第19話 領主に待っていた史上最悪のアトラクション①
「恐竜~! 恐竜~!
恐竜イベントは、いかがですか~!
領主の館の前、特設ステージに、アレジマザウルスがやって来ますよ~!」
ミッドハンドの街で、大声を張り上げながら宣伝をするアリスだったが、街の人々はほとんど食いつかない。
既に、先日行われた領主の館でのイベントで何があったかは、近場だということもあり誰もが知っているようだった。
一人の女性がアリスの前で立ち止まるなり、アリスの表情を覗き込んだ。
「今度はちゃんと、楽しい恐竜ショーになるんですよね……?
着ぐるみの恐竜とか出てくるんじゃなくて、アレジマザウルスという、伝説の恐竜が……」
「出ると思います。
というか、前回のような失敗はしたくないので……」
アリスは、頭を撫でながら女性に言葉を返すが、背中からは冷や汗しか出てこなかった。
この分だと、アリスの台本に代わりで呼んだ恐竜が人々を襲う予定が書かれていたことも、間違いなくバレているようだ。
「食いつき悪いですね、ビリー……」
アリスは、チラシ配りをしているビリーに声を掛けると、ビリーも浮かない表情に変わった。
「この前がこの前だったからね。
そう簡単に、恐竜イベントに対する信用が戻るなんて思わなかったけど……。
見てごらんよ、みんなの冷めた目を」
「冷めてますね……。
お客さん、この前の半分くらい来てくれればいいでしょうか……」
「一人来てくれればいいんじゃない……?
でも、ソイさんがアレジマザウルスに乗って空を飛んでいる姿を見たら、そのまま集まって来そうですよ」
「追いつかないって……!」
ビリーは苦笑いを浮かべながら、アリスから視線を反らした。
すると、二人の前に多くの街の人が足を止めた。
「えっ、恐竜に乗ってる人がいるんですか?」
「それ、すげぇんだけど! 恐竜に乗れるなんて、すごく特殊スキルじゃねぇ?」
口々に感想を言い合う、ミッドハンドの街の人々を前に、アリスたちは震え上がった。
「そ……、そうなんですよ……!
あの、アレマ領の人じゃないんですけど……、アレジマザウルスを飼い慣らしてるんです……。
だから、乗ることもできるみたいなんです……!」
その時、どこからともなくアリスの前に一人のピンク髪の少女が現れた。
見た目がアリスと同じくらいの年齢で、その目はアリスの何倍も輝いていた。
「あの……、領主さん!
もしかして、今度のイベントで、その……、アレジマザウルスに乗れるとか、そういうことできませんか?」
「えええええ……? えええーっ?」
「私……、アレマ領とか、バルゲートとか……、空から見たいんです!」
アリスは、ビリーに顔を向け、視線を下に向けた。
「まさかの展開になって来ちゃいました……。
どうしたらいいですか?」
「アリスが考えなよ。
アリスだって、まだ大人から見れば子供っぽい年齢なんだからさ」
ビリーが意図的にアリスから目を反らすと、アリスは少女に向き直って一呼吸置いた。
「あの……。空を飛びたいっていう夢があって、なんか素晴らしいですね……」
「ありがとうございます。
空を見上げると、すごいなって思っちゃうんで……」
アリスは、まだ肝心の質問に答えを出せていない。
そもそも、その質問に答えられうる人物はアリスではなくソイなのだ。
全く慣れ親しんでいない人物を、アレジマザウルスの背中に乗せることを許してくれるか、それだけだ。
「で……、空を飛びたいってことでしたら……、私、当日までに何とか対応します。
無理だったらごめんなさいね!」
「いや……、領主さん。
私はただ、背中に乗るみたかっただけですから、気にしないで下さい。
でも、イベントには絶対に行きます! 見たいですから!」
「ありがとうございますっ!」
アリスが頭を下げると、少女はアリスの手を握りしめ、小声で「ありがとうございます」と返した。
それから少女は、目を丸くしながらアリスに告げた。
「私の名前は、エア。
当日、私の顔を見かけたら、名前で呼んでくれると嬉しいな……!」
