第19話 領主に待っていた史上最悪のアトラクション②
アレジマザウルスを呼ぶイベントで、恐竜の背中に乗ることが決まるなり、アリスはスワール領にいるソイのもとに、企画の提案と打ち合わせ時間を知らせる手紙を送った。
その時から、アリスとビリーは、いよいよ本物のアレジマザウルスが来る日が近づいてきたのだと実感するようになった。
「あぁ……、アレジマザウルスが来る日、すっごく待ち遠しいなぁ……」
「ホントだよね。
僕たちはまだ、ソイさんの描いたイラストでしかアレジマザウルスを見たことがないから、どれくらいのスケールになるか分からないよ」
急遽ビリーが召喚することになった、ブルーヘッド・ウイングドラゴンは、結局最後までアリスたちの目の前にほとんど姿を見せず、ただ上空を飛んでいるだけの存在に終わってしまった。
それだけに、今回やって来る本物の「恐竜」がどれだけのスケールになるか、二人は気になっていた。
「本当に、素敵な出会いになるといいですね」
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そして、当日。
こんな日に限って、アリスたちは寝坊した。
ビリーが起こしに来ないまま、窓から差し込む光の強さで目が覚めたアリスは、打ち合わせの時間まで30分もないことに気が付いた。
「やっば……! 私、こんな大切な日に寝過ごしちゃった!」
アリスは寝室のドアを開けると、その音でビリーがベッドから飛び起きるのが、アリスには分かった。
ビリーが部屋から出てきた時、ビリーはパジャマだった。
「なんか、恐竜にワクワクして、夜中寝られなかったと思ったら……、こんなことになるなんて……!」
「あの、ビリー!
私たち、アレジマザウルスを出迎えなきゃいけないです……。
たしか、ベランダに着陸してくださいって書きましたっけ……」
「着陸できないと思うよ。
アレジマザウルスがこの上に乗ったら、館が壊れる!」
「じゃあ、どこに降りるんでしたっけ……」
アリスは、寝室から執務室にかけての廊下をキョロキョロするだけで、膝がガクガク震えていた。
「アリスが手紙で書いたんだろ!
そこに何を書いたか、メモとか残ってないの?」
「残ってないです……。思い付きで手紙を書いたんで……!」
「そんな手紙の書き方をしてたら、ビジネスとして失格だろーっ、もうーっ!」
ビリーの下がり調子の叫びが終わると同時に、玄関の鐘が鳴り響いた。
「あぁ、来ちゃった……。
私もビリーもすっぴんなのに……」
アリスは、ゆっくりと階段を下りながら、ソイへの言い訳を思い浮かべていた。
だが、アリスの鼻が食べ物の匂いを感じ始めると、途端に早足になった。
玄関には、いくつも袋を置いて息をついているグロサリの姿があった。
「領主さんのために、いつものイオリ草と、夏においしい水菜を持ってきたわよ。
今日はもう、荷馬車にいろいろ積んできたから、外にも置いてあるから、好きな時に食べていいわ」
「ええええ、本当ですかーっ!
というか、荷馬車持ってたんですか?」
アリスは、思わず玄関を開けて、外で待機している荷馬車を指差した。
「あまりにも重そうだからって、途中で集落の人が貸してくれたのよ。
もし私が持ってたら、って思ったでしょ」
「少し思いました。
あの、私がイオリ草の行商に出たときに荷馬車が使えた、って……」
「それはないから、安心して。
私はこの後、荷馬車に乗って快適に帰るから、もしよかったら領主さんも乗って行かない?」
グロサリがアリスを誘う。
だが、アリスは首を横に振って、丁寧に頭を下げた。
「あの……、私、今日この場所でイベントがあるので、荷馬車で離れるわけにはいかないんです……」
「それは残念ね。
また機会があったら、荷馬車に乗せてあげるわ」
そう言うと、グロサリはゆっくりと外に出て、荷馬車の荷台に乗り込んで、綱を引いた。
すると荷馬車が、グロサリの家の方に向かって歩き始めた。
アリスがそれを見届けてから、ドアを閉めたとき、玄関には短い時間で着替えを終えたビリーが立っていた。
「アリスさ、まさか今日、アレジマザウルスが来るなんてこと、グロサリに言ってないよね」
「あっ……。そうでした。
たしか、農地を荒らす恐竜とか、前にそんなこと言ってたような気がします」
――アレジマザウルス、昔から人間の畑を荒らすという言い伝えがあるの。
畑とか山とか、エサになるようなものを見かけたら、何でも食べてしまう、そんな凶暴な生物……。
アリスは、この1分、2分の間にグロサリに話したことを一語一句思い返した。
辛うじて、そこにはアレジマザウルスという言葉はなかったはずだ。
「とりあえず、持ってきた野菜はここです。
屋内なら食べられる心配はないと思います」
「大丈夫?
