第20話 剣は投げられた④
――では、お待たせいたしました!
いよいよ、本日のメインマッチ、アレマ領主と剣の女王、登場です!
そして、対するは、「ネオ・アレマ解放戦線」が誇る剛腕剣士、タイゼン!
剣と剣のぶつかるこの試合、勝利の女神はどちらに微笑むのか。
Battle14、スタートです!
いつも以上にけたたましい司会の叫び声とともに、アリスがバトルフィールドに足を踏み入れた。
後で王室騎士団のバトルもあるため、ビリーもやや遅れて入場するものの、入口の脇に置かれたパイプ椅子に座った。
「久しぶりに、解放戦線さんそのものと戦うの、すっごく緊張する……!」
反対側の入口から、体格の大きいタイゼンが、背に長い剣を従えてアリスに近づく。
最初は、身長が大きい相手だと思ったアリスだったが、明らかに頭の上に剣の柄が出ていると分かり、目を細めた。
タイゼンは、アリスの目の前で止まり、睨みつけるような目つきでアリスに顔を近づけた。
「ジェイドをあっさりと倒した、クイーンとやらを召喚しろ。
その敵を取るために、俺はこのマッチに申し込んだ」
「分かりました。召喚しましょう」
アリスは、タイゼンに言われるがままに、コロッセオを見つめる空に向かって右手を伸ばした。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、誇り高き女剣士よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
アリスの右手に、湧き上がるような力が集まる。
その力を、いま最強の戦士という形で、アリスは解き放とうとしていた。
「降臨! 剣の女王、トライブ・ランスロット!」
青白い光の中に輝く、女剣士のシルエット。
アリスの声に応え、今にもその力を下そうとする意思が、光の中から伝わる。
やがて、その姿がはっきりと見え始め、瞬く間に女王の足が大地を踏みしめた。
「見るからに強そうじゃない」
トライブは、アリスを少し見るだけで、すぐにタイゼンに顔を向け、目を細めた。
早くも、剣が長いこと、そして肩を激しく動かせることに気付いているようだ。
トライブが目をかすかに動かし終えると、先にタイゼンが背中から剣を抜いた。
その大きさに、アリスが息を飲み込んだ。
「でかっ……!」
「オメガピース」の中でも長身と呼ばれるトライブの身長をも、はるかに超える剣がタイゼンの手に収まった。
アリスの目には、その長さがおそらく2mはあるように見えた。
しかも、剣のどの部分を取っても頑丈そうで、かつ切れ味も鋭そうだ。
トライブもアルフェイオスを抜くが、長さでは圧倒的な差をつけられている。
二人の剣が一直線に並んだとき、タイゼンが薄笑いを浮かべた。
「甘く見るな、クイーン。
俺は『ネオ・アレマ解放戦線』で、一番の力持ち。
そして、この剣はあらゆる生命をひれ伏させた、圧倒的に硬い剣。
この二つを足したら、クイーンなど足元に及ばないだろう。
勝ちは、決まった……」
「やってみなきゃ、分からないわ。
あなたがどれほど力を持っているとしても、私は本気で立ち向かうまでよ」
客席を埋め尽くした観客たちから、より歓声が湧き上がったのは、トライブのほうだった。
タイゼンは、歓声が聞こえた方向に剣の先を向け、再び目を細める。
「クイーンの強がりも……、今日で終わりだ!」
タイゼンが剣を正面に向けながら、トライブに迫る。
ほぼ同時に、トライブもタイゼンに向かって走り出す。
両者、先制攻撃を狙おうという作戦だ。
「うおおおおお!」
タイゼンがトライブの左に剣を動かし、まるで弧を描くように長い剣を勢いよく振り回した。
トライブは、その動きを目と感覚で捉え、迫ってくる剣に対して、その右からアルフェイオスを叩きつける。
「……っ!」