エアがうなずくと、アリスも力いっぱいうなずいた。
そのやり取りを、ミッドハンドの街の人が手を叩きながら見守っていた。
~~~~~~~~
「まぁ、無理なものは無理だよな……」
領主の館に戻り、ドアが閉まるなりビリーが小声でアリスに告げた。
「もしかして、さっきのエアさんのことですか?」
「そう。
だって『恐竜の背中に乗せてください』って言われて、はいいいですよ、なんて言えないでしょ。
ただでさえ、飼い慣らしてることがすごいのにさ!」
「それはそうですけど……。
目の前で『無理です』と言ってしまうことが、エアさんの夢を奪っちゃうのかなって思って……。
私のような年齢だって、まだ夢を夢として生きていきたいですもの……!」
アリスは、ビリーに体を乗り出して、静かに説得を始めた。
それでも、ビリーの目は冷ややかだった。
「でも、あのエアって少女もアリスと同じくらいの年齢だぞ。
アリスだって、『オメガピース』でトライブにさんざん怒られて、現実を知ってるんだ。
だから、エアにも現実を見せてあげたほうがいいんじゃないかな。
背中に乗るのは、熟練された人間じゃないととても無理だよって」
「ビリー……、うーん……、なんだろ……。
私も多分、高く飛ぶのは無理かなって思っています。
だからせめて、ソイさんの指示で、領主の館の屋根くらいの高さまで飛び上がってみるとか。
それでよくないですか?」
アリスは、しばらく考えたのちにビリーに提案した。
だが、それから1秒も経たないうちに両手を広げながら息を飲み込んだ。
「ソイさんと一緒に、背中に乗ればいいんですよ!
そしたら、エアさんの夢だって叶えられるじゃないですか……!
憧れだった、恐竜の背中に乗って空からアレマ領を見る。すごい体験になると思います!」
「おっ、アリスにしてはなかなかいいこと言うじゃん?」
ビリーが感心したように、アリスに向かって手を叩く。
アリスは「なに思い違いしてたんだろう」と呟きながら、頭を軽く撫でた。
「じゃあ、決まりですね!
恐竜ショーのプログラムの中に、アレジマザウルスの背中に乗るというプログラムを追加で!」
「そこはプログラムに書かない方がいいんじゃ……?
それ書くとさぁ、絶対エアみたいな男の子や女の子が、当日出てきちゃうような気がするんだ……!」
「あ、たしかに……。
でも、エアさんだけ乗れるって思われたら、エアさんに対してえこひいきと思われませんか?」
「じゃあ、アリスとしてはどういう感じにしたいの?」
ビリーが不安そうな表情を浮かべながら、アリスに目線を注ぐ。
するとアリスは、薄笑いを浮かべた。
「やっぱりアレジマザウルス!
100人乗っても大・丈・夫!」
「大丈夫じゃねぇだろ! バカ!」
「ダメですか?
飛行機だって乗れるものは何百人も乗れるのに、どうして恐竜じゃダメなんですか?」
「重量的にダメだろ!
アリス、僕が背中の上に乗ったら立ち上がれると思う?」
アリスは、ビリーのその問いで思わず舌を出し、「やっちゃった」と一言呟いた。
「そうですね……。
まぁ、あまり長くアレジマザウルスを借りれないし、子供限定にしましょう。
周りを旋回して、次の人と交代するとかでいいと思います」
「そうしようね。
あー、なんか恐竜イベント、楽しくなりそうな気がしてきたなぁ……!」
ビリーも、アリスの咄嗟の一言で、まだソイの了承を取っていないことすら忘れて、早くもイベントのメインプログラムの光景を頭の中に思い浮かべた。
それから数十秒経って、ようやくビリーは我に返り、「あ……」と小さな声を発した。
「とりあえず、打ち合わせの段階で、アリスに乗ってもらおうよ。
ソイさんが、そのプログラムを許してくれるか決めるのは、その後でいいと思う」
「たしかに……。
って、私たち、どうして玄関でこんな盛り上がってるんですかね」
アリスは、真っ青な空どころか外も見えない玄関の景色に、思わず笑ってしまった。
この19話こそ、アレジマザウルスがアレマにやって来ますが、なんか不穏なタイトルが……。
応援よろしくお願いします。




