第18話 ドタバタの恐竜イベント④
「さぁ、皆様! 大変長らくお待たせいたしました!
これから、アレマ領主主催の、太古の恐竜ショーを始めます!
本日は、希少生物となったアレジマザウルスが、ケガでここまでやって来られなくなりましたので、代わりに領主の館が責任をもって恐竜の魂を連れてきました!
ぜひ最後まで楽しんでください!」
ビリーは、アリスが即興で作り上げた原稿を読み上げると、館の玄関のドアに向かって大きく手を挙げた。
多くの観客の目が、館の入口に向けられる。
その中で、緑色の紙で作った被り物をして、四つ足のアリスザウルスが小走りでステージに駆け寄ってきた。
「ギュギュギュ? ここは、どこだギュ?」
「あ……?」
ビリーは、完全に声の調子まで変えているアリスザウルスを睨みつけ、すぐに原稿に目をやった。
そこにアリスザウルスが原稿に手を伸ばし、取り上げる。
「その原稿は、偽物だギュ! 原稿の修正作業をサボったとも言うギュ!」
「ちょっと、アリス! 僕に偽物を渡しちゃったら、ショーがうまくいかなくなっちゃうじゃん!」
すると、アリスザウルスがビリーの耳に近寄って、ビリーだけに聞こえる声で告げた。
「アリスって言っちゃダメです。
私が変装してるってこと、みんなにバレちゃいますから……!」
だが、その心配をしている時点で手遅れだった。
アリスがビリーに耳打ちしようと立ち上がった時点で、4本足が2本足になったどころか、無防備だった正面を客席に見せることになり、中身がアリスだとあっさりバレてしまうのだった。
当然、客席の反応も冷ややかになる。
――おい、領主のアリス! 領主が勝手に恐竜のコスプレやってるんじゃないよ!
――せめて生きた生物を見たかったのに、これじゃただの人間を見てる感じだよ!
「まずい……。簡単にバレてしまいましたね」
「こんなガタガタな衣装をしてる時点で、バレないわけないでしょ」
「もう、脱いで正体を明かします?
その時点で、恐竜ショー終わっちゃいますけど……」
その時、アリスたちの耳に、一人の観客からの叫び声が響いた。
正体がバレた時点で起こったクレームの声よりも、さらに大きな声量だった。
――なんで召喚しないんだよ! お前ら二人揃って、召喚術使えるんだろ! あ?
ビリーは、アリスのほうに顔を向けたまま舌打ちをした。
困り果てたビリーに、アリスが目を細めながら提案する。
「あの……、ここはビリーがやるしかないです。
せめて、アレマ領に生息した恐竜を呼び出すポーズを取ってください」
「ポーズだけでいいなら、僕だって簡単にできるよ……。
でも、万が一恐竜が出てきちゃったら、その後のことは、僕、知らないからね……」
アリスが何かを覚悟したようにうなずくと、ビリーはステージの中心に立って、空に手を伸ばした。
「それでは……、リクエストにお応えして、古来アレマ領で繁栄したとされる恐竜を召喚できるか……、チャレンジさせてください。
呼び出す年代がはるか昔なので、僕には成功するか分かりませんが……、イベントの成功をみんなで祈っていてください……!」
ビリーは、真っ青な青空に、書庫で読んだ『古来の恐竜図鑑』のイラストと、その恐竜たちが生きていた時代を重ね始めた。
そして、ある程度のイメージを思い浮かべたところで祈り始めた。
「悠久の世を渡り歩き、世界をほしいままにしてきた、翼ある蒼き竜たちよ。
いま、時を超えてその生命を輝かせるとき。
汝の支配した大地は、いま別の繁栄を見せる。
その繁栄は、汝が築き上げたものの上にあり、この世で尊敬すべき存在となる……。
いま、我が声に応え、その力をこの世でも見せつけよ……!」
ビリーの頭の中では、ある生命を思い浮かべているものの、アリスの耳には完全に「適当過ぎる」詠唱にしか聞こえなかった。
そもそも、イメージが「翼」「蒼き」しかなく、この言葉だけでは、その図鑑をほとんど見たことのないアリスには訳の分からない生命と言ってもよかった。
「召喚! ブルーヘッド・ウイングドラゴン!」
ビリーの声が空に響くと、二人と客席との間に青白い光が浮かび上がった。
「ビリー、そんな……、カードゲームに出てきそうな名前の恐竜、いるんですか……?」
「いる。この前、図鑑で見たんだ……!
