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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第2期 爆誕!無敵の王室騎士団(ロイヤルナイツ)
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第16話 ビリー、男を魅せる③

『グワアアアアア!』


 クリムゾンウイングは、地上に着地したかと思えば、その大きな翼を広げてビリーに突進してきた。


「よぉし……!」


 ビリーは、ロングブレードを迫る翼に向けて突き出した。

 クリムゾンウイング自らが臨んだ地上戦というチャンスを、ものにしない訳にいかない。


「とりゃ!」


 ビリーは、クリムゾンウイングの翼の裏に刺さっている(とげ)に向かって、剣を振った。

 それを、アリスが身を乗り出しながら見つめる。


「すごい……。

 ビリー、たぶん初めて剣を持ったはずなのに、ここまでの動きが出来ている……」


 これまで、ビリーは紹介屋で多くの冒険者と会っているものの、実際に彼らが剣で戦っているシーンを見たことがほとんどない。

 どのように力を入れれば、剣で高いダメージを与えられるか。そのようなことなど、考えたこともなかった。

 ただ一人、ここ数ヵ月でビリーが実際に目にしてきた剣士を除けば……。


「あの手の動き、なんかクイーンを見てるみたい……。

 完全にマネしてやってる……」


 経験が全くないなら、せめて強い剣士のマネをする。

 ビリーが唯一意識したのは、そこだった。


 ビリーは次々と棘を斬り落としていく。

 だが、無数にある棘のうちの10コを斬り落としたところで、クリムゾンウイングの翼が羽ばたき出した。



『どうやら、その程度のお手並みだったようだな……。

 その剣で、私の胴体を突き刺さない。まるでバトルに慣れてない証拠だ……』


「しまった! それが答えかよ! くっそー……」


 剣のバトルを何千回、何万回と経験しているトライブであれば絶対にしない策を、ビリーはマネすることができなかった。

 再び空へと帰っていくクリムゾンウイングを見つめたまま、剣の先を下に向けるしかなかった。


 そこに、再びクリムゾンウイングが翼を広げて急降下する。

 だが、今度は空と平行ではなく、やや角度をつけてビリーに向かっていく。


「まずい……! 今度こそ棘とスピードで貫かれる……!」


 ビリーは、クリムゾンウイングを見つめながら、ビリーに迫るタイミングで剣を振った。

 だが、相手のスピードの方が一瞬速かった。


「うぐっ……」


 剣を操る者にとって、最もやられてはならない右肩や右腕に、クリムゾンウイングの棘が引っ掻いた。

 ビリーは、咄嗟に左手で刺された場所を押さえるが、その前から激しい痛みを感じた。


『そんな作戦にも対応できないのか。

 愚かな……、そして経験の薄い剣士よ……!』


「くっそぉ……」


 肩に力が入らなくなった時点で、ビリーはこれ以上ロングブレードを使えない。

 コロッセオにいる誰が見ても、その身体はもはや絶体絶命。

 そして領主の命運も尽きようとしていた。


 その時、複数の観客がコロッセオじゅうに響くように叫んだ。



――ビリーが得意としてるのは、召喚だろ?


――ビリーの召喚、認めてやれよ!

  相手だって獣を召喚させているんだから!


――ビリーと言えば、キングブレイジオンの使い手だろ……!

  そんなアンフェアなバトルが、このコロッセオにあっていいのかよ!



