第18話 ドタバタの恐竜イベント⑤
召喚で呼び出したブルーヘッド・ウイングドラゴンに、ビリーは大声で急降下を指令するも、高さがありすぎてその声がなかなか届かない。
急降下を告げても、ただ上空を旋回しているだけだ。
そうこうしているうちに、アリスが最後の祈りを捧げた。
「降臨! 剣の女王、トライブ・ランスロット!」
「オイオイ、いま何も危害加えてないのに、トライブだけ勝手に出てくる展開かよ!」
青白い光の気配を感じるなり、ビリーは真っ青になった。
眩い光の差す方に振り向くと、ビリーの目にもトライブのシルエットがはっきりと見え、見つめているうちに光の中から出てきてしまったのだ。
「アリス、敵の気配を感じないけど、敵はどこよ?」
当然、困るのはアリスも同じだ。
台本通りに事が進んでいないのだから。
「えっと……」
アリスは、ビリーに身を乗り出して叫んだ。
「ビリー、ブルーヘッド・ウイングドラゴン、今どうなってるの? 調教まだですかー?」
「ぶっ……!」
焦りながらも、空を舞う恐竜に語り掛けていたビリーは、アリスの催促で膝が震え、よろけた。
苦笑いを浮かべる気にもなれなかった。
「調教って何だよ……!!!!
そもそも、この恐竜とは初対面なのに、どうして僕が観客を襲……おっと!」
ビリーがとんでもない一言を言いかけて、口に手を当てたが、もう遅い。
集まったアレマ領民たちがざわつき始めた。
――恐竜ショーって、私たちの命を狙うものなの?
――そんな危険なイベントに、領主は誘ったの?
「ご……、ご……、誤解だああああああ!
ていうか、この台本作ったの、領主のアリスです! アリスが全部悪いんです!」
ビリーの弁明の声が、アリスとトライブにも聞こえる。
トライブの眉が、まるで強敵を前にした時のように細くなる。
「なるほどね。
誰が召喚したかは分からないけど、召喚で呼んだ恐竜に領民が襲われるところを、私が倒す。
そんなバカなこと考えるのは、アリスしかいないじゃない」
「ごめんなさい……。
あの……、領民にアトラクションを、と思いまして……」
「人の命を危険にさらして、何がアトラクションよ!
まぁ、さっきから降りてこないみたいだから、アリスの目論見すら外れてるけど」
トライブは、アリスと話している間にも何度か上空を気にしていた。
だが、トライブの目が5回目に空を見上げた時、そこにはブルーヘッド・ウイングドラゴンの姿はなかった。
代わりに、ビリーがステージの中央で胸を押さえながらうずくまっていた。
「よかったああああああ……、時間切れになって……。
3000年前から呼んだ生物じゃなかったら、本当にどうなってたか分からない……」
上がった息を整え、ビリーが観客にため息をついた。
「とりあえず、今回もバカな領主がお騒がせしました。
恐竜ショーはもう終わりです。
今日来るはずだったアレジマザウルスをお披露目する時には、二度とこんなことにならないようにさせます」
「うわ……、ビリー怒ってる……。声が半端じゃない……」
「当たり前じゃない」
アリスは、トライブの声に気付くも、振り向くことが出来なかった。
トライブの声もまた、アリスがいつも怒られている時のトーンだったからだ。
だが、客席からはピリピリした雰囲気を打ち消すような声が、いくつか聞こえてきた。
――せっかくだから、剣の女王の戦う姿を見たい!
――ここまで呼んだんだからさ、ぜひ敵と戦うシーンを見たいんだ!
集まったアレマ領民たちは、本来戦う相手がその恐竜だったことを差し置いて、トライブをステージに招くような声を次々に発した。
その声に、トライブの足が動き出す。
「どうやら、私のショーに変わったようね」
トライブは、とりあえずはアルフェイオスを出さずに、モデル歩きでステージの中央に向かった。
その姿に、客席からは「おおー」という声が上がる。
これには、ビリーも戸惑いの表情を見せるしかなかった。
「クイーンの、戦わない姿……。なんて美しいんだろ……」
腰に手を当てて右足を前に出す。そして、微笑む。
その姿に観客の目が釘付けになり、中には身を乗り出してトライブの姿を目に焼き付けようとする者もいたほどだった。
それから数十秒経って、突然一人の黒髪の青年が手を挙げた。
「俺、女王と戦いたいんですけど!