できるだけ、今の時代に一番近い、それでも迫力のある恐竜を引っ張り出してきた」
ビリーは、アリスに振り向くことなく言葉を返す。
かつてないスケールの召喚に集中力を注ぐビリーは、青白い光の中から思い浮かべたシルエットが浮かんだ瞬間に、ようやく不安が自信へと変わっていくのを感じた。
「できるかも知れない……。召喚できるかも知れないんだ……!
僕は、3000年前に絶滅したとされる生命に、今の世に少しだけ見せることができるかも知れないんだ……!」
青白い光が消える瞬間まで、ビリーは決してそこから目を離さなかった。
そして、先に観客から拍手が沸き上がり、そこでビリーは大きく口を開いた。
青白い光の中から飛び出したのは、腹が白くなっている以外は全て薄い青に彩られた翼竜だった。
その翼は、領主の館の上空に向かって高く舞い上がる。
新しい時代を舞うブルーヘッド・ウイングドラゴンが、楽しそうに声を上げた。
『キィ~!』
「できたあああああああ!」
「ビリー! やったああああああ!」
成功を半分疑っていたアリスは、アリスザウルスの体になっていることも忘れて、ビリーに抱きついた。
「いててて……。
アリスさ、その衣装で横から来られると、紙がところどころ尖ってるんだからさ、気を付けてよ……」
ビリーがアリスに注意すると、アリスは胸ポケットに入っていた紙を手渡す。
「で、これが新しい台本です。
ブルーヘッド・ウイングドラゴンの説明だけは書いていませんので、ビリーが補足してください」
「ちょっと待て。成功した後の原稿もあるんだ……。
……って、これ、言わなきゃいけないの?」
「お客さんに、恐竜の怖さを知ってもらわないといけないですから。
そうしたほうが面白いじゃないですか」
アリスは、ビリーが手に取った原稿の下の方にある、「垂直落下または頭を垂れる」の部分に指を当てて、ビリーに微笑んだ。
「お客さんが危険になっちゃうじゃん……!」
「呼んだビリーに逆らうわけないじゃないです。
召喚の成功って、ある意味そういうもんじゃないですか」
「ええええ……」
ビリーは、ブルーヘッド・ウイングドラゴンの飛ぶ上空を見上げた。
この高さでは、元の世界に戻すためのカウントダウンはおろか、原稿にある指令も届きそうにない。
そもそも、書いたアリス自身が、この恐竜の正体を何一つ知らないのだから、当然と言えば当然なのだが。
ビリーは続けて、客席に目をやる。
集まった観客の誰もが、双眼鏡で「新しい生物」を見つめており、誰一人としてこの後それが急降下してくるなど思っていない様子だ。
「あのさぁ……、アリス。
この通りにやっちゃって、本当に大丈夫……。あっ!」
ビリーが振り返ると、そこにアリスはいなかった。
目を離した隙に、領主の館に向かって走り、そこで右手を空にかざしていたのだった。
ビリーの耳に、アリスの詠唱がかすかに響く。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、誇り高き女剣士よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
ビリーは、アリスの作戦をようやく思い知った。
客席が危険にさらされそうなところで、トライブがブルーヘッド・ウイングドラゴンと戦うということだ。
「よぉし……。
だったら僕も、領主の提案に付いていこうかな……」
ビリーは、ブルーヘッド・ウイングドラゴンに右手を伸ばし、叫んだ。
「頼む! その翼を閉じ、急降下してくれないか!」
さぁ、この本物の恐竜、果たして地上に降りて領民と対面できるでしょうか!
それとも……。
応援よろしくお願いします!