「あ……」


 アリスは、叫ぶ観客の声に耳を傾けた。

 ビリーだけが生身の体で戦っていることが、ビリーを圧倒的不利な状況に陥れていることは言うまでもない。

 勝手に決めたルールだけで、アリスもビリーも、今のバトルを締め付けていたのだった。


 クリムゾンウイングは、再び空に舞い上がり、今度はビリーを頭から狙おうとしている。

 ビリーは、その気配を感じつつも、アリスを睨みつけた。

 その目は「本当にこのルールでいいのかよ」と訴えているかのようだった。



「ちょっと待ってください!」



 アリスの足が、バトルフィールドの中央に向かって動き出した。

 クリムゾンウイングの動きが、アリスの一声で止まる。

 アリスは、ビリーの前に立ち、両手を広げて客席に訴えかけた。


「あの……、私のクビが懸かっているのに、私がこうやって出しゃばるのはどうかと思いますが……。

 ルール変更、しませんか?」


 アリスが話し始めると、観客席のざわつきも消えていった。

 静かになった「アレマ・コロッセオ」の中で、アリスは言葉を続けた。


「皆さんは、ビリーが生身の体で戦うのと、それともキングブレイジオンを召喚して戦うの……。

 どっちがビリーにとって似合ってると思いますか?」


 観客席から、「それは召喚だろ!」という声が次々と上がる。


「別に、召使いのビリーがかわいそうだから、ということでルール変更をしたいんじゃありません。

 召喚することだって、剣を振るのと同じくらい、ビリーの実力が関わってくると思うんです!」


「そうだ……、ね……」


 アリスの後ろから、苦しそうなビリーの声が聞こえた。

 アリスが振り向くと、ビリーは既に空に手を伸ばし、観客が望んでいるものを召喚する体勢に変わっていた。


「私は、この『アレマ・コロッセオ』のオーナーとして、今からこの大会のルール、召喚を解禁します!」



「あっ、そうか……! アリスは……」


 ビリーが驚いたような声でアリスに告げると、アリスはそっと笑いながらビリーに振り向き、その場から再びバトルフィールドの端へと立ち去った。


 それを見て、ビリーは傷だらけの体で、手を高く伸ばす。

 右肩や右腕の痛みを、この瞬間に気にするわけにはいかなかった。



「その体に纏うは、正義を貫く一途な情熱。

 その体が解き放つは、邪悪を焼き尽くす勇ましき炎。

 熱き心を授かりし紅炎の王者よ、いま汝の力を大地が欲するとき。

 いま、永久(とわ)に燃える汝の生命力(エナジー)で、この地を絶望から解き放て!」


 ダメージを負ったビリーの手に、平和と秩序を愛する、正義のヒーローの力が集まり始める。

 時空と対話するその腕は、力をはっきりと感じ始めた。

 その瞬間、ビリーの横を場違いな矢が飛んでいったことに、ビリーは気付かなかった。


「降臨! キングブレイジオン!」


 青白い光がビリーの前に現れた瞬間、早くも金属に覆われた体がその光の中で動き始めていた。

 オレンジ色の髪、そしてイケメン顔。

 何もかもが、今やビリーがただ一人操ることができる、キングブレイジオンに他ならなかった。


 そして、青白い光が消えるか消えないかのうちに、キングブレイジオンがビリーの前に立った。

 キングブレイジオンは、ビリーの傷ついた肩を見つめ、それからクリムゾンウイングを睨みつけた。



「俺を呼ぶ人間を傷つけることなど、許すことは出来ない!」


 すると、クリムゾンウイングがキングブレイジオンを見下ろし、棘の付いた翼を下に向けた。


『誰を呼んだかと思えば、一人の青年か……。

 二人まとめて、八つ裂きだ!』


「戦術を分かっていないのは、向こうだ……」


 ビリーが呟くと同時に、クリムゾンウイングがキングブレイジオンに向けて急降下を始めた。

 そこに、キングブレイジオンを覆った炎が、その右手に集まり始める。


「炎よ、邪悪なる力を食い止めよ……! 燃えさかる盾バーニング・バックラー結成(フォーミング)!」


 キングブレイジオンが、炎の盾をクリムゾンウイングの進路に向けて勢いよくかざす。

 クリムゾンウイングは、その盾に突撃したが、あまりの熱さに急降下を止め、再び翼を広げて舞い上がった。

 翼に着いた火を、翼の羽ばたきでかき消そうとするも、翼の下の部分はところどころ焦げ始めていた。


 そこに、キングブレイジオンが力強く叫ぶ。


「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎フレイム・ヴァリアント……」


 キングブレイジオンの右手は、既にクリムゾンウイングを全てのみ込むほどの炎を宿しており、その炎に攻撃の意思を伝えていた。

 圧倒的な大きさの炎を見たクリムゾンウイングが、上空で固まった。


発射(ファイア)!」


 キングブレイジオンの右手から解き放れた炎は、重力にも逆らい、クリムゾンウイング目掛けて駆け上がった。

 そして、クリムゾンウイングの体を、熱と光と灰の世界に飲み込んでいった。


「これが……、俺の怒りだ!」


 涼しそうな表情を浮かべたまま、キングブレイジオンは、落ちていく相手に叫んだ。

この回でアリスがやらかしたイタズラに気付きましたか?


応援よろしくお願いします!

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