どこかのアリスみたいに、食べ物の匂いを感じた瞬間に動き出すような生物だったら、これもまずいけど」
「そんなことないですよ。
食べ物は、私が先に食べるんです!
決して、アレジマザウルスに食い荒らされたくなんかありませんから!」
アリスは、ビリーにビシッと人差し指を伸ばした。
ちょうどその時、上空高いところで大きな翼の音が聞こえた。
「あっ、もしかしてアレジマザウルスが本当にやって来た……!」
アリスは玄関を開けて、広場に駆けだした。
そこには、空の青に溶け込みながらも、力強く翼を羽ばたかせる恐竜が空を舞っていた。
その背の上で、一人の青髪の青年がその動きを操っていた。
「これが……、アレジマザウルス……。
なんか、図鑑で見たものよりも……、いや、イラストで見たものよりも、ずっと、ずっと大きい……!」
アリスはアレジマザウルスに向かって大きく手を振り、アリスの居場所を知らせる。
「お――――――い!
アレジマザウルス――――! それに、ソイさ――――ん!
こっちこっちーっ!
……って、聞こえないか」
先日の、ビリーの声を完全に無視した恐竜を思い出し、アリスは手を振るのを止めた。
だが、数秒も経たないうちに空から響いてくる翼の音が大きくなった。
「あ、降りてきた……!」
アリスが、アレジマザウルスの降りてくる動きを目で追いかける。
空の色に溶け込んでいたアレジマザウルスだったが、地上との距離が近くなるにつれて、特徴的な尖った翼、そしてその中にある縞模様がはっきりと分かった。
「大きい~っ!
私が着ぐるみでやった恐竜なんかよりも、はるかに大きな……、ていうか、これが本物の恐竜だぁ!」
アリスは、目に涙が溜まっていくのを感じた。
領主になって5ヵ月もの間、アリスにとってはこれだけ大きな生物、イコール敵でしかなかっただけあって、そのスケールを普段以上に実感するのだった。
やがて、広間の草が生えていないところにアレジマザウルスが2本足で軽々しく着陸すると、ソイがその背から降りて、アリスにゆっくり近づいた。
「アレマ領主様、お待たせしました。
あと、この前は直前で来れないとか言って、本当にすいませんでした……」
深く頭を下げるソイに、アリスは「大丈夫」と返した。
だが、そのことを告げた後もソイの申し訳なさそうな表情は変わらない。
アリスは、嫌な予感さえ覚えた。
「で……、手紙に書いてあった、アレマ領の人を一緒に乗せるという話なんですけど……」
アリスが、ソイの口元をじっと見つめる。
ソイが口を一度閉ざしてから時間が経つにつれて、アリスの不安はさらに強まるのだった。
それからソイは、息を吸い込んでからうなずいた。
申し訳なさそうな表情は、消えていた。
「私と領主様が一緒に乗って、空を飛べたら……、集まった子供たちに夢を見せてあげましょう!
なんせ、この子にとって、今日が初めてのアレマ領ですから」
「ありがとうございます……!」
アリスは、ソイの返事に手を叩いて喜んだ。
だが、アリスはこの時、自分の身の程を知らなさ過ぎた。
いよいよ、アレジマザウルスに乗せる計画発動?
果たして……。
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