない、裏切らない、いつも美しい一瞬のままいてくれる。


 絵買いした書籍は何冊もあるし、美少女ゲームもたまに買っている。美少女アプリも同時並行しているやつがいくつもある。


 昔ほどオタクに対する偏見は薄まったけど、まだまだ美少女系は肩身が狭い。


 童顔と女体を強調した絵が多いから、同じ女性から見ると全く無理か全く大丈夫かの両極端に分かれる。

 女性作家も消費者も、わりといるのだけれど。


 今日も厳選した美女をリツイートして、あんまりツボを突いたエモい絵にはウザ絡みにならない程度にコメントを残す。


 さて、麗しき女性成分は大いに摂取できた。そろそろ寝よう。遠出の疲れを癒やすべく、電気を消した。

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