トライブは、タイゼンの剣にぶつかっていったものの、相手の剣が長すぎて、その中心を捕えられない。
足の重心を後ろに傾けるものの、長さ2mを誇るタイゼンの剣をアルフェイオスでまともに受ける姿勢になり、トライブの手にも徐々にその衝撃が伝わり始める。
「これが、俺の腕と、剣の力だ……!」
動きを阻まれていたタイゼンの剣にかすかに力が入った瞬間、アルフェイオスがその動きに流され、トライブの右へと傾けられた。
「うおおおおっ!」
「まだまだよっ……!」
トライブはアルフェイオスを正面に戻すものの、たて続けに正面から襲ってきたタイゼンの力に、再び重心が後ろに傾いてしまう。
「強い……。
筋力だけじゃ、全然勝負になってない……」
アリスが、防戦一方のトライブを見つめる。
相手の強さの前にトライブが押されるシーンを、アリスは何度も見てきたものの、ここまで体格の違い過ぎる剣士はほとんど見ていない。
アリスは、心の中で「頑張れ!」と叫ぶしかなかった。
その叫びが、女王の本能を呼び覚ます。
「負けたく……、ないっ!」
顔すれすれまで迫ったタイゼンの剣を、トライブは跳ね返す。
すぐに、横からアルフェイオス叩きつけ、タイゼンの剣をトライブの右に押し流していった。
「なんだと……!」
長い剣を向きごと変えられたタイゼンが、すぐに剣に力を入れ、再びアルフェイオスへと襲い掛かり始めた。
だが、相手の攻撃を跳ね返したトライブに、もう焦りの色はなかった。
「はあっ!」
剣と剣が再びぶつかるが、今度はアルフェイオスが、相手の剣の中心を捕らえた。
トライブの肩すれすれまでタイゼンの剣が襲ってくるものの、トライブはタイゼンの剣をあっさりと右にながしていった。
そして、瞬く間に、その手に力を入れる。
「はあああっ!」
魂さえもこもった声が、コロッセオに響き渡ったとき、アルフェイオスがタイゼンの剣を上から叩きつけた。
タイゼンの鍛えられた右腕がかすかに震え、やがて手も震え始めた。
そこにもう一度、トライブがアルフェイオスを振り下ろす。
「はあああああああっ!」
バトルフィールドの地面に、長すぎたタイゼンの剣が激しく落ちていった。
次の瞬間、タイゼンが膝をつき、ガックリと首を垂れた。
そして、タイゼンの目の前にアルフェイオスをまっすぐ向け、涼しげな表情で見下すトライブ。
「剣の女王」の力が、力自慢の剛腕剣士をも下した。
「まさか、俺が力勝負で負けるとは……」
ようやく顔を上げたタイゼンが、震えた声でトライブに告げた。
間髪入れずに立ち上がり、落ちた剣を鞘にしまう。
その動きが終わったとき、トライブは静かに告げた。
「あなたは、強さだけを追い求めていると思うし、おそらく力だけあれば誰にだって勝てると思ってる。
でも、どうすれば勝てるかをより考えていたのは、私の方よ」
「あぁ……。
たしかに、クイーンが突然執念深くなったな……」
トライブは、タイゼンの言葉にうなずいた。
「えぇ。私は、剣を持った以上、絶対に敗北を考えないようにしてるわ。
それが、剣を持つ者としての、最低限の心構えだから……。
私は、そうやって強敵を打ち破ってきたわ」
トライブの響き渡る声に客席が沸き上がる中、タイゼンが向きを変えて出口へと向かう。
「今日は、気力で俺の負けだ。
できれば、もう一度戦いたい……」
タイゼンの後ろ姿は、アリスの目にはどこか寂しそうに見えた。
絶対勝てるという自信を失った、ただの敗者の空気が、その身からは漂っていた。
だが、アリスが勝利の余韻に浸ろうとしたとき、再び入場口が開いた。
「そうだ……、この後ロイヤルナイツで戦わなきゃいけないんだった……!」
次回、これをさらに上回る強敵が、ロイヤルナイツに襲いかかる!
トライブが、そのイメージからは絶対に考えられない行動に……?
ロイヤルナイツの無敵伝説は続くのか、終わるのか……。
応援よろしくお願いします!