シーショアに来たと聞いたときから、ずっと戦いたいと思ってたんです!」
トライブの目と、観客たちの目が一斉にその青年に向けられる。
「見たい!」などと、まだ主催者側が何も答えていないのに催促する声も上がり始めた。
その声に、真っ先にうなずいたのは、他でもないトライブだった。
「いいわ。来なさい」
トライブがアルフェイオスを抜くと、青年はステージに上がる。
その青年は小柄ながら、身長とほぼ同じ長さの剣を勢いよく抜く。
「俺の名は、シーク。
シーショアの街じゃ負け知らずの剣士!」
「立ち方からして、結構強そうな剣士じゃない。
戦い甲斐があるわね」
トライブは、シークの突き出した剣と一直線になるようにアルフェイオスを構える。
トライブがやや目を細めたとき、シークの足が先に動いた。
「来る……!」
トライブは、反射的にアルフェイオスを横に構えた。
それを見たのか、正面に剣先を向けていたシークが、突然飛び上がった。
「剣術は先手必勝だぁ!」
高くジャンプしたシークに、多くの観客が息をのむ。
攻撃される側に襲い掛かる、張り詰めた空気が、大ダメージへのカウントダウンを刻み始めた。
が……。
「はああっ!」
「えっ……」
あと0コンマ何秒かでシークの剣がアルフェイオスに襲い掛かろうとした瞬間、トライブの腕がまるで反射神経でも働いたかのように動き、シークの勢いを剣の正面で止めた。
かかる力はシークのほうが上であるところ、トライブは右足を後ろに下げて踏みとどまった。
それから、トライブが右からシークの剣にアルフェイオスを叩きつけ、目の前から反らした。
「読まれたか……!」
シークが、右に傾いた剣を正面に戻そうするが、その動きさえもトライブは捉えた。
アルフェイオスの軌跡が、シークの目に映る。
「はあああっ!」
今度は、トライブがシークの剣を激しく叩きつけ、シークの剣を下に傾けた。
それから、やや上にアルフェイオスを持ち上げ、下から突き上げようとしてきたシークの剣に向けて、力いっぱい振り下ろした。
「はあああああああっ!」
バトルの場に響き渡る、女王の叫び。
その激しさに飲み込まれながら、シークの剣がステージ上に散っていった。
後には、シークのうなだれた姿だけが残った。
「どうして女王は……、こんなに強くなれるんですか……?」
シークの、息の上がった声を受けながら、トライブはアルフェイオスをしまう。
「強くなれる理由?
私よりも強い相手がいるからよ」
「何か、すげぇ……、です……。
絶対の実力があっても、こんなあっさり倒された俺は……、強敵とは言わないんだなって……」
するとトライブは、首を横に振った。
「シーク。あなたは、いつでも私にとっての強敵になれるわよ。
あの実力があれば、いずれ私を追い越すかもしれないんだから」
「追い越すって……、さ……」
「私、負けて落ち込んでいる相手に、いつも言ってることがあるわ。
悔しいと思って、より強くなって私の前に戻ってきたあなたは、私にとって間違いなく強敵になる。
逆に、もう私と戦いたくないって思ったら、あなたの成長はそこで終わる。
どっちの道を選ぶか、剣と相談しなさい。
私は、あなたとまた戦える日を、ずっと待ってるから」
トライブを見つめるシークの表情が、動かなくなる。
「こんなところで……、終わりたくありません……」
二人の剣士が同時にうなずいたとき、客席から一斉に「頑張れ」という声が沸き起こった。
ここに集まった目的が、トライブのショーであるかのように。
「いい話ですねぇ~」
そこに、アリスが手を叩きながらステージに上がった。
ビリーと観客の目が、一斉にアリスに向き直った。
「お前が言うなーっ!」
「てへっ」
アリスに反省の色はないようだ。
19話はマジモノの恐竜ショー(おバカあり)です。
26日から。
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