第18話 ドタバタの恐竜イベント③
「さー、恐竜さんのイベントも、明日開催~っ!
イエエェェェェェェエエエエエイ!」
ある朝ビリーは、アリスと思われる少女がベランダで叫ぶ声で飛び起き、着替えもせずに玄関のドアを開けた。
ベランダからアリスが身を乗り出し、明らかに遠くから出は分からないサイズの旗を掲げて「このイベントです!」と宣伝していた。
「アリス……、朝から近所迷惑だよ!
僕だって起きちゃったじゃないか!」
「近所迷惑なのは分かりますよー。
でも、宣伝はしなきゃいけないので仕方ないです」
もっとも、早朝6時に領主の館の周りを歩くような早起きはおらず、アリスの叫びそのものが、宣伝ではなくただの騒音となり果ててしまったことは言うまでもない。
「まぁ、アリスがそこまで言うってことは、本当に明日のイベントのこと、いろいろ考えてるんだね」
「はい、もしなんだったら、明日私が言う原稿がありますので、一緒に打ち合わせしませんか?」
「分かった。
その前に、ごはんと洗濯を終わらせてからにしようよ。
それからでも、時間的にはまだ大丈夫だろ?」
ここまで全ての言葉を叫びながら言ってきたアリスは、この時だけ何も言わずにベランダから立ち去った。
ビリーもアリスが引っ込んだのを見て、館の中に戻ろうとした。
そこに、郵便配達員がビリーに声を掛けた。
「領主の館宛に、速達の封筒が届いています。スワール領からのようです」
ビリーは「ありがとうございます」と言って封筒を受け取ったが、その直後に息を飲み込んだ。
住所を見ることなく、筆跡だけでそれが誰のものであるか分かり、思わず立ち止まった。
「アリス……、明日来るソイさんから手紙だ……。しかも、速達で……」
「ソイさん……。へぇ……。
明日来るのに、どうして手紙送ってくるんだろう……」
アリスは、ゆっくりと階段を下りて、ビリーから封筒を受け取り、目の前で封を開いた。
中には、紙が三つ折りになって入っていたが、それを開いた瞬間、アリスはその紙を思わず目に近づけた。
無意識のうちに、アリスの体がガタガタ震え上がる。
「アリス、どうしたの……?
なんか、ソイさんから嬉しいお知らせでもあったの?」
「その逆です……。ほら……」
アリスは、中に入っていた紙を広げ、文章の3行目に力いっぱい指を乗せた。
「来られなくなった……?」
ビリーの声が裏返った。
ビリーも、その紙の前に近づいて、文章の最初から目を追ったものの、アリスの指差した3行目で目が止まる。
「なんか、この前の雷で、アレジマザウルスの翼を打たれたみたいで、連れてくることができなくなったみたいです……。
一応、半月ぐらいで飛べるようになるので、イベントを延期して欲しいと書いてますね……」
「そうなんだ……。
肝心のアレジマザウルスが飛べないのだから、ソイさんの言うように、イベントは延期したほうがいいね」
「あの……。私たちが、アレジマザウルスを召喚するっていうのはダメですか……?」
「それもかわいそうじゃない?
ソイさんだって、延期して欲しいと言ってるわけだし、雷に打たれたアレジマザウルスを領民に見せるのも申し訳ないじゃん……」
アリスは、ビリーに告げられた瞬間に、深くため息をついた。
両手の拳を丸めながら、極力ビリーのほうを見ないようにして目を細めた。
「アリス、なんか不満そうだけど、それじゃダメなの……?」
「イベントまで、あと1日しかないんですよ。
今まで、アレマ領じゅういろいろな人に声を掛けてきたのに、今から中止ですとか、延期ですとか、説明しに行く時間ないです……!」
「そこは、ここで事情を話せばみんな分かってくれると思うよ。
肝心のアレジマザウルスがいなかったら、このイベントが成り立たないんだからさ……」
「でも、来てくれる人に申し訳ないです……。
シーショアの商工会に一人で行った時、そこから協賛金としてお金も預かって帰り道でお菓子に変えたので、今更変更できません」
アリスは、ようやくビリーを見つめガックリと肩を落とすが、今度はビリーがため息をつく。
「中止にするとかしないとかより、もらった協賛金をお菓子に変える方が悪事だけどな……」
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朝食が終わり、アリスとビリーは今後の対応を話し合うために、執務室のテーブルに向かい合わせになった。
テーブルの上には、アリスが書き上げた翌日の台本があったが、二人がそれを開くことはなかった。
「ビリー。
とりあえず、来てくれる人に頭を下げればいいんですね。
今日はできませんので、また1週間か2週間後にイベント開きますから……って」
「そんな感じかな……。
とりあえず、僕たちが何か悪いことをやったわけじゃないし、今回の延期はある意味僕たちにとっては不可抗力みたいなものだからね……」
「じゃあ、ダメ領主が日の出から土下座して謝り倒すようなことはしなくていいんですね」
「あはは。それは恥ずかしいからやめておこうか」
ビリーは、アリスから目を反らして、一度外に浮かぶ青空を見つめた。
北側に向いた空の向こうには、この日もスワール領で落雷をもたらしそうな黒い雲が浮かんでいた。
「この時期は、南からの風と北からの風があの山脈でぶつかって、スワール側で雷雨を降らせるんだ……。
アリスも、この前『アレマ気象学』で学んだでしょ」
「そうですね……」
ビリーの目に映るアリスは、まだ何かを考えているようだ。
少なくとも、明日のイベントを諦めていなかった。
「ビリー、もし明日少しでも何ができるとしたら、何をやろうかな……。
せっかくここまで足を運んでくれた人たちに、何かしてあげられないかなって……」
「そこは、諦めようよ……。
僕たちで恐竜のイベントはできないし、僕たちが謝ればいいだけじゃん……」
「謝るのは簡単です。
でも、私たちがコスプレで恐竜ショーをやるの、いいんじゃないですか」
アリスは、執務室の引き出しから緑色のボール紙を出した。
それを大きく広げ、フリーハンドで恐竜の輪郭を描いていく。
「まさか、明日までにコスプレ衣装を作るとかじゃないよね……?」
「作るに決まってるじゃないですかー!
アリスザウルスと、ビリーザウルス。2体合わせてロイヤルザウルスで」
「僕、嫌だからね。
てか、本物の恐竜を連れてくる代わりに、領主が恐竜のコスプレをするって、おかしくない?」
「おかしいですよ。
でも、楽しかったらそれでいいんじゃないですか?
イベントって、そういうもんですよね?」
アリスは、ビリーの言葉を受け流すように、紙を切ることに集中していた。
初めのうちはアリスの提案に難色を示していたビリーも、しばらくしてアリスの衣装作りを手伝うようになった。
結局、時間的な問題もあり、ビリーの衣装を作ることはせずにアリスのコスプレだけで勝負することにした。
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「本日は、本物の恐竜がケガで来れなくなりました。
代わりに領主自ら恐竜ショーを行いますので、もしよかったらトンネルの出口でお待ちください」
成り行き上、イベント開始1時間前からビリーが一人で頭を下げることになった。
領主は、既に恐竜の被り物をして、アリスザウルスとして館の中に出番を待っていた。
「……ったく。
なんで僕がこんなことをやらなきゃいけないんだよ……」
ぶつぶつ言いながら頭を下げるビリーだったが、ふと「ステージ」に顔を向けると、訪れた領民のほとんどが変えることなく、代わりのショーを待っていたのだった。
「まずいことになったよな……。
これで、アリスが恐竜になってますとかだったら、絶対お客さんからブーイング起こるよな……」
イベントが始まる予定の時間が近づくにつれ、ビリーからため息しか出てこなくなった。
アレジマザウルスが来られなくなって、どうなっちゃうのでしょうか、イベント!
次回、まさかの召喚が?
応援よろしくお願いします!




